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真・恋姫†無双 〜羅刹戦記〜  作者: エアリアル
第参章 鬼と戦  反董卓連合編
21/37

鬼と連合9  ~虎牢関攻略戦  飛将軍、出陣~

今回は、やっと虎牢関です。9話かかって、やっとです。



そして、呂布登場の今話です。

シ水関を落とした反董卓連合は、次なる難所である虎牢関へと向かう。


その道中、一刀はずっと劉焔が気になっていた。


夜に抜け出して以降、目に見えて面倒そうな表情を浮かべていた。


そして、虎牢関に徐々に近付くにつれ、ある一点を見る時間が増えているのに一刀は気付く。


「……なあ、朱里」


「はい、何ですか?」


「朔がさっきから見てる方向の先にさ、何かあるのか?」


「朔くんが見てる方向ですか?」


小首を傾げる孔明に、一刀はそう、と頷く。


孔明は劉焔に倣って同じ方向を見ながら、頭の中で地図を開いた。そして、ああ、と彼女は納得した。


「ご主人様、朔くんが見てるずっと先に虎牢関がありますね」


「虎牢関か……朔の奴、何か感じ取ってるのかもな」


「かもしれませんね。私も朔くんが遠い所をじっと見てると、伏兵がいるんじゃないかって思っちゃいます」


あはは、と苦笑いをする孔明に、一刀も苦笑いを返す。


実際、連合参加前に行った劉焔の賊討伐でも、戦闘前に彼がじっと遠くを見ている事が何度かあった。


そして、その先には必ずと言って言い程に伏兵が潜んでいた。


だが、劉焔はそれを言わず、単身突撃して殲滅する事でしか伏兵の存在を知らせない。


現に、シ水関攻略戦前の華雄隊の奇襲を単身阻んでみせた。この時のように予兆的な発言をしていたのは、本当に稀だ。


「主よ、一つよろしいか」


そこに、一刀同様に劉焔の様子に気付いた趙雲が来る。


「なんだ?」


「朔が見ている方向に、細作を走らせたいのです」


「星もか……」


「む。私も、とはどういう事です?」


「いや、俺と朱里も朔の視線の先が気になっててさ。あいつ、虎牢関をずっと見てるみたいなんだ」


「虎牢関を…………なるほど。大方、朔は強き武人の気配を感じ取っているのでしょう」


「強き武人……っていうと天下の飛将軍、呂布かな」


「まず間違いないと思いますよ」


事前に入手した情報によれば、虎牢関を守るのは呂布と陳宮という軍師に、張遼だという。


シ水関攻略戦で、劉焔はまだ遠く離れた位置からシ水関を眺めるといった行動をとっていない為、感じ取っているのは張遼の気配ではなく、呂布という事になる。


天の世界―――――現代を生きていた一刀も呂布の名は知っていた。


呂布の名ならば、三国志をよく知らぬ者でも聞いた事はあると言って良いのではないかと思う。


前漢の時代、武勇に優れていたとされた李広になぞらえた“飛将軍”の称号。


そして、それを証明するかのように《人中に呂布あり》と賞された武勇を持つ。


(演義の虎牢関の戦いだと、劉備に関羽と張飛の三人を相手にして生き延びたんだよな)


それを思い出しながら、どうしたものかと一刀は小さく呻く。


この世界の劉備に戦闘は無理だ。となれば、関羽、張飛、趙雲の三人に任せればなんとかなるだろう。


それに、天の世界には無かった鬼札ジョーカーがこちらにはある。


胸に宿る小さな不安を抑えるように、一刀はなんとかなると自分に言い聞かせた。


一刀が劉焔の隣りに立つと、彼は一度だけ眼を一刀に向けて、すぐ戻した。


「気になるか?」


「…………気になってる、かな。なんかさ、虎牢関に近付くにつれて心がざわつくんだよね」


「今までと比べられないくらい危険だったりとか?」


「かな。師匠程じゃないけど、確実にヤバイ相手がいるよ」


因みに伏兵はいないよ、と劉焔は付け足す。


聞こえてたのな、と一刀は心中で独り言ちた。


「それともう一つ。気を落とさないでね」


面倒そうな表情を悪化させて呟く劉焔の言葉に、一刀は嫌な予感がした。




「大本営より伝令! 劉備軍は速やかに前進し、虎牢関前方に布陣せよ!

