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真・恋姫†無双 〜羅刹戦記〜  作者: エアリアル
第壱章 鬼と戦 黄巾の乱編
4/37

小鬼の『鬼一口』

今回、珍しく文量が1万文字以下です。


いつもと違ってサクッと読めるかと。でも、修正展開は強引です。


 何故だろう。


 劉焔は考える。


 彼の目の前には関羽を始めとして、一刀と劉備が眉根を吊り上げて怒っている。


 そして、自分は正座させられている。


(なんでさ?)


 官軍と義勇軍による賊討伐は、味方に死者は無く、怪我をしたものの軽傷で済んだ者が数人出た程度だと聞いた。劉焔はこれを上々の結果だと思っている。この結果が自分が頑張った成果だ、などと思ってはいないが、戦闘が終わった直後から続けて説教されている自分の現状に内心で首を傾げていた。


 賊の討伐戦が終わり、公孫賛軍と義勇軍は城へと帰還した。しかし、城主たる公孫賛は休む暇なく戦後処理に(ひた)走らねばならなかった。


 一刀達も出来る範囲で彼女の助けに回る予定なのだが、それでもやる事は山のようにある。


 しかし、その前にとばかりに劉焔の説教は終わりを見せる事無く続行。彼にとって3千の賊を相手にするよりも最悪の状況である。


 いつもなら、やんわりと関羽の説教を抑えてくれる二人が彼女の側に回られては、三倍とはいかなくとも二倍は苦しい。


 公孫賛に助けを求めようとしても戦後処理をしなければならない為に早々にいなくなっており、張飛や趙雲などニヤニヤと笑ってどこかに去って行った。


 薄情者! と叫びたい衝動に駆られるが、今はお説教中。如何せん、無理な話である。


「独りで3千もの賊に立ち向かうなどの無茶をしおって、死にに行くようなものだぞ!!」


「いや、だから、ある程度敵の数を減らしたら、退くつもりだったんだけど」


「だとしても、出陣の合図と同時に私達を振り切るようにして、独りで突撃して行く必要はないだろう」


「まあ、そうだけど……」


「いいか? 戦場では何があるのか解らないのだぞ。だから――」


 怒り収まらない関羽の説教は続く。さすがに、この長時間となると小鬼も限界が近い。耐え兼ねて視線で関羽の後ろにいる主2人に助けを求めるが、


「今回の事はね、私も怒ってるんだからね」


「右に同じ。大人しく愛紗に怒られろ」


 どこか薄ら寒い笑顔を浮かべて、そう言われた。


「聞いているのか、朔!?」


「聞いてます!」


 うんざりしながらも劉焔は答えるも、関将軍のありがたい説教は夜遅くまで続くとは予想もしていなかった。








「という訳だ。解ったか…………朔?」


 長々と続いた説教が終わると、関羽は劉焔が微動だにしない事に気付いた。彼の顔には生気は感じられず、眼は虚空を見ていた。試しに目の前で手を振ったり、頬を突いてみるが反応がない。


