22.椿さんとクリスマス2
まず初めにやって来たのは、展望台。
数年前にできたばかりの高層ビルの展望台は、なんていうか建物自体がとにかく透けまくっていて、正直、お金を払ってまで展望台に行かずとも、ある程度の階に行けばそれなりの景色が楽しめるのでは?なんて思っていた。が、それは大きな間違いだったとすぐに思い知る。
そもそも、こんな一介の高校一年生でも思い付くような欠点を、生活のかかった聡い大人達がおちおちそのままにしておく訳は無いのである。
耳に違和感を感じながら長ーいエレベータに乗って、ピンポンという音と共に扉が開けば、天井から床まで、右から左まで、その一面の大パノラマに息を呑む。360℃全面ガラス張りだと言うそこに、風などある筈がないのだが、私の肌には確かに広大な草原に吹き抜ける様な爽やかな風を感じた。
インドア派な私、人混みが嫌いというわけでは無いものの、人酔いというものは何度か経験がある。そんな今日は、カップルにファミリーその他諸々、とにかく人、人、人。カフェだって、御手洗いにだってその逃げ場は無い。そんな中での、完全予約制展望台。きっちり定員を設けているから、別世界の様な快適さ。歩くのに苦労しない開けた空間、素晴らしい。一気に上がるテンションに、思わず足早で青空へと飛び出した。
「すっごーーーい!!」
息のしやすい事この上ない。深呼吸だって厭わない。
恐らくこれが、ファッションフロアとかのついでの景色なら違うのだろう。景色を楽しむための人達が、景色を楽しむために構成された空間でゆったりと過ごす。これが良い。
「最初、『え?展望台?』とか思ったでしょ?」
得意げな顔の椿さんが私を覗く。
「うん、実は」
「でしょ。別にここは人気スポットとかそう言うのじゃ無いしね。下の方が有名だもの」
下、というのは下層階にある水族館やらプラネタリウムとかそこら辺のことを言っているのだろう。
「でもね、実はここが中々の穴場なの。あまり知られてはいないんだけど、予約だって意外と取るの大変なんだから」
「え、そうなの?」
確かに初耳だった。ここのビル自体はよくネットやらテレビに取り上げられたり、ドラマに使われたりとか、話題になりやすいスポットではあるのだが、展望台についての宣伝は殆ど目にしたことがなかった。そう言えば、案内板にもこの展望台は申し訳程度にしか書かれてなかったし、そもそも、エレベーターもなんて言うかビルの端っこの、裏口の様な辺鄙な所にあった気がする。
何だか秘密の場所にでも足を踏み入れた様な不思議な違和感に取り憑かれていると、隣で椿さんが種明かしをしたくてたまらないと言った顔をしていた。
「ふふふ、実はね。ここは完全予約制って言っても誰でも予約できるわけじゃないのよ」
そう言う椿さんは、先ほど買ったチケットをピラピラと仰ぎながら自慢げに勿体ぶる。秘密が知りたい、と言うよりはその椿さんの態度が面白いので私も乗ってみる。意識して真剣にゴクリと喉を鳴らしたりしてみる。
「と、言うと?」
自分があまりにも演技めいてて、頬が緩みそうになるのを必死で堪えた。けれど、椿さんはかなり満足げだった。
「ふふーん、ここはね、会員制なのよ!!」
「会員制?」
「そう!このビルのね!」
してやったり顏の椿さんに反して、私はこの場にそぐわない言葉が頭に浮かんでしまった。言ったところでなんの意味もなさないそれは、時間的も状況的にも言うべきじゃ無いとは分かっていた。けれども、そういう奴は逆に言いたくなってしまう――それが性なのだ。
「……なんかエッチだね」
「は?」
信じられないものを見るような目つきが私を襲う。言いたい事は言ったし、言い逃げしようと思った。
「ってことは、椿さんはその会員なんだ?」
何事もなかったように話を切り貼りして続けた。
「待ちなさいよ、何無かったことにしようとしているの?さっき変なことを口走ったでしょう!」
聞き流す事にした。首を傾げてとぼけて見せる。聞き間違いじゃないですか、と。正直、私も口にしたかっただけで着地先を考えていなかったので、掘り下げられても困るのだ。
