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真・恋姫†無双 〜羅刹戦記〜  作者: エアリアル
第参章 鬼と戦  反董卓連合編
14/37

鬼と連合2  ~弱小の悲哀  呉への往訪~

やっつけのうえ、グダグダな内容になってる気がします。

「連合の先陣を任された?」


自陣に戻り、一刀達から軍議での顛末を聞いた劉焔は、半眼で呆れながら聞き返した。


はい、としゅんとなりながら、主二人は答えた。


軍議の場に乗り込んだ一刀と劉備は、直球で早く総大将を決めてほしい、と正攻法で訴えた。


これは公孫賛が言っていた、本心を隠した腹の探り合いによる時間の浪費を終わらせる一手になる、と一刀は考えた。


互いに責任を負う事を避けようと何も言えない状況ならば、“何も知らない”自分達が発言すれば、少なくとも話は進行するだろう。


だが、これは発言の責任を自分達が負う可能性が高い。


淡い期待としては、総大将になりたそうにしている将が、推した劉備を感謝して援助してくれれば…………


「……なんて思ってたら、見事玉砕したと」


「はい……」


乗り込んだ直後に、絶望感を覚えたらしい。


なりたそうにしている将は、すぐに解った。


金ぴかの衣装に、天を衝くようなクルクルで螺旋ドリルな髪をしていたそうだ。


その人の名は、袁紹。


反董卓連合の檄文を各地の諸侯に飛ばし、呼びかけた張本人だった。


口調、態度。どれをとっても、彼女が総大将になりたそうにしていたのは、小さな子供でも解っただろう。


何せ、彼女が言う総大将の要素とは、


「第一に、これほど名誉ある目的を持った連合軍を率いるには、相応の家格というものが必要ですわ」


そして、


「次に能力。気高く、誇り高く、そして優雅に敵を殲滅できる、素晴らしい能力を持った人材こそが相応(ふさわ)しいでしょう」


最後に、


「天に愛されているかのような美しさと、誰しもが嘆息を漏らす可憐さを兼ね備えた人物。

 そんな人物こそ、この連合を率いるに足る総大将だと思うのですが、如何かしら?」


などとタカビーなお嬢様口調で宣ったそうだ。


明らかに、私が総大将でしょ。当然でしょう、みたいな態度に、援助してくれたら……なんて期待は期待で終わった。


だが、ここまで来たら引き下がれない。


劉備は当初の打ち合わせ通り、腹の探り合いを止めて、早く総大将を決めてほしい、と訴えた。


その際、仕方なく……本っ当に仕方なく、袁紹を推した。仕方なく。


それに、曹操など他の諸侯も賛同し、総大将は袁紹に決まった。


余談だが、その直後に気分転換を終えた公孫賛が戻り、劉備と同じ事を言ったそうだ。


やはり、苦労性のお人よしである。


やっと、という言葉が相応しいだろうか。作戦を立てる段階に入ると、曹操と流麗な黒髪の美女が決定事項だけ伝えてくれればいい、と軍議の席を外してしまったらしい。


その外にいた劉焔は、黒髪の美女が“美周郎”と曹操に呼ばれた女性であろうと察しがついた。


そして、彼が“美周郎”に凝視され、曹操と軽い会話を交わしていた間に、一刀と劉備は袁紹に難題を投げ掛けられていた。


自分は貴女の発言のお陰で、総大将なんて重大な仕事をするはめになった。だから、連合軍の先頭で勇敢に戦ってみせろ。


袁紹は遠回しに、そう言ったそうだ。


勿論、二人は異議を唱えた。


劉備軍は、連合軍の中でも兵の数は最少のうえ、兵糧も少ない。


まともに先陣をきって戦うなど、難しいどころではない。これでは、捨て駒同然だ。


だが、断れば報復が待っているだろう。


ならば、と一刀は一計を案じた。


条件付きでの承諾。


一つ、一ヶ月分の兵糧を譲ってくれる事。


二つ、兵士5千人を貸す事。


この条件を飲まなければ、先陣には立たない、と一刀は言った。


当然、袁紹は渋ったが、劉備軍活躍の裏側には袁紹軍の助力があったから、という風評の餌をちらつかせたところ、


「いいでしょう。三国一の名家、袁家が力を貸しましょう!!」


と見事に食いついた。


「袁紹さんって扱いやすい人だよね」


「桃香様に言われたら、おしまいだね」


