表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真・恋姫†無双 〜羅刹戦記〜  作者: エアリアル
第参章 鬼と戦  反董卓連合編
17/37

鬼と連合5  ~シ水関前哨戦~

鬼と連合5


なんか長くなってしまいました。


久々にバトルあります。名ばかり戦記の返上の為にも、なんて言えませんが。

「さぁ! 連合軍総大将、袁本初の号令と共に、雄々しく、勇ましく、そして華麗に進軍しようではありませんかっ!」



そんな総大将の号令が耳に届くと、劉焔はうんざりとしながら行軍を開始した。


向かう先は、一つ目の難所であるシ水関。虎牢関と並ぶ難攻不落の要塞である。


そして、そこを守るのは董卓軍兵5万。その内の3万が主力部隊らしく、それを率いる将は――――。


「華雄?」


劉焔が聞き返すと、孔明は頷いた。


「董卓軍の中でも猛将で知られ、兵士達の人気も高い方だよ……かなりの強敵になると思う」


「良将にして猛将………難儀なものだな」


孔明の言葉に、趙雲は顔を渋くする。


「加えて、装備も兵の質も高く、士気も意気軒昂。難儀も難儀で厄介過ぎだよ」


「確かに。しかも、作戦が無いってのは不安になるな」


「……だけど、こと攻城戦に限って言えば、作戦や策らしきものは必要ではないです」


難題に頭を悩まされる劉焔と一刀に鳳統は言う。


「攻城戦はどう頑張ってみても、圧倒的に篭城側が有利ですから。……なので野戦とは違い、策というものは調略方面でしか活躍できないんです」


「っていうと、今回は作戦無しで火の玉特攻? そんな無謀極まれりなのヤダよ」


「袁紹さんなら言い兼ねませんけど、今回は1対多数の戦です。いきなり横から挟撃される心配も少ないでしょう」


孔明の言に理解を促されるが、結論としては何も変わっていない。


「やっぱり、作戦は特に無し、と」


「戦況を見て、その都度即応……という事しか言えませんです」


ごめんなさい、と鳳統は頭を下げた。


軍師として有効な策を立てられず、皆の役に立てていない自分が悔しいのだろう。


魔女帽を握る小さな手にぎゅっと力が入っていた。


「雛里」


そんな彼女に、朔は躊躇う事なく声を掛ける。


「天下の鳳雛殿が、今考えつかないなら仕方ないさ。雛里が分からないなら、僕なんか倍の時間使っても考えつかないよ」


でもさ、と彼は続け、


「考えついたなら、すぐ教えて。僕が雛里の望む戦況に変えてみせるから」


真っ直ぐ鳳統の眼を見て力強く宣言してみせた。


「……朔くん」


この少年がそう言った以上、多少の無理も無茶もするかもしれないが、自分の望む戦況へと確実に変えてくれるだろう。


鳳統には、劉焔が言を違えるのを想像できない。


だから、


「うん、頑張るね」


俯きがちだった暗い表情を消し、鳳統は笑みを返した。


「ほぅ。言うではないか、朔よ」


「何さ? 大言壮語だってのさ?」


「いや、お主は鬼であり、戦場を翔ける刃だ。その言は違うまい……だがな」


「朔だけに任せたら、何か心配のだ」


