絶望のノクターン
硬いローファーの底をコツコツと地面に叩きつけながらワルツでも踊るように優雅に歩く。
「♪〜〜♪♪〜♫〜〜〜♩」
鼻歌なんかも歌っちゃったりして。ガラガラと引き摺られるスーツケースがついていけずよろめく。
今日の鼻歌はノクターン第20番。耳を洗うような、澄んだ湖畔のような、蒼い旋律が形の良い唇から漏れる。
雑多な駅の騒音も、淀みなく流れるアナウンスも、息を呑む人々のざわめきもノクターンの粒に弾けて消える。
無駄ものが一切ついていない白い足は思いのほかしっかりと筋肉で固められていて、今はそれがしなやかに弾み、言いようもない嬉しさがステップに滲んでいる。
リッくん、リッくん、リッくん…!
今日ばかりはどんなものも、視界に入るもの全てが輝いて見える。
やっと、やっと、ふふ、だめだぁ、にやけちゃう。周りの人に変な子だって思われてるかな。でもしょうがないよね。だって、だって。
流れるような動作で改札をくぐる、心なしか小走りになり始め、頭がくらくらし始める。
リッくん、私のリッくん。ねぇ、私のこと、覚えてる?私、ずっとずーっと大好きだったの。今度こそ、ちゃんと…
羽根のような足取りで改札を出て、先程LINEで知らされた駅の一角を探す。と、その時。
「りっ…く、ん…」
少女の口がわなわなと震える。ゴムのような弾力を見せつけていた肉体は一瞬にして爪の先まで冷え固まり、濃ゆい睫毛に縁取られた漆黒の瞳がぐらぐら煮えたつ。その瞳に映っていたのは、
見知らぬ女とキスをする少女の最愛の人だった。
視界の端がぼやけ、目の前が真っ黒に塗り潰されていくような感覚がした。
恋の大戦争始まり始まりーーカンカンカンカンーーー