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真・恋姫†無双 〜羅刹戦記〜  作者: エアリアル
第参章 鬼と戦  反董卓連合編
16/37

鬼と連合4  ~予想外な申し出~

久々の短期間での更新出来ました。でも、話がちょっとしか進まない……

「ふあっ……」


劉焔は欠伸を一つ零すと、半分しか開いていない眼をごしごしと擦った。


単純に眠くて堪らない。


呉の陣営より戻ったはいいものの、それからとった睡眠時間が短く、子供の体には不足も不足だった。


足りない分を補え、と眠気が全身に訴えてくるのだ。


「朔、休むか?」


流石に頭が揺れ出したのに心配になった一刀が聞くが、劉焔は首をふるふると横に振った。


「でも、眠いんだろ? 後ろに下がって桃香に休ませてもらいな」


優しくもう一度、(たしな)めるが、それでも彼はまた首をふるふると横に振り、


「……やだ。お父さんといる」


「――――っ」


一刀のズボンをぎゅっと握って、離れないと意思表示した。


一刀にしてみれば、ガツンと衝撃を受けた気分だ。


主としての一刀なら、劉焔の自分に対する呼称が“父”になってしまう程に眠くなってる事にすぐ気付いただろう。


だが、少し父としての自分が混じっていたせいか、義理の息子が眠いのを我慢して一緒にいようとするいじらしさに打ちのめされてしまった。


「? お父さん?」


「…………はっ、思わず和んでしまった。ならさ、俺がおんぶするからさ。そしたら、一緒にいられるし、眠れるぞ」


「……うん」


一刀の提案に劉焔はコクンと頷く。一刀は劉焔を背負うと、すぐに耳元で小さな寝息が聞こえた。


(ごめんな)