「朔くん、ひどい!」


他人の事を棚にあげる劉備に、劉焔はしれっと言った。


「何にしても、もう兵糧とか兵とか来ちゃってるし、今更断れないね」


「我らの気が変わる前に、という事だろうな」


「既成事実ってやつ?」


「多分そうだな。大領主ってのは、やっぱただの飾りじゃないなぁ。案外抜け目ない」


提供されている軍事物資諸々を見ながら、劉焔、関羽、一刀は口々に呟いた。


孔明は顎に手を当てて腕を組みながら、思考する。


「それにしても、この人数で連合軍の先陣を切るとなると……かなり厳しいですね」


董卓軍の軍勢は、約20万。


対して、連合軍は約15万。


全ての敵軍を受け止めるという訳ではないが、切り込むにしろ劉備軍は寡兵も寡兵。


いくら5千人の兵が増員されても、難題である事には変わりない。苦戦は必至だろう。


だが、苦境に於いても策を以て敵に打ち勝つのが、軍師の役目。


ならば、その役を見事に全うしよう。


孔明が鳳統をみると、彼女は魔女帽を被り直して頷いた。


想いは一緒だった。


「ご主人様、総大将である袁紹さんからの指示はなんですか?」


孔明が訊くと、一刀は顔を引き攣らせた。そして、困ったように笑う劉備と顔を見合わせ、同時に溜息をついた。


「その……何て言うか、なぁ?」


「そう、だねぇ……あはは…………はぁ」


「……何となく先が解りましたけど、言っちゃってください」


孔明が嫌な予感がしながらも、先を促すと、主二人は観念したように肩を落とした。



「作戦、無いんだ」



その一言で、場の空気が凍った。


誰もが思考を停止――――いや、その言葉の意味を理解するのを拒否した。


「よし、帰ろう」


「わぁー! ダメ、待って!!」


一番先に我を取り戻した劉焔が踵を返すと、それを劉備が抱き上げて阻止した。


「続きがあるから、最後まで聞いて。ね?」


「どうせ、莫迦な事言ったんじゃないのさ?」


「…………」


「否定してくれないんだ……」


顔を反らした劉備に、劉焔は真剣に帰ろうと進言しようと思い始めた。


「作戦はあるといえばあるんだけど。あってないような感じかな?」


「ご主人様、はっきり言ってくれた方が私達も助かります……というより、覚悟が決まります」


「ごめん、愛紗。作戦というより行動指針になるんだけど」


こほん、と一刀は咳払いを一つ。



「雄々しく、勇ましく、華麗に進軍」



またもその一言で、場の空気が凍った。


そして、やはり誰もがその言葉の意味を理解するのを拒否した。


「やっぱ、帰ろう」


「そうなのだ」


一番先に我を取り戻した劉焔が踵を返すと、それに続いて張飛も踵を返した。


そして、またそれを関羽と劉備が抱き上げて阻止した。


「朱里と雛里が頭を打っておかしくなっても、こんな事考えないと思う」


「というか、朔でもこんな作戦考えないのだ」


「鈴々に言われたくない。鈴々、作戦と言ったら?」


「突撃、粉砕、勝利なのだっ!」


「五十歩百歩じゃんか」


ガオー、と言い放つ張飛を劉焔はジト目で見ながら言った。


肩を落とす面々の中で、孔明と鳳統は思考を最大限に回転させる。


「ご主人様、一つ確認なんですけど」


「……雄々しく、勇ましく、華麗に進軍さえしていればいいんですね?」


「……成る程。そういうことか」


「あ、やっぱり気付いた?」


孔明と鳳統の言葉に、趙雲は何かに気付いたように口端を吊り上げた。


予想していたのか、一刀は頷く。


「三人の予想通りだよ。言質はとってある」


「む? どういう……ああ、そういう事ですか。

 雄々しく、勇ましく、華麗に進軍さえしていれば、我らは我らの作戦通りに動ける、と」


「それって、総大将公認で勝手にやれって事じゃないのさ?」


得心したのか、関羽も口端を吊り上げた。関羽に抱き上げられたままの劉焔は、呆れながら言った。


「統率の要となる人がそれでいいのかなぁ」


「朔よ、あの総大将の命を聞きたいのか?」


「絶っ対やだね。ちらと見たけど、あの人は将の器どころか武人としてさえ怪しいよ。