 その後は敵の動きに合わせ、華麗に適を撃退せよ! 以上!」




現れた袁紹軍の伝令の言葉に、一刀は顔を引き攣らせた。








『はぁ………』


溜息が幾つも重なり合う。


一刀と劉備達は揃いも揃って皆苦く笑っていた。


「はい、今回も華麗に撃退せよとの御達示がありました」


場を切り出したのは、一刀。だが、眼はどこか遠くを見ている。


「案の定という訳ですな。……それにしても、華麗に敵を撃退せよというのは、冗談としては面白い」


「もっと面白いのは、それが冗談ではないっていう事ですね」


く、と趙雲は喉で笑い、孔明はどこか乾いた笑みを浮かべた。


「朱里も口が悪くなったのだ」


「こうも続けられたら、口も悪くなっちゃいますよ」


肩を落とす孔明の隣で、鳳統も同じ気持ちなのか重い溜息をついていた。


次の相手はシ水関の華雄以上の武将だ。


三國無双の飛将軍、呂布。


呂布の武を支える軍師、陳宮。


そして、文武両道の張遼。


彼女らを相手に突破する困難さが容易に想像出来てしまい、一刀は思わずまた溜息をつく。


「でも……やるしかないよ」


思考が後ろ向きになる中、劉備は前をしっかりと見据えた。


そんな彼女に触発されたか、関羽は顔を明るくし、


「桃香様のおっしゃる通りです。呂布など何する者ぞ……きっとこの私が討ち取ってみせましょう」


熱く語るが、難色を示したのが2人いた。


「うん、期待してる……と言いたいところだけど、愛紗一人で呂布と戦うのは禁止。

 …………これは絶対に守ってほしい」


一人目は、呂布の逸話を知る一刀だ。


「どうしてです? まさか、この私が負けるとでも」


「高確率で負けるよ、きっと」


関羽の反論を淡々と肯定したのは、二人目である劉焔だった。


相変わらず虎牢関の方向を向いているが、軍議にはちゃんと耳を傾けていたらしい。


「な!? 朔まで!」


「虎牢関までまだ距離はかなりあるのに、莫迦みたいに強烈な気配を感じるんだ。

 これが呂布のなら……正直、一人で相手取るには難しいだろうね。だから、僕は主上の意見に賛成」


「朔の言う通りなんだよ。俺の世界の呂布将軍の強さは並大抵のものじゃない。

 …………愛紗が強いのはよく解っているけど……俺は万が一にも愛紗を失いたくない」


「ご主人様……」


一刀の真摯な言葉に、関羽は眼を大きく見開いた。


一刀は全員の顔をゆっくりと見渡し、約束だ、と告げる。


「愛紗だけじゃなくて全員との約束だ。絶対に一人で呂布と対峙しないで。卑怯かもしれないけど、皆で力を合わせてほしい」


一刀の約束を受け入れるように、皆ゆっくりと確かに頷いた。


「……解りました。ご主人様がそうおっしゃるならば、私はご主人様の言葉に従います」


「あや? 愛紗が珍しく素直なのだー!」


「ば、馬鹿者。私はいつだって素直だぞ!」


関羽がしおらしく答えたのに気付いた張飛が途端に茶化しだす。


少しは自覚があるのかないのか、関羽の頬は赤く染まりだした。


「愛紗ちゃんは何故かご主人様の言葉だけは、素直に聞くんだよねー?」


「桃香様までそんな事をっ!」


「だって、ホントの事だもーん」


「まあ、愛紗さんも女の子だって事です」


「朱里ちゃん、それ、何気にひどい……」


普段弄られる側だからか、劉備はここぞとばかりに関羽を弄る。そして、孔明もそれに乗るが発言が若干黒く、鳳統にツッコまれていた。


「くっ……皆で好き勝手言って! ご主人様も朔も何か言ってやってください!」


「んー……まあ、でも、こういうのも」


「別にいいんじゃないのさ? 間違ってないと思うし」


「私に味方はいないのかっ!?」


助けを求めた二人が弄る側に回り、関羽は顔を真っ赤にして叫んだ。


その叫びに、周囲の兵達にも大きな笑いの波が起きる。


連戦を重ねる兵達にも良い気分転換になったのか、空気が和やかなり、少しだけ足取りが軽くなった。


笑みが生み出した力で前に踏み出し、一刀達は最後の難関に駒を進める。



三國無双が待つ――虎牢関へと。








劉焔達が虎牢関へと行軍している、とある日の夜。


周倉は城壁にその縁から足を投げ出すようにして座って、空を見上げていた。


星詠みの仕方は師匠から習ってはいたが、今はする気はない。それに当たるかと言えば、それは別問題だった。


当たるのが27回に一度と、また切りの悪い的中率なのだ。


何にしろ、星詠みが当たろうが当たるまいが周倉にはどうでもよかった。これは彼女にとって、夜寝付きづらい時の暇つぶし代わりでしかない。


「旭……」


「は〜い?」


見上げていた視線を戻し、周倉は自分の名を呼んだ主を見る。


深紅の髪に、綺麗な紫色の瞳。褐色の肌には入れ墨。



天下の飛将軍、呂布奉先。その人がいた。


「ありゃ、レンレンじゃないっすか。どうしたんすか? お腹空いて眠れないとか?」


「(…………フルフル)」


「違うすか」


「………半分正解」