「…………説教で死んだか」


 苦い表情を浮かべ、一刀は劉焔に同情した。彼自身も関羽の説教地獄を体験済みだからか、その辛さが容易に想像できた。


「…………愛紗の説教は半端ないからな」


「何か言いましたか?」


「何でもありません!!」


「本当ですか? まったく」


 一刀は慌てて誤魔化すも、関羽はジトッとした目で見てくる。あはは、と曖昧に笑う他無かった。


「と、とにかく、今日の説教はお終いだ。朔、独りで部屋に戻れるか?」


 一刀は劉焔に優しく聞くと、僅かながらに頷いて答えてくれた。抱き上げるようにして立たせると、彼の背中をゆっくり押して部屋から出て行かせた。


 ふらふらとした足取りで劉焔が部屋から出ていくのを見届けた3人は、誰とはなしに疲れたように息を吐いた。


「……あの討伐戦での朔の戦いぶり、お聞きになりましたか?」


 関羽の問いに、一刀と劉備は首肯した。


「ああ。消えては現れ、現れては消えて敵を討った……正に、鬼のような強さだ」


「朔くん、自分が言った事をやり遂げてくれたんだよね。兵隊の皆を家族のところに帰す、って約束」


 説教時とは打って変わって感心したように言う劉備に対し、関羽は苦い顔をしていた。


「しかし、私は今回の件で少し心配になりました」


「どうして? 朔くんなら、大丈夫だって思うんだけど」


「ええ、今回のような賊程度ならば朔の相手ではありません。しかし、朔の力が如何に凄かろうと兵全体を守り続ける事など、出来る筈がありません。出来たとしても、あの子の体が持つ筈がないのです」


「……匪賊の動きが活発化して、これから戦がどんどん増えていくだろうからな」


 関羽の考えが解った一刀は、目を伏せるようにして考え込む。


 討伐戦を勝利で終え、将達がその余韻を噛みしめる中で、趙雲は最近おかしな雰囲気を感じると言った。それは関羽も感じ取っていたのか、匪賊の動きの活発化しているように思えると同意した。


 匪賊が増加し、その動きが活発化するという事は、無辜の民草の被害が比例して大きくなっていく事。人が死に、家が焼かれ、村ごと一つ潰され消えてゆく。


 その中で野を耕し、作物を育てている人々が犠牲になる事は少なくない。多い、と言っても間違いない筈だ。ならば、必然的に食料は生まれるどころか減るばかりであり、結果、栄養失調による病人餓死者の増加に加えて、多くの飢饉を発生させるだろう。


 そして、死にたくないと抗う人々は食料を求めて匪賊に成り下がり、自身の身代わりにまた多くの犠牲を生み出していく――完全な負の連鎖である。


 趙雲の話によれば、国境近くに五胡の影がちらついており、匪賊の活発化に加えて不穏な予感を感じさせているらしい。


 その場にいる誰もが思った。



――――大きな動乱は、もう目の前に差し迫っているのではないか?



 頭に黄色い頭巾を被った民衆の姿が、一刀の脳裏を(よぎ)る。


 朝廷の腐敗を感じ取り、暴政を身に染みて思い知った民衆が取る行動は、いつしか蜂起に繋がる。相手が如何に朝廷という強大な虎であろうと、追い詰められた鼠は小さくとも己の歯で噛み付くのだ。