「ねえ、もう一回言うわよ?『ここは会員制なの』『会員制?』『そう、このビルのね』はい次!この後なんて?」
これ絶対聞こえてたでしょって言うほど正確な会話の再現だった。私は何となくの会話は覚えてても、こう台詞までしっかりとは覚えてない。氷雨さん同様、椿さんもかなり高性能な頭脳を持っているようだ。
「『椿さんも会員なの?』」
「違うでしょ!色々抜けてるでしょ!私のとか、ひめりのとか色々!って言うか何?そのエッ……エ……」
頬を染めてモジモジとされて言われると、何だか私が公でそういう事を言わせるみたいな変なプレイを強要している気になってくる。いくら女子同士とはいえ、こんな可愛い女の子を捕まえて恥ずかしがらせているなんて、私の沽券に関わってくる。ていうか、人目が少ないと言うのが尚、厄介。
「言わなくて良いからそんな恥ずかしい事!」
知らずに通報される前にすぐさま止めた。クリスマスに職質なんて絶対受けたく無い。
「その恥ずかしい事を始めに言ったのはひめりでしょ!」
真っ赤な顔で、どうやら声のトーンの調節を忘れているようだった。幸いにも、一番近い他のお客さんは望遠鏡に夢中で気が付いてない。暫くはそこを覗いていて欲しい、落ち着くまでは。と、思ったら、反対側にもカップルがいて、明らかにこちらを見てる。まずい、これはまずいぞ、恥ずかしいやつだ。
羞恥が有り余って、興奮状態の椿さんは最早爆弾で、迂闊に言葉でも発すれば、その返しにとてつも無い大怪我を、主に心に負わされそう。つまり、言い包めたり宥めたり、そう言う奴はまず無理だ。
と言うわけで、私は少し荒めの強硬手段に出たのだった。
「とりゃーー!」
気合の入った掛け声に、椿さんの腕を引っ張って、私の胸へと投げ入れる。と見せかけて受け流し、そのまま柱の影に追いやった。
それですかさず、椿さんを囲い込む。ついでに自分の両手を興奮で赤らんだ椿さんの頬にあてがった。
ちなみにこれは、さっき椿さんにサンドイッチにされて、私がどうして良いか分からなくなった経験から来ている訳だけど、ここは緊急事態、勝手ながら追加オプションを付けさせてもらった訳だ。
私は、自分の額を椿さんのそれにゴツんとくっ付けて。そうして、柱に追い込んで、完全に自由を奪い去る――サンドイッチ改め、肉まん状態に相成った訳である。
目と鼻の先で、困ったような泣きそうなそんな顔の椿さん。その首討ち取ったわ!そんな言葉が頭に響く。完全にこの前、母と見た時代劇に感化されている訳だけども、そんな今、この瞬間が、実は私の絶頂期だったりする。
つまり、私は例の如く、この先を考えていない。学習しない私の脳みそ!
頭の中を『どうしよう』と『どうすれば』が音頭をとる。盆踊りみたいにぐるぐるぐるぐる回って打開策が何一つ出てこない。もういっそ正直に「どうする?」って言えば良いんじゃない?って思うけど、それはあまり言いたく無い。だってそんなの、その気にだけさせておいて、肝心な所は女の子に言わせるズルいチャラ男っぽくてなんかやだ。無論、実体験では無いけども。漫画知識なんだけども!
とにかく、「どうする?」それ以外の言葉を求めて、私は頭を回しまくった。最早音頭などではなく、渦潮が如く回してようやく、中央からピカーッとお告げのような一つの言葉が浮かび上がる。認識と発声が同時だった。
「ーー大丈夫?」
いや、お前が大丈夫かよ?私の中の全私が、ツッコミを入れる。けど、そんな事は気にしない。
「か、顔が赤かったから、その……体調でも悪いのかなって」
そう言ってまず顔を離す。ようやく見えた椿さんの顔は、困惑顔ーーかと思ったら、何故だかスンと目が据わっていて、どこか冷んやりしたものを放っていた。
そんな姿に違和感を感じつつも、私はそのまま調子を変える事はしなかった。
「でも良かった。熱は無いみたい」
出来るだけ笑顔を作りながら、残りの頬に添えていた手を離す。少し前から腰を下ろし始めていた心臓が、ここに来てようやく落ち着いた。そうして、私たちには少し距離ができて、そこで椿さんがボソッと呟いた。
「そういうこと……」
どいういうこと?