「そうだな。朔一人では心許ないな」


「ですね。逆に混乱させちゃうかもしれませんね」


「……何、この四面楚歌」


趙雲、張飛、関羽に孔明と次々と言われ、さすがに劉焔も顔を引き攣らせた。


鳳統はフォローしようとしているが、あわわ、と言って慌てていた。


「朔くんが一人で頑張る事ないからね」


劉備はしょげかけている劉焔の両肩に後ろから手を置いた。


「朔くんが雛里ちゃんの力になりたいようにね、私達だって愛紗ちゃんだって力になりたいの。

 だから、仲間同士協力したらもっと力になれるよね」


「……だね」


自分の間違いを諭され、劉焔はさっきの宣言を訂正する。


「“僕ら”が雛里の望む戦況に変えてみせるから。絶対にね」


「何やら大言壮語の度合いが上がってはおらんか?」


「そりゃそうさ。関羽、張飛、趙雲っていう物凄い武将に戦鬼までいるんだ。出来ない事の方が少ないんじゃないかな?」


「朔、良いこと言ったのだ!」


張飛ははしゃいで見せたが、彼の言葉の裏に隠された意味に気付いた面々は、苦笑いやら微笑を各々浮かべていた。


裏に隠されたた意味。



―――――出来る出来ないではなく、やってみせろ



そう言外に挑発してみせたのだ。


ただの挑発ではなく、信頼と一抓みの悪戯心を混ぜており、武人を心踊らせるには十分な効果があった。


趙雲は艶のある笑みを浮かべながら、


「いいだろう。我らの武勇の高み、見せてやろうではないか。なあ、関雲長殿?」


関羽も凛々しい笑みを浮かべ、


「そうだな。我らの仁と義の刃は匪賊を討つ為にある。董卓配下の将などに負けはしない」


劉焔に負けじと宣言してみせた。


そんな彼女らに頼もしさを感じながらも、一刀は再度問う。


「さて、ここから先は一方通行……後戻りもやり直しも無しだ。みんな――」





―――――勝つ心意気は十分か?




解っていながらも、確認するようにわざと聞いた。


首を振る者。


俯く者。


眼を反らす者。


笑ってごまかす者。


そんな事を、誰一人しないと解っていながら。


答えは、予想通り。皆、一刀から眼を反らす事なく頷いた。


「それじゃあ、甲羅に篭った亀には退場してもらいに行こうか」


一刀は視線をシ水関へと向けて言った。








あれから作戦はごく単純な考えから決まった。


城に篭っているなら、出てもらえばいい。


そんな単純極まりない考えを基点にだが、決まれば案外すんなりと流れが決まるもんだな、と劉焔は思った。


まず、第一に、華雄の武人としての誇り高さを利用し、城からおびき出す。


第二に、突出してくるだろう華雄軍を一旦受け止め、機を見計らい押し込まれたように後退しながら誘導する。


第三に、劉備軍の後ろに位置する袁紹軍に誘導した華雄軍を押し付ける。


しかし、問題はある。


第一の点で、華雄の武人の誇りを罵倒しおびき出すのだが、見え透いた挑発に簡単に乗るのか。


第二の点で、突出してくる華雄軍を誘導する為に戦線を疑われないように本気に崩さなければならない。失敗すれば、そのまま立て直し不可能な程に瓦解する可能性を孕んでいる。


