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序章

-1



今年の夏はまた一段と暑いようだ。

セミの鳴く声、うねる陽炎、赤い太陽。

どれも感じとるとより汗が吹き出てくるような、そんな夏らしい要素で今年も溢れていた。


8月1日。

夏休みもあと1ヶ月しかないという現実に少し憂鬱な気持ちになりながら、僕は夏休みの宿題をこなしていた。

僕は夏休みの宿題のような長期的な問題は、ちまちまと少しずつこなすタイプなのだ。


「ふう、今日はこのくらいにしておこう。」


数学の問題集を閉じ、机の端によける。

残りのページ数から、このペースなら全ての宿題を片すのにそう時間はかからないだろう。

そんな手応えを感じていた。


「んー...っ!」


机に1時間ほど座っていたため少し肩がこったようだ。

少し伸びをする。

今日は何をしようかと先程まで考えていたが、今日の問題は特に難易度が高かったため、いつもよりも疲れてしまった。

このまままた寝てしまおう、とも思ったが、まだ時間は午前9時を過ぎたところだ。

この時間であればまだ暑さも多少はマシだろう。

それならば、と思い近くの神社の神木まで行くことにした。

あそこは風の通りもよく、人の往来もすくないため、避暑としては絶好の場所であるからだ。

そして僕は、カバンに読みかけの小説をしまい、軽い身支度をして家を出発した。


ご神木は、いつからこの街にあるのかは誰も知らなかった。

ただただそこに、街を見下ろせる山の上にそびえ立ち、何百年と佇むような雰囲気に、いつしか人々はご神木だ、と奉るようになったとかなんとか。

正直歴史にはあまり詳しくないし、人々の信仰心なんてとうに希薄になった現代、せいぜい僕のように涼みにくるような奴とか、そんな人間しか今は訪れてはいない。

神社もそばにあるのだが、神主は常駐しておらず、たまに様子を見に来るくらいで、すっかりさびれてしまっている。


さてそんなご神木だが、僕は子供の頃からここから見える景色が好きだった。

少し田舎だが、朝には爽やかな風が通り抜け、昼には木々が歌うかのように木漏れ日を通し、夕方には沈む夕陽の美しさに目を奪われる。

この場所が好きだったのだ。

子供の頃からよくおじいちゃんに連れてこられて、近くの林で虫取りをよくしていたっけ。

17歳の今日、今ではただ涼みに来るくらいには感動は淡白なものとなってはいるが。


ふふ、とそんなことを考え、多少自虐的に笑ったりもした。

とにかく、改めて小説の続きを読むとしよう。

結果、この日は夕方近くまで本を読んでいた。



-2


8月2日。

僕は病院にいた。

おじいちゃんの容態があまりよくないという連絡が病院から母に届いたそうで、こなしていた宿題も途中で投げ出して、僕は母と病院に来た。


祖父の病室に入ると、祖父はベッドから起き上がってテレビを観ていた。

僕と母が来た様子を観て、祖父は病気なんてなんともないような雰囲気で気さくに「よお、律子(りつこ)さんに一樹(かずき)じゃないか!」と挨拶をしてくれた。

だが、鼻から伸びる呼吸のためのチューブや、腕からの伸びる点滴のチューブが、見てて痛々しかった。

あまり自分の弱い所を見せたくないのだろう。

おじいちゃんはそういう人だ。


「お義父さん、具合が悪いんでしょう?横になってください」

「なんでぇ、せっかく可愛い義娘と孫が来たくれたんだぜ?寝てる方がもったいないだろう?」

そう言って、おじいちゃんはニカッと笑ってみせた。

「でも...」と母が心配そうな表情を浮かべると、

「大したことじゃあないさ!たまたま今朝の検査の数値が悪かったくらいで医者の野郎、大騒ぎしやがって!見ろ!オレァこんなにも元気ちゃんだぜ!?」


...空元気だ。

と僕は感じた。



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