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たいりょくそくていはりべんじのあじがした

 モリーに案内された先は四角いリングの上だった。


 中に入る際にリングロープに軽くつまづいて顔から落ちそうになってヒヤヒヤしたのは内緒にしておく。


「さて、まずは身体強化しない状態でチェックしていこうか」

「チェックってどうやるんですか?」


 リングの上にはモリーとセシリアの二人きりで計測器などは見当たらない。

 能力のチェックをする場合には定量化するために数値として計測するはずだがそれがないのである。


「ああ、おれの能力でその辺は見えるんだよ。敵の能力を正確に推し量るために得たスキルの転用だね」

「なるほど!」


 納得のセシリア。


「早速だけど何個かやってもらうよ」


 モリーはそう言ってセシリアに次々と指示を出しはじめた。


 上体起こし。

 座っての前屈。

 反復横とび。

 リングを斜めに使ったシャトルラン。

 立ち幅とび。

 ボール投げ。

 ミット打ち。

 限界までの縄跳び。


 前世でセシリアが体験する事のなかったスタンダードな体力測定だった。


 これを次々とこなしていく。


 身体強化をしておらずとも日々トレーニングに余念のないセシリアはこれらを全て苦もなくこなした。


「アイドルバトルを目指すとか言うだけあってなかなかの身体能力だね」


 数値化した能力を手元のチェック用紙に書き込みながら、少し見直したようにモリーが言う。


「ふふふ。アイドルは身体が資本ですから!」

「確かにね。じゃあ今度は身体強化を使って同じ事をやってもらうよ」


 手元のバインダーから視線を上げる。


「はい! なれ果てからの喝采!」


 例によってスポットライトともにアイドルの影が背後に浮かび上がる。


「ちょい! 召喚能力じゃないんだよ! 身体強化をしな!」


 急に現れたなれ果てさんたちに驚きの声を上げる。

 そりゃそうだろう。

 いくらリングがステージとはいえ本当のステージになる事は稀である。


「すみません! 後ろの皆さんからの喝采で身体強化するんで使ってる間ずっと皆さんがいるんです!」


 お気づきだろうか?

 つまりは海での戦闘中もなれ果てさんたちはずっと出ていたのである。


「……はあ。女神からの神託なんてのっかるんじゃなかった。しょうがないね、続けるよ」


 一つずつ。


 同じチェックを繰り返すのだが。


 繰り返すその度にモリーの驚きは加速する。


 モリーはセシリアの言う全部なんていう言葉をひとつも信用していなかった。

 よくある身体強化は多くても一箇所から二箇所の強化のみだ。

 初心者は一部の肉体が強化されると全能感に支配されるため、全てが強化されたなどと世迷言を言う場合があり、セシリアもその類だと考えていた。


 しかし実際は腕力が強化されるだけだったり。スタミナが強化されるだけだったり。


 どこか一部の強化。


 それだけだ。


 だからこその身体強化のスキルのみで戦うのは厳しいという判断。

 その判断はチェックを進めるごとにくるくるとひっくり返る。ひっくり返りすぎて挙動が量子的になりそうなほどだ。

 全てのチェックを終える頃にはモリーの顔から感情が消えていた。


 セシリアのいう通り全部が強化されていた。

 倍率も場所によって差異はあるが概ね十倍以上の倍率となっていた。


 一般的な身体強化とは段違いであった。


「……嬢ちゃん、とんでもないね」


 呆れるやら驚くやら。

 平坦な声で言いながらセシリアの顔を見る。


「私、勝てそうですか?」


 モリーの反応がいいものでありそうだとは思うが自信はない。


「ああ、この身体強化なら目はあるよ」

「優勝は?」


 目がある。

 ではセシリアの目的は達成されない。


「そこはこれからの戦闘訓練次第だ……正直期間が短すぎて厳しい、とは思ってる。来年じゃダメなのかい? 来年ならほぼ確実に優勝まで持ってけるよ?」

「来年じゃダメです!」


 語気が強まる。

 初めはモチベーションを上げるための一年以内の優勝目標であった。

 しかし今は明確に今年でなければいけない理由ができている。


「おおっ! いきなり大声だすじゃないか?」


 意外なほどの強い言葉に若干のけぞるモリー。


「すみません……でも来年じゃダメなんです。来年のバトルにはサリー先輩は出てないんです。私は絶対サリー先輩に勝ちたいんです。もちろんアイドルバトルに優勝してクルーズ・クルーズに立つっていう夢はあるんですけど、でも今はそれ以上にサリー先輩に勝ちたいんです……勝ってあの舞台に立つんです!」


