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ねんまつとくばんあいどるばとるきしゃかいけん

 季節は初冬。

 年末に開催されるアイドルバトルまで残り二ヶ月をきっていた。


 今日はその出場者が発表される記者会見の日である。


 コーンカフェには記者会見をライブビューイングするためにプロジェクターやスピーカーが運び込まれ、アイドルカフェはスポーツバーに衣替えをしていた。


 セシリアとジョージ・Pはその記者会見会場に行っているため、当然この場にはおらず、いるのはママ、サクラ、三銃士、常勤の元アイドルたち、コアなセシリアファンなど、まあコーンカフェのいつものメンツである。


 今日は料理やドリンクもビュッフェ形式の提供となっており、従業員も客も席に座ってめいめいで会話に花を咲かせている。


 その中で会話がはずまなさそうなテーブルが一つ。


 一番画面の見やすい位置にある。


 ママ、サクラ、三銃士のテーブルである。


 ママもサクラも三銃士には世話になっており感謝もしている。ちょっと変な奴だがそれを補って余りある功労者であると理解もしている。


 だがママもサクラもツンデレの見本のような性格である。


 急にデレるなどありえないのだ。


 三銃士も三銃士で自分たちが好きでしている事であるため、ママやサクラに恩を売ったという感覚はなく、気持ちは客が三人しかいなかった頃と何も変わっていない。


 セシリアのハレの日にママやサクラを怒らせないように怯えている。


 結果、無言である。


 そんな状況を破るのはやはりママである。

 さすがママ。


「ところであんたらどっからこんな機材持ってきたんだい? 盗んだりしてないだろうね?」


 指差した先にあるのは。


 百インチはあろうかというプロジェクター。

 キッチンをすっかりと覆い隠している。

 さらに野外イベントでもやるのではないかというほどのサウンドシステム。

 音量をしぼらないとガラスが割れそうである。


「我らは真面目なアイドルオタクですので盗みなどしませんよ! これらは会社の備品なので問題ないですよ」


 こぽ氏が憤慨している。


「会社の備品って……そんなもんを勝手に持ち出したら上司に怒られるよ」


 サクラが一般論を展開する。

 ママもサクラも三馬鹿が会社を経営している事は知らないのである。


「ママ、我が社ではこぽ氏が問題なければ全て問題ないのでござるよ」

「ん? どういう意味だい?」

「……社長」


 ボソりとてん氏。


「よく聞こえないよ! あんたはもちっとシャキッと喋んな!」

「……ヒイ」


 一喝されて怯えるてん氏の頭を撫でながらござる氏が口を開く。


「拙がちゃんと説明するでござるよ。ママには言ってなかったでござるが、こぽ氏は『株式会社 三銃士』という舞台技術全般を扱う会社を経営しているでござる。そして拙はその会社の専務で、てん氏は技術本部長なのでござる。つまり会社の備品程度ならこぽ氏の一存である程度借用可能でござる」


 結構長い付き合いになるが、ママもサクラも三馬鹿に対して全く興味がなく、プライベートなどに触れる気もなかったため、初めて知る衝撃の事実であった。


「はあー、毎日毎日うちの店に入り浸ってるから怪しい奴らだと思ってけど、あんたら経営者だったのかい!?」


 正直、親の遺産で食ってるクソニートだと思ってたという言葉はギリで飲み込んだ。


 飲み込まれた言葉は知らず、こくりと頷く三馬鹿ならぬ三銃士。


「隠してたようですまなかったのです」

「驚くでござるよね?」


 おずおずとママの顔を見る。


「んー驚いたは驚いたけどね。まあいいさ、あんたらがなんであれ、店の恩人には変わりないんだ。今まで通り変なことすりゃ出禁だし、そうでなけりゃ大事な客だよ。特に何も変わらないさ」


