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さんばか

 ママとセシリアは無言で睨み合っている。


 お互い既に言葉は尽くしてどう解決していいか全くわからなくなっている。


 ママはジョージ・Pへの義理から依頼を断る事はできず、本人に自ら出ていって欲しい。

 セシリアはジョージ・Pからのタスクをこなさずに事務所に戻る事はできず、なんとしてもここで働きたい。


 平行線。


 こうなってしまってはどうにもならない。

 お互いに落とし所が見つけられず、二人はただ睨み合うしかできなかった。


 そんな状態を打ち破ったのは意外な人物であった。


「もしかしてですが、アナタはトワイライトのセシリア氏では、ご、ございませんか? こぽお。おっと失礼! 緊張で!」


 睨み合う二人に割って入ったのは、怪しい三人組客の一人、小太りのメガネ男。それが空気を読まずにセシリアに話しかけてきたのである。セシリアは一瞬驚いたが、すぐに返答しようと口を開きかけたが、今度は別の男がそれをさえぎるように横からあらわれ、小太りメガネの手を引っ張り、声を荒げた。


「こぽ氏こぽ氏、不躾が過ぎますぞ! 我らの誓いを忘れたでござるか!? てん氏も言ってやってくだされ!」


 こちらは長身痩躯といえば聞こえがいいが、正直に言えばヒョロッと伸びたやせぎすのメガネ男だ。その男が振り向きながら、同席の小男に声をかける。


「…………ダメ」


 小男はメガネをクイっと上げながら、席から立ち上がって小太りメガネのそばまで近づき、小さな声で一言発し、そのまま黙って小太りを睨んでいる。


「聞きましたか! こぽ氏! てん氏が三点リーダー以外の言葉を発するくらいにエヌジー行為でござる!」

「わかっています! わかっていますが! しかししかし! ござる氏も気になっているのでしょう?」


 オーバーな身振り手振りでお互いの感情を伝える様がなんだか楽しいなとセシリアはよくわからない状況に巻き込まれながらもぼんやりと思っていた。

 本人らは必死の形相であるが。


「それはそうでござるが、我らのイエスアイドルノータッチを忘れた訳ではなかろう? アイドルが神聖な存在でいれるように街で見かけても決して近寄る事なく、それが男連れだったとしても見なかった事に無かった事にして、ただただ崇め奉ると言う崇高な理念を! 言い出しっぺのこぽ氏が! もはや忘れたとは!」


 長台詞を言い切った後、小太りを突き刺すように人差し指を突き出したやせぎすメガネ。それに刺された小太りは驚嘆の表情を浮かべ、自分のふくよかな胸を両手で押さえてうめいて言う。


「ぐう、何たる言葉。心の臓器に! 概念上の心を司る臓器に! 突き刺さりましたよ! ござる氏! 我が間違っていましたこぽお!」

「こぽ氏! わかってくれて嬉しいでござるよお! 我ら一生の同志でござるう!」


 感動の抱擁である。

 デブとヤセがお互いに抱き合った横からチビが二人を包むようになっている。

 本人らとしては感動であろうが、他人から見れば地獄絵図である。

 証拠としてセシリア以外の女性、ママとサクラであるが、汚物を見る目でその様を見ている。

 セシリアのみニコニコと優しい微笑みである。


「………………………」

「そう! そうですね! てん氏! 我らの誓い通りに席に戻って事の成り行きを見守りましょうぞ」


 小男の三点リーダーに何か意味があったらしくやせぎすメガネが三人で席に戻るように言う。

 それを受けて小太りメガネがそそくさと背を向けた後、ちらっと後ろを振り返り、ママに向けて一言。


「あ、我らは席に戻ります故、どうぞ続けてくだされ」


 プチン。

 キレた音がした。


「三馬鹿ぁ! あんたらは店の人間には気持ち悪い行為しないからほっておいたけど手を出すなら出禁にするよお!」


 何かがキレた音のソニックウェーブが如くママの怒号が一瞬遅れて響く。


「こぽお!」「どふう!」「……」


 怒号だけではなく平手でのしばきも入っていた。頭を叩かれているので乾いた音がしそうだが、髪の脂で若干湿った音がする。

 叩いたママはサクラから受け取ったおしぼりで手を拭いている。

 それを見てセシリアは楽しそうに笑って言った。


「楽しいみなさんがいるんですね? 常連さんなんですか?」


 この言葉には嫌味や攻撃の意味はない。


 字義そのまま。


 素直に楽しかったと感じている。


 ここまでの経緯で素直に楽しいみなさんと評せるセシリアもやはり変わり者であろう。

 実際セシリアは変な客には慣れている。セシリアの数少ないファンは皆一様にフリーキーであった。三馬鹿とよばれているこの三人の比ではないほどに。悪役アイドルなんてキテレツなアイドルのファンになる人間がまともな訳がないのである。


「あんたこれらを楽しいみなさんに見えるってお世辞でもあり得ないよ」

「そうですか?」


 小首をかしげる姿がキリッとした見た目とのギャップでとても可愛らしい。


「媚び売ってるようにも見えないし本心なんだね?」

「そうですね。ママは楽しくなかったですか?」


 楽しいわけないだろう、手が脂でまだべっとりしてるよ。と顔を顰めながら肩をすくめる。


「ま、いいや。あんたが良いって言うならいいさ。あんたたち! この娘が話てもいいって言うから許すけど! ちゃんと節度は守りなあ!」

「こぽ」「どっふ」「……」


 ママの啖呵に三馬鹿は小さくなりながらお互いの顔をチラチラと見てちょっと嬉しそうに笑っていた。

お読みいただきありがとうございます。

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