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真・恋姫†無双 〜羅刹戦記〜  作者: エアリアル
第肆章 鬼の日常
28/37

鬼と新人メイドな2人

今回は、サブタイトルから分かるかと思いますが、月と詠中心のお話です。


あと、もう一人追加してます。

洛陽で暴政を振るった董卓は、袁紹率いる連合軍により窮地に立たされ、賈駆と共に屋敷に火を点けそのまま自害した。


それが世に名を残す事になった悪逆の最期だった。






――――という事になっている。


真実は、朝廷を蝕む策謀と張譲の名を騙った導師の目的に巻き込まれた董卓と賈駆を万民が認めるお人好しが保護しているのだ。


そして、


「な、ん、で! 僕と月がこんな事しなきゃいけないのよ!!」


とある少女の文句が大音量で城中に響いた。


彼女の名は、詠。


もともと『詠』という名は彼女の真名であるが、死罪を避ける為に『賈駆』という名を捨てたのだ。


「え、詠ちゃん。落ち着こう?」


詠を宥める少女。


ほわほわおっとりとした雰囲気を持つ彼女なのだが、彼女こそ悪逆と呼ばれた『董卓』――真名を『(ゆえ)』という――その人なのだ。


前述通り、彼女らは一刀(お人好し)劉備(お人好し)に保護される際、『董卓』と『賈駆』の名を捨て、一刀付きの侍女となった。


そんな怒り出すのと宥める二人が着ているのは紛う方ないMAID服。


「天の世界じゃ、これだって正しい侍女の服装なんだ!!」


と一刀が力説。そして、メイド服の図面を書き上げ、珍しい意匠の服に興味が湧いた服屋のおっちゃんの提供により、完成された一品なのだ。



「どこに能力の無駄遣いしてんだ、と思わずにいられない月と詠である」


「それはその通りなんだけど……さっきから何してんのよ、旭」


片眉を吊り上げ、詠は振り返る。


そこには、周倉が手でメガホンを作ってしゃがんでいた。その後ろにはメイド服と同時作成された執事服を着た劉焔と、同じくメイド服を着た見知らぬ女性が立っていた。


「何してるって、長々とモノローグ語ってたんすけど」


「も、ものろーぐ? 何よそれ」


「説明めんどいから、イヤ。パス」


「がああああ!」


真顔で説明拒否する周倉を、詠は肩を掴んでガクガクと揺さぶる。


それを尻目に見ながら、月は取り敢えず劉焔に話し掛けた。


「朔くん、どうしたの? それにその人は?」


「僕はちょっとした罰掃除だよ。あと、この人は侍女長の徐庶」


「徐庶元直にございます。以後よろしくお願い致します」


「ゆ、月です。よろしくお願い…し……ます」


劉焔に紹介された徐庶は頭を下げて礼をする。それに合わせて月もお辞儀した。


その最中に、徐庶の綺麗な立ち振る舞い、流麗な言葉遣いに董卓は思わず見惚れてしまった。


関羽程ではないが、背が高くすらっとした立ち姿。柔和な顔立ちの中に物事を見抜くような鋭さが顔をちらつかせ、大人の女性の色香を醸し出している。


体形も出るとこはとても出ていて、引っ込ませたいとこは引っ込んでるという、月には羨ましいスタイルをしていた。


「へぅ……」


「? どうしたの、自分の胸ぺたぺた触って」


「うぅ……」


劉焔の気遣いが更に月の薄――――控えめな胸に突き刺さった。


そこに、徐庶は指を一本立て、


「若。女性の悩みというものは、得てして異性に打ち明けられず、理解し難いものが殆どでございます。

 そこを察し、適した言で心を労る。それが男子としての器量の見せ所にございますよ」


劉焔に優しく説き始めた。


劉焔も劉焔でへぇ、と素直に耳を傾けていた。


「ふふっ。なんだか徐庶さんて、朔くんの先生みたいですね」


「そうでございますか? 私程度が若に教鞭を執るなど恐れ多い事にございますよ」


片手を頬に当てて困ったように笑う徐庶。だが、それを聞いた周倉はそんな事ないと言い出した。


「せんちゃんは凄い人っすよ。頭の良さはシュシュやヒナヒナにも負けてないし、武術も中々の強さっす」


「うん。それは僕もそう思う………で、旭は何してんの?」


「ふえ?」


「え、詠ちゃん……」


「はぁ……はぁ……」


間の抜けた返事をする周倉に抱えられている詠の顔は、かなり上気して眼はとろんと蕩けていた。


「本当に何したのさ?」


「あんまりしつこいから、氣を撃ち込んだんすよ」


「こんな風になるなんて、どこに撃ったのさ?」


