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さんばかはさんじゅうしなんだよほんとはね

 今日のセシリアはクルーズタウンの中でも若者に人気のあるジュークロードを歩いていた。


 夜のライブ会場であるライブハウスに向かうついでにMCのネタ探しをしているのであった。


 この通りの中ほど辺りには、煉瓦造りのショッピングビルが二棟並び建っており、その間ではいつも何かのイベントがうたれており、今日はその設営をしているようで、人が慌ただしく行き交っていた。


 見るとライブステージを組んでいるように見える。


 規模としてはそこそこ大きめでイベントに出演するアイドルの名前も有名なグループが名を連ねていた。


 このステージ見に行った人いますかー? 的なMCになるかななどとぼんやり考えながら足を止めていると。


「セシリア氏ー!」


 遠い所から呼ぶ声がした。


 この声と呼称はこぽ氏だと思われるが辺りを見渡してもどこにもいない。

 キョロキョロと。


「こっちですよセシリア氏ー!」


 上から声がする。


 顔をあげるとステージ上のライトを固定する骨組みの上に丸々とした体のこぽ氏が手を振っていた。


 満面の笑みである。


「こぽさん! そんな所で何してるんですか!? 危ないですよ!」

「いやいや、セシリア氏。これが我の本職ですので! 命綱もつけております!」


 フックと鉄骨をカチャカチャと鳴らしてアピールしている。

 どうやら正体不明、年齢不詳のアイドルオタクは舞台関係の仕事をしているらしかった。


「こぽさんのお仕事初めて知りました! かっこいいですね!」

「……かっこ!」


 感動に身を震わせ鉄骨の上でふらりとする。


「あぶない!」

「っと!」


 太い体に似合わぬ軽やかな動きで鉄骨の上を器用に歩くこぽ氏。


「ご心配おかけしました! セシリア氏、今お忙しいですか?」

「いえ、夜のライブまで時間ありますよ」

「では少々お待ちください。いま下におりますから」


 そういう間にスタスタと丸い体が鉄骨の上を歩き、スルスルと下に降り、一分もかからずにセシリアの目の前に立ったのであった。


「こぽさん! すごいですね!」

「そ、そうですかあ?」


 とても嬉しそうである。


「あんな高い所、私だったら足がすくんで動けませんよ!」

「どぅふふ、そんなに褒められるとどうしたらいいコポォ……どうしたらいいかわかりませんこぽぉ。我の本職ですのであれくらいできて当然ですので……」

「こぽさんって舞台関連の仕事をしてたんですね。私にいっぱいお世話になってるのに何も知らなくてごめんなさい」

「いやいや。とんでもないこぽぉ! 一応、こういう仕事しているのです」


 差し出された一枚の名刺。


————————————————————


 株式会社 三銃士

 代表取締役社長 アトス・ファラン


————————————————————


「こぽさん!? 社長さんなんですか!?」

「あ、そうなのです。ちなみにござる氏もてん氏も一緒の会社ですこぽ」

「ござるさんもてんさんもですか……」


 思わず呆気にとられるセシリア。

 こぽ氏本人としたら普通にやっている事であるため社長である事になんの衒いもない。


「ちなみに、ござる氏が専務で、てん氏が技術本部長です」

「みなさんすごいです! こんなすごい方たちに応援してもらえていたなんて!」

「全然! セシリア氏の方がすごい事をしてますこぽ」


 そちらこそすごい、いやいやそちらこそなんてホメホメ合戦を繰り広げていると離れた場所からまた聞き慣れた声が聞こえてきた。


「アトスさん! 何をサボってんるんですか!? 今日のステージに来るはずのグループが急に来れなくなって、アラミスさんが待ちぼうけ状態ですよ! 別のグループをキャスティングするなり、リスケするなりしないと作業が止まって……」


 怒りながら距離をつめてくるが、セシリアの姿を視認した途端に言葉が止まった。


「ござるさん、こんにちは」


 少し離れた場所で静止しているござる氏に大きく手を振るセシリア。


 途端に駆け出すござる氏。


「セ、シリア、氏ぃ! どんしたでご、ざるか!? こっぽ氏へのクレームか何かで!?」


 セシリアに駆け寄ってきたござる氏は荒くなって呼吸をセシリアにかけないように変な喋り方になっている。


「ござる氏! 我がそんなクレーム受けるような事するわけないでしょう!」

「そうですよ。偶然です。この通りの先にあるライブハウスで今夜ライブするんですけど、そのMCのネタ探しでジュークロードを歩いてたら偶然こぽさんに声をかけられたんですよ。全く問題なんてありませんよ。ね、ござる専務!」


 おどけた敬礼で微笑みかける。


「かわい」


 言葉を失うござる氏。


「それはそうとポルトスさん、アラミスさんがどうしたんですか?」

「はっ! そうですよ! 今はビジネスの時間でした! さっきキャスティング会社から連絡があって、今日のステージのトップバッターが怪我したとかでこられなくなったらしいんですよ。彼女らでサウンドチェックなんかをする予定だったのが、止っちゃってるんでアラミスさんがお怒りなんですよ。なんとかしないと!」

「あー今日は音響が難しい現場ですからねえ。我らの声じゃちょっとチェックにならないですし……」

「そうなんですよ。女性の声でないとアラミスさんのチェックが完了にならないですからね。困りました」

「あの……」


 おずおずと手をあげるセシリア。


 それに気づいたござる氏は慌ててセシリアに向き直った。


「ああ! 内輪でごちゃごちゃしてしまったでござる! 申し訳ないでござるセシリア氏」

「まったくぅ、いけないですな。ござる氏ぃ」


 そう言いながら肩に手を置いてニコニコするこぽ氏。


「ちょ! こぽ氏! そちらも同罪でござろう!?」


 再びじゃれあいはじめた二人をセシリアは止める。


「ちょっと待ってください! お仕事中なのでほっとかれるのはいいんですが、聞いてると何かみなさん困ってるようなのですが、なんなら私、お手伝いしましょうか?」


 セシリアの言葉にこぽ氏とござる氏は顔を見合わせた後に満面の笑みでセシリアに頭を下げた。

お読みいただきありがとうございます。

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