「お腹は空いてる?」


「(……コク)」


「…………そうきますか。夜遅い時間での夜食は美容と健康の大敵っす。我慢っすよ」


「(……………………………………コク)」


「そこはすぐに頷いてほしかったっすよ」


後で絶対厨房に行くな、と察した周倉は苦笑いを浮かべる。呂布は彼女が何故苦く笑っているか解らないのか、小首を傾げた。


「……旭、小鬼の事、考えてた?」


「いきなり話変えるんすね、君は。そっすね、小鬼ちゃんにお説教された事を反芻(はんすう)してたんすよ」


「……?」


「想いの真贋とか、貫かなきゃいけない事とか。ま、色々っす」


自分より年下に説教されて、遠回しに励まされて。


素直に優しさを出そうとしない、相変わらず不器用なあの少年のらしさを思い出すと、周倉は自然と頬が緩んだ。


「そだ。レンレンは何の為に戦ってるんすか?」


「? 何の為に?」


「そうっす」


天下の飛将軍が戦う理由。純粋に興味が湧き、周倉は訊く。


「……お金」


「ありゃー……」


返ってきたのは、即物的な答えだった。


「……恋、頑張れば、お金たくさん貰える。そしたら、皆でご飯いっぱい食べれる」


「あ、レンレンの家族のご飯代っすか。大家族っすからね〜」


この理由には納得した。


短い間ではあるが、彼女の人柄はある程度把握しているし、周倉にとっても呂布の家族への愛情は応援したい。


「……それに、恋、月好き。だから、負けない」


「そうっすね。月の為にも負けられない――――といっても、私は次の戦には出られないんすよ〜〜」


とほ〜、と肩を落とす周倉。


劉焔に受けた攻撃は、彼女の骨に(ひび)を入れていた。華雄のような切り傷の時のように治せるが、骨が変にくっつかないようにゆっくりと治す必要がある。


その為、動けても戦闘は無理、というのが周倉の現状だった。


「……大丈夫」


そんな彼女に呂布は断言する。


「……恋、強い。旭の分も頑張る」


「あは〜。ありがと、レンレン」


でも、と周倉は続け、


「本気の戦鬼は、無双を無双ではなくする。覚えておいて」


真剣な声音で忠告する周倉に、呂布は頷く。


そして、視線を地平線の彼方に向ける。その先にいるであろう連合軍の一角へと。


「……解る」


劉焔が呂布を察知していると同時に、彼女も劉焔を察知していた。


何とも言えないビリビリとする感覚。


初めて周倉と会った時に感じたそれが、数倍に強くなって呂布の才覚に訴えていた。



「――――――恋と似てる奴が来る」


自分と同類。


戦場に於いて、鬼となる者。


自分と同格。


小鬼が無双に並び立つ者ならば、打ち倒す。


それだけだ。


それが、主を救う方法であるのなら。


「な〜んか、レンレンってば小鬼ちゃんに似てるっすね」


「??」


「何でもな〜い。ほら、お迎えが来たっすよ」


「恋殿ーー!!」


周倉が指差す方向には、帽子を被った小柄な少女が走り寄る姿があった。


「……ねね」


呂布が少女の真名を呼ぶと同時に、彼女は呂布に抱き着いた。


「恋殿ーー! 探したのです。部屋にいなかったので、厨房に行ってもいなかったので大変だったのですよ」


「あは〜。軍師陳宮の推理は一歩先を読んでたみたいっすね」


ぽやっと周倉が笑っていると、陳宮がむっとしながら、こちらを向く。その眼には、今からお小言を言いますとありありと書いてあった。


「旭殿も旭殿なのです! 怪我が治ってないのに、昨夜に続いてまた部屋を抜け出すなんて莫迦のする事なのですぞ。

 いくら恋殿くらい強くても、自分を大事にしないのは見逃せないのです」


腕を組んでつらつらとお小言を並べていく陳宮。それに、うへーとしながらも周倉は耳を傾けた。


だが、彼女は知らない。劉焔はこれと比較にならない程の説教を受けていることを。


「……ねね、もう夜遅い。旭、休ませなきゃ」


「む、そうだったのです。さあ旭殿、一緒に部屋に戻るのですよ」


「解ったっすよ。…………ねね、心配かけてごめんねぇ」


「ふにゃっ!? 何をするのです!」


周倉は謝罪の意味を込めて、陳宮を抱っこ+なでなでする。たまに揺すったりしていると、まるで赤子をあやしているように見えてくる。


一見からかっているように見えるのだが、


「あぁ……それはずるいのです……」


取り敢えず、効果はばつぐんだ。


余程気持ちが良いのか、陳宮の顔はぽおっと赤みを帯びてうっとりしている。


「ふふふ………私のなでなで真拳は、おじ様譲り。これで篭絡できないお子様はいないっす!」


ドギャン!と周倉のバックに雷のエフェクトが走る。


が、呂布の性格上ツッコミ出来る筈無く、出来そうな陳宮も絶賛篭絡中で不可能だった。


「あ……あぁ……この気持ち良さは、恋殿のなでなでに匹敵してるのです……」


「……旭」


「はいはい?」


「……恋も後で撫でてほしい」


「うははは! 二人まとめて相手しちゃるっす!」