 そして、それは毒のように虎の命を蝕む切っ掛けとなるのだろう。


 その毒は何も朝廷だけを蝕む訳ではない。大陸中のあらゆる街や人とて例外ではないのだ、それから守ろうとする官軍と義勇軍など尚の事だ。


 しかし、


「……朔なら、大丈夫さ」


 父である一刀は息子の事を思い、考え、そう言った。


 脳天気な一刀の発言に、関羽は眉を(しか)める。


「随分と朔を買っておいでですね」


「親バカって訳じゃない――とは言いにくいな。ただ、俺は朔を信じてる。もちろん愛紗達の事も」


「それは、とても嬉しいのですが……。朔は戦争というものを解っていません。鈴々でも戦いは数だと理解し、朔のように大軍に突っ込んで行きませんよ」


 重い溜息をつく関羽。前線に立ち兵を統率する者としても、劉焔の仲間としても、今回の件は頭を悩ませる事には違いないのだ。


「私達は、志を共にした大勢の命を預かっているのです。彼らの家族や親しき者達の為にも、私は朔の独断専行を決して許せません。

 ご主人様には申し訳ありませんが……もし、また朔が今回のような行動をとった場合、最悪、見捨てる心積もりでいます」


「……うん。そうしてくれて構わない」


 関羽の厳しい決断に、一刀はゆっくりとだが、確かに頷いた。劉備もまた、辛さそうな表情で目を伏せたものの反対しなかった。


 人が好過(よす)ぎるこの二人なら、見捨てるなど許さないだろう、と関羽は思っていた。しかし、答えは了承。


 予想に反した答えに、関羽は思わず茫然としてしまう。


「……よろしいので?」


「言ったろ? 俺は朔も愛紗達も信じてるって。俺の答え、そんなに意外だったかな?」


「え、ええ。正直に申しまして、反対されるとばかり考思っていましたから」


「だよな、俺もそう思う。でも、“最悪”の場合だろ? なら、大丈夫だよ。

 ただ、変な方向に気を遣う奴だからさ、誤解されやすいのが玉に(きず)かなぁ。素直じゃないっていうか、頑固というか。今回のは不器用さが出たんだろうな」


――まあ、今日のは(わざ)とかもしれないけど。


 そう言い、困ったように笑いながら一刀は、公孫賛の手伝いをしてくると部屋を出て行った。


 残った関羽は扉の向こうに消えた主の姿を見送る事しかできず、


「驚きました……」


 ぽつりと零した。


「まさか、ご主人様が朔を見捨てる事をお許しになられるとは……」


「そう? 私は違うと思うな」


「何故です? 私は朔を見捨てると言い、ご主人様はそれで構わないと仰いました。これで違うという桃香様のお考えが、私には分かりません」


「うん、確かにご主人様は許可したよ。でも、愛紗ちゃんはそんな事しない、しなくていいんだよ」


 劉備のその言葉に関羽は困惑するが、優しげに笑いかけていた。


「愛紗ちゃんは優しいから、態と厳しい事を言ったんだよね」


「それは……そんな事ありません。あれは本心からで」


「そんな事あるよ。私やご主人様じゃ言えない事、愛紗ちゃんはしっかり言ってくれてる。叱ってくれてる。

 私もご主人様も、そんな愛紗ちゃんに本当に感謝してるんだ」


「桃香様……」


「ゴメンね、嫌な役させちゃって」


「……謝らないでください。初めての戦場とはいえ、朔は私の副将でした。傍にいた彼奴がとった予想外の行動――その至らなさは、私の至らなさでもあるのです。私の教えが足りぬから」


 肩を落とす関羽に対して劉備は、


「じゃ、もう大丈夫だよ。朔くんは身勝手に独りで突撃したりしないよ」


 今度はふにゃっとした笑顔で、そう断言した。


「そうでしょうか?」


「だって、愛紗ちゃんは戦争を知らない朔くんに、ちゃんといけない事だって教えたんだよ? 朔くんは教えられた事を無駄にする子じゃないもん。だから、愛紗ちゃんは朔くんを見捨てるような事しなくていいんだよ」


「……そこまで見越していたのですね、ご主人様は」


「そうだ。あと、ご主人様も言ってたけど、朔くんって愛紗ちゃんと一緒で頑固なとこがたまに出て来ると思うから、注意してね」


 ふにゃっとしたまま言ってくる彼女に、その通りだ、と関羽は首肯した。若干、自分に対しての含みがあったのが気にかかるが。


 劉焔本人に言えば否定するだろうが、彼は他人の情を無下に扱う人間ではない。むしろ、その情を大切する側だと関羽は思っている。


 自分から他者を受け入れてほしい、という一刀の願いは、劉焔にとって困難な事だ。だが、劉備との繋がりがあったとはいえ、会って数日の公孫賛に頭を撫でさせた。ほんの少し、本当にほんの少しだが、進歩したのだと思う。


 ふぅ、と息をひとつ吐き、仕方ないとばかりに関羽は肩を竦めた。


「……前言撤回です。私も朔を信じます。もし、教えた上で単身突撃するようなら、青龍刀で殴り付けてでも連れ帰る事にします。そして、またお説教です」


「あはは、お手柔らかにね。じゃあ、私達も行こっか」


「はい」








 お説教からやっと解放された劉焔は、部屋に戻らずに城壁の上で独り佇んでいた。目はどこか遠い所を見続け、全身からは疲労困憊の様相が滲み出ている。今頃、一刀達は公孫賛を手伝っているのだろうが、戦う以上に疲れてしまい、何もやる気が起きなかった。


