邪気祓い
帰りの電車。帰宅時間に鉢合わせたが、気分が悪いのを察したお人は席を譲ってくれた。お言葉に甘えて座らせて戴く。彼女の前では心配させないように気丈に振舞っていたが、成程、これは堪える。よくあんな一般人が抱えていられたと驚く程に。
歯を食り、何とか境内へ。中に入る前に意識が霞む。二本足が言うことを聞かない。しかし最後の力を振り絞り、挨拶をする。
「ただいま戻りました.......」
「おかえり、慧!! 邪気をたらふく吸ったんだろう? 早く祓わないと」
飛梅様は引き摺るようにして中に連れ込むと、急いで結界を張る。この方の凄いところは自らの思いで事を成すこと。思いが霊圧に変化し、体を巡る回転数を上げる。
僕と飛梅様を囲っていた結界が徐々に大きくなり、部屋の外まで広がっていく。眩い光が辺りを包み、徐々に体の淀みが浄化されていった。意識がはっきりして来た。
「すみません。得意の参拝者さんが当てられたみたいで」
僕は敬意を込めて深深と頭を垂れる。穢らわしい身でこの境内に入った事をお許し下さい。貴方様の身を荒御魂に近付けた事をお許し下さい。
床に近付けた頭を上げると彼は片膝を着いて、静かに笑っていた。気にするなとでも言うように。
「明日また念入りに掃除とお清めをしておきますね」
「あぁ。助かるよ」
立ち上がると、改めて本日の報告に移る。瘴気が以前にも増していたこと、馴染みの参拝者が引き寄せられた事、瘴気を引き受けた事。報告している間、飛梅様はずっと険しい表情をしていた。
たった数時間の出来事なのに、数週間分の経験をした気分になる。久しぶりに実地に及ぶと中々大変である。
「早急に対処しなければいけないね」
「はい。念の為に結界は張っておきました」
「うん。それが良い」
読者様 飛梅様直々に殴りに行かないの?
作者 荒御魂化が進行するので、人間が対処に向かいます。あと境内から離れると、人の思いからも離れてしまうので。
※さすがにモデルとなった神様がいらっしゃるので、作者の趣味を押し付けるのも良くないと思い、こうなってます。
ご本人、許してくれるかなぁ.......。