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真・恋姫†無双 〜羅刹戦記〜  作者: エアリアル
第肆章 鬼の日常
26/37

寝込んだ鬼

日常編に戻ってきたはいいのですが、こっちの書き方が分からなくなってました。


なんてこった……

反董卓連合が解散し、集まった諸侯は各々の領地へと帰還していく。


それは劉備達も同じ事。


平原に戻った劉備一行は戦後処理に忙しい毎日を送り、眼を回すかと思った。


そんな明くる日の事だ。






一刀は息が切れるのを堪えながら、城の廊下を全速力で走っていた。


賊の集団が現れたのでもなく、城下街で火事が起こったでもなく、一人の親として走っているのだ。


「朔が倒れた!?」


そう聞いては走らずにはいられない。


劉焔は少し前に倒れたばかりなのだ。まさか、その後遺症のようなものが残っていたのか?


不安に駆られながらも、目的の部屋の扉が見えてきた。不安を吹き飛ばすように扉を蹴破らんばかりに開けて飛び込んだ。


「朔、大丈――――」


「うるっさい!!」


「ギャアーーっ!?」


そして、自分が吹き飛んだ。







「風邪?」


「そう。風邪っすよ」


一刀は正座させられたまま、周倉の言葉を繰り返した。


因みに彼の隣には同じように正座させられた関羽がいた。何故かは言わずもがなだろう。


「まったく、カズ兄も愛ちゃんも病人の部屋にドタバタと。もっと気を使ってほしいっすよ」


「わ、悪い」


「面目ない……」


年下であろう周倉にジト目で怒られ、一刀と関羽は小さくなるばかりだった。


その周倉は水の入った桶から浸した布巾を絞り、寝台で眠っている劉焔の額に乗せた。


一刀と関羽が騒がしく入って来たというのに起きる様子は無かった。


というよりも、劉焔の場合は眠っていたとしても扉の前に誰か来ると気配で目が覚めるらしい。いつもなら一刀が廊下にいる時点で起き上がっている筈なのだ。


しかし、彼は起きていない。相当辛いのか、と一刀は心配に表情を暗くする。


それに気付いた周倉は、心配ないと告げた。


「風邪の原因は主に疲労っすね。慣れない行軍に、残ってた“角”の反動。これが家に着いて気が緩んじゃった弾みで、一気に出て来て、体が参っちゃったんすよ」


「じゃあ、安静にしてれば、すぐに治るんだな」


「そうっす。けど、風邪は万病の元。しっかりきっちり安静にしてしなくちゃダメっす」


「解った。なら、見張りを立てましょう」


「そこまでしなくていいんじゃないか?」


「ダメです。朔は勝手に動いてばかりなのですから、見張りは必要です」


「そっか。じゃあ、早速誰か来てもらおう」


うん、と頷き合う二人に周倉は苦笑いを浮かべる。


(この親バカさん達は過保護っすね〜)


そう思わずにいられず、劉焔の服の中に手を突っ込んで棒状の物を取り出した。


「えっと、38度4分。まだ高いっすね」


「あれ? 旭、それって」


「ふえ? 体温計っすよ。水銀の方の」


「いや、なんである?」


「? 作ったからっすよ」


何かおかしい? と周倉は首を傾げる。


おかしいに決まっている。


ここは三国志のパラレルワールドとはいえ、天の国である現代から遥か昔である事には違いない。


一刀も現代の知識から、この時代にある筈の無い物を作ってはいる。あった方が便利であるし、医療器具等は無くてはならない物だってある。


(俺、体温計は造ってないぞ)


