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彼女は不意に膝を折るようにして倒れ込んでしまった。
「大丈夫ですか?」
「す.......すいません!!」
ただでさえ青白い顔が、焦りによってますます青くなる。血の気が失せて真っ白な死人顔。とりあえず、此処から離れなくては。僕は失礼を承知で彼女の腰に手を回すと、そのまま歩き出す。この周辺に座れる場所でもあれば良いのだが。
幸い近くに公園があって、そこのベンチに彼女を降ろす。あの社から離れたとはいえ、顔色が宜しくない。心配になってまた声をかける。
「救急車でも呼びますか? このままじゃ帰れそうに無い」
「いえ、大丈夫です」
全然大丈夫そうでは無い。吐かれた言葉は囁くようで、全くもって生気がない。このまま放っ置く訳にも行かず、背中を擦りながら様態を見る。このまま、この邪気は僕が引き受けよう。帰ったら飛梅様にお祓いをしていただかないと。
掌を通じて淀みと穢れが体に入り込んで来る。それを彼女に悟られないように歯を食いしばり、背中をさすり続ける。
ようやく顔色が戻ってきたところで、僕は彼女に問いかけた。
「帰り道は駅の方角でしょうか? 僕も同じ道を通るので、宜しければ御一緒しますよ」
「う.......」
僅かに顔を赤くした。まあ、いい歳こいた三十代の男性に背中をさすられ続けるのは流石に堪えたのだろう。セクハラで訴えられなければ良いが。
彼女はまだ遠慮と気恥しさがあるようで、黙って俯いてしまった。
「遠慮なさらないで下さい。このまま倒れて行方不明者一人とかになったら、本当に夢見が悪い」
「ではお言葉に甘えて」
彼女はおずおずと立ち上がった。
しれっとこういう事が出来る子です。慧。
勿論、色季に対しても同じように扱います。
大切にしてくれます。身切りし続けると倒れちゃうので、ほどほにね。