 起きたとしても、誰かの近くに行ける筈も無い。戦場での自分を見た者達が多くいるのだ、敵以上に恐ろしい存在だと誰もが思っている。


 落ち着ける場所へと帰って来れたのに、自分がいては落ち着ける訳がない。


 だから、劉焔は独りで城壁の上にいたのだが――


「子供が黄昏れるには随分と早過ぎるのではないか、小鬼よ」


 酒瓶を片手に趙雲がやって来た。


「……何か用なのさ? 薄情者の昇り竜」


「なに、用など無い。仕事を片付けたのでな、夜風に当たりながら一献というところだ。そこにお主がいただけの事だ」


「ふーん……」


「ふむ、飲んでみるか?」


 口角を片方だけ釣り上げて誘ってくる趙雲。それが意地の悪い笑みに見えた劉焔は、いらないと首を横に振った。


 残念だ、と趙雲は零すも、言葉とは反対の表情を浮かべている。そのまま杯に酒を()いでは味わうようにゆっくりと飲んでいく。


「小鬼よ、お主は何を思って先の戦いに臨んだ?」


「なんでそんな事を聞くのさ?」


 劉焔が半眼で振り返って逆に聞くが、趙雲は変わらず献献(こんこん)と飲み続けている。


 何を? そんな終わった事、今更だろう。


 そう思ったのを感じ取ったのか、趙雲はニヤリと笑う。


「単独で敵の大群に突撃。そして、獅子奮迅の戦振りで敵を討ち、味方に死者が出ぬように援護までして見せた」


「それが? 僕は自分が言った事を実際にやっただけだよ」


「ああ、そうだな」


 だが、と趙雲は続け、


「狙いは、それだけではあるまい?」


「まさか。僕はそこまで器用じゃないよ」


「鬼として、その脅威を多くの者に知らしめる」


 違うか?


 そう視線で問う趙雲を、劉焔は無表情で見返す。


「劉焔翔刃という小鬼は、人にあるまじき力を持つ。圧倒的なまでの武力は、戦場においては頼もしいものだが、平時に戻れば異常でしかない。それ故、その力は恐怖にしか映らない」


「…………」


「恐怖は、お主から人を遠ざける。そして、お主自身が遠ざかれば、尚の事だ。……それでは、名無しの小鬼の頃と何も変わらないではないか」


 いつもの飄々としたところも、からかうような表情もせず、趙雲は劉焔を見つめ続ける。


 その視線が劉焔は痛かった。


 敵意の篭った視線なら平気だ。しかし、自分を案じる優しい視線は、体を傷付けられるより耐え難いものがあった。


「正直に言おう、劉翔刃の守り方は(いびつ)だ。他者を守りはすれど、自分自身を守ってはいない。だから、お主だけが傷付いていく」


「……それが、どうしたってのさ」


「外傷だけを言っている訳ではない。……本当は分かっているのだろう? そのままでは、野垂れ死ぬぞ」


 取り繕いもせず、至極簡潔に趙雲は断言した。


「生きたい、死にたくない――そう言っているが、事実、先の戦でお主がやった事は自殺行為に他ならん。死に場所でも欲していたのか?」


 そんな訳あるか。そう言い返したいのに、劉焔の口からその言葉は出てくれなかった。


 戦の前にした演説で、劉焔は嘘を言ったつもりはない。


 死にたくないけれど、殺される覚悟もある。一刀達とずっと一緒にいたいから、彼らに害為す者は許さない。


――奪われ、失う辛苦を、“もう”味わいたくない。


 ふと、気付く。


(……もう? もう、ってなんなのさ?)