デジタル表示の物はともかく、水銀式体温計はまだ完成出来る余地はあった。


ただ、水銀が危険物でもある以上、手が出し辛いのだ。固形状態ならいざ知らず、気化してしまえばたちまち公害レベルの被害が起こるかもしれない。


そう思っていた一刀が二の足を踏んでいたというのに、周倉は完成させてしまっている。


しかし、


「旭、何でそれが作れるんだ?」


事実、水銀式体温計は1866年に作られた物だ。


現代から来た一刀“以外”に作れる筈が無いのだ。


一刀の問いに、周倉は一瞬だけキョトンとすると、次の瞬間には彼女らしからぬ妖艶な笑みを浮かべた。


「女には秘密があるもの。それを暴くの?」


「いきなり真面目な口調になったな。

 けど、お前がこれを作ったのなら、俺以外の誰かに教わったんじゃないのか?」


「私が天の国――現代に行った事があるのかもよ?」


周倉の言葉に関羽は驚き目を見開くが、一刀はその可能性を考えていたのか、動揺一つ見せない。


「……そうかもな。だから、真面目に答えてくれ」


それを踏まえた上で、一刀はもう一度聞く。声音に真剣さと真摯さを乗せて。


「…………ずるいっすよ、そんな顔されたら答えたくなるじゃないすか」


「答えてくれるのか?」


「端的に、なら。でも、それ以上は答えないっすよ」


「それでもいいよ。ありがとう」


「………………やっぱりずるい」


「…………その気持ち、解る」


一刀が笑みを浮かべて言うと、周倉は顔を背けて小さく呟いた。関羽は彼女の気持ちが解る為、かなり共感していた。


「それじゃ、端的に答えるっす。師匠から教わったんすよ」


「師匠? 確か北斗と言ったか。天の世界の知識を持っているとは。

 ……もしや、ご主人様と同じようにこの世界に来たのでは?」


「…………」


「旭?」


「答えたくないのな」


「ぬぅ……」


「まあまあ」


口を押さえて黙秘を主張する旭。それに歯噛みする関羽を、一刀は宥めた。


「でも、カズ兄。師匠が天から来たとして、会ったら天に帰る方法でも聞く気だったんすか?」


「ご主人様……」


今度は彼女が聞く番だった。


遠回しに、元の世界に帰りたくはないのか、と聞いている。


それに一刀も関羽も気付かない筈がない。


関羽は、その瞬間に一気に不安が込み上げてくる。


元々、一刀は義勇軍立ち上げの際に劉備と張飛の三人で《天の御遣い》になってくれと願い倒した。


戦争に巻き込まれるというのに、一刀はそれに頷いてくれた。



――――誰かの為に



その気持ちに応えてくれて嬉しかった。反面、罪悪感が無かった訳でもない。


戦争など他人事のようなせかいにいたのだ。直視しなければいけない惨状げんじつに心乱さないなど難しい。


けれど、それに耐えて、今まで劉備軍の支えとなって引っ張ってくれている。


あの時と今の彼が違うように、この胸に秘めた一刀に対する想いも違うのだ。


もし、彼が帰りたいのならば、誰にもそれを止める権利は無い。


それでも、


(帰らないで…………)


一緒に居てほしい。


そう、願ってしまう。


安心して前に進めるように、背中を押してほしい。


優しい笑顔で、この心に暖かな灯を燈してほしい。


こんなもの、単なる我が儘だ。


だとしても、これは――――この想いは間違いなく心からの願いなのだ。



「帰らないよ」



そして、彼はいつだって願いに応えてくれる。


「……え」


「俺は帰らない」


不安が顔に出てたのか、一刀は関羽の肩に手を乗せてもう一度答えた。


「帰りたくないんすか?」


「あっちの世界が恋しくない訳じゃないよ。俺にも家族や友達だっているし」


「ご主人様……」


「けど、俺にはこっちでの実現したい理想がある。果たさなきゃならない責任がある。

 それに、こっちにだって家族も仲間もいる」


まあ、その家族は今は寝込んでるけど、と一刀は付け足す。


「帰るにしたって、こんなに未練ばっかじゃ帰れないさ。

 それに朔と約束してるしな」


「約束っすか?」


ああ、と一刀は答える。


「朔を独りにしない、ってさ」








気怠い体は熱いのに、異様に寒い。


そんな不快感を久しぶりだな、とはっきりとしない意識で劉焔はそう思った。


いつだったかは覚えてない。少なくとも、独りで森暮らしをしていた時期じゃないだろう。


独りの時期だったら、病気になどなっていられない。守ってくれる人も看病してくれる人もいないのだから。


なら、北斗や周倉と一緒にいた時期か?