「それは大丈夫です」


そう問題は無いと孔明は言う。


「第一の問題は、華雄将軍は己の武に相当な誇りを持っていますから、それを罵られれば黙っていませんよ」


「そんなに簡単な事かな?」


「朔よ、鈴々を見れば解る」


「にゃ?」


「……あ、納得」


関羽に言われ、張飛を見ると彼女が言わんとしている事が解った。張飛には悪いが、と前置きが必要かもしれないが。


「第二の問題は、恐らくといったところでしたが、それは朔くんが解決してくれました」


「僕が?」


自分が解決したと言われても、身に覚えが無かった。まだ董卓軍と戦ってすらいないのに、役立ったと言われても劉焔は首を傾げるばかりだ。


「……孫策さんの事だよ」


「孫策?」


少しむっとしながら鳳統が答えを教えてくれた。


「……今回の戦は連合軍だから、私達の旗色が悪くなれば他の諸侯が援護してくれる筈。

 皆さん、こんなところで負けてられませんから」


「じゃあ、袁紹さんだけじゃなく、みんなを巻き込んじゃえって事?」


「はい、乱暴に言うと桃香様の言う通りですね。

 ですが、朔くんが孫策さんと接触してくれた事で、手を貸してくれる事が確実になりました」


重要な問題点は解決。後は自分達の働き次第。


難儀なのは難儀なままか、と劉焔は内心で独り言ちる。が……


「…………ん?」


「どうした、朔?」


一刀に聞かれるが、遠くを見ながら劉焔は何でもないと首を横に振る。


「そうか? 愛紗、星、二人には先陣の中の先陣を任せる。上手く戦線を崩せるように頑張ってくれるかな」


「ふっ……やってみせましょう」


「大任ですね。やってみせます」


趙雲と関羽は力強い返事に、一刀は頷きを返す。


「朱里と雛里は二人の補佐を。俺や桃香は本陣で、崩れてくる愛紗達を援護する」


「お兄ちゃん、鈴々はーっ!」


中々自分の名前を呼ばれない事に痺れを切らしたか、張飛は不満げに聞いた。


「鈴々も本陣に居て」


「嫌なのだ! 鈴々も先陣が良い!」


開口一番に拒否。来るのは解っていた一刀だが、余りの早さにさすがに苦く笑った。


「イヤイヤ! 鈴々だって暴れたいのだ! 本陣で待機なんてつまんないのだ!」


「こら、鈴々! こんな時にそんな我が儘を言うな。朔だって本陣で待機なのだぞ」


「朔はそれがお仕事だからいいのだ! それに、この前戦うの面倒だって言ってたもん!」


「勝手にバラさないでよ」


我が儘発動でこっちにまで火の粉を飛ばすな、と半眼になる劉焔。そして、そのまま視線を一刀に向けた。


その視線を向けられた当人も、無言で訴えてくる息子の視線に促され、口を開いた。


「鈴々、間違えたらダメだ。鈴々にはとっても重要な役目をしてもらいたいから、本陣にいてもらうんだ」


「重要な役目?」


「そう。俺と桃香だけじゃ撤退してくる愛紗達を援護するには役者不足だし、朔じゃ経験不足だ。

 けど、鈴々だったら?」


「鈴々だったら大丈夫なのだ」


「だろ? 敵の追撃を何とか防ぎながら撤退してくる愛紗と星。そこに本陣を率いて颯爽と登場する鈴々……どう?」


「かっ、かっくいいのだ……」


途端に眼を輝かせる張飛。あと一押しと見た劉焔は一刀を援護する事にした。


「鈴々、天の国にはさ、“主役は遅れてやってくる”なんて言葉があるらしいよ」


「鈴々、主役!?」


「うん、主役主役」


「鈴々、本陣にいるのだ! それでね、お兄ちゃんを守りながら愛紗達の前に颯爽と登場するのだ!」


さっきと打って変わって、上機嫌になった張飛はぴょんぴょん飛び上がりながら受け入れてくれた。


「……お見事です、ご主人様」


「愛紗……」


労いの言葉を関羽はくれるが、一刀としては若干心苦しい。


口八丁を自覚しながら、張飛を丸め込んのだ。気分は、もうペテン師だ。


「口八丁、大いに結構さ。主上、物事に際して適切な言い方があるんだから、今の主上の言葉は間違ってない」


「ああ。作戦の要の一つは間違いなく、鈴々の援護だ。嘘を言ったつもりはないよ」


「よく解ってらっしゃる。ならば、主。鈴々の手綱はお任せしますぞ」


「了解。でも、俺がとやかく言うまでもなく、鈴々ならちゃんとやってくれるさ」


