さむらいはあいどるをめざす
同病相憐れむとはよく言ったもので。
女神の子羊を憐憫の情で見つめていたママがため息まじりに口を開いた。
「あんたアイドルウェポン持って生まれてきたね?」
近づいて、ぽんと肩に手を置く。
「そうなのです! アイドルウェポン:サ……」
「ああ! 言うんじゃないよ!」
「ふぁ!」
大慌てで制止するママの声に驚き、ムサシは跳ね上がるような声を上げた。
その横からワケ知り顔でセシリアが説明を添える。
「ムサシさん、この街で自分のアイドルウェポンは言ってはいけませんよ。誰に利用されるかわかったものではありませんから。とても危ない事なの」
「店で堂々と言い放ったあんたが言える事じゃないけどね」
「ほ」
精一杯の先輩的な行動もママの事実陳列罪に台無しにされてはセシリアも言葉を失った。
そんな二人を見てムサシは感心しきり。
「恐ろしいとは聞いていましたがこの街はやはり本当に恐ろしいのですね」
「ああ、特にアイドルウェポンはアイドルにとっては秘中の秘だ。信頼した人間だとしても軽々しく教えるべきではないよ。特にあんたはアイドルバトルを目指すんだろう?」
秘中の秘の部分でママはチラリとセシリアを見たが、それを簡単に晒した事を晒されたセシリアは何も言わずにうんうんと頷いている。アイドルバトルを目指すライバルが目の前にいると言うのに全く態度の変わらないセシリアを見てママは呆れるやら感心するやらであった。
「そうなのですよ! 師匠の弟子になるにはそこで優勝する必要があるのです!」
「まあ今年の出場は無理だろうけど、あれは毎年開催されるからね。ちゃんと計画を立てて、信頼できる事務所に所属するなりすればあんたなら近いうちに出場だけなら何とか漕ぎ着けられるんじゃないかい?」
ママの言う通り、漂流して薄汚れてはいるが、顔立ちは整っており、クルーズタウンには珍しいタイプの造作であるため人気が出そうである。それ以外にも高めに結われたポニーテールが特徴的であり、着ている衣装も合わせてキャラが立っていて、事務所に所属してアイドル稼業を始めたらあっという間に人気が出そうである。
「ムサシさんはアイドルバトル仲間ですね! 私で教えられる事なら教えるんで何でも聞いてくださいね」
セシリアはやはりセシリアである。
普通のアイドルであれば、ライバルになると考えて情報は秘匿するだろうし、性格の悪い人間であれば嘘を教えて足を引っ張ろうとする。ましてやこんなにキャラの立った人間相手なら尚更である。
しかしセシリアにそんな考えは出てこない。
「セシリアお姉様もアイドルバトルを目指しているんですか!?」
「そうなんですよ」
ムサシはファンになったお姉様がライバルと知って少し気まずそうな態度に変わる。これが普通の態度であろう。しかしそれに対してもセシリアは屈託なく笑って肯定するだけである。
それをフォローするようにママが補足する。
「セシリアはすでに出場資格満たしてるからね。今年の大会への出場がほぼ決まってるよ。だからムサシ、あんたと戦う事はないだろうよ。安心するといいよ」
セシリアのニコニコとした対応にどう応えるべきか迷っていたムサシは安心した様に息をついた。
「そうなのですか。よかったのですよ。大会はいつなのですか? あ、年末ですか。流石に今からあと数ヶ月では出られるものではないですよね。拙者はできればお姉様とは戦いたくないのですよ」
丸木舟で大海に漕ぎ出す割には常識を持っていたようで、ムサシは今年の出場を目指すとは言わなかった。
「セシリアなら今からでも目指します! とか言い出しそうだけどね」
ムサシの言葉を聞いたサクラは隣にいるセシリアの脇腹をつつきながら言った。
「本当にねえ。一年でアイドルバトルの優勝を目指すとか言い出した時はただのバカだと思ってたけどね。なんだかんだいい所までは行きそうだよ」
「ママと違ってわたしはアイドルじゃないけど一年でアイドルバトル優勝とか言い出した時はちょっと可哀想な子だと思ったよね」
「お二人とも」
薄々気づいていた数ヶ月前の自分への評価をあけすけに語られて若干凹んでいるセシリア。
「拙者はお姉様と同じ夢を抱いているのですね」
憧れのお姉様と同じ夢を持ちつつ戦う事はないとわかり安心とその嬉しさに浮かれるムサシ。
「この娘はこの娘で全く聞いちゃいないねえ」
片や凹み。
片や熱で浮かれ。
同じ夢をもつ二人を交互に眺めママはため息をついた。
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