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おでんをたべるあいどる

 重大な事態に言葉を失っているセシリアの代わりにママが口を開いた。


「なんだいそりゃあ。あたしも元アイドルだけどね。板の上でキレるなんてやらかしたこたあないよ」


 え? ママは普通にキレてそう。という言葉がもれかけた三銃士の視線と口は無言のママの圧力で一瞬で萎んで存在を抹消された。ござる氏はそれを誤魔化すように話を続ける。


「と言うわけでミディー嬢の容体はわかりませぬが、それ関係なくあんな事件を起こしてしまってはトワイライトの活動は難しいでござる……」

「ミディーさん大丈夫でしょうか? ルージュさんもアイドルに命を賭けている方なのにどうしてそんなこと?」


 セシリアからみえていたルージュは心底アイドルであった。舞台裏では癇癪を起こして暴言暴力暴風雨の権化であったが、板の上では美と夢と愛の権化であった。

 意外である。そういった顔のセシリアだが。その感想はセシリアのみだったらしく、三銃士は意外でも何でもなく順当と行った表情であった。


「いやあ、ルージュ嬢の癇癪はファンの間では有名でござったよ」

「そうですなあ。ブランドショップで男にキレ散らかした事件はゴシップ雀どものいい餌になってましたしね」

「……」


 腕組みした三銃士は同様の表情でうんうんと頷きあっている。そんな様子を見たママが冷ややかな目線と声で言う。


「なんだいあんたらそんな下世話な話で盛り上がってるのかい? 悪趣味だねえ」

「な! さ、流石のママでもそれは失礼ですよ! 我らはアイドルをアイドルとして楽しむ信者なのです! アイドルに中の人などいないのです!」


 瞬間に沸いたこぽ氏の剣幕にさすがのママも軽くのけぞって謝罪と訂正を口にする。


「お、おう。それはすまんかったね。言葉の意味はよくわからんけど、あんたらはゴシップでピィピィ囀る輩じゃないって事でいいんだね?」


 それを聞いても興奮おさまらぬ三銃士は皆同様にふんふんと荒い鼻息を噴き出し憤慨している。


「そうでござる。我々をゴシップ雀と一緒にしないで欲しいでござる。我らはアイドルを守る存在。あれらとは別次元で生きているでござる。それにしても、さすがこぽ氏。譲れない所はママであっても毅然と意見する態度! やっぱり、我らのリーダーでござる!」

「……!」

「そうだったんですね。私、自分の事で精一杯でチームメンバーの事、何も知らなかった……」


 ルージュの癇癪は全て自分の至らなさから来るものだと。全ては自分の責任で起こっている事だと。

 ずっとずっと自己を否定し続けた日々を反芻していた。


 そんなセシリアの様子に責任を感じたのかござる氏が軽い口調で話題を変えた。


「ちなみに、セシリア氏のおでん屋台通いも有名でござるよ」

「がっ!」


 足元に落ちていた視線が跳ね上がり、ゆっくりとござる氏の目を見て真偽を確かめる。


 ござる氏は無言で肯定を返す。


「ゴシップ雀どもが張り付いてスキャンダル狙っている中、いっつもおでんを美味しそうに食べて、酒を一献あおって帰るだけでなんの面白味もないって有名でしたなあ」

「……ププ」


 横からこぽ氏が軽口を叩き、思い出したようにてん氏が横を向き小さく吹き出す。

 言われたセシリアは恥ずかしさで真っ赤に顔を染めながら、行き場のない感情を持て余し、小さな両拳で何もない中空をポカポカと殴りながら、怒りとしてそれを表現している。


「みなさん! それは意地悪です! それも立派なゴシップですよお!」

「謝罪! 謝罪! 失礼しましたセシリア氏!」

「全くこぽ氏は失礼でござるよぉ」

「……ププ」

「ござる氏、言い出しっぺがずるいですよ!」


 暗くなった雰囲気は三銃士の軽口で一転明るく変わっていた。

 それはセシリアもわかっている。自分のゴシップがあるなんて初耳だが、おでんとお酒を嗜んでいるのは事実であるから仕方ない。むしろあんなモノのために張り付いてもらえていたなんて記者さんは風邪ひいてないかしらといらぬ心配まで思考が飛んでいた。


 とはいえ。

 そこはそれ。

 セシリアは怒ったふりで、腰に両手を当て、少し前屈みになりながら、三銃士を睨みつけて言う。


「みなさん同罪ですよ! 笑っていただけのてんさんもです! 人のゴシップで楽しんだ罰としてコーンカフェでいっぱい飲食してください!」


 怒り顔からころっと変わった人懐こい笑顔。

 三銃士は一瞬ポカンとした顔を浮かべた後、すぐに納得した表情になり、ニヤリと笑った。


「わかったのですよ! セシリア氏は商売がうまい! 我はクリームソーダのおかわりをお願いしますこぽお!」

「委細承知したでござる! 拙はピザを一枚お願いするでござる!」

「……オムライス」

「ふふふ。では全てを許しましょう。厨房へ注文を伝えてきますから、少々お待ちくださいね!」


 美しい笑顔。

 くるりと回ったターンにあわせてひらりと舞う黒髪。

 スラリと伸びた長い脚で厨房へ消えていく後ろ姿。


 三銃士はステージをみているかのようにそれに見惚れていた。


 その横でママは小さくぽつりと呟いた。


「あたしはまだあの娘を採用したつもりはないんだけどねえ……」

お読みいただきありがとうございます。

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