「しかし、あ奴は朔のようにたまに暴走しますからね。ご主人様、朔共々鈴々を宜しく頼みします」


「朔もか……」


関羽にそう言われ、暴走要注意の赤毛チビコンビを御しきれるか、一刀はかなり不安になる。


「ふむ。主よ、不安ならば、鈴々だけでもその可能性を低くしましょうか?」


「そんなの出来るのか? 星」


「はい。まあ、結果苦労するのは朔だけかと」


「僕に苦労を押し付けるな」


しれっと言ってのける趙雲に、劉焔は訴えるが、彼女はさらっと聞き流した。


「くそぅ……取り敢えず、孫策達に僕らの作戦を伝えてくるよ」


協力相手の孫策にも伝えておかなければ、ただでさえ揃えにくい足並みが尚更揃わなくなるだろう。


そう思い、劉焔は向かおうとしたが、誰かに袖を捕まれて邪魔された。


「だ、ダメっ!!」


なんて、言葉付きで。


「ひ、雛里ちゃん?」


孔明が驚きの余り、劉焔の袖を掴む彼女の名前を口にする。


心境としては、皆同じ気持ちだったろう。


何せ、あの鳳統が。内気、弱気、恥ずかしがりと三拍子揃った彼女が声を大にして劉焔を引き止めたのだ。


当の本人としては咄嗟の行動だったのか、綺麗な朱に染まった顔がありありと物語っていた。


「雛里?」


「あ、あの、その、あわ、あわわ!?」


「ひ、雛里ちゃん!?」


恥ずかしさが頂点に達したか、鳳統は叫びながら何処かに走って行ってしまった。


孔明も彼女を追いかけに行ってしまった為に、軍議の場に軍師がいなくなってしまった。


「雛里、どうしたんだろ?」


鳳統の意外な行動にキョトンとしている劉焔の後ろでは、劉備達がそんな彼の様子に溜息をついていたりするのだった。








劉焔はさっきからずっと悩んでいた。


鳳統が何処かに走って行った間に、劉焔は孫策陣営に赴いて作戦を伝えた。


その時に軽く鳳統にしては珍しい行動を彼女の名前を出さずに孫策と周瑜に話してみた。


すると、孫策は少し面白くなさそうな顔を浮かべ、周瑜はやれやれといった表情をして、


「もう少し女心も学ぶといい」


そう言いながら劉焔の頭を撫でた。


女心を学べと言われ、頭の中が疑問符で埋め尽くされる。心境としては、どうしろと?といった気分だ。


自陣に戻り、劉備に聞いてみた劉焔だが、


「ごめんね、私も教えてあげられないんだ。

 答えはいっぱいあって、どれも正解だったり間違いだったりするから」


そう言われ、また頭を撫でられた。


ごまかされた気もするが、どうやら女性でも女心とは難解なものらしい。


「女心って何なのさ?」


「戦の前に何を考えてるんだよ」


劉焔が独り言ちていると、一刀にツッコまれた。


「あ、主上。女心って何さ?」


「え、女心? ……………………………ごめん、俺も分からない」


男二人が頭を悩ませて出せる答えではなかった。


「それとさ………もう一個質問」


「何だ? 出来れば、女心とかそういうの以外で頼む」


「勝つ心意気は十分。なら、耐えられる?」


「っ!?」


鬼の双眸に見据えられ、一刀は一瞬息を呑む。


戦が始まれば、殺し合い、殺され合う。


人が、自分の知っている人も知らない人も死ぬ。


多くの人が命を落とす。


暗に小鬼は言ってくる。


迷いはないのかと。


辛くはないのかと。


苦しくはないのかと。


哀しくはないのかと。


「…………大丈夫だ」


声は震えていなかったか自信はないが、一刀は問いに答えた。


主として、なりより親として、この少年にうろたえている姿は見せたくない。


だが、


「…………そう」


短く答えたこの少年には、内心を見透かされている気がする。


劉焔にしてみれば、そんな強がりを見せてくれなくても良かった。


これは劉備にも言えるが、先にあった黄巾の乱を治めた経験があっても、人死にに慣れるようなしっかりと割り切った人柄ではないと知っている。


苦しみも迷いも抱えながら、それでも前に進もうとする意志こころの強さ。


それを持っているからこそ、今ここに立っているのだという事も知っている。


自分にそんな強さがあるかは解らないが、


(せいぜい気張ってみますか)


