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めをあけるとそこはしんかいでした

 荘厳。


 神殿に着いたセシリアは圧倒されていた。


 そこは。

 ただただ大きく。ただただ美しく。ただただ神聖で。ただただ神の座であった。

 天井は天井知らずに天まで手を伸ばして果てはなく、窓はステンドグラスになっていて差し込む光は美しく、礼拝用の長椅子は数えきれずどこまでも人を受け入れている。


「すっごいですね」


 入口入ってすぐにセシリアは足を止めた。

 つま先立ちになり、天の果てを掴もうと背筋を伸ばすがとても届くものではない。

 後ろから入場者は絶えず、人の流れを遮る形になっているセシリアの背中を軽く押して進ように促しながらサクラがセシリアの意見に同意する。


「ねー。ここは何度来ても感動するよ」

「セシリアはここにくるのは初めてかい?」

「はい」


 サクラの誘導に大人しく従うセシリアに逆サイドからママが問いかける。まだ呆気にとられキョロキョロと辺りを見回しながらセシリアは素直にそれに答える。


「へー珍しい。この街に住んでて女神の神殿に来ない人いたんだね」

「神とかそういった類のが苦手だったんですよね」

「……まあそういう人間もいるね」


 何かを察したようにママはこの話題をここで止めるようにした。

 ママは実際、神を嫌う人間を何人か知っている。大概はセシリアと同様に痛い目にあった人間が多かった。


「貧乏だった頃はわたしも嫌いだったな」

「あたしも礼拝に来ては文句ばかり言ってたね」

「ふふふ。礼拝に来て文句言ってもいいんですね。私もくればよかった」


 いい事を聞いた。今日はたっぷり文句を言ってやろうとセシリアは考えた。


「さ、空いてる席に適当に座ろうじゃないか」

「あ、ママ。ここ三人並びで空いてるよ」


 混雑する神殿の中で空いた席を見つけて三人は腰を下ろした。


「何かお作法とかあります?」

「特に細かいことはないね。手は合わせてもいいし、組んでもいいし。目は閉じてもいいし、開いててもいいし。決まりはないから自分が好きなように女神へのお礼や愚痴や恨みや辛みを述べてやらいいんだよ」


 四分の一しか良い事がないのは今までの人生の積み重ねだろうか?


「そーそー。わたしなんて背もたれに寄りかかりながら目を閉じて半分寝てるしね」

「いつも思うけどあんたのそれは流石に態度悪く見えるよ」


 本人の言うとおり、背もたれに体を預けて座面に腕をだらんと投げ出して目を閉じている姿は完全にリラックスした姿で神に祈っている姿にはとても見えるものではなかった。


「別にいいじゃないのーママは変なとこで細かいんだからー」


 目を閉じたままにサクラは口だけ尖らせて文句をたれる。


「本当に自由なんですね。じゃあ私はオーソドックスに五体投地でいきましょうか?」

「は? やめとくれよ! こんなとこで寝転ぶ気かい? どこの常識でオーソドックスなんだよ!」

「ふふふ。冗談ですよ。流石に神殿のベンチで寝そべってたら礼拝ではなく野宿になってしまいますから」

「ほー。セシリアの冗談なんてめずらし」

「確かにいっつもニコニコしてるけどふざけたのははじめて見るかもね」


 ママとサクラが口を開けて驚き、冗談を言ったセシリアの顔を記念に瞼に焼き付けようとするかのようにマジマジと見つめる。最初は照れ笑いのような愛想笑いのような表情を浮かべていたセシリアも流石に恥ずかしくなったのか顔を両手で覆い隠してしまった。


 覆ったその両手の隙間から切ない声が漏れる。


「私でも冗談くらい言いますよぉ。流石にはずかしいのでマジマジと感心するのはやめてほしいです……」

「そりゃそうだね」

「確かに! でも冗談を言って照れるセシリアも可愛かったよ」

「ぐう」

「さ、ふざけるのはいい加減にして、女神様にしっかりお祈りするよ」

「はーい」

「はい」


 セシリアはママへの返事と同時に体をリラックスさせて目を閉じた。


 すると。


 無音。


 途端に無音が鼓膜に押しつけられた。


 それにびっくりして開いた網膜に飛び込んできたのは。


 白。


 そこはまごう事なく別天地であった。


 何もない。


 どこまでも高く伸びた天も。


 美しいステンドグラスも。


 信者を包み込む長椅子も。


 ママもサクラも何もかも消えていた。


 あるのは白。

 どこまでも続く白。


 無音。

 耳が痛くなるほどの無音。


 恐る恐る足元を確かめるように一歩踏み出してみる。


 地面の感触はある。

 感触はあるが。

 自分の足音すらしない。それどころか衣擦れの音もない。


「死んだ?」


 セシリアはひとりごちた。

 そう言いたくなるほどの異質に思わず自分の手足を確認する。


「足はあるから死んでないわよね? 多分?」


 本当に死人に足がないのかなんて誰も知らないしセシリアも知らない。


「神のみぞしるよね」

「呼んだ?」


 セシリアのひとり言に反応する声。

 この声で大体察しが着いたセシリアは小さくため息をついた。


「呼んでないわ」

「呼んだでしょう? いまワタシの事呼んだでしょう?」


 無音の中、唯一の声はとてもワクワクとして楽しげな響きでセシリアの耳を刺激する。


「呼んでないって言ってるじゃない。それより早くみんなの所へ帰してほしいんだけど? できるでしょ女神?」

「ほら呼んだじゃない」


 白一面だった世界。その中セシリアの真正面に白いモコモコが現れ、それは段々と人間の姿を形づくり、すぐにあの日鏡の中で見た姿になっていた。

 それは完全に出来きると、両手をにぎにぎとしたり、片足を上げてフルフルと動かしてみたりと、動作をひとしきり確認した後、正面のセシリアをニンマリと見つめて口を開いた。


「女神降臨!」


 真っ白な世界。

 そこにはセシリアが二人立っていた。

お読みいただきありがとうございます。

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