あいとそうるのすくりーむ
行き倒れ女性をシーンカフェに運び込んだセシリアにママの怒号が飛んだのは言うまでもない。
「自由にしていいとは言ったけど、自由に行き倒れ拾ってこいとは言ってないよ」
「すみません! でも死んでたなら放っておけますけど、流石に生きていたなら見過ごせませんよぉ。ママでもきっと連れて来てたと思いますよ」
「あたしならこんな面倒なのはほっとくよ! こっちはカフェでてんてこまいなんだよ!」
そんな冷たい言葉とは裏腹にママはドザえもんに水を飲ませたり、声をかけたり、軽く体を拭いたりと大忙しで救護をしている。
ママがママたる理由である。
「ママはほんと素直じゃないのよね。わたしなら拾わないけどね」
呆れた口調でママの補佐をしているサクラも言葉の割にはしっかりと補佐をしている。
「二人とも本当に優しいんですよね」
「「違うってば」」
同口同音かと思うほどのシンクロ。流石親子である。
それを見て笑うセシリア。
ママは照れを隠すように眉根を寄せてそんなセシリアに檄を飛ばす。
「拾ってきたあんたが一番だろうよ。笑ってないでさっさと介抱の手伝いしな!」
「は、はいっ!」
小一時間。
濡れタオルで体を拭いたり、うちわで体を仰いだり、水を含ませたりと手厚い介抱を受けた行き倒れ女性は意識を取り戻し、会話ができる程度まで回復した。
「命を救ってもらった上に、こんな体勢で礼をする無礼をどうか許していただきたいのです」
申し訳なさそうに目を伏せる。
「気にするんじゃないよ。この街は殺伐とはしてるが全く情がないって訳でもないんだ」
「そう言っていただけるとありがたいのです。貴方がたは命の恩人なのですよ。あ、申し遅れたのです。拙者はレディー・ムサシと申す者なのですよ」
「あたしはこのカフェの主人でママって呼ばれているよ。こっちは娘のサクラ。あんたの隣にいるのがセシリアだ。それがあんたを拾ってきたんだから直接的な命の恩人だね」
「サクラだよ、生きててよかったよ」
「セシリアです。よろしくお願いしますね、レディー・ムサシさん」
それぞれ自己紹介がてらの挨拶をするサクラとセシリア。
セシリアの言葉が脳に刺さったようにムサシの目が見開かれる。
その刹那。
「ふぁああああああ! かわいいいいいいいい! ムサシって呼んでほしいいいい!」
突如奇声を上げるムサシ。
それが三人の脳に刺さった。
「ちょお、どうしたんだい急に!」
「は! 申し訳ないのです! セシリアお姉様を拝見したらなんだか魂が叫びだしたのですよ……」
ナチュラルなお姉様呼びからの意味不明な供述。
思わずママも首をかしげるが、しかしそこはセシリアの名前が出ているのである。
当然なにかやったのだろうとママは推測した。
その思考に至り瞬間その顔と矛先はカッとセシリアに向かう。
「どういう事だい!? セシリア! あんたまた何かやったのかい?」
「えええ? 私なにもしてませ……ってああ! ええ……?」
海岸線で聞いた女神のアナウンスを思い出すも、これは不可抗力であり、自らがやりたくてやった訳でもなく、なんと言ったらいいか口ごもるセシリア。
「セシリア、完全に今なにか思い当たったでしょ? 正直に白状なさいよ」
そんなセシリアをサクラが半笑いで揶揄ってくる。
その言葉にムウとなりながらもセシリアは諦めた。
「そう、ですねえ。多分、助けるときにムサシさんが私のファンになってしまったのが原因かと……」
「セシリアお姉様が拙者の名前をおお! 嬉しいのですう!」
白状したセシリアの口にのぼる自分の名前にまた興奮するムサシ。
結論。
ファンのソウルスクリームだった訳である。
「あんたもちょっと落ち着きな! いちいちそんな反応してたらまた行き倒れるよ!」
「は! 申し訳ないのです……どうにも魂が叫び出すのです。止まらないのです」
ソウルの叫びは仕方ないと。
そう供述するムサシを呆れた顔で眺める三人。
サクラが思い出したように口を開く。
「何かに似てると思ってたら、コーンカフェの三馬鹿に似てるのよねえ……」
「確かに! 話し方もござるさんに似てますね! 一人称も拙と拙者で似てますし……」
「あんたら三馬鹿の話はやめな。噂すると湧いてくるよ」