一刀との約を違える気はない。


「ちょっと行ってくるよ」


一刀の世界であれば、ちょっとコンビニまで、みたいなノリで劉焔は言った。


「珍しいな、言ってから動くなんて」


「今朝怒られたばっかりだからね…………何も無ければそれでよし。30分経って戻って来なかったら援軍頼むよ」


劉焔は一刀に背を向け、歩き出す。その歩みの先は進軍方向とは逆だ。


「無理するなよ。危なくなったら、すぐ戻ってくるんだ」


仕方ない、といった表情で一刀は劉焔を送り出す。


「まあ、ほどほどに暴れてくるよ」


劉焔は後ろ手に振る。


その瞬間、彼の姿は消えた。








風が渦巻き砂塵が舞う中、華雄は戦場を突き進んでいた。その後ろには彼女を慕う兵達が隊列を乱さずに追従している。


向かう先は、連合軍の“後方”。奇襲を以て、先手を打つために彼女らは駆けていた。


華雄はシ水関を既に出ていたのだった。兵の数は奇襲する為にも多くはないが、大きく迂回するようにルートを取って連合軍に気付かれないよう行軍していた。


それに華雄は手応えを感じていた。


事実、連合軍は何処も気付いた様子も目立った行動を起こしていない。


「行くぞ、我が精兵達よ! 連合の奴らに一泡吹かしてやろうぞっ!」


『応っ!!』


華雄の檄に兵達は力強く答え、足取りが一段と速くなる。


士気は上々。これならば奇襲をし損じる事はないと華雄は確信する。


だが、


(…………何だ、あれは?)


その順調な行軍の前に、阻むように人影が現れた。


遠方に見える人影は黒衣の戦装束に、一本角の如く刃の付いた真紅の兜を纏っている。


その容貌にどこか聞き覚えがあった。


思い出せそうで思い出せない。喉元まで出ているのに、後一つきっかけが足りない。


「華雄様、あの者を如何致しますか?」


「あ、ああ。このまま蹴散らすぞ」


部下に聞かれ、華雄ははっ、となりながらも命令を下す。


間違ってもあれはただの一般人ではない。ここ一帯の住人であればここが戦場へと変わっている事を知っているだろうし、ましてや防衛の為とは言えどあんな変わった兜は被らないだろう。


「私が行きます」


部下の一人が先行し、それに他の3人が続く。


近付けば分かったからだろう、相手は年端も行かぬ少年だと。


「小僧、ここで何をしている!?」


強く問い質されるが、少年は退屈そうな視線を返すだけ。


互いにその眼を見合わせた瞬間、兵士達は思わず後退あとずさった。


少年の双眸は人のそれではない。


異形の眼。


「何、臆したのさ?」


少年は笑う。


情けないと嘲笑った訳ではなく、当然の反応だと笑った。


「ぐ……」


「さて、ここで何してるか、だっけ。答えは簡単、あんたらの邪魔をしに来たのさ」


「は……」


兵達は少年の言葉に唖然とする。いきなり何を言うかと思えば、かなりとち狂った内容。腰に双剣を()いてはいるが、それでも独りで何が出来るというのか。


「あ、そうそう。僕、反董卓連合の一員だから」


「何っ!?」


連合という言葉に反応し、兵達はすぐ様抜刀する。対して、少年は何も行動を起こさない。


「反応が速いね。けど、刃を抜くのが遅過ぎだ。あと、子供だろうとこんな戦場ところにいるんだ、もっと警戒しなよ」


「黙れ、小僧っ!!」


「小僧ではあるけど、僕にも名前があるんだ。ついでだし、倒される前に聞いていきなよ」


少年は双剣の柄を握り、


「僕は劉焔翔刃って鬼で、あんたらの敵だ」


瞬間、黒と白の閃光が4つ閃いた。


叫び声一つあげず、崩れ落ちる兵達。


骸となった者達に一瞥をくれ、劉焔は双剣に付いた血を振り払いながら華雄を見る。彼の鬼眼が次に華雄を見遣った時、彼女はある噂を思い出す。


平原の相の傍らには天の御遣いがいる。そして、彼の徳に打たれ、守護する戦鬼がいると。


鬼は御遣いに仇なす賊を許さず、彼と彼を慕う民を守る為ならば千の賊にも恐れず立ち向かい、その力を振るうという。


(それが、この小僧だというのか……)


