えーこんなたいみんぐでしんすきるですか
アイドルバトルはクルーズ・クルーズからほど近いアイドルスタジアムで行われる。
ここはドーム状の屋内スタジアムとなっており、収容人数は五万人程度。クルーズタウンでも有数の広さと知名度を誇っている。このスタジアムで行われる試合の優勝賞品がクルーズ・クルーズでのライブというから、人によっては賞品の価値が釣り合っていないと考える人間もいるだろう。
設備、音響ともに一流のものが整っており、スタッフの腕も確かである。実況室も同様であり、スタジアムを一望できる位置に設置され、エアコンはバッチリ完備、座る椅子は高額なオフィスチェアである。
そんな部屋にお馴染みの二人が座っている。
「ついにこの日がやってまいりましたあ! 年末恒例! アイドルバトルう!」
特徴的に語尾が伸びる実況はご存じ、マイカ・エムシー。
「いや、今年は例年に増して興奮度が高いですね」
髪が薄くなってキャラも薄くなっていく、解説おじさん。
「解説おじさんもそう思いますか?」
特番の時よりも一層興奮した様子のマイカ。頬は紅潮し若作りなツインテールがビヨンビヨンと揺れ動く。頬にあたったその髪の一部が口に入っているが、そんなのお構いなしで喋り続ける姿が興奮を物語っている。
「ええ、マイカさんも同様かと思いますが、やはりサリー・プライドがアイドルバトルに出場する事実が大きいですね! いまだに夢じゃないだろうかと疑ってしまうほどです」
この言葉が今回の大会の全てを説明している。
サリーサリーサリーサリー。
どこからどこまでもサリー・プライドだ。
初戦にサリー・プライドが出場しない事で暴動が起きかねないほどである。
当然のように観客はサリー・プライドが優勝すると考えているし。
当然のように観客はサリー・プライドの優勝ライブを楽しみにしている。
「本当ですねえ。実は楽屋挨拶に行きたい衝動を抑え切れる自信がありません」
パタパタと揺れるツインテール。
「ちょ! マイカさん、ダメですよ?」
「わかってますよう」
必死で止める解説おじさん。
くちびる尖らせながら揺れるツインテールでその頭頂部を叩くマイカ・エムシーの姿はさすがアイドルといった可愛さであった。
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楽屋の中にまでマイカ・エムシーと解説おじさんのやりとりが聞こえてくる。否が応でもサリー・プライドの優勝を望む声。そしてその予想が大勢をしめているのが聞こえてくる。
「嬢ちゃんがこの下馬評を覆すのが楽しみだね」
セコンドにつくモリー・マッスルの言葉と大きな手がセシリアの背中を熱く支える。
「ええ。でも今は目の前の一回戦ですね」
その温もりを確かに感じながら、静かに闘志を燃やす。
緊張はここ本番に至ってすっかりと抜けている。かかってもいないし抜けてもいない。フラット。闘志が静かに体の中をうねり、そのうねりが力を隅々にまで運んでいくのを感じている。
「わかってるじゃないか。嬢ちゃん。いいよ、気合が入りつつ、ちゃんと目の前が見えてる」
自分にも覚えがあるいい感覚がセシリアに訪れているのを察して微笑むモリー。
「午前中のモリーさんの調整のおかげですよ」
ふっと笑って後ろを振り返るセシリア。
モリーの肯定的な調整はいつもセシリアに自信を与え、力を満たしてくれる。
「あれ通りにやれれば優勝間違いなしだよ。あとは女神に祈るだけだ」
両拳を突き合わせた後に笑顔のモリーポーズ。
女神への祈り。
セシリアは本番前にも神殿に寄っていた。今日はなぜか神界に呼ばれる事はなく、目を閉じたセシリアの心に声だけが届いてきた。その時に今日はワタシもずっと貴女と一緒だから安心しなさいとか全く安心できないセリフを吐いていた。おかしなスキルと一緒に。
そんな一幕を思い出しながらセシリアは笑う。
「ここにくる前に神殿に寄ってきましたよ」
「神託でももらったかい?」
出会った日の電波会話を混ぜ返すモリー。
「ええ、ログインボーナスとか言ってわけわからないスキルをよこしてきました」
浮いた(物理)話をしたあの日を思い出しながら、今日あった話をモリーに告げる。
「はっ、冗談だったってのに、ほんとに神託が降りるのかい。嬢ちゃんはほんとに規格外だね」
お手上げ状態のモリー。
神託。
それは神殿を訪れるごとに、神界に連れ込まれ、膝枕をねだられて、挙句膝の上でおぎゃられているセシリアにとっては日常茶飯事であるが、やはり普通にはあり得ない事である。
「この土壇場にスキル追加ですか!?」
静かに壁にもたれて立っていたジョージ・Pが驚きの声を上げる。
女神の神託には今更驚かないジョージ・Pではあるが、スキルの追加は別問題である。戦闘に大きく影響を及ぼす。与えられたスキルが有用であればサリー・プライドに勝つ事だって容易になるかもしれない。
「ええ。半身の萌芽ですって」
みますか? と言いながらステータス画面をジョージ・Pに差し出した。
お言葉に甘えて、と言いながらジョージ・Pがそのステータス画面をのぞき込む。普段であれば自分のスキルで見るのであるが、その時間すら惜しいと言わんばかりである。
「使用してみました?」
スキルをみてもよくわからないためジョージ・Pはそう問うた。
普段であればスキルなんかの用途などは『アイドルウェポン:プロデュース』によってある程度は推測可能なのだが、この半身の萌芽に関しては理解が及ばない。
見えてはいるが、知覚外にあり、手が届かないという感覚が近いだろうか?
「それが使ってみてもうんともすんとも言わないんです。萌芽ってなっているからもしかしたら目覚めてないのかも」
「半身、ですか」
ステータス上に書かれる文字を見ながらジョージ・Pがつぶやいた。
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