 星だって同感でしょ?」


「うむ。異論ないな」


「鈴々も嫌なのだ。お姉ちゃんの方が、ずっと、ずっ〜〜〜と佳いのだ!」


「鈴々ちゃん……」


袁紹との引き合いに出すのは可哀相ではないかと、劉焔は思う。


何気に劉備が傷ついたようにも見えるし。他人の事は言えないが。


「曹操とか“美周郎”って人なら、まだマシだったかな」


関羽に降ろしてもらった劉焔がぼそり呟くと、趙雲が眉を顰た。


「曹操と“美周郎”に会ったのか?」


「天幕の前で主上達を待ってたからね。必然的に、って感じかな」


「ほぅ。鬼の眼から見て、どう思う?」


「“美周郎”は、格好よい人だったよ。朱里が凍えるくらい冷静さを持って、大人の女性になったらあんな感じかな」


「ふふ、願望が入ってはいまいか?」


「少しだけ。まあ、朱里は朱里らしくでいいよ。

 それで、“美周郎”ってなんなのさ?」


「……呉の大軍師、周瑜公瑾さんの事です」


そこに鳳統が混じる。


「……周瑜さんは孫策さんと断金の契りを交わし,公私共に支えとなっている方らしいの。

 政務においても有能、軍師としても聡明という事で有名だよ」


「やっぱり軍師なんだ、あの人」


「……ところで朔くん、私は周瑜さんみたいにはなれないのかな?」


聞いていたのか、妙な威圧感を鳳統から感じ、背中に冷や汗が軽く流れた。


「ひ、雛里は雛里のままでいてくれたら、僕は嬉しいよ」


軽く吃りながら答えると、そっか、と嬉しそうに鳳統は孔明の隣に戻った。


「尻に敷かれ始めたか」


「うるさい……」


実際そうなるかもしれない、と思い始めているのは確かなのだが。


「曹操だけど、あれは“王”だね。覇道を突き進む王に相応しい覇気だったよ。見かけに反してね」


劉焔の感想に趙雲は一つ頷く。


「やはり、あれは“王”の資質を持つと考えるか」


「うん。それと桃香様とは対極に位置してるかな。桃香様は僕らの後ろにいて見守ってくれてるけど、曹操は自ら先頭に立つ将に見えた」


人の輪を描く線の始点となるのが劉備なら、曹操は輪の中心点だろう。


(曹操は中心に、先頭に立っているから傍らに並ぶ人がいない。それはどんな気持ちなのさ?)


何となく考えるが、自分が察しても詮無い事だと劉焔は考えるのを止めた。


「そだ、星。“羅刹”って何?」


「羅刹か? 羅刹とは、速疾鬼とも、地獄卒とも呼ばれる、破壊と滅亡を司るという鬼神だ。

 容姿は……そうだな。丁度お主のようだ」


「僕と?」


「全身が黒く、赤い髪をした鎧を纏った鬼だったはずだ」


「ああ、それなら納得」


肌は黒くないが、黒の戦装束に焔髪の上には深紅の鬼兜。


遠目から見れば、羅刹の容姿そのものだ。


(ああ、教養も備えてるんだ。やっぱり、面倒な相手になりそうだ)


誰にも気付かれないように、劉焔は小さく溜息をついた。








董卓軍に対する作戦も決まらぬまま、合流初日は行軍のみで終わった。


劉焔も護衛の役目柄、一刀の天幕にいた。劉備の天幕は関羽に任せてある。


初めは外で護衛をしようとしたが、一刀が許すはずもなく、眠っている彼の横で眼を閉じながら気配に感覚を尖らせていた。


(さてと、お仕事だ)


そして、察知した知らない気配に面倒だと思いながらも眼をゆっくりと開く。


双剣を腰に()いて静かに天幕を出ると、趙雲の天幕に向かった。


自分のいない間、一刀の護衛をしてもらう為だ。


「星」


外から声をかけると、天幕の中で人が動く気配がした。


「…………朔か」


外には出ず、趙雲は確認する。


「うん。夜遅くにゴメン」


「構わんさ。どうした?」


「夜の散歩に行ってくる。主上を頼むよ」


数瞬の間を置き、


「気をつけろよ」


「……了解」


趙雲のその言葉を背に、劉焔は歩き出した。













黙々と歩き、劉焔は闇に眼を凝らしながら心を平らにしていく。


暗い視界に不安が尽きないが、奇襲に取り乱して周りに混乱を伝播(でんぱ)したくない。


夜という時間も時間だ、気が緩んでるだろう一般兵が知らない気配の主に出会えば一発だろう。


(その前に、終わらせる)