聞きようによっては誤解を受ける事間違いなしな発言をし、周倉は呂布と陳宮の手を握って歩き出す。


「そうそう、レンレン」


「?」


「月は死なないっすよ。鬼のお姉ちゃんがごり押ししといたんで」


「なんとまあ、意味不明で根拠の無さそうな言なのです」


「あは〜。ま、根拠は無いすけど、自信はあるっすよ」


なんせ、と周倉は続け、



「口では文句言いながら、期待に応えちゃうお人好し。

 それがあの子の性分っすから」



そう楽しげに断言した。








「さて、どうしたもんかな」


そんな呟きを零したのは一刀だった。孔明も鳳統の二人も彼と同じ心境であり、眼を細めてこの状況を窺っていた。



董卓軍の城外での部隊展開。



防衛に於いて、絶対的な()を捨てるという軍略に沿わない行動を董卓軍は取ったのだ。


その軍略に沿わない行動は、一見潔く決戦を望んでいるようにも思える。


また、予想外の何かを企んでいるようにも思えてしまい、連合軍は訝しむ余り二の足を踏んでいた。


「どうして城を捨てたんだ? 普通なら、篭城戦に持ち込むのが常套手段なんだろ」


「はい。通常ならそうなんですが……」


「まさか、篭城を諦めて決戦を。そう思ってるのではないだろうな?」


「でも、それなら私達にとっては好都合だよ。野戦なら、数の多い私達の方が有利に―――――」


「…………それはどうでしょう」


関羽と劉備は自分の推論を並べていくが、軍師二人は難色を示す。


「……難攻不落の虎牢関を捨てて、わざわざ野戦に持ち込むなんて…………ご主人様が言った通り、普通はしないはずです」


「では、何をする気なのだ?」


「考えられるのは乾坤一擲、玉砕覚悟で総大将の頚を望むか…………それとも退却するか、です」


鳳統は二つの可能性を呈示する。だが、後者を選んだのだとすると、防衛力の高い関を捨てるのは愚策に聞こえた。


だが、鳳統はその考えは間違いだと言う。


「篭城を選ぶと、関の防衛力に頼りがちになってしまって、逃げ時を失ってしまう事がありますし。

 まだ戦えるって勘違いして逃げ時に迷うくらいなら、野戦で包囲されても必死で突破する方が生き残れますから」


「だとすると、崩れたが最後。董卓軍は一目散に退却か」


「でも主上、相手は呂布に張遼だよ。簡単に崩れてくれるような将じゃないでしょ」


「だよな〜」


半眼で口にした劉焔の言に、一刀は肩を少し落としながら同意した。


しかも、総大将の考えが考えの為に、戦略における策らしい策を施しようがなく、戦術においても董卓軍の動きが解らない為に、策を考えるには情報不足が否めなかった。


「それじゃ、基本的にはシ水関の時と同じで、その都度に即対応って事で」


「では、我らはしばらく待機ですね」


「うん。董卓軍がいつ動くか解ら――――――」



「――――――くる」



一刀の言葉を遮るように、劉焔は呟いた。


相変わらず視線を虎牢関へと向けたままだが、それは険しいものへと変わっていた。


それにいち早く気付いた一刀は、若干の焦りが心に生まれながらも、指示を出す。


「愛紗、鈴々、前曲を率いて董卓軍の突撃を受け止めてくれ!

 星と雛里は二人の左右を固めるんだ!」


「ご、ご主人様、どうしたの?」


突然口早に出された指示に、劉備達は眼を白黒させ、やがて気付いた。


皆一様に董卓軍の方向に振り向き、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて走り出す。


意を解した関羽達の動きは早く、なんとか戦闘態勢をとる事が出来た。


それと同時に、



董卓軍の突撃が始まった。








一刀と劉備達が董卓軍の行動に頭を悩ませていた頃、劉備軍とは違い、曹操は静かに敵軍を見据えていた。


そんな彼女の横では、他の陣営同様に夏侯姉妹とネコミミフード軍師、荀文若は口を揃えておかしいと発言していた。


「虎牢関の防衛に当たってる部隊が城外にいるなんて……何を考えての布陣なのかしら」


「確かにな。地の利を捨てての布陣だ、何か策があるのだろうが……読めんな」


「ただのバカか、自棄になったのではないか?」


董卓軍の裏を読もうとする文若と夏侯淵。彼女らとは違い、夏侯惇は表だけを見た率直な答えを口にした。


「……春蘭は相変わらずね。ま、そこがあの娘の可愛いとこでもあるんだけど」


そんな彼女の答えを聞いていた曹操は、呆れの混じった声音で独り言ちた。


「桂花。貴女なら、どう見る?」


「はっ。……あそこまで本隊を晒しているのは私達の眼を引き付ける為。狙いは伏兵の利用……というのが定番でしょう」


曹操の問いに、文若は自身の考えを語る。


虎牢関の両側は高い崖だ。その上を見ようとして簡単に見れる高さではない。


絶対的な死角。そこに伏兵として多数の弓兵を配置され、矢の斉射を受ければ、部隊の混乱は必至。対処しようにも、高さのアドバンテージによって後手後手に回ってしまう事だろう。