(絶対ないなぁ)


彼女らと一緒にいた時期なら、寝込むではない。文字通り、死にかけていた、だ。


肉を潰され、骨を砕かれ、精神を裂かれ、魂さえ破壊され、黄泉路の門前までよく送られた。


その時の感覚は体に十二分に染み付いている。だから、違うと断言出来る。


(なんだ、大した事ないんだ)


命に危険がある訳じゃない。そう判断すると、すぐに思考を放棄した。


体調は万全ではないが、敵性があればいつものように体が勝手に気配を察知するだろう。


そんな投げやりな思考の止め方をすると、


(…………あ)


誰かが自身の手を握り締めてきた。


一瞬、一刀かと思ったが、すぐに違うと解った。あの父親の手は、こんなにも小さく細く柔らかではない。


でも、安心する。


一刀とは違った心地良さがある。


「だ……れ……」


水分を取ってなかったからか、声が掠れた。


まどろんでいた意識で閉じていた眼を開くも、視界はぼやけてはっきりしない。


かろうじて見えるのは、手を握るその人の輪郭がやっと。人の顔さえ見えやしないというのに、いつか幻視した女性に見えた。


「っ……あ……」


それは突然に。


急に心が弱り出す。今の今まであった投げやりな思考は影さえ無くなり、怖いくらいに不安が劉焔の精神に爪を立て出した。


心境はまるで高所から落ちかけ、命綱を必死に掴んでいるような宙ぶらりん状態だ。


訳も解らぬ切迫感と不安に恐怖が混ざりに混ざり、パニックになりかけている劉焔にとって、握り締めてくれている手の温もりが本当に命綱のように思えた。


放したらどうにかなってしまいそうで、この温もりを失いたくなくて、上手く力が入らない手でなんとか握り返した。


「大丈夫」


そんな彼の不安を察したか、女性は劉焔の手を両手で包んで言った。


「何も怖くない。私が傍にいるから」


優しく穏やかな声は、ゆっくりと不安を掻き消していく。


「早く元気になる為にも、今は寝ていなさい。もし、怖い夢を見ても私とお父さんが助けてあげる」


「ほ、んと……?」


「本当。だから、早く元気になって笑顔を私達に見せて」


温もりが手から頬へと移る。


くすぐったいような心地良い感覚が、劉焔をまた眠りに誘う。


もう不安感は無い。


きっと悪夢も見ないだろう。見ても、嫌な夢からこの人が守ってくれる。


そんな確信があった。


なら、大丈夫だ。怖くなんて、かけらもない。


「おや……すみ…………おか、あさ……」


「…………おやすみ」










眼が覚めた。


熱も引いてきたのか、倦怠感も寒気も少ししか感じない。


まあ、それは良い事なのだろうが。


「なんか恥ずかしい事、口にした気がする…………」


誰かが手を握って、大丈夫だと語りかけてくれたような気がする――――のだが、


「夢、だったのかな?」


記憶が朧げ過ぎて自信が無い。夢だ、と言い切れれば悩まずにも済むのだが、いかんせん残っている気がするのだ。


この手に、優しい温もりが。


握られていただろう手を目の前まで持って来て、ためつすがめつしてみる。


無論、眼に見えるものなど何も無い。


「うーん……?」


首を傾げていると、部屋の前から3人分の気配を察知する。


そして、扉をコンコンコンと3回ノックされ、まず周倉が入って来た。


