さんじゅうし
コーンカフェのママからセシリアとコミュニケーションをとっていいという許しを得た三人組は子供のような照れ笑いを浮かべながらモジモジとしていた。誰から行っていいのか迷っているようだ。
そんな三人を見てセシリアはニコリと笑い、自分から口火を切った。
「皆さん、私の事を知ってくれてるんですか?」
喋る動きにともなって黒髪が揺れ、窓からの陽光を反射して煌めく。光から香りがしそうな美しさ。
その光に目を細めながらやせぎすメガネが答える。
「も、もちろんでござるよ!」
「あ! ござる氏! 誓いはどこに行ったのですか?」
嬉しそうに答えるヤセに対して最初に話しかけてきた小太りが不服そうに頬をふくらませて抗議している。
その横から小男メガネがすすっと顔を出してくる。
「……セシリア氏、ライブ行きました。よかった」
「てん氏まで三点リーダー以外で! 割としっかり喋って! ずるいですよ! こぽお!」
自分が最初に話しかけた時は誓いがどうとか言って止めてきた二人が真っ先にセシリアとコミュニケーションをとろうとしている事に小太りは憤慨して、口から異音が漏れている。
それを見て少し反省したのか、やせぎすが小太りに向き直り、深々と頭を下げた。
「すまないでござるよ、こぽ氏。ですが! ですが仕方ないでござろう! トワイライトのセシリア氏でござるよ! ルージュ嬢の陰に隠れた実力者! トワイライトの中のダークネス! セシリア・ローズ氏ですよ!」
一旦謝罪したやせぎすであるが、下げた頭をガバリと持ち上げて、すぐに己が衝動の正当性をよくわからない表現で主張する。それに対して小太りは怒る事はなく、むしろ嬉しそうに破顔して答えた。
「わかるぅ! ござる氏! わかるぅ! 悪役とかわけわかんないけど、ダンスと歌唱はグループの中で唯一完璧! そこがあのグループの下支えになってるんですよ。まさに夕闇の中の闇の部分がセシリア氏ですよねえ!」
そうでござるよう、わかってるうこぽ氏ぃ。と歓喜するやせぎすと小太りはキャッキャとはしゃいでいる。
セシリアも表現はよくわからないが誉められている事は嬉しく感じていた。トワイライトを観にくるお客さんはルージュ目当てが98割なので980%でつまりは100%である。
そんな中自分を見てくれていたお客さんがいてくれた事に胸が震えていた。
「あんたらアイドルの事になるとよく喋るねえ。この娘はそんなに有名だったのかい?」
熱く語る三人組に、ママから投げかけられた言葉。
一瞬で三人組は真顔に戻る。
刹那。
三人の視線が何度も交錯し、独自のコミュニケーションをとった後、同時に頷き、同時に口を開く。
「いえ、全く」「全くでござる」「……」
異口異音同義語。
それはセシリアの感動していた胸にグサリと刺さる。
三人組のリアクションが感染ったように胸を押さえて軽くのけぞるセシリア。
「……ですよねぇ」
と同意の言葉を言いながら、のけぞった姿勢から戻り、とったリアクションに反応がなかった事に照れた頬は赤く染まっていた。
「なんだい、あんたらが熱く語るから有名なのかと思ったじゃないか」
いかにも拍子抜け、感心して損した顔のママ。
その顔に三人組は苦笑いを浮かべながら口々にトワイライトへの感想を述べる。
「うーむ。トワイライト自体がキワモノの中のルージュ嬢を愛でるグループでござるから、どうしても王道のアイドルと比べるとやはりマニア向けで知名度、人気でいうと。……難しいでござるなあ」
「我らは好きですがねえ。マスに向けてとなると……」
「……ムリ」
グサリ。
言葉の刃がセシリアの胸を突き刺す。
「てん氏! オブラートを忘れてるでござる!」
ヤセ眼鏡がフォローにならぬフォローを入れる。
たとえオブラートがあった所で言葉の刃はそれを容易く突き破るだろう。何せ胃液で簡単に溶けるような軟弱者だ。
「それよりも聞き捨てならない話を!」
「そうでござる!」
「……クビ」
グニャリ。
刺さった言葉の刃が捻られてセシリアの胸を抉る。
自分で言うのと他人が言うのでは言葉の刺さり具合が全く違う。自分では明るく言えても他人に言われると胸が痛くなるものである。
「てん氏! オブラート! こぽお!」
小太り眼鏡がフォローにならぬフォローを入れる。
こいつらはオブラートが賢者の石にでも見えてるのだろうか? 刺さったナイフを抉る言葉にオブラートはなんの意味も成さないだろう。絆創膏代わりに貼ってみるか?
「セシリア氏はトワイライトをおやめになったでござるか?」
趣味の対象への好奇心は他人の心情への配慮を超越するのがオタクである。諸説ある。個人による。用法用量による。
ただ、この三人組はそういった類のオタクである。
セシリアの心情は気にせず、話題は核心に迫る。
問うている本人としては本人が言っているのだから触れても大丈夫だろうという判断もある。
「ええ、一昨日クビになりました」
セシリアは律儀にもやめたという能動的な表現から、より正確なクビという受動的な表現で答えた。
若干曇ったセシリアの表情を見て、一昨日のライブを思い出したのか、三人組は、あーあの時ー。みたいな表情でお互いの顔を見合う。
「一昨日といえば、確かにルージュ嬢が珍しく本性丸出しでセシリア氏を睨みつけていた場面があった故におかしいとは思っていたでござるよ……」
「え? ライブ見てくれたんですか!? ありがとうございます!」
もっと食いつく話もあろうが、セシリアはライブを見てもらえていた事への感謝が先に立ってしまう。
ぺこりと下げた頭から薫る馥郁たるアイドルの香りに急に三人組はあたふたし始める。
「とととと、当然でござろう! 我らはこの界隈のライブはほぼ全て網羅しているでござる!」
「すごいです! 嬉しい!」
曇った表情が一転、歓喜の表情に変わった。ど底辺アイドルとは言え、セシリア単体では超絶美少女である。そんな相手の顔を綻ばせるなどという体験は三人組の人生の中であり得ない事であった。
もうどうしたらいいかわからない。
あたふたあたふたお互いの肩を叩いたり、眼鏡を拭いたり、泣き笑いのような顔でどうするどうすると無言の作戦会議の果てに辿り着いた結論。
突拍子もない結論。
「我ら! アイドルを守る! 三銃士!」
「アトス!」
「ポルトス!」
「……アラミス」
「「「ドルオタ三銃士! どごーん! シュバ! ピシャシャシャーン!」」」
文脈も脈絡もなく。関連なく外連しかない。
自分達の仲間内で楽しんでいるポーズをとるという謎の行動だった。
もちろんその結果訪れるのは。
「店の中でポーズ取るなって! 何回! 言ったら! わかる! ん! だいっ!」
ママの怒号と平手打ちである。
言葉の切れ目ごとにそれぞれの頭が叩れた。行って戻って都合二回叩かれた計算である。
ママはおしぼりを三本ほど使って手を拭き、叩かれた本人らはやり切った満足感から、叩かれた頭をなでなで、とても嬉しそうにニコニコとしている。
セシリアもそれを見てとても嬉しい気持ちになっていた。
クビになったとは言え、人生をかけていたグループを見てもらえていた事はとても嬉しい事だった。
「かっこいい! みなさん素敵なポーズをありがとうございます! 私はもうあのグループにはいませんけど、これからもトワイライトをよろしくお願いします。ルージュさん以外のメンバーも割と良いんですよ」
その言葉に三人組の嬉しそうな表情は微妙な表情へと変わった。
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