有効な策である為、夏侯淵はなるほどと頷くが、曹操はそれに首を横に振った。


「敵の狙いは、そのようなものではないわ」


「は……? そうなのですか?」


「ええ。風に(なび)く軍旗に充溢(じゅういつ)している決意。……それが解らないかしら?」


曹操が董卓軍の軍旗に眼を向け、倣うように夏侯惇達も眼を向けた。


「飛将軍、呂布。驍将、張遼。彼女らの軍旗には決戦への渇望が見て取れる」


だが、文若は曹操の言に納得しきれていない顔をしていた。


軍師としての性なのだろう。文若にとって、董卓軍の軍略の選択肢は二つしか見受けられなかった。


一つは、伏兵による奇襲で連合の戦力と戦意を削ぎ、時期を見計らっての本陣急襲。それによる袁紹の首級をあげる。


もう一つは、兵を纏めての退却に専念するか。この二つであり、“決戦”の選択肢は無かったのだ。


それを聞いた曹操は、またも違うと言う。


「“軍略”としてなら正しいわ。でもね、この孟徳の片腕ならば、事象ではなく敵の魂をも見抜いてみせなさい」


何とも難しい事を言う曹操だが、文若は彼女の言葉に聴き入っている。


「二人の気高い魂。そして、導き出される軍略。どちらか一方を見ただけで全てを見抜いたと思うのは早計でしょう。

 ……敵は恐らく、堂々たる決戦を行い、連合に痛手を与えた後で悠々と退却を敢行するはずよ」


曹操はくっ、と喉で笑い、口端を片方だけ吊り上げる。


連合軍と董卓軍では兵数を見る限り、連合軍が有利だ。


その厚い兵の壁を越えて退却するのは、無理難題の域だ。それを可能だと考えているのだとしたら、確固たる自信があるか、ただの自惚れでしかない。


しかし、彼女らは向かってくるだろう、と曹操は確信していた。


呂布は、天命を感じている。


自分と同じように天命を感じられる者は、人の理解を超える者。思考の枠に囚われる者達には、その考えを理解するどころか、受け止める事すら困難だろう。


己が同類ならば、きっと呂布は曹孟徳の前に立ち塞がる。


そう思うと、胸中に喜悦と期待の念が込み上がってきた。


英傑との戦いこそ、血湧き心躍る瞬間。


それに天の意志を感じられる最高の刻は、曹操孟徳という一人の覇王の心を満たすには切っては離せぬものだ。


「そういえば…………あの子もいたわね」


脳裏を過ぎったのは、一匹の小鬼。


話したのは、一度きり。だが、覇王を相手に不敵に飄々として見せたあの少年。彼も天命を感じられる一人かもしれない。


何故か、そんな予感がした。


「華琳様、劉備軍が戦闘態勢に入ったようです」


「へぇ。やるじゃない、あの娘達も。それともあの男達かしら」


文若の報告を聞き、曹操は若干感心したように呟いた。


「か、華琳様?」


「それじゃ、私達も戦闘態勢を」


「で、ですが」


「あの年増の総大将の命令なら、待つだけ無駄よ」


曹操は口端を吊り上げ、ニヤリと笑みを零す。


「さあ、私達も戦を始めましょう」








一刀と劉備達が董卓軍の行動に頭を悩ませていた頃、孫呉陣営も同様に頭を悩ませていた。


「ふむ……軍略の定石ならば、ここは関に拠って敵軍を撃退するのだが……解らん」


「あら、冥琳。解んないの?」


そんな彼女とは反対に、孫策は得心がいったような顔をしている。


「雪蓮には奴らの考えが解るのか?」


「そりゃ、もちろん」


「では、お答え頂こうか」


「正々堂々戦って、隙を見て逃げる!」


自信があるのか、胸を張って答える孫策。


だが、彼女の答えは軍師である周瑜には、マルどころかサンカクさえあげられないものだった。


「……どんな真意を見抜いているかと思えば、そんな訳ないでしょ」


「そっかな? 私にはそれ以外には考えられないんだけどなぁ」


「そうよ。自分から有利な条件を棄てる訳ないわ」


「そうとも限らんのではないか?」


孫策の考えを否定すると、周瑜は彼女の考えを後押しする声に、困った顔をした。


眼を向ければ、そこには孫呉二代の王に仕える宿将―――――黄蓋の姿があった。


「黄蓋殿……貴女までそんな事を言うのか?」


「我らが主の勘は神懸かっておるからな。それに相手は飛将軍、呂奉先。奴の武が噂通りならば、有り得ん話ではなかろうて」


「確かに……ならば、主の神懸かりを信じてみる事にするか」


「だな。で、兵をどう動かす?」


黄蓋に聞かれ、周瑜は一瞬の黙考に入る。


意気軒昂なる呂布が率いる董卓軍と正面からぶつかり合うのは、どう考えてもまずい。


それ以前に、そんなものは策とは言わない。


この戦いが終わっても、宿願を果たす為の戦いが待っている。


(袁紹はともかく、恩があるあ奴らには悪いが……)


