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王子様なんかじゃない!!  作者: 木野ダック
5/26

5.接近宣言

6/8 少しだけ後半部分をいじってみました!

7時ちょっと前、目覚ましが鳴るより先に目が覚めた。

自分でも驚くほどの爽快感。

どうやら、私は一晩寝たことで、散らかっていた胸中がすっきり整理されたようだった。それぞれが収まるべきに収まった。そんな気持ちのいい気分だ。

そんな私は手早く支度を済ませると、迷わず隣室705号室へと向かった。

インターフォンを押す。

もし氷雨さんがいなかったら、昨日の出来事は、行き過ぎた憧れ故の妄想として直ちに病院へ行こう。

でも、もし、氷雨さんがいたのなら、私はーー

その時、扉が開いた。

出てきたのはーー

白のダブルスーツ、ド派手な花柄シャツ。そしてポニーテールに色濃いサングラス。そんな身なりの男性だった。

「ア、アノ……マチガエマシタ。スミマセン」

言葉が出るよりも先に後退りしてしまう。

そんな私に顔を向けたままの男性。サングラスで目線の所在が分からないので、表情すらも読み取れない。

街で会ったら絶対目を合わせないようにする、そんな感じの威圧感。一言で言えば、怖い、恐ろしい。早く逃げ出したい気持ちと、相手を不愉快にさせる恐怖で足が固まる。

こうなってくると、病院すら恋しい。さっきまでの覚悟溢れる自分を果てしなく呪った。

「ゴッゴッ……ゴメンナサイ」

完全に血の気は引き、手足指先、全てが冷たくなっていく。それなのに、冷や汗だけはこれでもかというほど湧き出して、暑いのか寒いのか分からない身体はガタガタと震え出す。

家族の優しい笑顔すら走馬灯のように頭に浮かんで後悔と感謝をし始めた。そんな時。

「あれぇーー?」

気の抜けるような、柔らかい色気のある声が男性の口から放たれた。

とはいえ、それだけで警戒心を解くことは難しく、相変わらず怯えながらも続く言葉を待った。

「その制服……」

勿体つけて話すような口振りは嫌な高鳴りを胸に引き起こし、私は思わず目を瞑る。

「……」

「……」

沈黙が不安を纏わせる。

ドキドキドキドキドキドキ。

クイズ番組の最終問題の答え待ちみたいな、人生を賭けたような緊張感。堪えきれず薄っすらと目を開ければ、服の上からでも、心臓が激しく脈打つのがよく分かる。

そして。

「深王と一緒だよね!お友達?」

春の明るい陽光みたいな声が飛んできた。

ここで出た『深王』という氷雨さんの名前は、一気に私の固まりきった心と身体を溶かしていく。

そして、妄想ではなかった、その事実も押し寄せて、いとも簡単に心を高く舞い上がらせる。

「はっ、はい!!」

「やっぱりか〜。深王、さっき起きたばっかだからさ、中で待っててよ」

「あ、ありがとうございます!!お邪魔します!」

野球部顔負けのハキハキ声で挨拶し、ビシッと敬礼決めて敷居を跨ぐ。

あはは〜なんて軽く笑われ、私もえへへなんて馬鹿みたいに緩み切った笑いを返す。

そんな私は、緊張の反動で、結構調子に乗っちゃってた。

だから、友達とか言って図々しく乗り込んで、忙しい朝の時間、厚かましくもダイニングテーブルなんかに着かせてもらって、もてなされるままにお茶なんかいただいて、テレビを見ようがドーナツにかじりつこうが罪悪感なんてものは1ミリたりとも感じていなかった。

あったのは、遠足前みたいなぷくぷくに膨らむ期待だけ。

そんな期待を胸に、氷雨さんのお兄さんだというこの男性と、(きゅう)ちゃんって呼んでと言われて、『(きゅう)ちゃんさん』と呼ぶほどには打ち解けた頃、待ち侘びた姿が登場した。


