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鬼と目付け役

これは改稿前の第壱章の話になります。その為、現在改稿中の第壱章が完成次第削除したいと思います。ご容赦ください。

逃げた盗賊たちを捕縛した鳳統は、劉焔が一点を睨むように見詰めていたのに気付いた。


「……どうしたの?」


「いや、誰かに見られてる気がしたんだけど」


劉焔が見た方向を鳳統も見るが、何も見えない。


「……?」


「気のせいかもだから。気にしないで」


「そう?」


「うん。もしも勘違いじゃなくて敵だったら、僕が雛里のこと守るよ」


「あぅ……」


劉焔の言葉に鳳統は顔を真っ赤にした。


この少年、近頃主である一刀に似てきた節がある。恥ずかしげもなく、人を赤らめるようなことを突然言い出すのだ。


人一倍恥ずかしがり屋な鳳統には、効果覿面(こうかてきめん)過ぎた。そのうち蒸気でもあげそうな程に。


「雛里?」


「うぅ……なんでもないよ」


「そっか。じゃ、帰ろっか」


何と気無しに劉焔は鳳統の手を取って歩き出した。やはり、彼女の顔は沸騰寸前まで赤くなっていた。










何故だろう。


劉焔は考える。


目の前の3人は眉根を吊り上げ、怒っている。


そして、自分は正座させられている。


(なんでさ?)