よく分からずに首を傾げたが、答えは返ってこなかった。その代わり、そういえば、さっきはこのままがいいと言われた事を思い出す。
できた距離を、後退りしてもう少し広げて、腕一本、正しい距離にまで直った。
それからーー椿さんに向かって開いた分、手を差し出そうとした。
差し出す前に、もっと細かく言えば、距離の空いて私がしっかり地に、両足をつけた瞬間に。
本当に突然、私は椿さんに吸われた――
口を。一瞬。
口と口。ファーストキス。生々しいふわふわの感触。ちゅぅと。呆気に取られて開く唇。
「なっ……にしてんの!?」
慌てて肩から押し返す。
すると、今日の表情全てが幻だったかのように、さも不愉快だと言わんばかりの不機嫌顔の椿さんに睨み上げられる。
「油断なんかしてんじゃ無いわよ!なに簡単にキスなんかされてんのよ!なに距離なんか許してんのよ!バカじゃ無いの!」
「…………はっ」
ファーストキスを奪われて、そしたら何故か怒られて、あまりに言いたい事が多すぎて、息を吸うだけ吸っといて、結果、これしか出なかった。
「変な声出してんじゃないわよ!」
「あ、ごめ」
「簡単に謝ってんじゃないわよ!」
「あ、ご」
鋭い眼光が私の口を縫い止めた。
「聞いたわ。貴方、深王ちゃんに告白して振られたそうね」
「何で知ってーー」
「だから、『聞いた』って言っているでしょう。話が進まないわね」
あ、そっか。それで納得してしまう私は、既に椿さん思考に調教されつつあるのかもしれない。
「おかしいと思ったのよ。断られても付き纏いそうな貴方がイヴもクリスマスも予定ないって言うし。深王ちゃんは3人は嫌って言うし」
「嫌……」
その一文字がやけに重たくのし掛かって、心臓が床につきそうだった。
そんな私に、椿さんは急に慌てて。
「あ……ま、まぁ、私がいるって時点で普通、2人きりがいいに決まってるんだから。相手が悪かったと言う事なのよ。ひめりが気にするのは、分不相応よ」
そう言って、あまりに不器用な気遣いの眼差しを送ってくれた。そんな視線とは一瞬だけ交わって、すぐ逸らされる。
「……と、とにかく!私は今日、貴方たちの隙を突きに来たんだからね!」
「隙……?」
状況と言葉が繋がらず聞き返す私に、椿さんは踏ん反り返る勢いで。
「そう!振られて弱っているところをメロメロに落とし込んでやろうと思ってね」
これでもかってくらいに誇らしげ。とは言っても、全くもって話が繋がらない。氷雨さんのことが好きな椿さんが私をメロメロにして何の得があると言うのだろうか。うーーん、頭を一周ぐるりと回す。ハニートラップ的な?
「でも、全然ダメ。もっとスカスカで隙だらけ、チョロいもんだと思ったのに。そんなの全然無いじゃない。深王ちゃんに振られて、盛大にショックを受けていると思ったけど、実はそうでも無い?」
そう言う椿さんは、悪びれる様子なんか微塵もなく、純粋無垢で子供みたいな瞳を真っ直ぐに向けて来る。それが却ってタチが悪い。
「そんなわけ……!」
さっきとは違う意味で歪めた顔で、反論を口にしようとした。けれど、言い終える事なく、素頓狂な問いかけが降って来る。
「なら、どうして私の近くにいて、ひめりは心臓の音一つも早まらないの?」
「…………え、なに」
「だから、普通、私とこんなに近くにいてくっついていたら、絶対意識するでしょう?好きになるでしょう?ムラムラするでしょう?なんで、そうならないのかって聞いてるの」
ム……ムラ?
