めがみからのぷれぜんとすごくない?
「手応えを感じますね、セシリアさん」
ライブ後。
最近固定で枠を確保してくれるようになった馴染みのライブハウスの楽屋。
手帳に目を落としながら静かにジョージ・Pが言った。
それに反応して放熱中のセシリアが顔を上げる。
その表情はいつにも増して満足感、充実感が見え、今日のライブがどうだったかを如実に表していた。
「今日は我ながらいいライブだったと思います」
「そうですね。過去最高の出来でした」
手帳から顔を上げ、セシリアに向き直ったジョージ・Pの顔にもセシリアと同様の感情が満面に浮かんでいた。
「嬉しいです。お客さんの顔が今までの興奮とは段違いなのが本当にわかるんです」
「今までスタミナが少し不足して、後半のダンスと歌唱に影響が出ていた部分がなくなったのが大きいですね。おかげで最初から最後までフルスロットルのパフォーマンスが可能になってます」
「そうなんですよ! 今までは体力も考慮してセトリを組んでたんですけど、今はお客さんの感動体験だけを考えてセトリを組めるようになったんです! これが本当に嬉しいんです」
ジョージ・Pはうんうんと無言で同意しながら微笑む。
「急にスタミナ上がりましたけど何かありました?」
「これのせいですかね?」
そう言って自分のステータスをオープンしたセシリアはジョージ・Pにも確認してくれるように促し、それを受けてスキル「現状把握」を起動したジョージ・Pはセシリアと一緒にステータスの確認作業に入った。
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名前:セシリア・ローズ
職業:アイドル
ウェポン:ファンサ(+12271)
スキル:布教、なれ果てからの喝采
SING:★ ★ ☆ ☆ ☆
DANCE:★ ★ ☆ ☆ ☆
BEAUTY:★ ★ ★ ☆ ☆
自己肯定:MICRO
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「スキルが増えてますね」
「スタミナが増えたのはこのスキルのおかげなんです」
「どんなスキルなんです? スタミナが増えるって事はバフ系でしょうか?」
「正解です! 流石ジョージ・P」
セシリアの声が嬉しそうに弾む。つられてジョージ・Pの頬も緩むほどに。
「ありがとうございます。増えるのはスタミナだけですか?」
「いえ、身体能力全部にバフがかかる感じですね」
「なるほど、ダンスのキレが増していたのもこれが原因でしたか」
なるほど納得といった調子でジョージ・Pが頷くと、よくぞお気づきでといった様子でセシリアは両手の平を上に向けてそれをジョージ・Pに向けた。
「そうなんですよ! 今までは出来なかった振りもできるようになるし、ビートのどこにでも乗れるようになるし、良い事だらけなんです!」
「実際見てみたいのですけど今って使用できます?」
「そうですね。ここならギリギリ入れるかな? 後ろを開けて……横は……なんとかなるか? うん」
ジョージ・Pの提案に、セシリアは座っていたソファから立ち上がり、楽屋内を見回しながらブツブツと独りごちながら、周りを確認してから小さくうなずいた。
「たぶん大丈夫です。じゃあちょっと発動しますね」
「お願いします」
「なれ果てからの喝采!」
片手を天に向けたセシリアがスキル名を唱えると、その背後、頭の上辺りに、光のついていないスポットライトが五つ現れた。
それが点灯するとその光の下に女性の幻影が浮かぶ。
順番に一つずつ点灯していき、スポットライト分の五人の幻影が浮かび終えると、それらはコーラスを歌うような動作をするがそれは声にはならない。
声にはならないが、それは光となり、セシリアの全身を包む。
光に包まれたセシリアはまるで女神のようだった。
「す、すごいですね」
急に人口密度? の増した楽屋と、あまりにも神々しいセシリアの姿に、ジョージ・Pは言葉を失った。
神々しい姿もアレだが、何よりもすごいのはやはり圧迫感であろう。幻影とはいえ五人である。狭い楽屋なのでそこに急に五人も増えたのならそれはもうぎゅうぎゅうである。
もうぎゅうぎゅう。