動く気配の影を捉え、駆け出す。


そして、影の前に回り込み、気配の主の姿に眼を細めた。暗がりの中でも解る、地面に着くくらい艶のある長い黒髪。猫の目のようなアーモンド形の瞳に、褐色の肌。


身長は劉焔より少し大きいくらい。紫がかった赤い軽装な服を纏い、その背には身の丈はありそうな長刀を背負っている。


その少女の顔は、驚きと戸惑いが入り混じっていた。


「さて、他人の陣地で何してんのさ?」


劉焔の問いに、彼女は長刀に手を伸ばす。


「答えない、ってのはしないでほしいな。僕もどうしたらいいか解んないし。

 そんでもって、刀傷沙汰はもっとヤダね」


「…………」


「……交渉決裂、ね。交渉になってたか解んないけど」


そう言いながらも、劉焔は構えない。


カチリ、と鯉口を切る音が鳴る。次の瞬間には、刃が首に迫っていた。


「だから、刀傷沙汰はやだって言ってるのに」


屈んで斬撃を避けながらぼやく劉焔。避けられた事に少女は大きく眼を見開き、


「ったくもう。呉の諜報役は気が短い」


軽く呟いた彼の言葉に、少女は顔を歪めた。


その様子に、あー……と頬を掻き掻き、


「適当に言ったんだけど、図星だったり?」


「はぅあ!」


劉焔は駄目押しした。


「てぇい!」


口封じが目的か。少女は再度、長刀を振り上げる。


少し短絡的やしないか、と劉焔は思いながら少女に向かって踏み込む。


左手で長刀を持つ少女の肘を押さえて斬撃を止め、右手で腹に当て身を打ち込んだ。


「あ…ぅ……」


崩れ落ちる少女の体を支え、溜息をつく。


「はぁ……どうしよ」


取り敢えず戦おうとする彼女を止める為に気絶させたが、その後の事を考えてなかった。


連れ帰ったら連れ帰ったで、面倒な気がしないでもない。


特に、目付け役のお説教が。


だったら、こうしよう。


「そこの人、この娘連れ帰ってくれない?」


目の前の闇に向かって頼んだ。


ジャリ、という足音と共に、また少女が姿を現す。


頭頂部で紫がかった黒髪を団子形に纏めている。目付きは鋭く、冷たい視線でこちらを見ている。


軽装の紅い衣を着た彼女の立ち姿から、気絶させた少女より強く、足音をわざと立てたのが解った。


「呉の将、でいいんだよね?」


「……ああ。私の名は甘寧。お前の推察通り、呉の王孫策様に仕えている。そっちは、周泰だ」


「やっぱ、呉の人間か……。僕は劉焔っていう小鬼だよ」


「お前があの……。いや、周泰が面倒をかけた。すまない」


素直に頭を下げられ、劉焔は拍子抜けした。


「非は認めよう。他の諸侯の陣地を忍び込んでいたうえに、襲い掛かった。本来なら討たれていても不思議ではなかった。

 それをお前はしなかった。感謝する」


「はぁ、そりゃどうも」


「だが、腑に落ちない点でもある。何故だ?」


「……戦いの前に将が一人消え、他の諸侯の陣地で死体が見つかる。それがどう影響を及ぼすか、少しくらい考えてるさ。

 それに、うちの主は無用な殺しを嫌うんだ」


「……そうか」


「何してたとか、なんとなく解るから聞かないけど。まあ、少なくとも交渉材料にはなるよね?」


甘寧の眼の鋭さが一段増し、警戒の色が濃くなっていく。


「殺気は出さないでよ、うちのお姉様方が飛んでくるから。

 これは個人的なお願いだよ。周瑜って軍師がいるよね? その人に会いたいんだ」


「周瑜様に? 会ってどうする?」


「確かめたい事がある。ついでに、ちょいと交渉をするかも」


劉焔は言うと、甘寧を真っ直ぐに見た。警戒と疑念の視線で見返す彼女は、劉焔の眼から真偽を推し量る。


甘寧は、彼の鬼眼の中に偽りは無いように見えた。


「いいだろう。協力してやる」


「ありがと。じゃあ、この娘は僕が抱えていくよ」


躊躇いもなく周泰を抱える劉焔は、変な視線を感じた。


言うまでもなく、その視線の主は甘寧なのだが。


「何さ?」


怪訝な視線を返すと、


「いや、他軍の将を簡単に抱え上げるものだからな」


「? 別に重くないよ」


「警戒しないのが不思議だと思ったのだ」


あー、と劉焔は納得し、理由を口にする。


「強めに当て身放ったからね、朝まで起きないよ」


だから攻撃されない、と劉焔は周泰を抱えたまま歩き出した。


そんな理由を聞かされた甘寧は、頭を抱えたまま彼の後を追った。







(あー……心地悪い)