心にじくりとした罪悪感が滲むが、周瑜はそれを無視して答えを口にする。


「呂布との交戦はなるべく避ける。奴の相手は袁紹と……悪いが劉備軍に任せるとしよう」


「えー!? やだやだ! 呂布と戦いたい!」


「…………雪蓮。私が許すと思って?」


底冷えするような周瑜の凍てつく視線を受け、孫策は首をぶんぶんと横に降った。


「で、でも〜……」


「周倉に討たれそうになり、翔刃に助けられたのは誰だったかな?」


「ぐっ……」


「儂も今回ばかりは、公瑾の意見に賛成じゃ」


「祭までそんな事言う〜。私の味方はいないの?」


「いないな」


「おりませぬな」


「う〜〜。冥琳と祭のいけず!」


にべもなくバッサリと願いを断つ軍師と宿将。


頬を膨らませていじけ始めようとした孫策だが、弾かれるように虎牢関の方へと向いた。


彼女の顔には、さっきまでの少女らしい顔は無い。今は王として、一人の武人としての顔をしていた。


「冥琳、全軍に戦闘態勢を」


「雪蓮、何を言っている? こちらから攻め込む気なの?」


「いいから、早く。お願い」


「雪蓮様、冥琳様、大変です!」


「明命? どうした?」


「りゅ、劉備軍が突然戦闘態勢を取りました!!」


飛び込んできた周泰のその言葉に、周瑜がハッとする。


「そういう事か…………祭殿、明命と思春を率いて、我が軍の先陣をお願いします」


「任されよう。興覇、幼平、儂に続け」


「はっ」


「は、はいっ!」


黄蓋が甘寧と周泰を引き連れ、先陣へと行く姿を周瑜は見送りながら孫策へと釘を刺す。


「雪蓮、抜け出して呂布に挑もうなどと思わないでよ」


「い、いやぁねぇ、冥琳ってば。それは我慢するわよ」


「そう。それと、翔刃に会いに行くのも禁止ね」


「……さっすが私の冥琳。読まれてたか」


更なる釘刺しに、孫策は肩を落とした。


抜け出した先が呂布のいる董卓軍ではなくとも、董卓軍の攻撃を一番先に受け止めるであろう劉備軍でも良かった。


そこにはお気に入りの劉焔もいれば、手助けを理由にあわよくば呂布と一戦交えられるかもしれない。


などと、淡い期待もあったのだった。


「それにしても、劉備軍の対応はかなり迅速だったわね」


「そりゃそうよ。劉備軍には、小さな戦鬼がいるんだもの」


周瑜の疑問に孫策が当然とばかりに答え、董卓軍の突撃が始まった。








「なんや、随分と機に敏感な部隊ある思うたら、小鬼のとこやないかい」


目前の敵、その先陣たる劉備軍の慌ただしい動きを見ながら、張遼は呟いた。


自軍の戦闘準備はもう間もなく終わる。だが、劉備軍の準備も異様な早さで整えられている。


「寡兵故に伝達速度が早い、いうことか。欠点が助けになるやなんて、やっぱ戦はおもろいわぁ」


連合中、一番兵数が少ない劉備軍。それは見方を変えれば、将の指揮が隊の端から端まで伝わる早さが一番早いということでもある。


曹魏や孫呉の軍ように練度の高い兵が揃ってる訳でもない。けれど、志は負けていない。


将の――関羽や趙雲の号令があれば、彼らは必死に応えようとしてくれる。ついて来ようとしてくれる。


そんな奴らに文字通り、一丸となって来られては作戦に支障が出る可能性がある。変更すべきかどうか、張遼は小さく唸りながら考え出した。


(しあ)……考え事?」


そんな時に、呂布は首を傾げながら聞いてきた。その隣には陳宮がいる。


「恋……いや、気にせんで。それより、あの二人は大人しゅうしとった?」


張遼の言う“あの二人”とは、周倉と華雄の事だ。


ケガにより戦闘不能の二人を戦場に置いておける筈もない。他の負傷者と一緒に密かに逃がすよう、呂布に頼んでいたのだ。


片や鬼、片や猪が相手とあっては一般兵では頼りない。最悪、力ずくでも、といった意味を含めての選任だったのが、陳宮からの答えは拍子抜けするものだった。


「二人共、びっくりするくらい大人しく逃げてくれたのです」


「ほんまか? 旭はともかく、華雄の奴なら暴れそうなもんやけどな」


「華雄ですか? 華雄は何やら神妙な顔をして、ずっと黙り込んでたのです。正直、気味が悪かったのですよ」


「ふぅん。……ま、あいつもあいつで何か思う事があったんやろ」


一先ず、逃げてくれたならそれでいい。そう自分に言い聞かせ、張遼は飛龍偃月刀を担ぐようにして持った。


「恋とねねが戻ってきた事やし、作戦もっかい確認しとこか」


「敵は虎牢関を出て布陣している我々に対し、驚きと疑念を抱いてるのです。

 そこに恋殿が一気呵成に敵本陣を突き、その混乱に乗じてさっさと逃げるのです」


「こらこら、作戦が一つ前に戻ってるて。恋が突っ込んだ後にウチの部隊で駄目押しする手筈やろ」


「あ、そうだったのです」


「ほんま頼むわ」


「大丈夫……恋、頑張る」


「ああ、便りにしてるで」