 男前なママ。

 立場などで人を見ないのである。

 ニートであろうと、社長であろうと。

 店を愛してアイドルを愛して対価を払えば客なのである。


「「「ママー!」」」

「気持ち悪いね! あんたらの、ママになった、覚えはないよ!」


 抱きつく勢いの三人の頭を順番に叩いた後、おしぼりで手についた油を拭く姿も今まで通りである。


 そんな様子を呆れた顔で眺めるサクラ。


「ママも三馬鹿もさあ、馬鹿な話してないでプロジェクター見なよ! 記者会見始まるよ!」


 指差した先、プロジェクターの中にはマイクを持った二人の男女が並んでいた。


—————————————————————————————————


「どうも! みなさんこんにちはー! MCアイドル、マイカ・エムシーですう! お隣にいるのわー!」

「どうも解説おじさんです」


 二人揃って頭を下げる。

 MCアイドルのツインテールが揺れ、解説おじさんの薄くなったひよこ毛も揺れる。


「今年もこの季節がやってきましたねえ、解説おじさん!」

「そうですね。マイカさんとのタッグもこれで五年目ですね。今年もよろしくお願いします」


 マイカ・エムシーの笑顔にぴきりと怒りが疾ったのを視聴者は見逃さなかった。


「五年目とかいうと年齢を感じるのでやめてくださいねえー! 永遠のFJD、永遠の大学生、マイカ・エムシーです! 今年もよろしくお願いしますう!」


 笑顔でそう言いながらピキピキと切れているのが画面越しでもわかる。


 往年のヤンキー漫画様式である。ひき肉にしちまう感じの怒り方である。


 しかしカメラを向いてる解説おじさんはその事実に気づいていない。


「五年目だと学部ならダブってますね。単位足りてます?」


 その言葉。


 命取りである。


「だあかあらあ! 永遠のFJDだっつんでしょうが? おん? この解説ハゲが! 五年で進行した頭むしるぞ」


 机の上に足を上げ、左手で解説おじさんの首を捻り上げ、右手で頭頂部のひよこのような髪の毛をむしっている。


 言った時にはすでにやっているのである。


「ちょ、マイカさん! いた、痛い! なま、生放送! 映ってるから!」

「おっと失礼しました。今年もこんな具合で可愛いわたしとうざい解説おじさんの二人で、年末恒例アイドルバトルの実況と解説を担当させていただきます。よろしくお願いしますう」


 キュルンと可愛げに小首を傾げているが、アイドルがおじさんをシメる映像を見せられた視聴者の方が首を傾げている状況である。見たかったアイドルバトルではない。


「……よろしくお願いします」


 おじさんはむしられた頭頂部を軽く撫で付けながら涙目で挨拶をしている。


「さておじさん、今年のアイドルバトルは異例ですねえ」

「そ、そうですねえ。異例の一言では片付けられないほどの異例ですね」


 何事もなかったかのように進行するマイカ。

 プロである。

 おじさんもテーブルの上に散った髪の毛に未練を残しながらも何とか通常運転に戻る。


「まず一番大きいのは彼女の存在ですよねえ」

「ええ。彼女が帰ってきました」

「彼女はわたしがはじめて実況を担当した年の優勝者なんですよお」

「ごねん……」


 その言葉にマイカ・エムシーの持っていたシャーペンが机に突き刺さった。


「あ?」


 コリないおじさんである。いや単純にデリカシーが欠如しているのだろう。


「いえなんでもありません。彼女は優勝してすぐに女優に転向しましたのでバトルは久々だと思いますが、女優として破竹の勢いで売れていった今の彼女がどう戦うのかすごく楽しみですね」

「対戦相手に何もさせない戦い方がまた見れると思うとドキドキですねえ」

「モリー・マッスルが指一本動かせずに終わったあの決勝は賛否ありましたがすごい試合でした」


 ここまで言ってしまえば誰かなんてわかる人間の方が多いだろうがサリー・プライドに関しては色々な所で出場を告知済みであるため、形式的に名前を伏せているだけである。


「次は出場者の割合が異例なんですよねえ。解説おじさんお願いしますう」

「いやあ、これもすごいですよ。普段であればこの大会は格闘系、戦闘系のアイドルしか出場しません。今年復帰する彼女が出ていた年も非戦闘系は彼女だけでしたが、今年はなんと三人もストレートアイドルが出場しています……」


 少し複雑な表情な解説おじさん。


「解説おじさん、表情が優れませんね? 髪の毛むしりすぎました?」

「いえ、それもありますが、このストレートアイドルが出場している原因が元々出場予定だった戦闘系アイドルたちの怪我や事故ですから。原因が原因だけに話題に出しずらい面がありまして」

「そうですね。今年は事故や怪我が多い年でした。一日も早い回復を願いたいですねえ」

「はい。今年は無理でしたが来年またキレのある技を見せてもらいたいと思います」


 そう言ってポジティブにまとめるコンビは喧嘩しながらも長年の経験から息があっており、ネガティブな情報もうまくさばける安定感がある。


 ここでマイカ・エムシーがポンっと手を打つ。


「さて、そう言っている間に選手たちの入場時間となりましたあ!」

「出場者七人中、三人が非戦闘系アイドルという異例な今年の大会はどうなるのでしょうか!?」

「さあ、出場者の入場に伴い、今年の参加者の名前が公表されます! 復帰した彼女が誰なのか!? 」

「続きはCMの後です! お楽しみにい!」


 画面は明るいジングルに合わせて可愛いアイドルが踊る洗剤のCMに切り替わった。

お読みいただきありがとうございます。

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