一刀は心中で劉焔に謝る。


劉焔を背負った時、その軽さに罪悪感が募ってしまったから。


劉焔の体格に合った重さであり、軽さ。


そんな自分より幼く、小さなこの少年に苛酷を強いてしまっている。


人を殺させている。


いくら理想の為とはいえ、その事実は変わらない。


昨晩も、一刀はふと眼が覚めると劉焔がいない事に一瞬動揺しかけた。


心を落ち着かせ、彼の代わりに護衛にいた趙雲に話を聞き、そこで罪悪感に苛まれていた。


確かに守ってくれと頼み、その役に就けた。


しかし、それで良かったのかと、正しかったのかと悩んでしまう。


「おや。どうしました、主?」


「あ、星、桃香」


声に振り返ると、劉備と趙雲がいた。


「朔くん、寝てるんだ。あは、寝顔可愛い」


「確かに。これを見て、誰がこ奴を賊狩りの戦鬼と思いますかな」


寝てる劉焔の頬をぷにぷにとつっつく劉備。趙雲は劉備の言に仕切に頷くと、


「さて。それで、主は何をお悩みです?」


やれやれといった感じで聞いてきた。


「あー……解る?」


「それはもう。昨晩も同じ顔をなさってましたからな」


「うんうん。ご主人様、今すっごく辛そうな顔してたよ」


そこまで顔に出てると言われれば、否定もごまかす事も無理だった。


一刀は悩んでいた事を素直に告白すると、


「なんと。そんな事でお悩みなのですか」


と、趙雲は一笑に付した。


「星……俺、結構まじめに悩んでるんだけど」


「そうなのでしたら、申し訳ありませぬ。いえ、主もしっかりと親をしてらっしゃると思いましてな」


「本当に出来てるのかな……」


「親の悩みの9割は子についてだと思いますが。主の場合、我らの御旗でもありますから、5割程度ですかな」


「残りの5割は?」


「我らに関してが3割5分、残りが政などといったところかと」


「…………」


すっごく不真面目な主の評価を頂きました。


「ごめんなさい」


「それは朔くんにもだよ」


「朔にも?」


「だって、朔くんはご主人様の事、大好きなんだよ? 朔くんの気持ちを無視して、そんな事考えたら酷いよ」


「それに、朔にそのような事を考えてしまえば、次は朱里や雛里、その次は鈴々へと、その気持ちは移ってしまいますぞ。

 そして、それは同じ理想を持つ彼女らへの冒涜と変わりませぬ」


そんなつもりで考えていた訳ではないが、劉備と趙雲の指摘は一刀の心に突き刺さった。


「どうしたら……いいのかな」


思わず零れた呟きに、


「今のままでいいと思うよ」


答えたのは劉備だった。


「悩むのは、その人が大切だから悩むんだと思う。だから、あっさり答えは出ないし、出しちゃダメだよ、きっと」


ふにゃ、とした劉備の笑顔に、一刀は暖かいものを感じ、劉玄徳の人に対する優しさの深さを改めて実感した。


「そうだな。簡単に答えを出しちゃダメだよな……よし、悩むのは後だ。今は、これからの戦いをどうするかだ」


頭を切り替え、目先の問題に思考を移す。


「それじゃ、みんなで集まって―――――って、うわっ!?」


寝ていた筈の劉焔が一刀の背中からいきなり飛び降り、


「さ、朔!?」


呼び掛けにも答えず、劉焔は着地と同時に走り出した。


「朔くん、どうしたんだろ?」


「恐らく、他の諸侯の誰かが訪ねて来たのでしょう」


首を傾げる劉備に、趙雲は劉焔の様子から予想した。


他の諸侯と言っても、公孫賛ではないのは確かだ。それならば、劉焔が一刀の呼び掛けにも答えず走り去る訳がない。


(どうやら大物が来たようだな)


趙雲は劉焔が行った先を見ながら、ふむ、と一人頷いた。








劉焔は走りながら、劉備軍にいる筈のない気配が陣営内に入って来た事に驚いていた。


(何でいるのさ!?)


知らない気配ではない。しかし、他の誰かに任せて放っておくにはいかない相手だ。



何せ――――――




「……下がれ、下郎。我は江東の虎が建国した孫呉の王!」




呉の王、孫伯符その人なのだから。




「王が貴様の主に面会を求めているのだ。家臣である貴様はただ取り次げばよい」


王の風格を露わにし、対峙する関羽に命令する。それに歯噛みして関羽も声を張り上げだした。


「何だとっ! 我らには主を守る義務がある! 例え、王といえども不信の者をご主人様と桃香様に会わせられるか!