「ここにっすよ?」


答えを実演で見せようとしたのか、周倉はおもむろに詠のミニスカートの中に手を突っ込む。


途端、劉焔は徐庶に前後をぐるんと反転され、耳を塞がれた。


塞がれたせいで、しっかりとではないが、詠の悲鳴じみた叫びが聞こえた気がした。


振り返れば、案の定というべきか。


「詠、失神してる」


キョトンとした劉焔が指差しながら徐庶に問うように見上げる。問われる側である彼女としては、さすがにこの子供にあるがままを説明する事は躊躇われた。


「よいですか? 若。世の中には年齢制限というものがあるのでございます。

 残念ながら、若の年齢で知るには早過ぎる事例が、今の詠様の身に降り懸かったのでございますよ」


「……月は見てたの?」


「へぅ!? ……う、うん。私も徐庶さんと同じで朔くんが知るには、は、早いと思うな」


「年齢制限?」


「そ、そう! 年齢制限だよ!」


また指を一本立てながら説明する徐庶に、顔を真っ赤にして彼女に同意する月。そんな二人に言われて、解ったのか解ってないのか、劉焔は首を傾げながらも頷いた。


千里せんりと月が言うなら、もう聞かない」


子供の純粋な質問を切り抜けた二人は、そっと胸を撫で下ろした。


同時に、こういった時の子供の質問はたちが悪いと再認識した。


「そうだ………朔くんが今言った名前って」


「名前? ああ、徐庶の真名だよ」


「やっぱりそうなんだ」


「はい。私の真名は千里と言うのでございます。以後、こちらでお呼びくださいませ、“董卓”様」


「っ!?」


捨てた名前で呼ばれ、思わず月の体が強張る。それを見逃さない徐庶はあらあら、と眼を細めた。


「…………どうやら予想的中のようでございますね、董卓様。そうしますと、あちらは賈駆様でございますね」


「ち、違います。私は董卓なんて名前じゃ――!?」


「ふふ。お見掛け通り、腹芸は得意ではないようでございますね」


徐庶の柔和な笑みにやられたか、月の頭の中は混乱も混乱していた。


彼女の言通り、自分は隠し事やら何やらは苦手。軍師であった詠ならば慣れていただろうが、頼りにしようにも失神していて頼るに頼れない。


「申し訳ございません。どうやら要らぬ混乱をさせてしまったようで」


「へ、へぅ?」


謝る徐庶の顔には、少し悪戯しちゃいましたね、と書いてある。


これが更に混乱に拍車をかけた。


「少し落ち着きましょう。はい、深呼吸でございますよ」


「ひっひっふー、ひっひっふー」


「…………。変わった深呼吸をお知りのようですが、どなたにお聞きになったのでございますか?」


「あ、旭ちゃんに」


「そうでございましたか。…………旭様、後でお話がございます」


とても綺麗なのに恐ろしい笑みを向けられ、周倉は冷や汗を流しながら何度もコクコクと頷いた。


関係ないのに徐庶の威圧の笑みに巻き込まれた劉焔は逃れたいと先を促す。


「千里はどうして月が董卓だって解ったの?」


「朔くん!!」


「千里に嘘もごまかしも効かないよ。それに千里は月と詠の正体をバラしたりしない」


「若の信頼を頂けるとは嬉しい限りでございます。

 それでは、私が解った理由でしたね」


徐庶は指を一本立て、


「先ずですが、月様と詠様の雇用がいきなり過ぎるのでございます。まあ、あの方々の性格上、今まで無かったと言えば、大嘘になりますね。

 ですので、雇用の際にはご相談くださいと念に念を押していたのでございますが…………」


困ったような表情を浮かべる徐庶。


同じ事をし、その罰で掃除を言い渡された劉焔としては、ごまかすように苦く笑うしかなかった。


「それで気にかかったのでございます。相談が無くとも経緯の説明くらいありましょう。

 しかし、無かったのでございます。我らが玉、天の御遣い様のお傍に付けるというのに」


「説明、無かったんだ……」


「はい。抜けた面は以前から少々見受けられましたが、ここで発揮してほしくはございませんでした」


今度は“ような”では無く、徐庶に本当に困った顔をされた。


あの二人の事だ、徐庶に話したくないとは考えていない筈だろう、と劉焔は思う。


恐らく、月と詠の秘密を守る為に情報の漏洩を生真面目に防ごうとして、話すタイミングを計りかねていたのだ。反董卓連合での戦が終わったとはいえ、董卓が朝廷――天子を傀儡(かいらい)としたという噂のほとぼりは、まだ治まりきっていない。