 そんな言葉が付いては、一度経験しているようではないか。まさかね、と劉焔は心中で否定するが、体にジットリと纏わりつくような気持ち悪さが中々消えてくれない。


「……有り得ないよ。僕は、死に場所なんか欲しくない」


 だから、声に出して否定する。趙雲に言った筈なのに、自分自身に言い聞かせるようだったとしても。


 その答えに、趙雲は数瞬の沈黙の後に、ならば良い、とまた杯を傾けた。


「では、お主より数年長く生きている年長者から助言を一つくれてやろう」


 どこか茶化すように言うが、真剣に言っているのが解った劉焔は黙って続きを待つ。


「如何に強かろうが、お主はまだ子供だ。守ろうとするばかりではなく、守られて良いだのよ」


「……守られる?」


「そうだ。本来、大人とは子供を慈しみ、守るもの。劉焔よ、今のお主には家族と仲間がいるのだろう? 一方的に守るだけが繋がりを持ち続ける術ではない。頼る事も知らねば、ただそれだけの関係性でしかない。手を差し伸べるだけでなく、差し伸べられた手を握り返せるようになってみる事だ」


 あと、もう一つ、と趙雲は続け、


「悪い事をしたと思っているのなら、どうすれば良いか解っているな?」


 問いにも似た確認に、劉焔はコクリと小さく頷く。


 素直に頷くと思っていなかったのか、趙雲は一瞬だけ目を丸くした。初めて会った時からを思い出しても、彼の子供らしいところを見た事がなかったのだ。


 張飛のようにもっと子供らしくあれば、もう少し可愛げがあるのだが。そう思うも、趙雲は口には出さない。


 あのお人好しと断言できる仲間といれば、次第にそうなっていく事だろうと容易に想像が付いたから。


「じゃ、僕は部屋に戻るよ」


「そうだな。子供は、もう寝る時間だ」


 先と違い、いつも通りの飄々とした態度に戻ると劉焔は宛がわれている部屋へと戻っていく。


 その背を見送り、趙雲が杯に酒を注いでいると、劉焔が足を止めて振り返った。


「趙雲、ありがと」


 小鬼の感謝に、趙雲は心から驚いた。何度も戦いを挑んだ過去から、好かれていないとしか思っていなかった。


「僕の事、朔って呼んでいいよ」


「……そうか。ならば、私の事も星と呼べ」


「解った。おやすみ、星」


「ああ、ゆっくり休め」


 劉焔が部屋に戻り、独り残った趙雲は夜空に浮かぶ月を見上げる。


「……人が変わっていく生き物ならば、鬼とて変わっていくものか」


 趙雲は独り言ち、杯を傾ける。


 なんとなく、先よりも酒が美味く感じた。








 次の日、関羽は城下の警邏を行う予定である一刀達へ向かう道すがら、劉焔に何を教えたものかと考えていた。


「ん?」


 すると、後ろから腰の辺りに何かぽすっとぶつかってきた。見れば、腹の辺りには小さな手、振り返れば焔色の髪が。


 はぁ、と関羽は苦笑混じりの溜息を零す。


「朔?」


「ごめんなさい」


 突然の謝罪に、関羽はまた苦笑した。


「それは何に対する謝罪だ?」


「……昨日、独りで大軍に突撃してダメだって怒られた。なのに、謝ってなかったから」


「そうか。偉いな」


「偉くなんかないよ、あいつに言われて気付かされたし。いけない事をしたのなら謝らなきゃダメだ、って師匠にも言われてたのに」


 きゅっ、と抱き着いている腕に力が入った。


 子供ながらに自分の行いを恥じているのか、小さく震えている。そこは幼いとはいえ男の子という事か。


 可愛らしい子供の見栄に、関羽は思わず頬を緩めた。


「朔よ、私はご主人様に言った。次、またお前が単身突撃するようならば……」


「見捨てるんでしょ。そうしてくれて構わないよ」


 だけど、と続け、


「愛紗にそんな辛い事させないけどね。……僕も愛紗に嫌われたくないし」


 ボソッと呟くと、恥ずかしさ増大。またギュッと抱き着く力が強くなった。


「嫌われたくない、か。中々嬉しい事を言ってくれる」


「~~~~っ」