 それでもまかり通ると言うならば、この関羽が相手となろう」


関羽は青龍偃月刀を構えるが、


「ほぉ…………大言壮語だな、関羽」


それに孫策は不敵な笑みを返し、己が得物の剣を抜き放つ。


「ならば、相手になってやろう」


一触即発か。


じりじりとした緊張が空気を変えていく。


関羽と孫策の周りの兵に動揺が走りかけているのが、関羽の眼には入っていないようだ。


関羽の近くにいる張飛も、その事をまるで気にしていない。彼女の事だから、二人の様子に気付いてるからだろうが。


仕方ない、と溜息を吐きつつ、


「はい、物騒な事はよしなよ」


「あぐっ」


一気に接近して関羽の後ろを取ると、彼女のポニーテールを引っ張った。


「朔! また首がグキッとなったではないか!」


「それは謝る。けど、関雲長ともあろう人が、武器を構えて周りに不安の種を蒔かないでほしいな」


「く……」


「非礼があったなら詫びる。そっちも武器を納めてほしい」


劉焔は関羽を窘め、孫策の方を向くと彼女も剣を納めてくれた。


「こんにちは、小鬼くん。半日ぶりくらいかしら」


「そうなるのかな。で、孫策は何しに来たの?」


「あら、いきなり本題。もっと親交を深めようとか思わないの?」


「どうだろ。主に刃を向けない限りはそう思うよ」


「つれないわね」


むぅ、とむくれる孫策に、劉焔は淡々と返した。


そんな孫策の後ろでは周瑜が軽く頭を抱え、劉焔の後ろの関羽と張飛は眼を丸くしていた。


「周瑜、今回のご用向きは?」


「ちょっと、何で私じゃなくて周瑜に聞くのよ?」


「孫策だと話が進まなそう」


「小鬼は中々の慧眼を持ってるようだ」


周瑜がクッ、と喉で笑うと、孫策のむくれ度があからさまに一段階上がった。


「私達の用とは、お前の主に挨拶と提案があってな」


「ふーん……ま、いいでしょ」


「朔!?」


「関羽と違って、小鬼くんは物分かりがいいわね」


「違う違う。騒ぎを起こしかけたからね、呼ばなくてもうちの主達は飛んでくるんだよ」


お人よしだから、と劉焔が小声で付け加えると、一刀と劉備が息を弾ませて走ってきた。


「愛紗ちゃん、どうしたの?」


「桃香様! それにご主人様まで!?」


「遠くから今にも戦いそうになってるのが見えて、かなり焦ったよ」


苦笑を零す一刀に若干の罪悪感が沸いたのか、関羽は顔を(しか)めた。


「愛紗と孫策お姉ちゃんがちょっと喧嘩したのだ。でも、二人とも本気じゃなかったし、朔が愛紗を止めたから、お兄ちゃんもお姉ちゃんも心配しなくていいのだ」


「あら、私が本気じゃないって、どうして解るのかしら?」


「武器を構えたのに殺気がないのだ。だから、鈴々は安心して見てたのだ」


「ふーん……凄いわね、張飛ちゃん」


「お姉ちゃんもな〜」


互いを褒め合う二人を見ながら、劉焔は溜息を小さく吐いた。


やっぱり気付いていたという確信と、自分より早く場を治めてほしかったという疲れ成分を混ぜて。


「孫策さんでよかったかな? 愛紗が迷惑をかけて、すまない」


「すみませんでした」


「いいわ、気にしないで。関羽も本気じゃなかったろうし」


一刀と劉備が頭を下げると、孫策は手を振って答えた。


「それで……貴女が劉備?」


「はい。私が劉備です」


「じゃあ、こっちの貴方は?」


首を傾げながら孫策が聞くと、


「天の御遣い……北郷一刀、だな?」


答えを口にしたのは、周瑜だった。


「ああ、俺が北郷一刀だよ。天の御遣いって呼ばれてる」


「冥琳、知ってるの?」


「官輅という占い師が謳った、戦乱の世に太平を齎す存在。それが劉備に与していると聞いた事がある。

 それに、独特の意匠が凝らされた光り輝く服。一目瞭然だ」


「へぇ…………」


しげしげと一刀と劉備を孫策は見る。上から下まで嘗めるように見終えると、次に劉焔に視線を移した。


「昨日の夜に小鬼くんが言ってた、変わった主ってこの二人よね?」


「そうだけど――っ」


猛烈に背筋に冷たいものが流れた。


原因は解る。何せ、自分の事だから。


ゆっくりと劉焔は振り返ると、怒気が全身から滲み出る関羽がいつの間にか後ろにいた。


「昨夜、見回りに行って中々帰って来なかったと聞いていたが……そういう訳か」


「あ、あはは……」


「さ〜く〜……!」


「ひゃぐっ!?」


「またお前は勝手に行動しおって!!」


「ひぃあああ!!」


関羽に両頬をぐにゅっーと引っ張られ、劉焔は軽く悲鳴をあげた。


その様子に、孫策と周瑜はポカンとしてしまった。


関羽にされるがままに怒られている劉焔に、孫呉の王を前に不敵に飄々としていた昨夜の彼とは全く違く、見る影も無かったからだ。


「あ〜、見苦しいとこを見せてすまない。うちの子、勝手に動く事が多々あってね」


「なるほど。その苦労、理解できるな」


苦笑する一刀に周瑜は同情すると、孫策に目を向ける。だが、孫策は存ぜぬとばかりに首を傾げて見せた。


周瑜が頭痛を堪えるように頭を抑えると、


(朔は、まだマシな方か)


