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おねえさまはすはすおねえさまはすはす

 CM中に選手の入場はすでに終わっており、会場に設置された横長のテーブルに選手が一列に並んでいた。


 カメラのフラッシュが瞬き、シャッターの音が選手への賞賛のように鳴り響いていた。


「さて会場には七人が一堂に会しております! 視聴者の皆さんにはお見せできていない事が申し訳ない限りです」

「毎年の事ですが、アイドル七人が並ぶと壮観ですねえ」

「今年は特別枠で彼女がいますからさらに豪華ですね」

「彼女の実況を担当させていただくのが光栄でなりませんねえ」

「では早速ですが選手を一人一人紹介させて頂こうと思います。マイカさんおねがします!」


 解説おじさんのフリに対して、マイカ・エムシーはマイクを握り直す。


 一呼吸。


 五年の経験を持ってしても選手紹介の一言目は気合が必要である。


「ではまずは一人目画面に向かって一番左端に座っておりますのは、クィーン・マスクさんです。美少女すぎる覆面レスラーとしてお茶の間の人気者ですねえ」


 マイカ・エムシーの声と同時にカメラが切り替わり、クィーン・マスクの顔がアップになる。


「ご存じない方に補足させていただきます。彼女は覆面レスラーですが、その真価が発揮されるのはそのマスクが剥がされてからです。ヒールレスラーがマスクマンのマスクを剥がしにくるというセオリーを逆手にとって、マスクを剥がされると能力が強化されるというスキルを持っています。今回の大会でもそこからがポイントになってくると思われます!」

「覆面をしてても美少女さが透けて見えますからねえ。期待したいですう。クィーン・マスクさん一言お願いします!」


 ADさんらしき人間がクィーン・マスクにマイクを手渡した。


 それを手に取り立ち上がる。


「毎回マスクを剥がされるのは本人的には不本意だ! だがぼくはどんな卑怯な手にも負けない! 今大会はマスクを剥がされずに優勝すると約束しよう!」


 強気で言い切り、マイクを置いて席に座った。


「はい、クィーン・マスクさん。ありがとうございましたあ!」

「不本意と言いつつも毎回マスクを剥がされに行く所が彼女のチャームポイントなのでぜひそこに注目いただきたいですね」


 身も蓋もない解説おじさんの言葉に憤慨して立ち上がり、マイクをつかんで何事か叫んでいるが、すでにマイクはオフされているため、お茶の間に届くことはない。


 ここまでが彼女のお約束である。


「では次の選手紹介にうつります。隣に座られていますのが、キミー・チョップさんです。グラビア空手の急先鋒として話題の彼女です。空手着の下にインナーをつけない事で有名ですが、空手の大会で何人の青少年を狂わせたかわかりませんねえ。解説おじさん何かありますか?」


 カメラはクィーン・マスクから横にスライドし、ショートヘアーのあざとかわいい感じの女性を写す。


「スキルの特性上という理由でインナーを着用しない事を空手連盟から許可されている彼女ですが、空手協会のお偉いさんの欲望が薄手のインナーよりも透けて見えますね。けしからん事です」


 と言いつつも解説おじさんの目線は道着の前合わせに翻弄されているし鼻の下は伸びている。

 そんなおじさんに侮蔑の視線を投げながらマイカ・エムシーは進行を続ける。


「わたしは解説おじさんの鼻の下からも欲望が透けて見えますねえ。ではキミー・チョップさん一言お願いします」


 クィーン・マスクとキミー・チョップの間に置いてあったマイクを手に取り立ち上がる。


「もーマイカさんったらひどいですう。きょうかいのぉ、お父さんたちはぁ、純粋にぃ、応援してくれてるんですよぉ。パパー! わたし絶対勝つからぁ応援してねぇ」


 あざとい。


 そう言って手を振ると豊かな胸部装甲が揺れ、胴着の隙間から肌色が見え隠れする。


 マイカ・エムシーは自分の胸に一瞬視線を落としてから舌打ちをしたが、すぐに切り替えてアイドル笑顔を浮かべてキミーの紹介を打ち切る。


「はい、あざしたー。そういうのはパパ活でお願いしまーす」

「純粋に応援したいですね。それはもう純粋な心で」

「このハゲ、本当にクソだな」


 広がった前合わせと増えた肌色の面積に翻弄されるおじさん。


「解説パパーありがとー! マイカさんこわーい!」


 元来マイカ・エムシーのありがとうございましたの合図で切れるはずのマイクがキミー・チョップの音声を拾っている。音響さんもキミーの色香に惑いマイクを切り忘れているのだった。


「どいつもこいつもエロに釣られやがって! さっさと次の紹介にうつります! 次の選手はナイ・カポネさんです。彼女はクルーズタウンのギャングであるカポネファミリーの跡取り娘ですねえ。エロハゲ(解説)おじさん補足お願いします」