華雄はぎりっと音が鳴る程に歯を噛み締める。


心を占めるのは落胆と怒り。


鬼と呼ばれる存在が本当に噂程の力を持つならば、彼女は一人の武人として槍を交えてみたいと思っていた。


だが、蓋を開けてみれば、正体は小生意気な小僧だった。


4人の兵を一瞬で倒したのは見事だとしても、華雄は己の武はその上を行くと自負している。


「貴様、本当に賊狩りの戦鬼なのか?」


「誰が言い始めたかは知らないけど、そうらしいよ。まあ、何だっていいさ。僕は仲間を守るだけだ」


「はっ。小僧一人で何が出来る?」


「ああ、出来る事なんて限られてるよ。でも、何も出来ない訳じゃない」


「所詮、世を知らぬ餓鬼であったか。やれ!」


また数人の兵が劉焔に襲いくるが、迫る刃を軽々と避けてみせる。


「そんなに死に急がなかくてもいいんじゃないの」


軽口を叩きながら、向かってくる兵を全員蹴り飛ばした。


「逝くなら、鬼の奇術でも見てから逝きなよ」


そう言うと、劉焔は双剣を真横に投げた。


突然敵もいない方向へと自身の武器を投げるという暴挙に、驚きの余り皆足を止めてしまう。


劉焔がにやりと口端を吊り上げた瞬間、放物線を描く筈の双剣がピタリと止まる。


「さよなら」


劉焔が空手となった両腕で振るう。それに連動するように双剣が宙を駆けた。


「莫迦な!?」


華雄が驚きの声を上げ、目の前の光景を否定した。


剣が縦横無尽に宙を舞っている。持ち主の手から離れて尚、意を汲んだように敵に襲っていく。


それだけでも有り得ないというのに、その刃は兵の首を斬り飛ばし、胴を薙いでいく。


信じられない。


信じたくもない。


華雄も兵達も同じ心境だった。


しかし、現実は否定したところで変わらない。小さな戦鬼が、命を絶っていく事でそれを直視しろと突き付けていく。


劉焔が右腕を振るう。


干将の黒刃が兵達の腕を断ち、足を裂く。


劉焔が左腕を振る。


莫耶の白刃が兵達の首をまた幾つも斬り飛ばした。


「嘘だ……」


華雄は、また現実を否定する。


「有り得ん……あってたまるか……」


「ぐあぁあああ!」


兵達の断末魔が聞こえようと、まだ否定する。


「あってたまるかあああああ!!」


否定はいつしか叫びに変わり、華雄は自身の戦斧、金剛爆斧(こんごうばくふ)を強く握り締め駆け出した。


「この餓鬼がぁああああ!!」


華雄は振り上げた金剛爆斧を叩きつける。戦斧から手に伝わる鋼の感触に苛立ちが一段と燃え上がった。


「来たか、良将にして猛将」


手に戻した干将で戦斧を受け止めた劉焔は冷笑する。


「恐いのかな、あんたもさ?」


「貴様ごとき恐るるに足りんわ!」


強く華雄も言い返すも、冷笑は消えない。


「そうなんだ。だったら、その手の震えをさっさと止めなよ」


「ぐっ!?」


華雄は後ろに跳び、劉焔から距離を取る。


「動揺もしてるなよ」


冷ややかに言い放ち、劉焔は宙を舞わせていた莫耶を華雄に向かって飛ばす。


華雄は金剛爆斧でそれを防ぐが、視界が急に薄暗くなる。刹那、咄嗟(とっさ)に金剛爆斧を振り上げると、劉焔が振り下ろした干将と戦斧の柄が激突した。


「いい反応だね」


「舐めるなよ、小鬼ぃいい!」


「おっと」


一瞬の鍔迫つばぜり合いで押し返され、劉焔は後ろに飛ばされた。


「……片手一本じゃ時間かかるかな」


劉焔は莫耶も手に戻し、干将と莫耶の両方を構える。


それに華雄は眼を細めた。