そんじゃ、と張遼は飛龍偃月刀の刃先を向け、


「ええか、お前ら! あいつら、しばきまわしてから堂々と退却すんで! 全軍抜刀じゃーー!!」


檄を飛ばしてニヤリと笑う。


「連合のボケ共全員、いてこましたれーーー!!」








連合と呂布、張遼率いる董卓軍の衝突は総兵数の差こそあれ、最初は拮抗していた。


警戒していたにも関わらず、総大将である袁紹の合図などなく、素早く対応できたのは劉備、曹操、孫策の三軍だけ。他は慌てる余り、急ぐどころかもたつく始末だった。


そこに、他とは一線、いや二線は画す呂布の武力が突き刺さる。


彼女の得物、方天画戟が振るわれる度に、連合軍兵は木屑か小石の如く薙ぎ払われていった。


一騎当千。


三國無双。


その武ならば、そう讃えられるのも当然だと。まるで洗脳するかのように連合軍の頭に強制的に刻み付けていく。


「……邪魔」


脅威などまるで無く、物を退かすように呂布は呟き、得物を振るった。


一太刀。それだけで三人の胴が一気に割られた。



邪魔。



今の呂布の思考は、この一言に集約されている。


張遼や自軍の兵達を逃がすには、連合の兵は障害でしかない。


だから、退かす。


だから、崩す。


だから、排す。



顔色一つ変えず、方天画戟で道を切り開き続ける。


だが、それも時が経つにつれて困難になった。


連合軍の出遅れていた部隊が戦闘態勢を整え終え、参戦しだしたのだ。


こうなってしまえば、後は数の暴力で徐々に勢いを削がれ続けるだけ。


「……まだいける」


それでも、呂布は方天画戟を振り、連合軍兵を屠っていく。


そして、


「強い敵が来た……」


方天画戟を止め、兵ではなく将の気配を感じた先へと眼を向けた。


そこには、三人の将の姿があった。


関羽。


張飛。


趙雲。


劉備軍を代表する武将達はそれぞれの得物を構え、飛将軍と対峙する。


「ふっ……よくぞ気がついたな、呂布よ!」


「ここから先は行かせないのだ」


「……うーむ。何だか我々の方が悪役のような台詞を言っているな」


気迫に満ち満ちている関羽と張飛と並び、趙雲は何やら微妙に気にしだした。


実のところ、関羽も気にしていたのだろう、彼女も顔を若干赤らめた。


「星、マジメな場面で混ぜっ返さないでくれ!」


「うむ、済まない。だがそう思ったのも確かなのでな」


「……冗談?」


呂布に不思議な物見るような眼で問う。戦場でいきなり漫才しだせば、誰だってそう思うだろう。


趙雲は顔を武将としてのそれに戻し、


「いいや、本気だ。…………呂布よ、ここから先へ行きたければ、我らを倒して見せるがよい」


「…………三人同時?」


「一対一で戦いたくはあるが、ご主人様と小鬼との約束でな。…………三人同時で当たらせてもらう」


関羽の言葉を聞き、呂布は微かに笑みを零す。


「……お前達の主人と小鬼、頭がいい」


そして、方天画戟を肩に担ぐようにして構えて不遜に告げた。


「恋は強い……同時に来い」


「鈴々達三人に、簡単に勝てると思うななのだ!」


「簡単じゃない…………でも、やるだけ」


言い終わるや否や、呂布は一瞬にして関羽達に切り込み、方天画戟を振るった。


繰り出された豪撃を関羽達は辛くも受け止める。それでもその威力の凄まじさは得物を通して十二分に伝って、彼女らの顔を微かに歪ませた。


「……良く止めた」


呂布の簡潔な賛辞が耳に届く。


「恋、強い……舐めてると死ぬ」


「舐めてるつもりはないのだがな。噂通りのその武、まったく大したものだ」


「だが、我らとて腕には多少の覚えがある。全力を以て貴様を止めて見せよう」


「……来い」


「参る! でやぁあああ!!」


渾身の力を込め、関羽は青龍偃月刀を振り下ろす。刃は呂布の頭上に飛ぶが、彼女の赤い髪を撫でる事も出来ずに空を斬った。


「何っ!?」


「振りが大きい……避けるの簡単」


「次は鈴々が番なのだ! ええーーーい!」


続く張飛は全身の力を使って横薙ぎに蛇矛を振るった。放たれたその剛速の一撃を呂布は後ろへ跳ぶだけで軽々と避けて見せた。


「……軌跡が単純」


「うぐっ……鋭いのだ」


「最後は私だ! 受けてみよ、常山の登り竜、趙子龍の一撃を!」


繰り出すは神速の三連突き。頭、胸、足と狙うが、これも呂布は最小限の動きで避けられてしまった。


「……速いけど、特に怖くない」


「……むぅ。それはすまなかった」


「……いいけど」


一瞬和やかな雰囲気が流れるが、趙雲の内心は穏やかではなかった。


(……完全に見切られているな)


呂布は自分を含めた三人の攻撃を、武器を使わずに避けた。しかも、ご丁寧に品評付きで。


(主と朔の言通りか………武を極めた、と言われれば信じてしまいそうだ)