ママが三銃士の三人を思い出し顔を顰める。
そんなママにセシリアは三人とも楽しい方たちじゃないですかとセシリアがフォローを入れ、サクラがママと同じ顔で顔を顰めながらも悪い人間ではないんだけどなどと以前に比べたら肯定的な意見を述べている。
「三銃士の皆さんも出資されてるんだから一緒に来たかったですね」
「うええ、流石にこんなあっつい場所ではあの油っぽい顔は見たくないかなあ」
「あの三人も似た様な事言ってたね。オタクに海は似合わないとか何とか。世話になった義理があるからあたしも一応誘ったんだけどね……断られたんだよ」
実はこのシーンカフェを始めるにあたり、三銃士の三人からも出資を受けていた。
その申し出を受けた当初は冗談だと思っていたママは実際口座に振り込まれた金額を見てひどく驚いた。
おかげでシーンカフェのクオリティは上がり、出資を遥かに上回る売上を確保する事ができたのだった。
オタクの財力は侮りがたいとママは認識を改めたのだった。
そんな内輪の話で盛り上がっていると、横から申し訳なさそうにムサシが参加してきた。
「話に割り込むようで申し訳ないのですが、この街にサムライがいるのですか?」
「サムライ?」
ママとサクラは初めて聞く言葉に首を傾げ、セシリアは前世以来に聞く言葉に驚いた。
「拙者とか、語尾のござるは我が故郷、日の国のサムライ言葉の特徴なのですよ」
「サムライとは?」
「拙者みたいな服装で腰に刀を佩いた人間の総称なのですが、違いましたか?」
ムサシが語るサムライの説明に、マジマジとムサシの服装を眺め、それからござる氏を思い返すが、瞼の裏に浮かぶござる氏の姿は全く異なっていた。
浮かんでくるのはいかにもオタク然とした格好をしている姿。
彼は大体チノパンにチェックシャツである。
たまにおしゃれでバンダナを巻いている。
「違うねえ」「全く違う」「違いますね」
そう。
全く違う。
「そうなのですか。基本的に日の国の人間は国を出ることはありませんから。勘違いかもしれないのです」
「確かに日の国って島国がこの街の東の海上にあるのは知ってたけど、基本的にあそことは国交がないからね。出身者を見るのは初めてだね」
「じゃあムサシさんはどうしてこの街に流れ着いたのですか?」
「それは……」
と、ムサシが語り始めた理由。
この街に漂着する事になったワケ。
それは他でもない、アイドルウェポンが原因であった。
ムサシは日の国で『アイドルウェポン:サムライ』を授かって生まれてきた。
アイドルウェポンを持って生まれた人間は女神の強制力によって一生のうちで必ずクルーズタウンに運命的に誘われる。これはどうあっても避けられない。
今ここにムサシがいる理由がそれである。
日の国に生まれ、剣術道場の娘として育ち、一角の剣士と成長したムサシ。
より高みを目指すために師を探す旅に出た。
その中、一人の老人に出会い。その人間を一生の師と定めた。
しかしその老人は弟子をとらない事で有名な偏屈老人であった。
一度決めた事を変えられない性格が災いし、その老人の家に押しかけ、半ば無理やり見習いの様な状態になったまではよかった。老人も情に絆され、自分の剣を見て盗む程度は許可してもらえる様になった。
ここまでは問題ない人生である。
しかしここで女神の強制力が働くのである。
そんな充実したある日。
ついに老人から正式な弟子とする試練が与えられた。
「それがこの街のアイドルバトルに優勝する事だったのです」
その指令によってムサシは半ば違法出国のように丸木舟と櫂一つで大海へと漕ぎ出す事になったのであった。
ここまで話を聞いて三人は女神の強制力である事を確信した。
鎖国状態の日の国にいる偏屈ジジイがこの街のアイドルバトルなんて知っている事がおかしい話なのである。
ママとセシリアは顔を見合わせる。
「あーあれだねえ」
「これはーそうですね」
思い当たる節のありすぎる二人はなんとも言えない表情で見つめあった。
二人とも女神の強制力でこの街に来ることになった口だ。
他の人間も似たような話を何度も聞いた事がある。
この街ではありふれた話だった。
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