かんじょうはばくはつだ
「なれ果てからの喝采!」
一声で。
天にスポットライトが出現し、そこから光が降り注ぐ。
そしてその下に順番にアイドルの幻影が出現していく。
この能力もまた進化して出現する幻影の数はまし、セシリアにかかるバフの効果量も跳ね上がっていた。
その数、十体。
お揃いの制服。
お揃いのダンス。
お揃いのマーク。
その一糸乱れぬ挙動で一列に並ぶ様はまさにアイドルグループである。
「なんなのよ! それはぁ!」
突如現れた幻影に慌て怯えるルージュが叫ぶ。
「一点死突!」
幻影の一体に光線を放つが、それは霧に放たれた光のように霧散する。
光線に貫かれる事、消滅する事もない幻影。
実体がないのだから当然だが。
それはルージュにはわからない。
セシリアに攻撃が通らなかった時よりもルージュの顔に焦りが奔る。
『なれ果てからの喝采』の効果がわからないルージュにとっては自分の攻撃が効かない敵が一気に十体も現れた。
そういう状況に見えている。
大勢で一人を囲みそれを嬲る。
それは裏組織の手法であり、過去、ルージュがとってきた手法でもある。多勢の強さは誰よりも知っていて。それが今は自分に向かっている。
パニックだった。
何かないか? 突破する方法は?
焦るルージュの視界に一人の男が立っていた。
レフェリーである。
「はッ!? レフェリー! セシリアが味方を呼んだわ! ズルよ、チートよ! 早く失格にしなさい!」
買収している。
組織の男の発言。
これだ! と思った。
グズで無能は失格にしてしまえばいい。これでルージュの勝利!
完!
となるわけがない。
「セシリア選手のスキル発動を確認しております! 問題ないため試合継続と判断します!」
レフェリーの声が無情に響く。
「は!? あんた何言ってんの? 自分が言ってる事、わかってんの? 金、貰ってんでしょ!?」
追撃として組織の存在を仄めかす。
さすがのルージュもはっきりと言う事はしないが、言っている意味は絶対に通じるだろう言葉。
「ルージュ選手、試合を継続してください! 継続せず、戦意がないと判断した場合はペナルティもあります!」
しかし応じる事はない。
レフェリーも必死である。金を貰ってはいるが、さすがにこの状況でセシリアを失格にしたら自分の不正が明るみになってしまう。裏組織も恐ろしいが、ドン・クルーズの方がもっと恐ろしい。このレフェリーにできる事はルージュ側の不正に目をつぶる位の事であった。
「ふッ! ふざけるな! 何がペナルティだ! どいつもこいつも役立たずが!」
審判の事情など関係ないルージュにとっては、買収とは相手が自分の奴隷になったのと同義である。
ルージュから見えている世界はこうだ。
言う事を聞かない奴隷。
圧倒的に不利な状況。
それを作り出した元奴隷。
全てが気にいらない。
気に入らない。気に入らない。気に入らない。気に入らない。
ルージュの心身に苛立ちが溢れ、それは状況の不利に対する怯えを凌駕し始める。
今まで我慢してきた。
組織にいい様に利用される自分。
ずっと我慢してきた。
それに対抗できない弱い自分。
ルージュは最強のはずなのに。
ルージュは最高のはずなのに。
トワイライトにいた頃なら毎日発散していた感情の嵐を。
あの日以来発散させる事はできなくなっていた。
ライブで集まった熱を感情のうねりに変えて、セシリアや他人に対して発散するあの快楽。
ずっと失っていた。
でも今でも忘れていない。
あの快楽。
欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。
恐怖。怒り。快楽。欲求。
綯交ぜとなり、渾然となり、混沌となって。
ないまぜとなりこんぜんとなりこんとんとなって。
箍がはずれた。
「もう、全員! 殺してもいいわよねえええええ!」
あふれる。
こぼれる。
せきとめていた感情が。
おしとどめていた怒りが。
全部、光になる。
そうやってほとばしる感情が変化した無数の光の玉がルージュ・エメリーの全身にくまなく浮かび上がる。これら全ての球、一つ一つが一点死突と同等の威力を持っている。
ルージュ・エメリーの怒り。全てを破壊する嵐のような怒り。それが具現化したモノだった。
深い深い闇の感情の発露が光になると言うのはルージュ・エメリーなりの感情昇華の方法なのだろうか。
こうなってはもはや一点死突ではない。言うなれば多点死突。
ルージュがやっと掴んだ多である。
でもそれは。
個が積み重なった結果の多である。
でもそれは。
どこまで行っても本質的に個である。
他人を犠牲にして自分の個を引き立たせる『アイドルウェポン:一点突破』
それは他人を蹴落とす孤独への道をつくった。
そしてその生き様から派生した『スキル:一点死突』
それは人を殺して自分を生かす道をつくった。
それらが積み重なった。そうして罪重なった。
どこまで行っても孤独。行き着く先は蠱毒。蠱毒を生き抜いた先もまた孤独。
だが。
そんな事は今のルージュには関係ないし、今のルージュには考えもおよばない。
ただ感情があふれ。
ただ力がまして。
気持ちがいい。
それだけだった。
ルージュが身に纏った光球はぶるぶると震え、今にも光線となって、その力を無差別に発揮しようとしていた。
そして当然、これが放たれれば会場の人間は大なり小なりの怪我をするだろう。命を失う人間も少なくないだろう。
相対しているセシリアにはそれがすぐにわかった。
「ダメです! ルージュさん!」
「うるせえええええええええ! ルージュを否定するな! 否定するな否定するな!」
静止の言葉さえ、否定の言葉として届くような精神状態。ルージュは完全に感情に。怒りに。力に。飲み込まれている。正常な思考など力を放出する間際の快楽に溺れている。もうすでに自分で止まれるような状況は過ぎていた。
「間に合って! ファン・ファンネル!」
叫ぶセシリアの周りから飛ぶ無数の鱗はまるで光り輝く龍のようであった。
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