周囲から突き刺さる奇異と不審な視線に、劉焔は内心で独り言ちた。


甘寧の後に続き、孫呉の陣地までやって来るなり、この視線だ。


他の諸侯の将が突然来たというだけでなく、自軍の将を抱えてやってきたのだ。当然も当然だ。


「…………怖気づいたか?」


辟易(へきえき)していたのが顔に出ていたか、甘寧は後ろをちらと見ながら聞いてきた。


同じ連合の一員とはいえ、ここは他の諸侯の陣。自分の仲間が一人もいない状況に加え、相手は子供なのだ。その不安が出て来たのだろうと、彼女は思った。


だが、


「違うよ。周りの兵にじろじろ見るな、と叫びたい気持ちがね、こう沸々とね」


半眼の劉焔に手振り付きで返され、甘寧は呆気に取られながらも歩を進めた。


(本当に怖くないのか?)


甘寧は疑念を表に出さぬよう、前を見据えた。


それとも薄氷の上を歩くような自分の状況を理解していないような莫迦なのか。


または、危機に陥ったとしても切り抜ける自信があるか、ただ胆力が並外れているのか。


何にしても、この少年はよく解らない。


そんな印象を甘寧は受けた。


「ここだ」


陣の中央辺りだろうか、そこにある天幕を甘寧は指差す。


「勝手に入っていいの?」


「先に兵を孫策様の下に走らせてある。呉の将が捕らえられたのだ、火急の件と伝えてあるから会ってくださるだろう」


「何その博打的というか、希望的観測な適当っぷりは」


「仕方なかろう。それが事実だ」


「うっわ冷静だねぇ」


「そして、こ奴の落ち度だ」


「うっわ極寒だねぇ」


周泰を見下ろし言う甘寧に劉焔は苦く笑った。


そんな劉焔を他所に甘寧は天幕まで歩いていく。


「夜分遅くに申し訳ございません。甘興覇にございます」


「思春か? どうした?」


甘寧の言葉に、天幕越しに声が返ってくる。


「もしや、火急の件についてか?」


「はい。周泰が劉備配下の戦鬼に拿捕され、ここに連行されました」


「…………ここに?」


「はい。既にここにおります」


数秒は間が空いた中からの確認に、甘寧は淡々と答えた。


劉焔はどこまで冷静なんだ、と内心ツッコんだ。


「劉玄徳に仕えし鬼、劉翔刃だよ。ちょいとお話がしたくてね」


「夜遅くに来るとは、礼儀がなってないな。やはり小鬼は小鬼か。躾がなってないと見える」


「その声は美周郎さんかな? 確かに、夜遅くに訪問したのは悪かったと思うけど、その契機を作ったのはそっちだよ。

 それに、捕えられた将の落ち度は主の落ち度でもある。諦めてよ」


「貴様……!」


激昂する声とガタリッと何か倒れるような音が重なる。甘寧も自分の獲物の柄に手を伸ばし、


「まあまあ、冥琳。落ち着きなさいよ」


そして、宥める声が続いた。


「小鬼くん、いいわよ。お話しましょ」


「伯符!?」


「いいの?」


「呉の王が会うと言ったのよ? 構わないから、入ってきなさい」


物言わせぬ語気に、劉焔は表情に出さずに警戒心が沸き上がるのを感じた。


(まずい。この感じ、“王”の資質持ちだ)


曹操と会った時にも感じた異質の覇気が、天幕から滲むように流れ出てくる。


周泰を今すぐ投げ捨ててでも、双剣を抜き放ちたくなる衝動に駆られる。


それを抑えながら、周泰を甘寧に預けて劉焔は天幕の中に踏み込んだ。


中にいたのは二人。


美周郎と呼ばれる、周公瑾。


そして、


「こんばんは、小鬼くん」


長く華麗な桜色の髪、鋭さと柔和さを合わせた碧眼に艶の佳い褐色の肌。


周瑜と並び立つ程の美貌を持ち、紅い衣装を纏う女性。



「性は孫、名は策、字は伯符。江東の虎、孫堅の娘にして呉の王よ」



呉王、孫策。



小覇王と呼ばれる麒麟児が、にこやかに微笑んでいた。

連合編第二話となりました。


はっきりいって話が全く進まないです。


呉陣営の話し方が合ってるかも心配です。周泰なんかセリフは「はぅあ!」だけですし……


後の話の展開の為にも書かなくてはいけない部分があるので、話がまとめきれてないですね。


今回は、それの影響が最後の部分に出ちゃいました。


一体あと何話かかることやら……



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