数瞬の黙考を終えると、関羽の様子が違うのに気付いた。


怯えるでもなく、怒りに燃えるでもなく、覇気が一段と研ぎ澄まされている。


「………行かせぬ」


「愛紗?」


「ここから先には、絶対に行かせぬぞ!!」


趙雲の呼びかけにも応えず、関羽は呂布に切り込んだ。


「っ!」


先の一撃とは段違いな斬撃に呂布は大きく眼を開き、方天画戟で受け止めた。


「…………変わった」


小さく呟き、呂布は関羽から距離を取る。そこに張り付くように関羽は追い縋る。


上段からの振り下ろし、そこから跳ね上げるようにしての振り上げ。引き戻しての突き。


次々と放つ関羽の連撃は、呂布に届かないまでも避ける事は許さず、防戦を強いらせた。


「ああああああ!」


咆哮をあげ斬り掛かってくる関羽の変わり様に、呂布は斬撃を防ぎながら不思議に思った。


気迫は十二分であった。だが、こんなにも鬼気迫ってはいなかった。


一撃の重さ、鋭さはこうも簡単に変わるものか。


呂布がそう考えている中、関羽の心中は言葉通りの想いが(ほとばし)っていた。


趙雲が思っていたように、関羽も攻撃が見切られているのに気付いていた。


そして、考えてしまった。



もし、自分達が抜かれたら?



後ろには、守るべき二人の主がいる。それに彼らを守る小鬼がいる。


抜かれれば、呂布は主らを討とうとするだろう。そうなれば小鬼は呂布と戦う事になる。


目の前の並外れた武を持つ、この飛将軍を一人で、だ。


(……ダメだ)


あの子の事だ、主を守る為に自身を(かえり)みない無茶をするに決まっている。


最悪、小鬼の命一つを対価に逃がす事を選ぶかもしれない。


(ダメだ…ダメだ……ダメだダメだダメだダメだ!!)


食い止める。


何が何でも食い止める。


あの子に無理や無茶をさせないと宣言しておきながら、させてしまっているこの身が口惜しい。


もう、させてなるものか。


その悔しささえも力に変え、青龍偃月刀に込めて振るう。


だが、


「――――しまっ!?」


呂布の反撃の一太刀が、青龍偃月刀を遠く弾き飛ばした。


ザンッ、と自身の得物が地に刺さる音。怒号が響く戦場にいるのに、何故かはっきりと聞こえた。


「愛紗っ!! 逃げろ!」


「愛紗ーー!」


趙雲と張飛の声を聞き、関羽はやっと気付いた。


禁じられていた呂布との一騎打ち。


それを演じてしまい、いつの間にか張飛と趙雲の二人とも離れてしまっていた。


そして、方天画戟が突き付けられる。


「……いきなり強くなるから、驚いた」


でも、と呂布は続け、


「……恋の方が強かった」


方天画戟を振り下ろした。


瞬間、関羽には自身の命を奪う凶刃がゆっくりと迫っているように見えた。


刹那の時が何倍にも何十倍にも感じられ、静かに眼を閉じて、その間に何度も詫びた。


大切な主に。


愛する主に。


理想を共にした仲間に。


何かと無茶をする、小さなあの子に。


「…………すまない」


口から零れた謝罪は、凶刃が空気を裂く音に掻き消された。






「―――――――謝るくらいなら、もう少し生き足掻いてよ」





死を覚悟した関羽は、確かに聞いた。


呆れたようにぼやく、小鬼の声を。


眼を開ければ、方天画戟の刃が首を断つ寸前で止まっている。


刃から眼を動かせば、小さな手が方天画戟の柄を握り締め、次に漆黒の戦装束の小さな背中、真紅の鬼兜。


「…………さ、朔?」


名を呼べば、小鬼はちらとだけ振り向き、またぼやき出す。


「最近さ、僕の役回りってこんな面倒なのばっかなんだけどさ」


これみよがしに溜息までつき、方天画戟の柄を放した。


呂布も劉焔の乱入に警戒してか、彼から間合いを取り出した。


「命令じゃなくて、これがあのお人よし二人のお願いだから、質悪いんだよねぇ」


「朔? 何を言ってるんだ?」


「愚痴です」


「至極簡潔に言われても、その……な?」


「帰ったら、ふて寝します。絶対してやる。愛紗に何か言われてもするから、よろしく」


「よろしくできるか! 話を聞いて!?」


「うん、後でね」


「今、聞きなさい!!」


愚痴り若干拗ねだす劉焔に、関羽は慌て困らせた。


思わず声を張り上げてしまったが、劉焔はやっと関羽の方を向いて、


「ていっ」


「いたっ!?」


デコピンを放った。


「これは僕なりのお仕置き。簡単に生を棄てる人は嫌いだよ」


「うっ…………」


「ま、今話す事じゃないか」


そう言って、劉焔は真正面から呂布に対峙する。


「んじゃ、やりますか」


「!? さ、朔! それは私の――――――」





関羽愛用の――――――青龍偃月刀を構えて。


 

お疲れ様でした。



各陣営の話を入れてみましたが、華琳の出番が『鬼と連合1』以来の登場です。なんで、呉陣営より力入れちゃいました。


7ヶ月も未登場………ごめんなさいね、華琳さん達。



恋の話し方、書いてみて思いましたが、あの言葉足らずのたどたどしさ。どうすればいいの?



愛紗達と恋の戦い、原作だと一合ずつしか撃ち合ってないんで戦闘を伸ばそうにも、またどうすればいいの?、と考えた結果がアレ。愛紗さん暴走。


そして、朔のいつも通りの乱入。マンネリじゃん、と自分でツッコミいれました。ヤバイ。




感想、批判お待ちしてます。

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