下手に考えたなりの方策だろうが、徐庶としてはやはり相談の一つくらいは欲しかっただろう。


「ごめん、千里」


「あらあら、若が謝る事ではございませんよ。それにご主人様も桃香様も、董卓様と詠様を(おもんばか)ってした事でございましょう。

 それは、実にあの方々らしいのでございますよ」


「そうだね」


「まあ、それでも愛紗様と一緒にお説教をしに行かなくていけませんが」


「…………」


関羽と徐庶のお説教。


劉焔はそれを想像するのさえ嫌だった。


外からズタボロにしてくるのが関羽のお説教なら、罪悪感を的確に突いて内からじわじわとズタボロにしてくるのが徐庶のお説教だ。


内外同時にされでもしたら、その日は再起不能なる事は間違いない。


「主上と桃香様の冥福を祈ろう」


「朔くん、ご主人様と桃香様を勝手に殺しちゃダメだよ?」


月が優しく言うが、それは彼女がその恐ろしさを知らないからだ、と劉焔は思った。


「何にしろ、貴女様方が父母から頂いた名を捨てた理由、ご主人様のお側付きとなった理由……全てとはいきませんが、察しはつくのでございますよ。

 そして、その選択は間違ってなかったと断言するのでございます」


「徐庶さん……」


「千里、で構いませんよ。生きようとしなければ、誰の行く先にも光は見えてこないのでございます。

 貴女が“今”という光を掴めたのなら、それを良きものへとしていきましょう、月様」


「……ありがとうございます、千里さん」


涙を眼に溜めながら礼を述べる月に、説教くさくなってしまいました、と徐庶は小さく笑った。


「それでは、お掃除再開でございます。終わりましたら、一緒にお茶に致しましょう」


「はい。お手伝いしますね」


「若も、早く終えて愛紗様に褒めてもらいましょう」


「罰掃除で褒めるも何もないと思うけど……」


まあ、いいや、と半眼になりつつも劉焔は掃除を始めた。








「よく綺麗に掃除したな。偉いぞ」


劉焔の頭を撫でながら、関羽は彼を褒めた。


まさか、本当に褒められるとは思わなかった。


劉焔のそんな気持ちが顔に出ていたか、徐庶は小さく微笑んでいた。


掃除を終えた劉焔達は東屋に集まり、徐庶の提案通り関羽を交えてお茶をしていた。


彼らの前にあるテーブルの上には幾つものお菓子が並び、甘いものに弱い女性陣は眼を輝かせている。


「よくもまぁ、毎度の事ながらこれだけ多く作れるっすね」


そう感心半分呆れ半分で言う周倉。しかし、彼女も例に漏れず甘味の魅力にやられている。


「確かにね。しかも手抜き無しって、かなり大変でしょ」


詠も同じ意見なのか、団子を手に取ってまじまじと言った。


そこで、彼女に疑問が湧く。


「これ、誰が作ったの?」


詠の問いに、劉焔達は一斉に同じ方向――徐庶の方を向いた。


「もしかして……」


「はい、私でございますよ」


詠も(なら)うように見れば、徐庶はおっとりとした声で答えた。


「嘘……これ一人で?」


「凄いです」


「詠様も月様も、そんなに驚かれる事ではございませんよ? 一人の女性としてのちょっとした嗜みでございます」


何て事のないように徐庶は言うが、その瞬間に顔を反らしたり、目を泳がせたり、聞いていなかったふりをした者がいた。


誰がとは言わない。察してほしい。


「そうそう。おチビ、アンタさっき罰掃除とか言ってたけど、何したのよ?」


話を切り替えるように、詠は急に話を振り出す。


「ああ、それ? また勝手やったからだよ」


「内容が伝わってこないわ……」


「先日、若が人事部を通さず、勝手に兵を雇ったのでございます」


「うわっ、やっぱ親子ねアンタ達」


「え、詠ちゃん!」


「しかも、街で盗みを働いた者を、だ。取引と言いながら、実際はかなりの恩情を取り計らっていたのだ、朔は」


「盗もうとした商品の代金を代わりに払って、職まで斡旋して。私にはその人達の家族を診察させたんすよ」


「アンタ、どこまでお人好しなのよ!?」


「だから、勝手したって言ったじゃんか」


詠が呆れを混ぜて叫ぶも、劉焔は何食わぬ顔をして茶をすすった。


そんな彼を見て、月は柔和な笑みを浮かべ、


「でも、朔くんらしいです」


そう評した。


自身の優しさを自分の勝手と言い、助ける事を守る事と言い張る。


今回は手を差し延べる事を取引と称した。


そんな素直じゃない幼い少年。


確かにそれは、劉焔“らしい”と言えた。


「ま、あのお父さんの背中を見てきたなら、当然の成長ってとこすかね」


「かもしれないね。でも、素直じゃないのは、誰の影響かな?」


「桃香? ……じゃないか。朱里や千里でもないだろうし、星あたりでしょ」


「ふふ。ハズレでございます」


「じゃあ、旭ちゃん」


「不正解でございます」


口に手を当ててほのぼのと笑う徐庶の言葉に、詠と月はまた首を傾げた。


素直じゃない人? あと誰がいたっけ?


そう考えながら脳内検索を行うが、ひっかかる人物が全然出て来ない。


(……正解は、目の前にあるのでございますよ)