と内心胸を撫で下ろした一刀だった。


「それで、孫策さんは何しに来たんだ?」


「貴方も率直に聞いてくるのね。まあ、話を進め易くていいけど」


「我らの用件はそこの小鬼にも言ったが、挨拶と提案をしにきた」


「提案ですか?」


「そ。貴女達、先鋒にさせられたのよね?」


「はい…」


「どう? 勝てる見込み、あるかしら?」


「正直言って、解らない。愛紗や鈴々達がいくら強いと言っても、兵の数が絶対的に違い過ぎる」


「董卓さんの軍勢とまともにぶつかれば、きっと負けちゃうと思います」


肩を落として答える一刀と劉備。それを見た関羽から解放された劉焔は、彼女に引っ張られた頬を撫でながら孫策の質問を不審に思った。


戦いの基本は、相手よりも多い数で挑むことだと、劉焔は孔明と鳳統に頭に叩き込まれていた。


基本も基本が守れていない劉備軍が勝つなど、天の加護があっても難しいだろう。


そんな分かりきった事を、嫌味でも何でもなく孫策は聞いてきたのだ。まさかな、と劉焔は思ったが、その予想は的中する。


「そうよねぇ。だったらさ、手を組まない?」


「へっ!?」


劉備が驚きの余り間の抜けた声をあげるが、それは仕方のない事だろう。声に出さなかっただけで、心境としては一刀達も一緒だったのだから。


「孫呉の軍と劉備軍が協力して先鋒を打って出る。どう? これなら兵の数に関しての心配は減るでしょ?」


「兵に関しては、袁紹からの支援を受けてしまってるんだよな……」


「でも、使い物になるのかしら?」


「ぐっ……」


孫策の言に、関羽は歯噛みした。


確かに袁紹軍の兵を借りる事で数は増えた。だが、問題は兵の質だった。装備は財力頼みの立派な物を皆身につけているが、兵一人一人の質は決して高いとは言えなかった。


しかも、元が他軍の兵だ。自身が鍛えあげてきた精兵ではない為、戦場での指揮に対する反応と対応速度はどうしても遅くなるだろう。


その点、孫策率いる呉軍ならば問題は少ない。


兵の質は申し分ないだろうし、直ぐさま足並みは揃えられないとしても、指揮は孫策に任せておけば劉備軍の指揮系統と混乱しないだろう。


「…………それで、孫策さんにはどんな得があるんですか?」


それでも、劉備は提案にすぐに飛びつく事は出来なかった。


「あら、しっかりしてるのね」


「えへへ、鍛えられてますから」


見た目ぽわっとした劉備が、魅力的なこの提案にすぐ飛びつかなかった事が孫策には少し意外だったのだろう。


うん、と一度頷き、孫策は口を開く。


「いいでしょう。貴女“達”を信じて、胸襟を開きましょう」


(…………ん?)


