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王子様なんかじゃない!!  作者: 木野ダック
12/26

12.氷雨さんと温泉旅行4

「あ、赤くなってる」

大浴場の脱衣所で、痛々しく赤くなった氷雨さんの首筋が目に入った。

「あぁ、やっぱり」

自分のことだというのに、さほど興味もなさそうな返事が返ってくる。

「やっぱりって……絶対痛いでしょそれ!襟とかすごい当たりそうな場所だし」

「鬱陶しいとは思ってた」

絶対そんなレベルじゃないでしょ!そう突っ込みたくなるほど、真っ赤に染まってしまった首筋は、範囲こそそこまで広くはないものの、周りの真っ白い肌も相まって、余計痛ましく見えてしまっていた。

そして、そうなった原因は。

「……ごめん。私が首、塗り忘れたからだね」

頭に海での光景が蘇る。私が氷雨さんにドキドキなんかして、途中で逃走なんかしたからだ。

「……別に謝られることじゃない」

「でもそれ、お風呂とかすっごい染みるし!何日かは痛いんだよ!洋服すら痛くて痛くて……、とにかく地味に辛いやつなんだよ!」

「……そう、やっぱり染みるのね」

そう言いながら、氷雨さんは憂鬱そうな顔で首筋にそっと触れる。

「全身こうならなくて良かった。ありがとう」

淡々に話す氷雨さんはやけに素直で、なんだか調子が狂う。

「やっぱり結構痛いんでしょ」

「……別に」

覇気なく答えるその姿からは、いつもの神々しいまでのオーラは半減して、どこか世間知らずな王子様の頼りない姿を見た様な、そんな庇護欲を掻き立てられるものがあった。

「まぁ、安心してよ!この何回も日焼けで痛い目を見てる私がいるんだから大丈夫!お風呂だろうが着替えだろうが難なくやり過ごせる方法をレクチャーするからさ。任せてよね!」

「そんなに焼けたんだ」

「まぁね!小4の時なんて、おばあちゃん家の縁側で下着で昼寝したことだってあるんだから!」

「どうなったの?」

「全身ほぼ真っ赤!裸でも下着付けてるみたいになってたよ!」

うわあ、という顔。

最近、少しずつ氷雨さんの色んな表情が見える気がする。それは、私からするとレベルが上がって新しいエリアに行けるようになったみたいな感覚だけど、その一方で、私がただ見つけられていなかっただけなのかも、とも思ったりする。まぁ、何にせよ。私は最後の下着を外しながら隣の氷雨さんを見る。

「誇る事じゃないけど。まぁ、頼りにしてる。よろしく」

ふっと笑った氷雨さんは、とっくに全てを脱ぎ去っていて。

「お待たせ」そう言えば、「じゃあ、いこう」なんて返ってくる。

抜群のスタイルを隠すこともせず。片手には旅館のタオルだって引っ提げている。それなのに、まるでランウェイにでも立つかの様な佇まい。

今日一イキイキする氷雨さんに、あぁお風呂好きなんだぁなんて思いつつ。氷雨さんから溢れて私にまで飛んでくる視線から隠れるように、身体を丸めながら氷雨さんについて行く。

うぅ……周りから見られてますよー。って小声で呟いたのなんか聞こえるはずもなく、前に心細く垂らしたフェイスタオルを頼りに何とかこうとか大浴場まで歩いたのだった。


「まず、頭ね!ここは、しょうがないんだよねー。覚悟して一気に行くといいよ!」

「……」

期待外れを訴える眼差しがジッと注がれる。

「うっ……。でも、頭は本当しょうがないんだよ。だって身体の1番上にあるんだもん。水は上から下に流れるものでしょ。寧ろここが山場だから!とっておきフォロー用意してあるから!」

全裸で力一杯伝えた誠意は受け入れられ。「……わかった」と返事が返ると、つい頬が緩んだ。

「でも、座って」

「え?」

首を傾げると、氷雨さんが人差し指で鏡を見ろのジェスチャーを返してくる。なんだと思って正面を向けば、鏡に映る自分の全裸、仁王立ち。そして集まる視線。

「うわぁぁ」

一拍おいて叫んだ。

これでさっきまでドヤ顔してたとか……間抜け、恥、うわぁぁ〜消えたい!!

