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どろじあいなんていわせないから

 残心を解いたムサシは砂浜に視線を向ける。


 そこではセシリアとロンが泥試合を繰り広げていた。


 くりかえす。


 泥試合である。


 ロンはクロ程の使い手ではないらしく拳のスピードも重みもセシリアの身体強化を破る程の威力はない。

 かといってセシリアもロンを行動不能にできるほどの戦闘技術も経験もない。

 というよりできるのは体当たりのみである。

 それも不意をつけた最初のようにはいかず、大ぶりなモーションは先読みされるため当然当たらない。


 ロンの拳はセシリアに通らず。


 セシリアの体当たりはロンに当たらず。


 泥試合である。


 しかし。


 なぜか見ていられる。


 むしろムサシはずっと見ていたいとさえ思っている。


 なぜかと考えて。


 これがアイドルの華かと思いあたる。


 ママもサクラもぽうっと見惚れている。


 対戦相手のロンでさえ楽しくなって手を抜いている節さえある。


 大きく身体を広げたかと思えばそれを縮めて体当たりするセシリア。


 見え見えのモーションであるそれは当然避けられ砂浜を転がるセシリア。


 立ち上がりをロンの拳が襲う。


 驚いた顔で避けるセシリア。


 光煌めき舞い散る汗。


 燦々とした太陽の下舞い踊る黒髪。


 パレオの下から覗く躍動的な肢体。


「……お姉様のステージなのです」


 自分の血腥い戦闘とはまるで違う。


 華やかで艶やかで麗かな戦闘である。


 戦っている本人は全くそんな事は意識していないのに溢れ出すエンターテインメント。


「これがアイドル……これが拙者の中にも……」


 ムサシの中のアイドルが目覚めた瞬間であった。


 十分ほど全員がその戦いに見惚れ、いつの間にかギャラリーがセシリアとロンを囲むような状態になった時。


「もうっ! ムサシさん! そろそろ助けてくださいよお!」


 泥試合を必死に続けるセシリアが周りの状態に気づき助けを求めた。


 その言葉で我に返ったムサシが手に持っていた鞘でロンの脇腹を一閃することでエンターテインメントに昇華された泥試合は幕をおろしたのだった。



----------------------------------------------------------------------


 デーブ、クロ、ロンの三人はクルーズタウン警察ベイ署の警官が数名やってきて、そのまま連行されていった。

 血反吐で汚れたテラスを片付け、テーブル、椅子を並べた後、今日は店じまいにする事にした。

 突き飛ばされたスタッフにも大きな怪我はなく、戦闘を繰り広げたムサシ、セシリアにも怪我はなかった。


 ひと段落したシーンカフェの店内。


 そこには腰に手を当てたセシリアの仁王像が建立されていた。


「みなさん!」

「「「……はい」」」

 めずらしく怒気のこもったセシリアの声にママさえも大人しくなっている。


「私! 必死だったんですよ!」

「「「……はい」」」


 生まれて初めての本格的な戦闘である。それは必死であっただろう。


「なんでみなさんずうっと見てるんですか!?」

「申し訳ないのです。お姉様があまりにも美しくて……」


 モジモジと胸の前の手を組み合わせたり話したりしながらモジョモジョとした言葉。

 最後まで言わせる気のないセシリアに遮られる。


「ムサシさん! そんなお世辞でごまかされませんよ!」

「いや……お世辞じゃな……」


 言わせないモードのセシリアはムサシの言葉を遮る。

 次!


「さくらさん! なんで観客から観戦料取ってるんですか!?」

「いや! あれをタダで見せたらむしろ何でお金取るのよ!? セシリアのステージでチケット代取らないステージなんて最近やってないでしょうよ?」

「あれはステージじゃないです! 命と魂を賭けた白熱した真剣勝負でしたよ!」

「いや、ムサシとクロの戦いはそうだったけど、あんたのは泥試……」


 言わせないモードのセシリア。

 必死の戦いを泥試合などと言わせる気はない。

 次!