「朔ちゃん、入ったっすよ〜」


「そこは、入る、なんじゃ……」


「でも、入っちゃったし……」


何食わぬ顔の周倉の後ろでは、孔明と鳳統が彼女の代わりにすまなさそうにしていた。


「あ、起きてるって事は回復してきたみたいっすね」


「ま、ね。それと、僕の了承無しに部屋に入んないでよ、バカ姉」


「弟の総てを知る者、それがお姉ちゃんっす!」


「私的な時間や空間は無視なんだね……朔くん、可哀相」


「……旭ちゃん、いいなぁ」


「雛里ちゃん……」


鬼の姉弟のやり取りを聞きながら、段々と色んな意味で変わっていく親友に孔明は一抹の不安を覚えた。


「で、何の用さ?」


「あ、そうそう。元気になる一押しを持ってきたんすよ。ほら、ヒナヒナ〜」


「頑張って、雛里ちゃん」


孔明の応援に頷き、鳳統は劉焔の前に出た。その手には小さな鍋を乗せたお盆を持っている。


「? 雛里?」


劉焔が名前を呼ぶと、鳳統は顔を一瞬で赤くした。


「あ、そ、その……そのね……」


「うん」


「そ、その……お、おか、おかか」


「おかか?」


「だ、だから、ね」


「雛里ちゃん、もう少しだよ!」


「ふぁいと〜!」


「あわ、あわわ」


状況が掴めない。


劉焔はそう思い、半眼になる。


さっきから不思議な応援をする孔明。周倉はこの状況をなんだか楽しんでいるように見えた。


鳳統に至っては、顔を真っ赤にしてあわわモード突入。


単独戦闘には慣れていても、この状況での孤軍奮闘は勘弁してほしい。


取り敢えず鳳統に落ち着いてもらおうと、劉焔は鳳統に向き直る。


「雛里、落ち着いて。ほら、深呼吸だよ」


「ひっひっふー、ひっひっふー」


「? 変わった深呼吸だね」


「女の子がいずれ必要とする呼吸法っすよ」


「なのさ?」


「なのっす」


周倉の言葉に劉焔は、へぇ、と感心したように頷いた。


その横で、鳳統がした呼吸法がいつ必要となるか一刀から聞いた事があった孔明は、顔を赤らめ俯いていた。


「そ、そうだ。雛里ちゃん、早くしないと冷めちゃうよ」


「あ!」


あわわモード中の鳳統に孔明は忠告する。


我に返った鳳統は小さな鍋を見る。これは彼の為に作った物。親友と新しい仲間が手伝ってくれた努力の成果でもあるのだ。


無駄にしたくない。


「さ、朔くん」


「何?」


「こ、これ、つくったの」


劉焔に差し出されるのは小さな鍋。鳳統が蓋を取れば、湯気が立ち上り、その向こうにお粥があった。


「お粥、さ、朔くんの為につくったの」


「僕の?」


劉焔が聞き返すと、鳳統は照れているのか一層顔を赤らめて頷いた。


「た、食べてくれるかな?」


正に恐る恐ると言ったところか。


彼からすれば何を怖がってるか解らないが、答えはもう決まっていた。


「ありがとう、雛里」


劉焔が感謝を述べ、笑みを向ける。


その可愛いらしい笑みに、女子三人は衝撃を受けた。


(相変わらず卑怯なくらいカワイイっすよぉ〜)


(雛里ちゃんがやられちゃうのも解るかも……愛紗さんもこれにやられたくらいだし)


(いや、あの人は元からカワイイもの好きっすから。自明の理じゃないすか)


(ほわぁー……)


(逝っちゃったすね……)


(雛里ちゃ〜ん……)


