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せんぱいともとどうりょうとわたしのみつどもえ

 CM明けの画面にはアイドル笑顔のマイカ・エムシーとCM前と比べ頭頂部の髪が一層薄くなった解説おじさんが並んで座っており、CM中にあった一悶着が容易に察せられた。

 視聴者も慣れたものでこのやりとりも年末の楽しみとなっているのであった。


「視聴者の皆様お待たせいたしましたあ! 年末恒例アイドルバトルの出場選手発表の続きを放送いたします!」

「……宜しくお願いします」


 解説おじさんは抜けた髪の毛を悲しげに見つめている。


「解説おじさん! 元気出してください。折角の晴れの舞台なんですよお! ほら元気元気!」


 やったであろう本人がおじさんの背中をパンパンと叩き、元気づけている。

 何というマッチポンプであろうか。


「……はい。気を取り直しまして、マイカさん紹介をお願いします」


 MCアイドルのボディタッチに心なしか気力が戻った解説おじさん。

 こっちはこっちで現金である。


「はい! 残す所三名となっておりますが、ここからは全員非戦闘系のアイドルとなっております!」

「歴史の長いこの大会でも三名の非戦闘系からの出場は本当に異例ですね」


 一呼吸。

 マイカ・エムシーの声のギアが一段上がる。


「そんな異例のアイドル、一人めのご紹介! ルージュ・エメリーさんです! 彼女は元々はトワイライトというアイドルグループに所属していましたが今回はソロ名義での出場です!」

「トワイライトでは圧倒的センターだった彼女ですが、電撃脱退からのソロデビューはアイドルオタク界隈ではざわつきましたね。それから数ヶ月アイドルバトルへの出場を果たした彼女に何があったのかは謎に包まれており、誰も多くは語れません! まさにダークホース! バトルの内容が気になる所です!」

「アイドル時代からエキセントリックな性格はアイドル仲間でも有名でしたねえ。ルージュ・エメリーさん一言お願いしますう」


 過去に何かあったのだろうマイカ・エムシーからのチクリとした言葉に反応はせず、すでに手に持っていたマイクを胸元に据え、ルージュ・エメリーは静かに立ち上がる。

 以前の言動を知っている人間からするとこの段階で異質である。


「ルージュは変わった。ルージュはより最高になっている。それを見せる時がきた。それだけ」


 それだけ言うとマイクを隣に置き、ちらと隣に座るアイドルへ視線を投げる。


 その一瞬だけ。


 昏い感情が瞳にこもった事には誰も気づかなかった。


「る、ルージュ・エメリーさんでしたあ」

「雰囲気が変わりましたね」


 これには解説おじさんも困惑を隠せない。


「で、では! 次の選手紹介に移らさせていただきますう!」

「そうですね。マイカさんお願いします!」


 変な空気感を振り払う。

 ルージュ・エメリーは知らん顔で正面を向いていた。


「残り二人となりました! 次の出場選手! セシリア・ローズ選手です! なんと彼女! 先ほどのルージュ・エメリー選手と同じトワイライトに所属していたアイドルとなります! 何という因縁でしょうかあ!?」

「セシリア選手はルージュ選手とは逆にトワイライトでは全く目立たないアイドルでしたが、脱退後に光り輝いたアイドルですね。彼女は凄いですよ。グループ脱退した次の日には新事務所に移籍、そこから破竹の勢いでアイドルランキングを駆け上がり、この大会の出場権を得ています。王道のアイドルでありながらアイドルバトルを目指すその姿はありし日の彼女を彷彿とさせます。その彼女がアイドル時代に所属していた事務所に所属という因縁もあるセシリア選手です」

「アイドルの仲間うちでは評判が良かったセシリア選手がここまで駆け上がってる姿は正直感動です。わたしも舞台の上でよくフォローしてもらいました。ではセシリア・ローズさん一言お願いしますう!」


 マイカ・エムシーの視線が優しげにセシリアに飛ぶ。

 それを受けたセシリアも微笑み、マイカだけにわかるように、「久しぶりありがとう」と口を動かした。


「ご紹介いただきましたセシリア・ローズです! ご覧いただきありがとうございます。アイドルバトルの優勝は私の長年の夢でした。ずっとずっと夢見てきました。でも! とある冬の日にそれは夢じゃなくなりました。現実の目標になったんです! 夢から現実へと導いてくれた皆さんに感謝してます! 応援よろしくお願いします!」


 ペコリと頭を下げて、マイクを置いた。

 マイカ・エムシーも解説おじさんも無言で拍手している。

 セシリアの人柄を知っている。下積み時代から付き合いのある人間だ。


 会場は暖かい拍手で溢れていた。


 セシリアが席につき、暖かな拍手が鳴り止んだタイミング。


 なんの言葉も。

 なんの気配も。

 なんの動作も。


 ないのに関わらず。


 空気だけが一瞬で変わった。


 セシリアはこの空気を知っている。


 マイカ・エムシーも。

 解説おじさんも。

 会場の人間も。

 番組を見ている視聴者も。


 誰もが知っている。


 一流が放つ圧力。


「は、ははは。この空気感はさすがですねえ!」

「マイカさんもおじさんも慣れてるはずなんですが慣れませんね。会場もお茶の間も待ちきれないでしょう。マイカさんお願いします」


 マイカ・エムシーも解説おじさんも。

 まるでサリー・プライドに囚われているように動作がぎこちない。


「そうですね……僭越ながら紹介させていただきます! 最後になります! 画面の先の皆様は待ちに待ったでしょう! そうです! すでにお気づきの事な上に、彼女に関しての説明などいまさら不要しょうが、あえて言わせていただきましょう! 天才! プライドの権化! つま先から髪先までの全てが彼女! 存在する場所全てが彼女になる!」


 すうううう。

 吸気音をマイクが拾う。

 そうしないと音が出せないと言わんばかりの大声のために。


「サリいいいいいいいいいいいいいい! プライドおおおおおおおおおおおおおおお!」


 コールと同時に会場が割れんばかりの拍手と歓声で包まれる。


 先ほどのセシリアの比ではない。


 説明通りに存在する場所が全てサリー・プライドに包まれた。


「彼女に関しては一切の説明は不要でしょう! アイドルバトルチャンピオンにしてトップ女優に上り詰め、女優デビュー五周年企画として一夜のアイドル復活のためにアイドルバトルに参戦する事が発表されました!」

「本当に一言をお願いしてもいいのかと何度も製作陣を通して確認しましたが、本人として問題ないとの返答なので、大変恐縮ですが! サリー・プライドさん! 一言お願いします!」


 サリー・プライドは無言でマイクを手に取って立ち上がった。


 会場中がその挙動をその声を待ちのぞんでいる。


 張り詰めた空気感。


 そんな中。


 一言。


 ただ一言。


「お待たせしました、サリー・プライドです」


 これだけ言ってマイクを置き、席についた。


 そして。


 ふうわりと微笑んだ。


 その笑顔で一気に会場の空気が緩和する。

 見ている人間全員が緊張から緩和の落差に心を奪われた。

 たった一言で何万字の言葉も敵わない効果を持っていた。


「サリー・プライド様! ありがとうございましたあ!」

「解説は不要ですね。これにて年末恒例アイドルバトル出場選手紹介特番を終わりとします」

「皆さん、この感動を胸に良い夜を」


 マイカ・エムシーと解説おじさんの丁寧なお辞儀で番組は終わった。

 何と放送尺ぴったりと終わったのである。

お読みいただきありがとうございます。

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