「ママも! ちゃんとしてください! シーンカフェの行く末を決める戦闘だったんですよ?」

「ほんとにすまなかったと思ってるよ。でもしょうがないじゃないかあれは見ちまうよ。ほんとにあんた成長したね」

「ほめてーごまかすのはーきんしですー!」


 ちょっと嬉しそうな顔で怒っている。


 三人の頭の中にはカワイイ以外の感想は浮かばなかった。


「事実なんだけどねえ……。ま、そんな事よりだ。ムサシ、あんた刀折れちまったけど大丈夫なのかい?」


 安定のママのスルー力。

 カワイイは置いておいて今回の戦いの最大功労者のムサシに話を向ける。


「確かにそうですね! 刀はサムライの魂だと聞きます」


 ほめられた照れ臭ささを隠すようにママの話に乗っていくセシリア。

 まだ頬が少し赤いのは夏の暑さのせいじゃない。


「……あまり大丈夫ではないのです」


 刀に言及された途端にムサシの顔が曇る。


「そうだよねえ……」


 ムサシ以外の三人で顔を見合わせる。

 解決策は見えない。


「あれっていくら位するんだい?」

「数打ちの刀でしたが、日の国の貨幣で二十万円ほどでした」

「ここの金で言うとどれくらいなんだかわかるかい?」


 値段次第では新しいものを買う事も可能であろうと言う判断だ。


「そうですねえ。このカフェで出されるような料理が千円くらいでした」

「じゃあ大体1クルーズが一円くらいなのかね?」

「クルーズがこの街の貨幣なのですか?」

「そうだねえ。このカフェでも大体の料理が1000クルーズくらいで出してるよ」

「それはわかりやすいのです」


 クルーズタウンでは通貨の単位はクルーズとなっている。

 日本と同じく千円未満は貨幣で千円以上は紙幣となっている。

 1000クルーズ札にはドン・クルーズが印刷されており、それ以外の紙幣は女神が印刷されている。女神本神曰く全部の札に自分が載りたかったが、この街をつつがなく運営しているドンに仕方ないから1000クルーズだけ譲ってやったと偉そうにしていた。でも素直にのせるのは悔しいから若かりしドンを思いきり美化してのせてやったそうだ。

 しかしその嫌がらせは逆に働き、1000クルーズ札はイケメン札として若い女性に人気となっている。


「ですけど、刀ってこの街で売ってます?」

「確かに見たことないね」


 クルーズタウンを隈なく知っているわけではないが、この場にいる三人の誰も見た事がないのであれば、流通がないか、有ったとしても一般に出回るような経路には存在しない事になる。


「有っても拙者買うお金がないのです」


 身も蓋もない。

 実際、丸木舟で大海に漕ぎ出した上に、それが沈み漂流した人間が金など持っているはずもない。


「うーん」


 ムサシ、セシリア、サクラは頭を抱えた。


「わかったわかった!」


 その中、一人難しい顔で何事か思い悩んでいたママはそう言って手を数回叩き言葉を続けた。


「はじめっからこのカフェを救ってくれた人間が困っているってのに見捨てるなんてあたしにはできゃしないんだよ! あんたらだってわかってただろうよ!」

「ママ!」


 待ってましたとばかりに声を上げるセシリアとサクラ。

 実際ママの判断待ちだったのである。


 ムサシは一人ポカンとしている。


 そんなムサシの両肩に手を置くママ。


「ムサシ! あんたこのカフェで用心棒兼、スタッフとして働きな! ひと月くらいでその刀の金額くらいは稼がせてやるよ! もちろん住む場所も、食事もつけてやるよ!」


 力強い言葉と。

 両肩に感じる温かい手。


 真夏の暑さの中にも感じる優しい温度。


「ママ殿! よろしいのですか!? 命まで救ってもらった上に生活の面倒までも!」

「乗りかかった船だ! シーベイ一家から救ってもらった恩もある! 全部あたしに任せな!」

「さすがママ!」


 そこに痺れる憧れるう!

お読みいただきありがとうございます。

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