 関羽は劉焔の腕を解くと、屈んで正面から向き合い、


「ひゃう゛」


 照れで赤くなっている彼の両頬をむにっとした。


「ふぁいひゃ?」


「ほぅ。中々の柔らかさだ」


「やふぁー」


「思いの(ほか)、伸びるな」


「ふゃー」


「……朔よ」


「?」


「私もお前を見捨てたくない。お願いだから、見捨てさせないでくれ」


 関羽の手が優しく頬を撫であげる。


 その伝わってくる温もりを離さないように、劉焔は彼女の手に自分の手を添えた。


「本当の事言うとさ、単身突撃しないって約束、出来ないんだ」


 何故、と視線だけで彼女は問う。


「愛紗。僕さ、みんなの役に立ちたい。みんなを守りたいんだ」



 温もりを教えてくれたから。



「どんなに苦しい状況で絶体絶命な危機でもさ、雀の涙程の勝機やみんなが助かる可能性があるなら、僕が命を賭けてそれを掴み取る。もぎ取ってやる」



 もう失いたくないから。



「嫌われたくないけど、それ以上に主上達を失う方がずっと嫌だから」


 劉焔はまっすぐ関羽を見て言った。


「無理も無茶もする必要があるなら、僕は躊躇わないよ」


「……頑固なところか」


 劉備が言っていた、自分と同じと一面が出て来て関羽は納得した。


 譲れないところは、簡単には譲れない。そういう一面があるのは自覚していた。


 ならば、こう言ってやろう。


「必要があれば、無理も無茶もするのだったな」


「うん」


「ならば、話は簡単だ」


「どうしてさ?」


「その“必要”を無くしてやろう」


 自信満々に断言する関羽。その言葉に劉焔はキョトンしている。


「これから先、我らの戦いはより激しくなる事だろう。けれど、現状のままでいる我らではない。お前に助けられるどころか、逆に窮地を救ってみせよう」


 彼は言った。


 “無理”も“無茶”もする。


 だが、“無謀”までするとは言っていない。


 勝算も可能性の無い事はしないのなら、この少年は簡単に命を賭けない筈だ。


「この関雲長の名に誓って、お前一人にやらせはせん」


「……熱いなぁ」


 劉焔はわざとらしく肩を竦めると、


「んじゃ、頼りにしてますよ関雲長殿」


「ああ、目に物見せてやろう劉翔刃よ」


「……」


「……」


「「……ぷっ」」


 どちらが先かは分からないが、二人は笑いあった。


 大笑い、なんて程ではない。ただ、ちょっとしたした心地良さが笑みを浮かばせた。


「ところで、愛紗は何処行くの?」


「ご主人様達の警邏の護衛だ。行くか?」


「んー……人混み嫌いだから、行かない。この後、鈴々と手合せしなくちゃいけないし」


「珍しいな、普段は面倒だと相手しないというのに」


「さっき、星と二人がかりで拝み倒された」


「ふふ、ならば仕様がないか。ほら、しゃんとして頑張って来なさい」


 うんざりだと肩を落とす劉焔に、関羽は笑って彼の背中を優しく叩いた。


 そして、同時に少し安心していた。苦手そうにしていた趙雲の真名を口にしていた事から、どうやら知らぬ間に彼女とも親交を深めていたらしい。


 やはり何だかんだと、仲間の想いに応えようと頑張ってくれている。


「うん、頑張ります。んじゃ、愛紗も頑張ってね」


 手を振りながら走って行く劉焔を見送った関羽は、


「……よし、私も頑張るか!」


 切り替えるように気合いを入れて、主二人の下へと足取り軽く向かって行った。


どうも書いていたら、星が普通にお姉さんしてました。人をイジッて楽しむ姿だけが、彼女の魅力ではないのです! ちゃんと、書けてたかは分からないけどね!!


因みにサブタイの『鬼一口』は、非常に危険なこと、尋常でない苦難の意味の方で書きました。どれが当てはまるのかは、読んでくださった皆様のご想像にお任せします。



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