「「目の前?」」


声を潜めて言ってきた徐庶の目配せを追い、月と詠もそちらを見る。


そこには、劉焔が食べ易いようにお菓子を小さくしている関羽がいた。


「「あー……」」


何故だか、凄く納得した。


「? 何故、こちらを見て得心がいった顔をしている?」


「別に。勝手に納得しただけよ」


「そうですね、納得しちゃっただけです」


「何か釈然としない……」


どこかスッキリとした表情の二人に対し、関羽は半眼で呟いたのだった。


「まあ、いい。……よし、出来た。このくらいの大きさなら、朔も食べやすいだろう」


「ありがと。でも、毎回やらなくていいよ」


「そういうのは、口の周りを汚さないようになれたら言いなさい」


「むぅ……」


窘められた劉焔は反論出来ず口をつぐんだ。そして、関羽に口の周りを拭かれ、若干顔を赤らめた。


そんな二人は、まるで幼子と世話を焼く母のように見えた。


「「…………」」


「さっきから何なのだ? 私と朔を見て、何か変か!?」


「ふ、ふん。別に何でもないわよ」


「いえ、他意は無いんですよ? そ、その……」


「では、何だと言うのだ?」


「まあまあ、でございますよ」


息荒くなり始めた関羽を徐庶が宥めた。


「月様も詠様も、若と愛紗様があまりに仲睦まじかったので、きっと親子に見えたのでございますよ」


「む……そうなのか?」


「は、はい。朔くん、愛紗さんに口の周りを拭いてもらって嬉しそうでした。それに朔くんのお世話してる愛紗さん、何だか凄く優しい顔をしてましたよ」


「ボクも月と同じ。あの関雲長と小鬼のそんな顔、見る事になるとは思わなかったよ」


月にはほんわかと、詠には呆れ混じりに言われ、関羽は照れくさそうに頬を掻いた。


劉焔はさして興味が無いのか、小さくしてもらった徐庶印のお菓子をリスのように頬張っていた。


「あらあら、まあまあ」


「え? うわっ!?」


それにいち早く反応した徐庶は片手を頬に当てて蕩けた顔をし、詠はそんな彼女の突然の変化に驚いた。


一言で言えば、かなり幸せそうな表情をしているのだ。


(……え、詠ちゃん、愛紗さんも)


(愛紗も? って、よく見たら旭もなってる!?)


劉焔の小さな口ではむはむと食べる様はどこか小動物的な印象があり、頬一杯にしてもまだかぶりつこうとする今の彼からは年相応のあどけなさを感じられる。


子供特有の可愛いらしさ。


それに関羽達三人は見事にやられているのだ。


確かに可愛いと月も詠も思う。しかし、お菓子を食べる劉焔を見ていると、何故か見た事があるような妙なデジャヴュを感じた。


緋い髪。


類い稀た武。