やっと言えて礼まで貰ったところで、鳳統の意識は旅立ってしまった。


仕方ない、と孔明が代わりに渡そうとすると、それを周倉が遮る。


すると、周倉は先に小瓶を劉焔の前に差し出した。それを見た瞬間、劉焔の顔が蒼白になったのに孔明は気付いた。


「ヒナヒナ特製お粥を食べるその前に、病気に打ち勝つ為のステップ1。って事で飲もっか」


「や、やだ……」


「我が儘言っちゃダメっすよ」


「旭ちゃん、それってお薬?」


「そっすよ」


ほら、と周倉が小瓶の蓋を開けると毒々しい紫?と緑?色した液体が入っている。


色に疑問を持った時点でヤバイと誰しもが思うだろう。


これ、本当に薬? と聞き直したいくらいだ。これなら劉焔が嫌がるのも仕方ないだろう。


「風邪も瞬殺必殺出来ちゃうくらい効くっすよ」


自慢げに言う周倉。確かに瞬殺必殺しそうではある。


(朔くんも瞬殺必殺しちゃいそう……)


孔明が同情していると、劉焔も両手で口を押さえて拒否するという、可愛いらしい抵抗を見せていた。


しかし、そんなちゃちな抵抗に屈するような自称姉ではない。


「朔ちゃん」


「むー(ブンブン)」


「イヤイヤ、じゃなくて。早く良くなんないと、皆に心配かけちゃうっす」


「む……むーー(ブンブンブンブン)」


「朔ちゃん……」


ささやかな抵抗を見せる劉焔に、周倉は小さく溜息を零す。それに孔明と帰ってきた鳳統が苦笑いを合わせた。


仕方ない、と周倉は溜息をもう一つ吐く。そして、コホンと咳ばらいをした。


「――朔」


彼の名を呼ぶ。けれど、周倉の声音がいつもと違い、気が付けば雰囲気も変わっていた。


それに敏感に反応したか、劉焔の体がビクリと震える。


「朔、お薬飲みなさい」


「む……」


「ヤダ、なんて我が儘聞かないからね。心配かけてるんだから」


「むぅ……」


「お姉ちゃんの言う事、聞けないの?」


会話の内容は先とほぼ変わりない。しかし、どちらが優勢かは違う。


雰囲気の変わった周倉に劉焔は何故かたじたじになり、


「……………………飲む」


長い黙考の末、遂に屈した。


「うん。やっぱり、朔はいい子だね」


勝者の周倉は満面の笑みで劉焔の頭を撫で、瞬殺必殺風邪薬を手渡した。


その姿に孔明と鳳統は戸惑いを覚えていた。


いつもなら周倉が劉焔に飄々淡々とあしらわれる事が多く、本当に“自称”姉といった感じを受けていた。


しかし、今の彼女はちゃんと一人の姉に見えた。我が儘を言う幼い弟に、少しだけ厳しく言い聞かせるそれだったのだ。


「あ、あの、旭ちゃん?」


「ん? 何?」


鳳統は躊躇いがちに話し掛けると、周倉はゆっくりと振り向く。


「……そのね、何だか雰囲気が違うから、どうしたのかなって」


「あー……これね」


あはー、と困ったような表情をする周倉。何と言えば言いのか、言いあぐね、


「題して、真・お姉ちゃんモード……なんてね」


やはり困ったように言った。


「昔から私の言う事を聞いてくれる子じゃなくて。こっちの感じにならないとダメなんだ」


「だったら、いつもその感じでいた方がいいんじゃないのかな?」


孔明がそう提案するも、周倉は首をゆっくりと横に振る。


「ううん。それはしない」


「……どうして?」


「昔、そう決めたから。だから、私は…………朔ちゃんのお姉ちゃんは、いつも呑気に笑ってるんすよ」


その言葉から、どれだけの決意が彼女にあったのかは解らない。


言葉少なだったからか、それ以上は聞けなかった。聞いてはいけない気がした。


立ち入ってはいけない境界がいつの間にか出来ていた。


「……やっぱり」


思わず零した鳳統の言葉に、孔明と周倉が彼女の方を向く。


「旭ちゃんと朔くん、やっぱり姉弟なんだね」


「それは嬉しいんすけど、今の会話から一体どうやってその結論に到ったんすか」


「あ、何となく解ったかも」