危うくセシリアとジョージ・Pがくっついてハグしそうなくらいにぎゅうぎゅうである。
その距離感にセシリアは顔を真っ赤に染めた。
「あああ、やっぱり狭いですね。ちょっと切ります!」
慌ててセシリアがスキルを解除すると一瞬で幻影は消え去り、楽屋には顔を赤く染めた男女が取り残された。
「……すみません。俺が見たいって言ったのに」
「いえいえ。実際見てもらいたかったのは私もなので」
なんとか平常心を取り戻すようにできるだけビジネス感を出していく二人。
「スキル名からすると後ろの方達はきっとアイドルとして大成されなかった方達の思念でしょうか?」
「うーん。あの人たちが誰かはわかりませんが、すっごく暖かくしてくれますね」
「コーンカフェでの経験で得たスキルでしょうか?」
「いえーー」
セシリアは女神との邂逅をうまく誤魔化しながら、礼拝に行った帰りにシステム音声が響いてスキルを得た経緯を説明した。
「なるほど。礼拝のボーナス、ですか。それも初めて聞きます。いやあ、セシリアさんは異例ずくめですね」
「すみません。私おかしいですよね……」
「ああ。俺は否定してるわけじゃないですよ。一年でクルーズ・クルーズの舞台に立とうというのですから普通では絶対に無理です。むしろ異例で全てを埋めていかなきゃ無理です。だからこれは誉めているんですよ」
「そ、そういうものですか?」
「そういうものです」
セシリアはジョージ・Pの言葉にほっと胸を撫で下ろす。
しかしそれも一瞬で。
次の疑問を思い出した。
「ジョージ・P! このファンサの横の人数もおかしいんです!」
「おかしいですか? 順調に増えてません?」
「それです! 増えすぎなんですよ! 前にこの人数は私のファンになった人数だって見解に落ち着いたじゃないですか? でも私こんな人数と握手してないんですよ……」
「あーそれですか? すみません、俺の中で勝手に納得してたんで話してなかったですね」
「知ってるんですか? ジョージ・P!」
「知ってるというか、推測ですよ」
「教えてください!」
セシリアに請われてジョージ・Pは見解を語る。
布教というスキル名。これがキーである。
布教とは教えを布く行為。
布教をすればファンが増えるのは当然である。
ここで問題になるのは本人が布教をした人数よりもファンが増えている事である。
布教とはアイドルのみがする事だろうか?
否である。
布教とはファンがファンを増やす行為である。
つまりセシリアのファンが増えれば増えるほど、ファンがファンを増やしていく構図が出来上がっている。
布教とはファンが増やしたファンを数字として加算できるスキルである。
「こういう仕組みになっていると俺は思っています。だからセシリアさんのファンはセシリアさんの努力を超えて、これからも延々と増え続けますよ」
「それはちょっとーーずるいのでは?」
宗教染みていると言いかけながらも、自分の生業が宗教染みているとは認められない宗教嫌いのセシリアは、ついつい子供のような表現で己のスキルを評した。
「確かに。セシリアさんはずるいと感じるかもしれません。でもよく考えてください。ファンがファンになるのは自由です。そしてそれをやめるのも自由です。入口はどうあれファンで居続けるのはセシリアさんのパフォーマンスを見ての事なんですよ。全てはセシリアさんの実力です」
「うーん」
「すぐに納得がいかないのはセシリアさんの性格上仕方ないとは思いますけどこれは事実ですよ。納得いかないならもっとパフォーマンスを磨いてファンをファンさせてあげればいいんですよ」
「そ、そうですね」
ジョージ・Pの言葉を飲み込んで、セシリアが無理やり自分を納得させようとしている所。
楽屋の外からスタッフさんの慌てる声が響く。
『チョ、ちょっと! お待ちください! こちらで一旦確認しますから!』
どうやら誰かを押しとどめているような声。
セシリアとジョージ・Pが騒動に対して顔を見合わせているとすぐに扉がノックされ、中の返事を待つ事なく聞き慣れたスタッフさんの声がトラブルの来訪を告げた。
「サリー・プライドさまが楽屋挨拶にいらっしゃってます!」
お読みいただきありがとうございます。