 滑らかに右にスライドしたカメラはピンク色のふわふわ髪と猫耳カチューシャをうつした。

 次のアイドルであるナイ・カポネの身長が低いため画角におさまっていないのだった。


「ナイさんの今回の出場動機なんですが、彼女はギャングを嫌っており、アイドルバトルの優勝を条件にギャングからの足抜けを許されたとのことです。とは言っても能力が完全にギャングであり、ギャングになるために生まれてきたとの呼び声も高い彼女です。幼い見た目とは裏腹に戦闘力は高いですね。またカポネファミリーもカタギには絶対に手を出さないダークヒーロー的な面が強いファミリーですから応援する声も高いです」

「ロリっ子ギャングとか応援する要素しかないですもんねえ。ナイ・カポネさん一言お願いします」


 すでにマイクを手に取り、椅子の上に立ち上がって何事かわめいている幼女。

 その姿にマイカ・エムシーも解説おじさんもニコニコである。


「……ぇが……ロリじゃあああ!!! ぴっにゃあ! 急に大きな音! 耳が痛いのじゃあ!」


 マイクのスイッチがオンになった途端に、イヤモニから響いた自分の大声に自分でびっくりしている。


 一旦マイクをテーブルの上に置き、猫のように警戒しながら眺めるが、再び手にとって軽くぽんぽんとマイクを叩いてから再度話し始めた。


「あーあー。うむ大丈夫じゃあ! おいこら! そこの解説ども! 誰が幼女じゃあ! わしはもう十三歳になったんじゃあ! にゃめんなこらあ!」


 可愛らしい恫喝についつい頬が緩む。


 お気に入りの猫耳カチューシャとあいまって会場全員デレデレである。


「はい。とても可愛らしい自己紹介ありがとうざいましたあ!」

「いやあ幼女と動物要素はずるいですね。掛け合わせが実にあざとい! ブレーンが優秀ですね」


 ナイ・カポネはいまだにマイクに向かって憤慨しているが、今度は音響さんもしっかりと仕事しているようで、会場に声が響くことはない。


 かすかににゃあにゃあ聞こえてくる声に頬を緩めながらマイカ・エムシーは進行を続ける。


「次の選手で戦闘系アイドルは最後となりますう! レディー・ムサシ選手! 鎖国中の日の国から単身渡ってきました異国の剣士! アジアンビューティーな美しさと剣の腕前でアイドルバトルの出場権を得ました! この選手はどうですかあ、解説おじさん?」


 横に移動したカメラがうつしたのは誰であろうレディー・ムサシである。


 元ドザえもん系女子だったムサシはすっかりと綺麗になり、ポニーテールはツヤツヤと揺れ、着物も質の良さそうなものを身につけている。

 大きな会場に緊張しているのか、頬は紅潮している。


「いやあこの選手は凄いですねえ。半年に満たない期間でアイドルバトルの出場権を得た異例の選手です! 先ほども話に出ましたが出場予定であった戦闘系アイドルが軒並み怪我や事故で出場できなくなった結果の繰り上げとはいえ、それも彼女の実力のうちと言えましょう!」

「ポニーテールがとても特徴的ですね。ではレディー・ムサシさん一言お願います!」


 マイカ・エムシーの言葉にぎこちない動作でマイクを手に取るムサシ。


「あああ、憧れのお姉様と同じ大会に並び立てるなんて思ってませんでした!!! でも出るからには真っ向勝負が侍の魂! 優勝を目指しますので皆様何卒応援宜しくお願いするのですよ! そしてそれと同時にお姉さまへの声援もお願いするのですよ! はあああああ! お姉様かわいいいいいい!」


 後半はカメラではなく横に並ぶセシリアに向かって叫ぶだけの何かになっていたのにも関わらず、会場は拍手に包まれた。百合の花の香りしかしないが、これは純粋な応援である。キミー・チョップへの応援とは違うのだ。


「会場が何だか白百合に満たされた気がしますねえ、解説おじさん」

「前情報としては剣の師匠に弟子入りを認められるために単身クルーズタウンまで漂流してきたという割と濃いエピソードがあるはずなのにそこに一切触れずにお姉様一本槍で行く所に百合魂を感じますね」


「さて、ここまで戦闘系のアイドルを続けて紹介してきました。残りは非戦闘系のアイドルの紹介となります。ムサシ選手のお姉様や限定のアイドル復帰をかけた元チャンピオンも登場しますので後半もお楽しみに!」

「では一旦CMです。チャンネルはそのままで」


 解説おじさんの言葉と同時に画面は年末の特別ドラマに主演するサリー・プライドが大写しになっている画面に切り替わった。


 なるほどわかりやすく露骨である。

お読みいただきありがとうございます。

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