温かい湯呑み片手にテレビに身体を向けた横座り。私は顔だけ向けて元気に言い放つ。

「氷雨さん、おはよう!」

「……何でいるの?」

地球の表と裏ほどの、とてつもない温度差。

お花見に迷い込んじゃった雪女がするような不機嫌そうな顔だった。

「一緒に学校、行こうと思って」

「……」

眉を顰めて怪訝な表情。

言葉はなくとも「は?」という不快を表す台詞が今にも聞こえてきそうなほどで。

それでも。

私は椅子から立ち上がり、しっかり氷雨さんに向き合った。

「一緒に学校行きませんか?」

同じ道、同じ場所。氷雨さんはきっと断らない。自信を持って問いかけた。

狡いけど、私はこれで氷雨さんとの時間を重ねて仲良くなるんだ!ってそういう計画。

のはずだったのに。

「無理」

いつもの涼しい無表情ではなく、眉間の皺を更に深めた露骨に嫌そうな顔。

レアな表情に少しだけ歓喜を覚えたものの、慌てて自分を引き戻した。

「え!何で!?行こうよ!どうせ行く場所は同じだよ!?」

「嫌」

「縦一列でもいいから!」

「無理」

「じゃあ、鞄持つから!」

「嫌」

「じゃあ……」

「無理」

「まだ何も言ってないよ!」

少しも引かない氷雨さんと、調子に乗って強引な私。更なる手段として、手を取ろうと試みるけれど、さすがの瞬発力。寝ぼけ眼でも私程度、サラリとかわされた。

そんなこんなで数十分。

結局、時間という最強の心強い味方によって、なし崩し的に私の勝利で決着した。

そうして、朝から最高潮の浮かれ顔、隣に氷雨さんを携えて、私は踊るようにマンションを出たのだった。

一方、明らかな不服顔の氷雨さん。その歩みは、地面に爪先を突き刺していくかのようなものだった。


氷雨さん式に言えば『一緒に登校』している私達は、少し前に氷雨さん、その後ろを追いかけるように私が続くという位置取りになっている。

暫くはそのまま、よく言えば空気を楽しむ、率直に言えば、無言という状態が続いていた時のこと。

「なんで来たの?」

足取りと同様、槍のように鋭い声が飛んできた。

「一緒に行きたかったからだよ!」

自覚できるほど、空気にそぐわぬ朗らかな声色だった。空気が読めないという訳ではない。

「……昨日で懲りたと思ったけど」

冷たい声。それでもどうにか持っていかれないように、努めて明るい声を口にする。

「それは……、うん、そうだね。すっごい虚しかったし、私と氷雨さんは考え方がまるで違うんだなぁって思ったよ。だから、今でも氷雨さんの言った事、理解は出来ても共感は出来ないなぁと思う」

「なら、尚更、一緒になんて無駄な事」

言い捨てる氷雨さんは、振り切るように少しだけ歩みの速度を上げた。

それに、私も負けじとついていく。

「そうじゃなくて!!無駄じゃなくて寧ろ逆なんだよ!」

ひたすら前を向いていた氷雨さんがピタリと足を止める。

「つまり、私達には時間が必要なんだと思うんだ」

ゆっくり振り返って、真っ直ぐで大きな瞳とかち合った。

「……は?」

そこには言わずとも『何言ってんの?』という気持ちが伝わるものがあった。

「えっと、私、あれから結構調べたり考えたりしたんだけどーー」


恋人や夫婦、或いは友達、別れる原因の多くとして挙げられるのは、価値観の違い。でも、全く同じ価値観を持つ人がいるかと言えば、殆どの場合でいる筈も無く。だから、この本質は異なる価値観にどれだけ寄り添えるか、または理解して割り切るかという事に掛かっている。つまり、それを成し得る人かどうか。そこに将来を見えるんだと思う。

と、そんな様な事を話した。

もちろん、人生10年そこら、ぺーぺーの女子高生がこんな悟ったような事を考えられるはずもなく、ほぼ全てがネットの知恵袋の受け売りである。

「つまり、寄り添った関係になるのか割り切った関係になるのか、どちらにせよ、もうちょっとお互いを知らない事には決められなくて。だからこそ、もっと一緒の時間が必要なんだよ!と、いうことなんだけど」

意気込んで自信満々に語ったものだけど、それよりも。〇〇な関係。その響きが既に訳ありな関係(もの)を示唆するようで、言った後からどんどん羞恥に駆られ頬が熱くなってしまう。

「そもそも、私は花竹さんと関わり合うつもりは無いんだけど」

「うん。それならそれでいいよ。でも私は、氷雨さんの事知りたいし、大好きだから。やっぱりどんどん話しかけるし、近づきたいと思ってる!」

「……無駄だと思うけど」

「そんなの、やーー」

「『やってみなきゃわからない』」

言おうとした言葉を氷雨さんに言われ思わず口をつぐむ。そして、ため息と共に呆れた声が落ちてくる。

「花竹さんは言っても聞かなそうだから。いいよ」

突然の承諾、え?どういう事だ?と頭が真っ白になる。意気込んでキリッとしていたはずの私の眉も、力が抜けて情けなく下を向いた。

「……い、いいよ?」

呟いた言葉は、声に出すと更に非現実的なものに感じてしまう。だって、さっきまであんなに拒否されてて、何で急に?って。幻聴じゃないのか不安を感じつつ、氷雨さんを窺えば、混乱する頭を煽るように、ゆっくりと氷雨さんが距離を詰めていた。

慌てるとか驚くとかそんな間さえ与えれず。

「勝手にしなよ」

言いながら、伸びた手が私の肩に落ちていた葉を払う。髪を掬うような仕草と揶揄うよう微笑。

私は破裂しそうなほど真っ赤になって、色々あった混乱も全部すっ飛んだ。

終わり良ければすべて良し、じゃないけれど。

こっ、こんなのずる過ぎるでしょ!!

いつもお読みいただきありがとうございます!

また、昨日は投稿できなかったのですが、少しずつ評価までしてくださる方がいたりして、本当に励みになっています!せっかく読んでくださる方が楽しいと感じてくださるように、これからも頑張ります!本当にありがとうございます!

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