慌てて座るれば、氷雨さんに鼻で笑われた。

「早く言ってよ……」

「花竹さんノリノリだったから。邪魔しちゃ悪いと思って」

氷雨さんは笑ってる。悪い笑顔だ。

もう!本当にもう!

「そんなわけあるか!」

そう叫んだ声は広いお風呂に響き渡り。

「花竹さん、うるさい」

と笑って嗜められた。

今日の氷雨さんは無邪気だったり無防備だったりで調子が狂ってしょうがない。

それに、氷雨さんに言われるのなら、文句や揶揄(からか)いですら嬉しくなってしまう。そんな私は、何かアブノーマルな扉でも開けてしまったのかもしれない。そんなことを考えながら、私は身体にスポンジを滑らせた。


すっかり暗くなり、夜景として臨めるのが満月と暗い海くらいになった頃、一頻り洗い終えた私達は露天風呂に浸かっていた。

特に会話をするでもなくぼんやりと湯に揺られていると、氷雨さんがポツリと呟いた。

「体育会系」

その目が私をじっと見つめていたので、何となく自分に指をむけてみる。するとコクリと頷かれた。

「え?そうかな?幼稚園の頃、プール習ってたから、少し泳げるくらいだし」

そう答えれば、なに言ってんの?みたいな顔をされてしまう。ん?ちょっと、話が噛み合ってない?

「えっと……水泳の話、だよね?」

昼間泳いでたから。そう尋ねれば、きっぱり訂正された。

「いや、性格の話」

あ、なるほど。と頷きそうになる。

「……って。え!どこが!?初めて言われたよ」

「洗ってる間、花竹さん『気合』『根性』『覚悟』しか言ってなかった」

「うそだ!そんな事は……!」

氷雨さんに意気込んで任せてと言ったからには、そんな精神論だけで押せ押せなんかしてないはず。だけど――……頭の中を思い返す。思い返せば返すほど、応援団の如く氷雨さんの横でエールを送ったことしか浮かばない。アドバイスなんか程遠い。得意げに言ったくせにこれは結構恥ずかしいんじゃないか、私。チラッと氷雨さんを覗くと、じーっと見つめる綺麗な目。今はその眼差しがちょっと痛い!ということで、応急的に誤魔化し策を考える。すると。

「あ」

「なに」

氷雨さんが私を見つめる中、ふふっと笑みを残して背を向けた。続けて、頭に乗っけていたタオルを手に持って湯を掛ける、それからパタパタと手で冷ますと、もう一度氷雨さんに向き合った。そして。

ペチンッ、そんな音を立てながら氷雨さんのうなじへとタオルをあてがった。

「どう?気持ちいいでしょ!」

日焼け後って冷やすと気持ちいいんだよね。そう思っての、即席冷やタオル。

今日は不思議と素直な氷雨さん。だからいい反応が見られると思った。けど、あれ?なんかちょっとびっくりしてる……?

大きな瞳がさらに大きく見開いていた。

「あれ?もしかして染みる?冷ませば大丈夫かと思ったんだけど……」

「いや」

そう言いながらじーーっと私を見つめる氷雨さん。私は、ハッとして逃げるように俯いた。

今の氷雨さんは『水も滴るいい女』状態。

湯から露出する素肌は桜色、濡れそぼった髪は艶めいて、ほうと上気した顔はあまりにも危険。

誤魔化し策とか言って、むしろ返り討ちにあったような気分……。

「えっ……と、ほら。日焼けって冷やすと気持ちいし。この温泉、火傷に効くっていうから、一石二鳥かな!なんて思ったんだけど……」

「……そういうこと」

俯いた視線の先で、氷雨さんの両掌が湯を掬い上げるのが見えた。そしてその手は何故かどんどん私に近づいて。

え?何?そう思って顔を上げようとしたところ。

ピシャっと音を立て、頬を包み込まれた。珍しく温かい氷雨さんの手が私の肌に触れている。僅かな指の動きがはっきり分かってしまう!