“達”の部分を若干強めに孫策が言った瞬間、劉焔は彼女の視線がこちらに一瞬向いたのに気付いた。


それが気になりはしたが、今は彼女の話に耳を傾けた。


「知っているかどうか分からないけど。呉の土地を奪われた私達は今、袁術の客将という身分に甘んじているわ」


だが、このままで終わるつもりは無い、と孫策は語る。


彼女の母、孫堅が命を燃やし、広げた呉の全ての領土の回復。


それが、孫伯符を筆頭にした呉の民全ての叶えたい――否、叶えなくてはならない宿願なのだと。


「この先待ち受ける割拠の時代。だから、敵は少ない方がいいし、外の味方もいれば尚良しって訳か。

 そこで、俺達を選んだのか?」


「察しが良くて助かるわ、御遣いさん。それに味方が必要なのは、貴方達も同じでしょ?」


「……ああ」


「ほら、利益は一致した。手を組むには十分な理由だと思うんだけど…………私の勘違いかしら?」


その言に勘違いも間違いもない。孫策の言う通り、味方がいる事に不都合な事は無いだろう。


劉備の治める領地は、周りを他の諸侯がひしめく位置にある。


東には、公孫賛に袁紹。


南には、董卓に曹操。


公孫賛は、劉備と旧知の間柄という事と彼女の人柄から侵略の可能性は極めて低い。


董卓は、今回の戦いで連合軍に討たれるだろう。


この二人を除いても、大領主たる袁紹とあらゆる面で優れている曹操の存在は、眼を閉じても反らしても無視できる存在じゃない。


図星を突かれ、誰もが声を詰まらせた。


「俺達を選んだ理由は? それも聞かせてほしい」


その中、一刀は真っ直ぐ孫策を見据えて問う。


それに孫策は指を一本立てて答えた。


「貴方達が義理堅そうだから。これが最大の理由」


更にもう一本指を立て、


「次に、貴方達と私達の勢力が五分五分だから」


最後に、と三本目の指を立て、


「そこの劉焔翔刃って小鬼を、私が気に入ったからよ。

 これが孫伯符の一番の理由」


綺麗な笑みを浮かべて、孫策は言い放った。その後ろでは、周瑜が困ったように苦く笑っていた。


劉焔はそんな周瑜の様子から、孫策が本気で言ってるらしい事を悟ったが、


「…………」


後でされるだろう目付け役のお姉様のお説教レベルが、もう一段階上がったのも同時に悟った。


「このご時世に会ったばかりの人に、簡単に死んでほしくない、なんて本心から言う子を信用してみたくなったの」


「はい、朔くんが嘘でそんな事言う筈ありません!」


孫策に加え、胸の前でぎゅっと拳を握って断言する劉備にそこまで言われ、劉焔としては気恥ずかしい限りだ。


隠れるように関羽の後ろ腰に抱き着いて、劉焔は赤くなりそうな顔を隠した。


「あ、朔が照れてるのだ」


「…………ぅるさい」


「ふふっ……」


目敏く気付く張飛に一言だけ返すと、関羽は何も言わずに微笑みながら彼の手に優しく自身の手を被せた。


「朔の事、そう言ってくれると嬉しいよ。けど……」


「信義を見せろ、と言いたいのだろ?」


周瑜が言葉を先読みしてみせると、一刀は静かに頷いた。


「いいでしょう。なら、見せてあげましょう」


孫策は踵を返し、


「孫呉の戦い振り、その眼に焼き付けなさい。もし、私が信頼するに足らないと判断したのならば、それはそれでよし」




―――――戦場で矛を交えるだけよ




そう告げると、孫策と周瑜は自陣へと帰って行った。








「そんな事があったんですか」


一刀と劉備から孫策達が来訪した経緯を聞いた孔明はほへぇっ、としながら言った。


「朔くん、江東の麒麟児さんに気に入られるなんて凄いですね」


「まあね。けど、そこに行くまで独り勝手な行動したのは許されないよ」


「ああ、だから、あんな風になったんですね」


孔明が視線を向けた先には、関羽に抱き上げられてる劉焔がいた。


抱き上げてる関羽は顔が緩みそうになるのを必死に堪え、趙雲は意地の悪い笑みを浮かべながら、げんなりとした劉焔の頬を突いていた。


「うん。ああやって愛紗のご機嫌回復中」


「星ちゃんは……よく分かんない」


「はぁ……その後は雛里ちゃんですね」


「だな」


「だね」


劉焔が孫策に気に入られたと聞いて以来、本当に少しだが鳳統はむっとしていた。


普段内気、気弱、恥ずかしがりと三拍子揃った彼女にしては珍しい反応だった。


「……な、何ですか?」


一刀と劉備に孔明の視線に気付いた鳳統が聞くが、三人は何でもないと首を振った。