普段と打って変わった姿。


敵からは恐れられ、味方からは敬愛を受ける人材。


「ああ、あいつか……」


デジャヴュの理由が解り、詠は小さく呟く。


普段は手の掛かる問題児。けれど、一度ひとたび戦場に立てば彼女程頼りになる者はいなかった。


今は行方知れずの仲間。


無事でいるだろうか?


無事でいてほしい。


そんな事を考えていると、詠は手に柔らかな温もりを感じた。


見れば、月が優しく包むように手を握っていた。きっと彼女も同じ事を考えていたのだろう、と詠も感づき、同じように握り返す。


二人の顔には自然と笑みが零れた。


その笑みに気付いたのは、ただ一人。


彼女はそれを静かに見守った。








お茶会も終わり、各々が仕事に戻ろうとした時だ。


「月様、それに詠様」


徐庶は月と詠を呼び止めた。


「これは私の勝手な予想の上、差し出がましい事を申し上げさせて頂くのでございます」


「何ですか?」


「もし、力になれる事があれば、遠慮なく言ってほしいのでございますよ」


「え――」


予想もしていなかった事を言われ、月と詠は言葉を失った。


それを察してか、徐庶は続きを口にする。


「お菓子を食べていた若を見た時、親しい誰かを思い出していたのではございませんか?

 それに無事を信じているものの、安否が気になっている。そんな顔をしていたのでございます」


「は、はい。その通りです……」


「アンタ、ホント何者なのよ?」


「ふふ、私はしがない侍女長でごさいますよ」


的を射ていた徐庶の推測に月は驚き、詠は半眼で呆れ混じりで呟く。それに徐庶はやんわりと返した。


「もし、大切な方と共にいたいと言うのであれば、きっとご主人様も若もお力になってくれる筈でございます。

 それで貴女方の“今”をより良きものに出来るのなら、尚更に」


お人好しでございますから、と最後に付け足す徐庶。


実際、彼女の言う通りだろうと二人は思う。


若干素直じゃないのが一名いるが、例を見ないお人好し集団。中でも、そのトップのお人好し加減は群を抜いている。


お願いすれば、きっと応えてくれるだろう。


「……大丈夫です」


しかし、月はゆっくりと確かに告げた。


「私もあの娘がいてくれたら、嬉しいです。

 ……でも、必ず会えるって信じてます」


「ボク達、強引なとこもあったけど、あのお人好し達に命を救ってもらってる。

 曲がりなりにも受けた恩を少しも返さないまま、すぐ頼るような恥知らずじゃないわよ」


「……そうでございますか」


二人の答えを聞き、徐庶は思う。


(慧眼ここに極まれり、でございますね)


