猫
三題噺もどき―はちじゅうに。
お題:違和感・幽霊屋敷・猫
暗い森の奥に建っている大きな屋敷。
一度見ただけでは、何の違和感も無い。
ただ、大きな建物があるなと、思うぐらい。
しかし、少しでも目を止めてしまうと、その存在を確実に認識してしまうと、どこかに違和感を感じる。
目が離せなくなる、どこか不気味な、奇妙な違和感が残る。
そんな不思議な形をした屋敷。
そこは、周囲には住む人々に幽霊屋敷と呼ばれていた。
―誰も住んでいないような、息遣いを感じられないような、その屋敷には、1人の住民がいる。
1人―と言うよりは、1匹。
そこに住まうは、1匹の大きな猫。
真っ黒な、宵闇の様な美しい毛並みを持っている。
瞳は、紅というものもいれば、金だというものもいる。
共通するのは、黒曜石のような美しい毛並みを持つ獣だという認識のみ。
だが、その生活を見たものは1人としていない。
本当に、その屋敷にその猫一匹で暮らしているのかと、言われると、誰もが言葉を濁す。
しかし、この屋敷に帰っていく姿が、たまに見受けられるのだそうだ。
そしてもう一つの共通認識。
猫の姿を見た、という噂を聞いた次の日。
周辺の村では、若い女が1人行方不明、又は死亡したという噂も流れてくる。
若い女ばかり、というその噂故、その猫は、吸血鬼が姿を変えたものではないかと言われていた。
しかし、そんなことは無くて。
猫は猫であった。
自由気ままに気高い、どこにでもいる普通の猫である。
若い女を襲うのは、ただ、単純に猫の姿だから言うことだけ。
猫の姿をしていれば、彼女達は何かと寄ってくるのだ。
そこにつけ込んで襲い、喰らう。
今日も、猫は村へと降りていく。
さて、今日の餌食は誰だろうか。