それから、私は顔を持ち上げられる。

濡れた顔を滑る指がなんかやらしい!……気がしちゃう。

しかも、目の前には氷雨さんの顔。何故かちょっと微笑んでる。

やばい。

「ひいぃぃぃぃ!!」

「なに?」

「いや、『なに?』は私の台詞だよ!急に何!?」

「この湯、日焼けに効くっていうから」

「言ったけど!何で私?何で顔!?」

「焼けてるから。顔」

「いやいや、さっき鏡で見た時普通だった――」

「……」

無言でじっと見つめられる。さっきみたいに逃げられたらよかったのに、身体が動かない。目も離せない。暫くすると、頬から手が離れ、忘れていた呼吸を取り戻す。でも、それも一瞬のこと。

また直ぐに、今度はお湯に沈んでいた手首が取られる。そして、私の頬にくっ付けて。

「やっぱり色、違う」

とか言い始める。

色んな意味でのぼせ上がっている私が恥ずかしくなるくらい、まるで冷静な氷雨さん。

なんだ……氷雨さんは今日、私を仕留めに掛かっているのか?ってふざけてる場合じゃなく、このままじゃ私は本当に湯けむり温泉サスペンスさながら、この露天風呂に浮くことになりそう!

そんな私は残り僅かな気力で手首を取り返し、少しだけ距離をとる。

「そ、そうでしたか……」

「うん。顔の方が少し黒い」

「じゃあ、後で保湿しとくよ……」

「……保湿」

「そう、保湿。早く治す近道だからね。氷雨さんもお風呂から出たら今日は念入りにやっといた方がいいよ……」

「……」

「……何それ?みたい顔してるから一応聞くけど、スキンケアって知ってるよね?」

学年1位の頭になんて事聞いてんだ。

「それくらい知ってる」

「あ、だよね。流石にね。ちょっとライフスタイルの擦り合わせをね」

「経験はないけど」

「え!なんで!?」

「興味ないから」

「趣味じゃないよ!?」

「そう」

やっぱり擦り合わせといてよかった!

ていうか――何だ氷雨さんって!?

私は目の前の氷雨さんを改めて下から上へ見つめてみる。

何となく分かってはいたけど、氷雨さんって磨かなくても十分光ってる原石、天性の美貌なんだなってため息が出る。とはいえ。

「歯磨きとか洗顔とかとおんなじカテゴリーだから!さ、いつまでも浸かってないで行くよ!」

そう言って氷雨さんの腕を引いた。

「私の貸すから!」

「ありがとう」

「ちゃんと塗るんだよ!」

その後、結局、髪も乾かさずに部屋に戻ろうとした氷雨さんを引っ捕まえて、私が首とか顔とか身体とか取り敢えずこれでもかというほどクリームを練り込んだ。

椅子に座って小さくなる氷雨さんのお世話は、何だか妹でも出来たみたいでちょっと楽しかった。


いつもお読みいただきありがとうございます!


今更なのですが、実は昨日、初めて誤字脱字機能について気がつきまして……(新しい誤字脱字指摘があります!みたいな通知で気が付きました)。しかも今までに何件ものご指摘いただいていました。折角教えてくださったのに、気がつくのが遅れてしまって申し訳ありません( ; ; )

早速、昨日、訂正させていただきました!(^^)

本当に、遅ればせながらなのですが、ご指摘ありがとうございます!

うっかりが無いと宣言できない性格ですので、今後とも是非宜しくお願い致します。

改めて、ありがとうございました!


ちなみに温泉旅館は次で終わりです!

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