盗賊退治の任務は、兵に死者は無く、軽い怪我をした者が数人出た程度で中々の結果だと彼は思っていた。


だが、城に帰ると待っていたのは賛辞などではなく、



「この馬鹿者!!」



関羽の一喝だった。


「一人で3000もの盗賊に立ち向かうなどの無茶をしおって、死にに行くようなものだぞ!!」


「いや、ある程度敵の数を減らしたら、退くつもりだったんだけど」


「だとしてもお前一人で行く必要はないだろう」


「まあ、そうだけど……」


「いいか? 戦場では何があるのか解らないのだぞ。だから――」


怒り収まらない関羽の説教は続く。さすがに長時間となると劉焔も辛い。


視線で関羽の後ろにいる主2人に助けを求めるが、


「今回の事はね、私も怒ってるんだからね」


「右に同じ。大人しく愛紗に怒られろ」


薄ら寒い笑顔を浮かべて、そう言われた。


「聞いているのか、朔!?」


「聞いてます!」


うんざりしながらも劉焔は答えるも、関将軍のありがたい説教は夜遅くまで続くとは予想もしていなかった。









「という訳だ。解ったか………朔?」


長々と続いた説教が終わると、関羽は劉焔が微動だにしない事に気付いた。


彼の顔には生気は感じられず、眼は虚空を見ていた。


試しに目の前で手を振ったり、頬を突いてみるが反応がない。


「……説教で死んだか」


苦い表情を浮かべ、一刀は劉焔に同情した。


彼自身も関羽の説教地獄を体験済みだからか、その辛さが容易に想像できた。


「……愛紗の説教は半端ないからな」


「何か言いましたか?」


「何でもありません!!」


「本当ですか? まったく。……雛里からの報告、お聞きになりましたか?」


「愛紗の説教中に簡単にね」


「朔くん、大暴れって感じだったんだよね」


説教時とは打って変わって感心したように言う劉備に対し、関羽は苦い顔をしていた。


「大暴れ。正しくその通りなのですが、私は今回の件で少し心配になりました」


「どうして? 朔くんなら、大丈夫だって思うんだけど」


「ええ、賊程度ならばこ奴の相手ではありません。しかし、我らが進む道の先には、諸侯の軍との戦いも無いとは言えません。

 朔に今回のような身勝手な行動を取られれば、軍全体に損害を招きかねません」


「そうかもしれない。けど、朔は大丈夫だ」


脳天気な一刀の発言に、関羽は眉を(しか)める。


「随分と朔を買っておいでですね」


「親バカって訳じゃない……とは言いにくいな。ただ、俺は朔を信じてる。もちろん愛紗達の事も」


「それはとても嬉しいのですが。しかし、朔は戦争というものを知りません。鈴々でも戦いは数だと理解し、朔のように大軍に突っ込んで行きませんよ」


重い溜息をつく関羽。軍部を取り仕切る者としても、劉焔の目付け役としても、今回の件は頭を悩ませる事には違いないのだ。


「私達は大勢の命を預かっているのです。私は朔の独断専行を決して許しません。

 ご主人様には申し訳ありませんが………もし、またこ奴が今回のような行動をとった場合、見捨てる心積もりでいます」


「……うん。そうしてくれて構わない」


「……よろしいので?」


「言ったろ? 俺は朔も愛紗達も信じてるって」


一刀はそう言うと、まだ呆けている劉焔の肩を揺らした。


「さーく、起きろ。少し、というかけっこう遅いんだけど、夕飯食いに行くぞ」


「うぅあー……お父さんだー」


「そう、お父さんだ。ほれ、行くぞ」


「はわわー」


「朱里に怒られるぞ」


「あわわー」


「雛里に泣かれるぞ」


「にゃー」


「今度は鈴々かよ。蛇矛で刺されるなよ」


「メンマー」


「わざとか? 星に襲われても助けないからな」


壊れたように仲間の口癖?を真似しだした劉焔を抱き上げると、一刀は部屋を出て行った。


「驚きました……」


関羽がぽつりと呟く。


「まさかご主人様が朔を見捨てる事をお許しになられるとは」


「そう? 私は違うと思うな」


「何故です? 私は朔を見捨てると言い、ご主人様はそれで構わないと言いました。

 これで違うという桃香様のお考えが、私には分かりません」


「うん、確かにご主人様は許可したよ。でも、愛紗ちゃんはそんな事しない、しなくていいんだよ」


劉備の言葉に関羽は困惑する。劉備は劉備で優しげに笑いかけていた。


「愛紗ちゃんは優しいから、わざと厳しい事を言ったんだよね」


「それは……そんな事ありません。あれは本心からで」


「そんな事あるよ。私やご主人様じゃ言えない事、愛紗ちゃんはしっかり言ってくれてる。叱ってくれてる。

 私もご主人様もそんな愛紗ちゃんに本当に感謝してるんだ」


「桃香様……」


「ゴメンね、嫌な役させちゃって」


「謝らないでください。私は朔の目付け役です。あ奴の至らなさは、私の至らなさでもあるんです………私の教えが足りぬから」


肩を落とす関羽に対し、劉備は今度はふにゃっとした笑顔で、


「じゃ、もう大丈夫だよ。朔くんは身勝手に独りで突撃したりしないよ」


そう断言した。


「そうでしょうか?」


「だって、愛紗ちゃんは戦争を知らない朔くんに、ちゃんといけない事だって教えたんだよ?

