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ついにきたなこのときが

 睨むアイドル。

 視線には恨みが辛みが呪いまでもがこめられていそうだった。


 ルージュ・エメリー。


 あの頃であればその視線に怯え、下を向いて謝る事しかできなかっただろう。

 しかし今はしっかりとネガティブな視線を受け止めて胸を張っている。


 セシリア・ローズ。


「ついに来たわねこの時が。生意気にルージュの目を見てんじゃないわよ」


 三白眼気味に下から睨めつけるような目線は変えずにルージュが口火を切った。


「ルージュさん」


 何をいうべきか。何と言うべきか。セシリアには選べる言葉は少なく、名前を呼ぶ事しかできなかった。


「ずっとずっとずっとずっとお!」

「……」


 セシリアの声を聞き、過去の嗜虐性がルージュの心を刺激する。


「あんたを叩きのめす日を待っていたわ」

「……」


 バカにして、見下して、奴隷扱いをしていたセシリアと同じ目にあったあの日から。ルージュはずっとこの日を待っていた。

 闇に堕ちても、人を殺しても、泥のような味しかしない高級酒を啜っても。


「ルージュが立っているはずの場所を奪ったあんたを! 再起不能にして全部を取り戻すのよ!」


 これを待っていた。


「……ルージュさん」

「うっさい! 黙れ! あんた如きがルージュの名前を呼ぶな!」


 ルージュの怒号にセシリアは体がすくむのを感じる。過去の呪縛だ。解き放たれてからまだ一年も経っていない。当然、心も体も完全に解放されてはいない。


 怖い。


 でも。


「黙りません」


 恐怖を上回るモノが今のセシリアには溢れている。


「あぁ!?」


 予想外の反抗にルージュの顔が怒りで歪む。すでにそれはアイドルの顔ではない。朱に交われば赤くなる。この半年でルージュは立派な裏組織の振る舞いを身につけていた。


「私、あの日のままじゃないんです」


 決意の言葉。

 別離の言葉。


「うっさい! 黙れ! あんたはクズで無能! あんたには何もない誰もいない! あの日のままよ! 人生初のセンターを味わったあの日から何も変わってないわ!」

「ルージュさんにそう言われ続けて。実際に何年もそう思ってきました」


 静かにうなずく。

 静かにその事実を受け止める。


 それこそがセシリアが変わった証。


「そうよ! あんたはあの日のままの無能よ! 今持っているモノは全部あんたがルージュから奪ったモノ! さっさと返しなさい! そうすればクィーン・マスクみたいに腕を失くすだけで済ませてあげるから!」


 それを理解できないルージュは自分の優位性を確信して下卑た笑いを浮かべる。


「でもあの日クビになってから。それは違うって言ってくれる人が増えたんです」


 でも違う。

 セシリアはあの日のままじゃない。

 むしろあの日から大きく変わっている。あの日が良くも悪くもセシリアの全てを変えた。


「それもルージュのモノよ!」

「はじめはジョージ・Pだけでした」

「無視するんじゃねえ!」


 自分の言葉を無視して語り続けるセシリアに対して、さらに苛立ち、声を荒げる。

 しかしそんなルージュの怒号も今のセシリアには何の意味も持たない。


「そこから頑張れば頑張っただけ認めてくれる人が増えました。褒めてくれる人が増えました。同時に自分を否定し続けてきた気持ちも変わりました。私を好きって言ってくれる人。私を応援してくれる人。その人たちのためにも自分を否定するのは違うって! 自分を否定するのは自分を信じてくれる人を否定する事だって! だから! 今日は! ルージュさんに勝って! 自分をほめます!」


 毅然とした決意表明。

 勝利宣言。


「あああああああ! うっさいうっさいうっさいうっさい! ルージュを否定するな! ルージュの言葉に逆らうな! ルージュは正しい! 正しい正しい正しい! 死ねえ! 一点死突!!!」


 ついにルージュの理性は吹き飛んだ。

 闇組織に堕ちて以来、必要に迫られて習得した感情コントロールも、過去の幻影(セシリア)に対しては意味をなさなかった。


 あの日のままの感情の奔流。


 嵐のような怒り。


 それがレイピアから光となってセシリアに向かって放たれる。


 因縁の会話に聞き入っていた観客は突如放たれたトラウマに悲鳴をあげる。


 クィーン・マスクのように、腕が飛んでいるセシリアを誰もが幻視した。


 しかしそうはならなかった。


 ファンファンネル。

 ファンがファンすればファンするほど堅くなる盾。

 セシリアがまとうそれはすでに鉄壁。ルージュのスキル如きで傷がつくような代物ではなかった。


 光は弾かれ。会場中に乱反射。それはまるで特殊効果のようにセシリアを美しく引き立てる。


「試合! 開始ッ!」


 ルージュの攻撃に慌ててレフェリーが試合開始を告げる。


 本来であれば試合開始前に攻撃を仕掛けたルージュの失格になりそうなものだが、そこは組織に買収されたレフェリーである。何事もなかったかのようにしれっと下がっている。


「一点死突! 一点死突! 一点死突!」


 なおも届かない苛立ちを光線に変えて連発するルージュ。


 それら全て、セシリアに届く事はない。


 散った光線が空でほどけ、光の粒子となり、全てセシリアに振り注ぐ。


 美しい。


 会場から思わずため息が漏れる。


「なれ果てからの喝采!」


 一声で。

 セシリアのステージが幕を開けた。

お読みいただきありがとうございます。

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