「貴様、私を片手だけで倒す気だったのか?」


「さてね。そう思ったなら、それが真実じゃないのさ?」


「貴様……」


「怒りに燃えるのは結構。その分、生き抗いなよ!!」


ダンッ!と音がした瞬間、劉焔の姿は消え、華雄は黒と白の閃光を見た。


必死に迫る閃光を金剛爆斧で受けて防ぐが、閃光の瞬きは衰えるどころかその速さと重さを増していく。


華雄に驚きの声をあげる暇さえ与えないまま、連撃は続く。


続く。


続く。


続く。


まだ続く。


そして、


「ぐあああっ!!」


連撃に耐え兼ねた戦斧が宙を舞う事で唐突に終わりを告げ、


「これでおしまいだ」


戦鬼が終幕の刃を振り下ろす。






「――――――ざ〜んねん。エンディングは、まだ先っすよ」






突然現れた白銀の閃光が振り下ろした干将を弾き、そのまま劉焔に迫る。


「ちぃっ!」


咄嗟に莫耶で弾いて横に転がるようにして避けるが、刃が頬を掠め血で朱に染まった。


劉焔は突然の乱入者に敵意を向けようと睨むが、その乱入者である女性に敵意をぶつけられなかった。


赤みがかった長い茶髪。それを頭の後ろで上から小中大の3つのポニーテールで束ねている。


丸くぱっちりと開いて愛嬌のある藍色の眼。自分と似た黒の戦装束を纏い、両腕両足に計4つのリングをはめている。


そして、手には自身の身の丈はありそうな白銀の突撃槍を持っていた。


「やあやあ、奇遇っすね。小鬼ちゃん」


明るく言う乱入者だが、劉焔は答えない。


「むぅ。無視はいけないんすよ? お姉ちゃん、傷付いちゃうっす……」


「…………でさ」


「はい?」


「何でさ!? 何であんたがここにいるっ!?」


「それはこっちの台詞っす。しかも、人がこんな砂埃(すなぼこり)舞ってる中やって来たのに、小鬼ちゃんが友達を殺そうとしてるなんて」


「華雄は僕の主の敵だ」


「敵? ありゃ、小鬼ちゃんは反董卓連合の一員っすか」


そっかぁ、と乱入者は一度頷き、華雄を担いだ。


「なっ!? こら! 旭!! 放せ!!」


「だーめっすよ! 負け犬ちゃんはゴーホームっす」


「訳解らんことを言うな!!」


「退却するって言ってるんすよ」


「まだだ! まだ私は……!」


じたばたと暴れる華雄を器用に担ぎながら、旭と呼ばれた乱入者は劉焔を見る。


「追ってくるっすか?」


「追わない。奇襲に足る戦力は削ったし」


「そっすか。助かるっす」


「…………早く行きなよ」


「…………そうさせてもらうっす」


あはー、と笑いながら乱入者は歩を進め、ふと足を止めた。


「ねぇ、小鬼ちゃん」


「何さ」


「今は名前あるんだよね? 教えてほしいな」


「…………劉焔、翔刃」


「ありがと。またね、小鬼ちゃん」


乱入者は今度は立ち止まらず、生き残っていた兵を引き連れ退却した。


「……何が、またね、だよ。ばか旭……」


その場に独り(たたず)み、劉焔は独り言ちた。

えぇ……前書き通り、だらだらと長く書いてしまいました。過去最長、更新しちゃいましたよ。


戦闘に力を入れようとした結果がこれです。描写が解りにくかったと思います。


本当にすいません。


そして、最後の乱入者ですが、二人目のオリキャラ登場です。


予想つく方もいるかと思いますが、正体は次回で。


感想、ご指摘お待ちしてます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