 朔くんは教えられた事を無駄にする子じゃない。

 だから、愛紗ちゃんは朔くんを見捨てるような事しなくていいんだよ」


「……そこまで見越していたのですね、ご主人様は」


「そうだ。あと愛紗ちゃんと一緒で、朔くんは頑固なとこがたまに出て来ると思うから注意してね」


まったくこの人達には勝てない、そう関羽は思う。


日頃、政務で執務室に缶詰状態だというのに、劉焔の事をよく見ている。


本人に言えば否定するだろうが、彼は他人の情を無下に扱う人間ではない。むしろその情を大切する側だと関羽は思っている。


自分から他者を受け入れてほしいという一刀の願いは、劉焔にとって困難な事だ。だが、それを城の侍女を手伝う事から始めているのを関羽は知っていた。


そして、一刀と劉備も知っていたのだろう。


だから、信じると言ってくれた。


「前言撤回です。私も朔を信じます。

 もし、教えた上で単身突撃するようなら、青龍刀で殴り付けてでも連れ帰る事にします。そして、またお説教です」


「あはは、お手柔らかにね。じゃあ、私達も行こっか」


「はい」







次の日、関羽は訓練場に向かいながらも劉焔に何を教えたものかと考えていた。


「ん?」


すると、後ろから腰の辺りに何かぽすっとぶつかってきた。見れば腹の辺りには小さな手、振り返れば焔色の髪が。


はぁ…、と苦笑混じりの溜息を零す。


「朔?」


「ごめんなさい」


突然の謝罪に、関羽はまた苦笑した。


「それは何に対する謝罪だ?」


「……昨日、独りで大軍に突撃してダメだって怒られた。なのに、謝ってなかったから」


「そうか。偉いな」


「偉くなんかない。お父さ――主上に言われて気付かされた。いけない事をしたのなら謝らなきゃだめだって、師匠にも言われてたのに」


きゅっと、抱き着いている腕に力が入った。


一刀の事を父ではなく、主と言い直したのは仕事中だからだろう。子供の割に分別をつけようとしていたのか、この少年は思わず言ってしまった為に若干恥ずかしいようだ。


昨日は普通にお父さんと呼んでいたというのに。


子供とはいえ男の子だ。やはり、見栄は張りたかったのだろう。そう考えると何とも微笑ましいものだと、関羽は思った。


「朔よ、私はご主人様に言った。次、またお前が単身突撃するようならば……」


「見捨てるんでしょ。そうしてくれて構わないよ」


だけど、と続け、


「愛紗にそんな辛い事させないけどね。………僕も愛紗に嫌われたくないし」


ボソッと呟くと、恥ずかしさ増大。またギュッと抱き着く力が強くなった。


「嫌われたくない、か。中々嬉しい事を言ってくれる」


「〜〜〜っ」


関羽は劉焔の腕を解くと、屈んで正面から向き合い、


「ひゃう゛」


照れで赤くなっている彼の両頬をむにっとした。


「ふぁいひゃ?」


「ほぅ。中々の柔らかさだ」


「やふぁー」


「思いの(ほか)、伸びるな」


「ふゃー」


「……朔よ」


「?」


「私もお前を見捨てたくない。お願いだから、見捨てさせないでくれ」


関羽の手が優しく頬を撫であげる。


その伝わってくる温もりを離さないように、劉焔は彼女の手に自分の手を添えた。


「本当の事言うとさ、単身突撃しないって約束出来ないんだ」


何故、と視線だけで彼女は問う。


「愛紗。僕さ、みんなの役に立ちたい。みんなを守りたいんだ」



温もりを教えてくれたから。



「どんなに苦しい状況で絶体絶命な危機でもさ、雀の涙程の勝機やみんなが助かる可能性があるなら、僕が命を賭けてそれを掴み取る。もぎ取ってやる」



もう失いたくないから。



「嫌われたくないけど、それ以上に主上達を失う方がずっと嫌だから」


劉焔はまっすぐ関羽を見て言った。


「無理も無茶もする必要があるなら、僕は躊躇わないよ」


「……頑固なところか」


劉備が自分と同じと言っていた、一面が出て来て関羽は納得した。


譲れないところは、簡単には譲れない。そういう一面があるのは自覚していた。


ならば、こう言ってやろう。


「必要があれば、無理も無茶もするのだったな」


「うん」


「ならば、話は簡単だ」


「どうしてさ?」


「その“必要”を無くしてやろう」


自信満々に断言する関羽。


その言葉に劉焔はキョトンしている。


「我が軍には、有能な軍師に将もいる。その我らが力を合わせ、お前が無理も無茶もしなくて済む」


彼は言った。


“無理”も“無茶”もする。


だが、“無謀”までするとは言っていない。


勝算も可能性の無い事はしないのなら、この少年は簡単に命を賭けない筈だ。


「この関雲長の名に誓って、お前一人にやらせはせん」


「………熱いなぁ」


劉焔はわざとらしく肩を竦めると、


「んじゃ、頼りにしてますよ関雲長殿」


「ああ、目に物見せてやろう劉翔刃よ」


「……」


「……」


「「……ぷっ」」


どちらが先かは分からないが、二人は笑いあった。


大笑い、なんて程ではない。ただ、ちょっとしたした心地良さが笑みを浮かばせた。


「ところで、愛紗は何処行くの?」


「訓練場だ。手が空いてるのなら、一緒に行くか?」


「んにゃ、行かない。雛里にも謝んなきゃだし……読み書き練習、逃げたら泣かれるだろうし」


「ま、まあ、雛里を泣かさないようにな」


「うん……頑張ります。んじゃ、愛紗も頑張ってね」


手を振りながら走って行く劉焔を見送った関羽は、


「よし、私も頑張るか」


切り替えるように気合いを入れ、訓練場へと向かって行った。


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