「それで作戦だけど、どうしよっか」


「そうですね…………」


孔明は顎に手を当てて腕を組みながら、思考する。


「兵の数は袁紹さんに、質は孫策さんが協力してくれるという点ではある程度改善されましたが、苦戦する事には変わらないでしょう」


洛陽へ向かう道は二つ。


距離は短いが、東のシ水関と虎牢関と最難所が二つ続く道。


距離は遠くなるが、難所が極めて少ない西の函谷関の道。


とは言うものの、選択する余地は劉備達が連合軍に合流した時点で無くなっていた。


ただでさえ、総大将を決めるのにかなりの時間を浪費しているのだ。これ以上董卓軍に防備を固める時間を与えるような真似は避けたい。


「となると、東のシ水関と虎牢関を抜けるしかないか」


「難攻不落絶対無敵七転八倒虎牢関を抜くとなると、かなり厳しい戦いになりそうですね……」


「何だか物騒な四字熟語がいっぱい並んでるね」


「……それ程強大で凶悪な要塞だって事です」


虎牢関は、その両脇に崖がそびえ立ち、董卓のいる洛陽に向かう一本道にあるらしい。


正面からしか攻撃できないという防衛には最適な要塞。聞いているだけで鬱になりそうだ、と一刀は思う。


「敵軍の配置状況はどうなのだ?」


「大分前に斥候を前線に放ちましたから、おっつけ情報が集まるかと」


ご機嫌回復した関羽が質問すると、孔明はすぐ様答えた。


さすが伏龍といったところか、如才ない働きだった。


「とにかく、今は出来る限りの情報を集めるのが肝要かと」


「うむ、情報がなければ作戦は決まらんからな」


劉焔をいじり終えた趙雲も戻り、一刀の方を向いた。


「ならば、主よ。今は勇を鼓して出陣しようではありませんか。いつまでも暗い顔していると、全軍の士気に影響しますぞ」


「そうだよ。人は危機の中にも、好機を見付けられるらしいし」


ボスッと背中に重さを感じた一刀は振り返ると、飛び乗ってきた朔の顔が見えた。


「まあ、死中に活を見出だせ、なんて実際には言わないけど。今呼び寄せられる活を最大限に利用しようよ。

 皆で生き残る為にもさ」


「皆で生き残る為に…………」


劉焔の言葉を一刀は呟いた。


暗い顔をしていれば現状は良くなるのか?


否。


落ち込んで、嘆いていれば現状は良くなるのか?


否。


そんな事は、決して有り得ない。


勝ち負けだけを考えるな。


考えろ。


状況を最大限に活かし、いかに損害を抑え、どうやって皆で生き残る方法を。


一刀は自身に何度も言い聞かせる。


「………よし、足掻くぞ。俺達は洛陽の人達を救う為に来たんだ、袁紹の捨て駒になんかなってやるものか!」


一刀は強く言い放つ。


その言葉の力強さに、劉備達も深く頷いた。


「全軍に出陣の準備を通達。愛紗と星には、袁紹軍の兵士の采配を頼む」


「「御意」」


「朱里と雛里は袁紹からの兵糧の再確認。それと、斥候が戻り次第、その情報を基に作戦をすぐ立てられるようにしてくれ」


「御意です」


「はい!」


「お兄ちゃん、鈴々は?」


「はい、はーい! 私は?」


「鈴々は朔と一緒に俺と桃香の護衛を頼むよ。桃香はいつものように」


「うぅ、待機してればいいんだね……」


数秒前まで手を挙げてテンションを高くしていた劉備は、途端に肩を落とした。


落差激しいなぁ、と思いながらも劉焔は劉備に近寄り、彼女の耳元で、


(主上の近くにいられるって思えば?)


そう囁いた。


すると、


「あ、そういえばそうだね」


と一瞬で立ち直った。


「…………朔、何言ったんだ?」


「さてね。鬼のちょっとした気遣いだよ、気にしないで」


「そうか? …………それじゃ、みんな。準備に取り掛かろう…………悔いの無いように」


付け足されるように出たその言葉は、一刀が激戦を予感したが故か。


軽い戦慄を覚えながら、彼らはそれぞれの持ち場に向かった。

また出しちゃいました、雪蓮と冥琳。


一話丸々お休みだった蜀メンバー。やっぱり人が増えるとセリフ割り当てが大変です。


そして、あんまりセリフの無かった朔、鈴々、朱里、雛里のチビーズ。朔以外は影薄くなるなぁ、と再確認してしまいました。


そして、最後に反省。予定では最後らへんに戦闘入れる筈でした。


でも、入れられませんでした……次回は入れられるかなぁ……。



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