孔明も鳳統の言葉の意味に気づき、小さく笑う。


本人達はきっと否定するだろう。


簡単には本心を語らない二人。


それは言い換えれば、こうなるだろう。



素直じゃない、と。



「うわ〜、私だけ仲間外れ…………酷いわ! はわわ、あわわ!」


「はわわじゃないですっ!」


「あわわじゃないですっ!」


意味が解らない周倉は二大軍師を弄り始めた。


むー、と顔を赤らめてむつける二人の姿に、こっちもこっちで卑怯なくらいカワイイな、と周倉は顔を緩ませた。


「朔ちゃんもそう思わないっすか?」


いきなり話を振ってみるも、返しどころか反応も無い。不思議に思って目を向ければ、


「…………」


「…………」


「…………」


劉焔の様子に三者一様に絶句する。


顔は蒼白く、瞳孔は開き切り、口は力無く小さく開いており、微動だにしない。


そして、手には空の瞬殺必殺風邪薬の瓶。


原因は、明らかだった。


「あ……やっば」


「朔くーーーーーんっ!?」





〜〜しばらくお待ちください〜〜





「……だから、飲みたくなかったんだ」


意識を取り戻した劉焔の一言目がこれだった。


その声音はどこか異様に疲れていて、震えていた気がする。


「この事は愛ちやんには内緒でお願いしたいっす」


「うん。知られたら大変だね」


「……旭ちゃんが死んじゃう」


どこか遠い目をする周倉の頼みに、孔明と鳳統は頷いた。


これが彼の目付け役の耳に入れば、きっとただでは済まない。


確実に言えるのは、青龍偃月刀の刃が何度も閃くだろう。


「そんなスプラッターな恐怖を忘れたい! ってな訳で、ヒナヒナ特製お粥を食せ、朔ちゃん!!」


「はいはい」


いやにテンション高めの周倉に辟易しながらも、劉焔はレンゲでお粥を一口食べた。


ゆっくりと噛みに噛み、嚥下する。そして、もう一口、口にした。


劉焔がすぐに感想を言ってくれない為に、作製者側の三人は僅かにだが焦れ出す。


周倉と孔明はまだいい。鳳統は体が微かに震えだし、祈るように両手を組み合わせている。


そして、程なくして劉焔はやっと口を開いた。


「ごめん。味、解んない」


三人同時に思考が止まった。


それも仕方ないだろう。


頑張って彼の為につくったのに、結果がこれでは理解が遅れて当然だ。


美味いとか、まずい以前の問題だ。


「えーと、これは…………」


「あ、旭ちゃん?」


「う、うぅ……」


「多分、風邪と旭の薬で味覚が一時的に機能してないみたい」


「あ、あは、あはははは……」


ちびっこ三人からジト目で見られ、周倉は乾いた笑いを浮かべるしか無かった。


孤立した周倉の取る道は、


「さらばっ!」


逃げる、だった。


「旭ちゃん、待ちなさいっ!」


勢い良く部屋から飛び出す周倉を追って、孔明も出て行った。


残った鳳統は膝から崩れ落ち、劉焔は開けっ放しにされた扉を溜息を吐きながら閉めた。


「……ごめんね、朔くん」


「何がさ?」


突然の鳳統の謝罪に劉焔は首を傾げる。


「味が解らない時につくるなんて……ダメだね、私」


「ああ、その事か。あれ、嘘だけど」


「そっか、嘘なんだ……ふぇ?」


鳳統は耳を疑った。


危なく聞き逃すところだったが、確かに聞いた。


「嘘、なの?」


「うん。あんな薬飲まされたんだし、少しくらい仕返ししたかったから」


何て事の無いように劉焔に、今回ばかりはむっとする。


けれど、今回は許そう。


「それで、お粥だけど」


「う、うん」


「凄く美味しかったよ」


この言葉が聞けたから。

日常編、何を書こうとしてたか途中から分からなくなってました。


そのせいか、雛里と朱里の台詞が分からなくなって、もうグダグダでしたね。本当にすみません。

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