かいせつおじさんとあたらしいとびら
会場中が静まりかえっていた。
セシリアがはなった拳を防御もなく受け、天に仰いて倒れているルージュ・エメリーにレフェリーが駆け寄る。
そのまま丁寧に意識を確認しようと顔を覗き込むが、そこに見えたのはまるで安らかに睡るような顔。それを見てすぐにルージュの戦闘不能を告げた。同時にそれはセシリアの勝利宣言であった。
「いまッ! レフェリーがセシリア選手の勝利を告げましたあ!」
実況席では今までの無音を無理やり破るようにマイカ・エムシーが大声ではりあげる。
「緊迫した試合でしたが、アイドルバトルの歴史に残るベストバウトでありました!」
解説おじさんが静かにしかし興奮を隠しきれない様子で同意する。声が僅かに震え掠れている。解説のプロである解説おじさんにしてはとても珍しい。
「そうですねえ。何度か命の危険を感じましたが、セシリア選手のおかげで事なきを得ましたあ」
「あのファン・ファンネルはすごかったですね。ルージュ選手の一点死突を千本も受け続け、それを押しとどめてしまう防御力たるや筆舌に尽くしがたいスキルです」
「ほんとですねえ。その力だけでなく美しさもまた素晴らしく感じましたあ」
「それは心底同意です。命の危険がある状態だというのに見とれてしまいましたから。解説の本分をあの瞬間は完全に忘れていました」
会場中だけではなく画面の先の視聴者までもが見とれるほどの美しさ。
あの場面では解説も実況もむしろ不要であっただろう。
「試合中、無言になってしまったのはわたしもはじめてです。ご覧の皆様、大変失礼いたしました」
「失礼いたしました」
とはいえ、数分無音状態に近かった訳であるから放送事故は放送事故である。
マイカとおじさんは素直に頭を下げて謝罪した。
「いやあ、ですがこれで決勝戦のカードが決まりましたねえ」
下げた頭が戻ると同時にマイカ・エムシーの表情がパッと切り替わる。
「マイカさん。声がワクワクしていますね」
表情だけでなく、声もわかりやすい。
「それはそうですよう。片や、先ほどの試合の立役者、新星セシリア・ローズ選手。片や、圧倒的な美と力でトップをひた走るサリー・プライド選手。このカードに興奮しなかったら嘘ですよう」
悪のアイドルから会場中を守ったヒロイン。
クルーズタウンのアイコン。
その二人のバトルである。
しかも二人とも圧倒的にバトルが強い。
マイカ・エムシーの言う事はもっともである。
「同感です。今大会、はじまるまではただサリー・プライド選手の美しさを愛でる大会になるだろうと予想していた自分ですが、今はセシリア選手推しに変わっております」
ちょっと照れくさそうにおじさんはチラリとマイカをのぞき見る。
「普段なら節操のないおじさんだなとなじる局面ですが、こればかりはわたしも同感です。元々、アイドル内では評判の良かったセシリア選手ですが、ここにきて大きく魅力が増しています。この期待感は五年前のサリー・プライド選手を彷彿とさせますねえ」
ーー普段なら毛の数本もむしってやる所ですが。と締めくくるマイカ。
「なじられないのはそれはそれで寂しいおじさんですが」
「キッモ」
新たな扉を開いたおじさんに対して心底からの嫌悪感を表明する。
「定型分におさまりました所で、CMです」
それを受けたおじさんは嬉しそうに番組の進行をマイカから奪い取る。
「マワシを取らないでください! それではCMです」
画面は決勝戦の対戦カードを告知する番組内CMへと移り変わった。
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