え……さっきはたかがエッチ発言ごときで突っかかって来たくせにそれ言っちゃう……?
ていうか、今度は私が恥ずかしい……。
「いや……え……え?それは……寧ろなんで?」
「もー、何よそれ!今まで一度だって外したことはなかったのに!意味わかんない」
「い、今まで……?」
え、なに……これが天然系小悪魔なんたらってやつなの?
「そうよ!今まで、深王ちゃんに色目を使う者どもは悉く落としてやったわ!」
またこの子は誇らしげになんて事を……ってあれ?
「でも私の時は初っ端から喧嘩腰だったけど……」
蘇る締め出し案件。
「それは……、ちょっとむしゃくしゃしてたから」
「なにその犯行動機みたいなの!雑すぎない?」
「うっるさいわね!あぁ、もう、この興醒め感、本当どうしてくれんのよ。折角クリスマスで、気分上げてモノにしてやろうって楽しみにしてたのに……。もうホテルもキャンセルね」
モノ……。
「……ホテル?」
何それ?
呟いた声は、膨れっ面でスマホを軽快に操作する椿さんには届かなかった。
「ああ、でもこれだとプレゼントが無くなっちゃうわね」
「……プレゼント」
「そうよ、クリスマスだもの。用意して当たり前でしょ?……たった今無くなったけど」
「えっと……ホテル?」
「この部屋よ」
つまらなそうに見せられたものは、とんでもない。夜景キラキラ最上階。キングベッド。
「プロポーズとかする時に泊まるやつ!」
「まぁ、プロポーズプランだしね」
「何で!?」
「……クリスマスだから、これしかとれなかったのよ」
「いや、おかしくない!?」
友達同士のお得にしてはハードル高すぎない?ゼロ多すぎない?
「でも、『クリスマスおすすめデートプラン』に書いてあったんだもの」
「いや、デートって……カップルのやつでしょ」
「ーーまぁ、これはもう良いわ。キャンセルしちゃったし。それより、私のプレゼントにとやかく言うって事は、ひめりだって勿論用意があるんでしょうね?」
「いや……まぁ、あるけど」
試すような目つきに見つめられ、あんなホテルを見せられた後じゃ出しにくくて仕方がないけども、ショルダーバッグの底に潰れないように入れておいた小包を取り出した。
「言っておくけど、大したものじゃ無いからね」
手渡した物は丁寧に受け取られ、椿さんの両手に収まる。
「開けても?」
「どうぞ」
ちょうど指輪を入れるみたいな小箱。そこに十字になるように掛かっているリボンの端を摘んで、ピロピロと解いていく。そして、蓋をそっと開けた。
「シルクの……リボン?」
手にとって首を傾げながら眺めている。
「うん、髪を纏めたり、アレンジするのに使えるんだよ」
「……へえ」
銀白色のリボンをユラユラと手で艶めかせながら、椿さんは何だかぼんやりしている。けなされもしない。
え?あれ?微妙だった?
「ち、ちなみに私のおすすめは編み込み……なん……だけど……」
どんどん萎んでいく私の声。それでも椿さんは「へえ」と興味なさそうな声を出すだけだった。
「えっと……あんまり髪の毛とかいじらない?」
「学校では一つに纏めたり、二つしたりしてるわよ」
「……あ、そうなんだ」
と言うことは、プライベートではしないって事か?そもそも趣味じゃない?
心許ない気持ちは表情にそのまま出てしまい、椿さんが慌てて補足する。
「あーー、違うのよ。嬉しくないとかじゃ無いの。なんて言うか、こういうのって自分でやった事とかなくて、どう使うのか想像がつかないと言うか……。いつも、やって貰ったらそのままで、鏡だってろくに見ないのよ……」
「つまり、よく分からないと?」
力強くコクリと頷く。
「それにしては、浴衣といい、今日の洋服といい、お洒落になってるのが凄い」
「これは……、家の者が用意してるから」
椿さんの語尾はもじもじと少し恥ずかしそうに小さくなっていく。それが、ファッションの内容なのか、誰かに用意をしてもらっていると言う所なのか、はたまた、褒めに対するただの照れなのかは分からない。けれど、こう縮こまって恥じらう椿さんと言うのは、何だかレアな気がした。
それに、そういう事なら、まだ諦めるのも早そうだ!折角選んで買ったんだ、どうせなら喜んで貰いたい!!
