とわいらいと
セシリアの言葉に一転曇った三人組の表情。それを不思議にセシリアが見つめている。
三銃士はどう言ったものかと迷うようにお互いの視線を行ったり来たりさせ、無言の会議をした結果。こぽ氏とてん氏がござる氏の肩を叩いた。どうやら結論が出たらしい。
ござる氏は恨みがましい眼差しで二人を睨んでから口を開いた。
「セシリア氏、それはちょっと難しいかもしれないでござる」
言いづらそうに、組み合わせる手をモミモミとしながら視線をそこに落とし、セシリアを見る事はない。
「え? なんでですか?」
純粋な疑問顔で軽くござる氏をのぞきこむセシリア。
その澄んだ美しさに耐えかね、ござる氏は大袈裟にのけぞり、こぽ氏の肩を掴んで引っ張って、無言でバトンタッチの意思を伝える。こぽ氏は一瞬顔を歪めたが、仕方ないといった表情で話を継いだ。
「我らは昨日もトワイライトのライブに行ったのです」
「え! 本当ですか? いつもありがとうございます!」
ぺこりと頭を下げるセシリア。
下げた頭のつむじから放射状に広がる美しい天使の輪を見つめる三銃士の表情は晴れない。
「いえ」「ござ」「…………」
三人揃ってどうにも歯切れが悪い。
頭を上げたセシリアは三銃士のおかしな態度をさすがに不思議に思う。
「みなさんどうしたんですか? 私の邪魔がなくなってルージュさんは伸び伸びとやれていたでしょう? 私はいつも彼女の邪魔ばかりしてしまっていたから……一度観客席から見てみたかったなぁ。ん? あ、私も行こうと思えば行けるのか! ねえみなさん、今度私も連れて行ってくれませんか?」
「いやあ」「ござあ」「…………」
アイドルとライブ鑑賞。
普段であればドルオタ三銃士が喜びのあまり滂沱の涙を流しそうなものだが、どうにも及び腰である。
そんな三銃士にイラついたのかママが大声で叱りつけた。
「どうしたんだい三馬鹿ぁ! 急に見た目通りににおどおどし始めてぇ!」
ママに叱咤の声に三銃士の体はびくんと跳ねた。
「いや、確かに我々らしくはないのでござるが。それが、でござるねえ。あー、こぽ氏? リーダーとして言ってくださいでござるよ」
「ござる氏! 急に我をリーダー扱いしだすのやめてくださいこぽお!」
ござる氏とこぽ氏はお互いに押し付け合うように揉み合いはじめた。その姿を見るママの目はゴミを見る目よりも冷たい。そんな二人の横に無言で座っていたてん氏がボソリと口を開く。
「……モウイカナイ」
「てん氏! オブラート!」
ライブにもう行かない。という意味の言葉を放ったてん氏を振り返り、こぽ氏がそれを諌めるようにいった。
どうにもオブラートを万能薬だと思っている節がある。
「何か、あったんですね?」
先ほどまでライブに行った事を誇らしげに語っていた三銃士の不穏な言葉からトワイライトに何事かが起きたと察したセシリアは心配げな表情で三人に問いかける。
「いやあ、ルージュ嬢がねえ……。ね? ござる氏」
「またでござるか! ああ! こぽ氏は頼りないでござる! もう拙が言うでござるよ!」
「さすがござる氏!」
「……」
ござる氏以外の二人があからさまにヨイショしながらパチパチと柏手を打っている。
「お願いします!」
セシリアがペコリと下げた頭を契機に、醜いオタクの押し付け合いは終わり、ござる氏が代表して語る事になった。
セシリアは深刻な顔で、ママは呆れた顔で、残りの三銃士は痛ましい顔で、ござる氏を見つめる。
ござる氏はンンッと軽く喉を鳴らしてから話しはじめた。
「……実は、昨日のライブ中にルージュ嬢が急にキレ出したんでござるよ!」
「え? ライブ中に? 誰にですか?」
ござる氏の言葉に思わず目をみはるセシリアとママ。
アイドルがライブ中にキレるなんて前代未聞である。そういうのを観たい客はアイドルバトルの方を観劇しに行くのだ。ライブはあくまで歌唱、ダンス、パフォーマンスを楽しむ場である。
三銃士はそのリアクションにうんうんと共感するように首肯く。
「キレた相手はメンバーでござる。どうにもメンバーの失態が気に入らなかったようで。とはいえ、ミディー嬢とヒラリー嬢のミスなんていつもの事でござろう? むしろそこの中でルージュ嬢が頑張っているテイなのを楽しむライブでござるのに、昨日のライブではもうミス一つ一つに都度都度キレて、終いにはステージからミディー嬢を蹴り落としたのでござるよ。おかげでライブは中止、会場に救急車がやってきてもう大惨事でござった」
「酷かったですなあ」
「……アレムリ」
「アイドルならばステージ上では夢を見させてほしいでござるよ」
三銃士は昨日の事を思い出すように口々に愚痴を紡ぐ。客として率直な意見であろう。夢を売るアイドルが現実を突きつけて来たのだ。興醒めにもなろう。
「そんなことが……」
想像していたよりも重大な事件だった事にセシリアは言葉を失った。
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