 サリー・プライドに勝つ。

 セシリアの中でそれはとても重要な事になっていた。

 初めての感情。


「……サリー? それは誰だい?」


 心当たりがありそうで。

 でもその人物はあり得ないという面持ち。


「サリー・プライド先輩です」

「……あのサリーか」


 モリーが思い描いていたサリーと同一人物であった。


「ご存知なのですか?」

「この街であの女を知らない人間はいないだろうよ」


 というのは表向きの言葉である。

 その言葉からは裏の意味が透けて見えた。


「それもそうですね」


 それはセシリアにもわかっているが決して深追いはしない。

 本人はきっと話すだろうと思っている。

 そして実際すぐにモリーは詳細を語り始める。


「でもそれ以上におれはあの女に因縁があるんだけどね」

「知りませんでした」

「そりゃそうだろうよ。嬢ちゃんとは初対面なんだし」

「どんな因縁か、お聞きしても?」

「……あまり言いたくない話だけどね。嬢ちゃんもあの女に因縁がありそうな同志だからいいか。……おれはあの女に負けてるんだよ」


 下を向いて言った表情をセシリアは見ない事にした。


「それはバトル的な意味合いで、ですか?」

「ああ、奇遇にもアイドルバトルでね」

「モリーさんもアイドルバトルに!?」

「そんなに驚く事じゃないだろう? おれは見るからに格闘系アイドルなんだから当然成り上がるにはアイドルバトルを目指すさ」

「ああ、確かにそれもそうですね」


 アイドルバトルは格闘系、アスリート系アイドルに与えられるチャンスの場だ。


「自慢じゃないがおれも結構強くてね。アイドルバトルの決勝までは順調に進んでいったのさ。そこで当たったのがあのサリー・プライドだよ」

「という事は五年前のアイドルバトルですね」

「ああ……そうだね」


 当時を思い出しているのかその表情は苦い。


「あの女が優勝しているって事は結果はわかってると思うけどね、おれは負けてね。ただの負けならまだ良かったんだが。これまた負け方が良くなくてね」

「負け方?」

「ああ、おれは指の一本も動かせずにあの女に負けた。格闘系アイドルがストレートアイドルに完封されたんだ……」

「え」


 言葉を失うほどの衝撃。

 一度見た限りだが。

 サリー・プライドにそこまで格闘系の能力がありそうには見えなかった。


「会場中の人間みんなそんなリアクションだったよ。思い出すね。結果としてそんな情けない負け方をした格闘系アイドルを使うプロモーターはいなくてね、格闘系アイドルを廃業して今の状態になったのさ」

「すみません。変な事を聞いてしまって……」

「良いさ、もう五年も前の話だ。とっくに昇華してるよ。言っただろう? 嫌な事があったけど、今はこうやってジムも構えられてるし、結果オーライだって。でもモヤモヤはしてたんだ。なるほど、女神も粋なとこがあるね。間接的にリベンジのチャンスを与えてくれたって事だ。信仰していた甲斐があるってもんだよ」


 そう言ったモリーの表情は前を向いていた。

 女神が言った伝手がある。

 それにはもしかしたらこの意味もあったのかもしれない。


「そうか! 私がサリー先輩に勝てばモリーさんの仇もとれますね!」

「そうだよ、察しがいいね嬢ちゃん! そうと決まれば徹底的に戦闘技術を仕込んでくよ!」

「はい!」


 サリー・プライドを通して、共闘、師弟関係が出来上がったのである。

お読みいただきありがとうございます。

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