「あのさ!もし良かったらなんだけど、私、やってみてもいいかな?」
「……髪を?」
「うん。凄い得意ってわけでもないんだけど、昔は姉とやりあいっことかしてたしさ。最近は自分でやったりなんかもしてるから、人前に出て恥ずかしくない位にはできると思う!」
「そう……じゃあお願いしようかしら」
そう恥ずかしそうに呟くと、椿さんはお気に入りのアクセサリーでも見つけたみたいに顔を輝かせて。
「あそこでやりましょ!ちょうど椅子が空いてるわ!」
なんて言って駆け出した。空いてるベンチの端っこに座ると、足先をばたつかせながら、私に早く早くと手招きする。そんな様子は、クリスマスの前日、眠れない子供みたいだった。
椿さんの隣に腰掛けて、「では失礼します」なんて芝居めいた声を掛けてからそっと髪の毛に触れていく。
水のようにサラサラで、油断していると手からこぼれ落ちてしまいそうな髪を、丁寧に慎重に掬っては編んでいく。自分のは勿論、基本的に自分より良いものを待っている姉ですら、こんな奇跡のような毛髪は持ち得ていない。初めて触る感触に、これが同じ人間の毛なのかと、つい執拗にに指でなぞってしまう。それがくすぐったかった様で、時折「ふふっ」と椿さんが笑っていた。
「ーーできた!!」
編み終わりを蝶々結びにして、手を離す。
うん、やっぱりかわいい!似合ってる!!
白いふわふわの服装に金髪、そこに、白いリボンが加わって、殊更天使感が増している。
「かんっぺき!」
どこに出しても恥ずかしくない出来だった。
「見てもいいかしら?」
「うん!勿論!ていうか、早く見て!」
少し興奮気味に急かすと、椿さんはバックから手に収まるほどの鏡を取り出して覗き込んだ。少し右側を向いて左に編んだ箇所をじっと見て、時折角度を変えたりしながらも、そっと編み込みに触れたりする。
「どうよ!?結構いい感じじゃない?」
自信満々に問い尋ねれば。
「まぁまぁじゃない?」
なんて言うけれど、その顔は、照れ臭いのを我慢して笑う子供みたいな表情だった。
そんな顔をしてくれるなら、やった甲斐があるってもんだ。
そんな姿に満足感を感じて浸っていると、椿さんが思い出したかの様に「でも」と口を開く。
「やっぱり、これでお返し無しはないわよねぇ」
そう言って眉を顰める姿は正に、考える人、その物だった。
「いや、良いから!別にそんな高価なものじゃないし。気にしないで!」
「値段は関係ないのよ」
毅然と言われたその言葉、あまりに一般論すぎて、椿さんの口から出た事に少し引っ掛かった。
「いや……まぁ、そうかもしれないけど」
口籠りながらも、何言っても聞かなそうだなぁなんて思って眺めていると、椿さんは突然パチンと手を叩いた。
「そうだ!良いこと思いついたわ!うん……、そうね、うん、これよこれ。これなら何の問題もないし、なんせ一石二鳥どころか三鳥くらいあるじゃない。こんな事を思いつくなんて、完全にサンタは私の味方ね」
ここまで結構な声量で、お世辞にも独り言とは言えないトーンにも関わらず、椿さんは改めて私に目を合わせると、にっこり笑った。
「ひめり、私、良いこと思いついたの」
「いや、それ絶対良いことじゃないよね。なんなら、聞こえてたし」
「あら、聞こえてたのね。それなら、話が早いわ」
そう言うと、ご機嫌なニコニコ笑顔のままぎゅっと私の手を握って立ち上がる。
「じゃあ、早速行くわよ!」
いつもお読みいただきありがとうございます!
今のところ二部仕立てを想定して書いてるのですが、もう数回で一部が終わる予定です!(^^)