主二人の人を見る目の良さには、いつもの事ながら頭が下がる思いをさせられる。


人の心根を無意識に見透かし、接する事でその人自身の善性を引き出していく。


それが彼らの持つ、彼らなりの威徳の成せる(わざ)なのだろうか。


「ふふ、私はどうやら貴女様方を気に入ってしまったようでございます」


「な、何よ? 突然」


「? ありがとうございます」


「ですので、私の持つ侍女技術を全て伝授し、超一流――特級侍女へと成長させてみせるのでございます」


「「え……!?」」


話の飛びように一瞬で置いてかれた月と詠。本当に意味が解らない。


楽しみしていてくださいませ、と徐庶は笑顔で去っていく。


残された二人は茫然としたまま、そんな彼女の背中を見送るしかなかった。


しかし、何故だろうか。


楽しみに、と言っていた徐庶の言葉とは裏腹に、



――――覚悟しておいてくださいませ



そう背中が物語っていた気がした。


「ありゃりゃ、せんちゃんに気に入られちゃったんすね。ご愁傷様っす」


廊下の陰で見ていたのか、徐庶と入れ代わるように周倉がやって来た。


しかも、意味深なセリフ付きで。


「旭、そのヤバ気な発言は何?」


「今日のお菓子とか掃除とかで解ってると思うんすけど、せんちゃんって家事能力凄いんすよ」


「うん。何て言うか、完璧だったね」


「そうなんすよ。それを伝授となると、一日教わったら二日間は疲労で動けなくなるんすよ」


………………


………………………………


………………………………………………


「今から、あの莫迦に頼んだら軍師に戻してもらえるかな?」


「詠ちゃん……」


「表舞台に立てないのに、軍師やっていいんすかね?」


「うぅ……」


「あと、せんちゃんの特別授業には護身術があって、撃剣を習うんすよ」


………………


………………………………


………………………………………………


「旭ちゃ〜ん……」


「旭ぃ〜〜……」


「いやぁ……泣きつかれても、どうにも出来ないっすよ」


月と詠に縋られ、周倉は苦笑いを浮かべるしかなかった。


彼女らの細腕では刀剣や木刀を振るどころか、まず持ち上げられるかさえ怪しい、と周倉は思う。


「うぅ……侍女がなんで撃剣なんて使えるのよ」


「せんちゃん、昔は一時期だけ武侠だったらしいっすよ。それで色々あって水鏡塾に入って、シュシュとヒナヒナと勉強したって話っす」


「朱里ちゃんと雛里ちゃんと? じゃあ、千里さんは……」


「軍師……だね。どうりでボク達の事、見透かせる訳よ」


家事も出来て戦えて、更に軍師の才も持ち合わせている。どんな侍女だ、と詠は心中で呟いた。


何にしても、だ。


「ボク達、特別授業は避けられないのね……」


「詠ちゃん、頑張ろ?」


「うぅ……月ぇぇ〜〜」


抱きしめ合う美少女二人。美しき友情が形になったようで、とても絵になっていたのだった。












「因みに、せんちゃんはシュシュ達と同い年だったり」


「「嘘っ!?」」








今回の話ですが、書いていて方向性を見失ってました。


あれ? 何書きたかったんだっけ?


という状況を繰り返しつつ執筆。


毎度のことながら、グダグダに感じましたら、平にご容赦を。


感想、品評、お待ちしております。


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