危険区域
身支度をして、曰く付きの神社の前に立つ。前にあるのは車道。車通りが多く、幾度となくエンジン音を響かせる。それでも大して問題がなかったのは、単純に波長の合う人間が、強い願いを持って通らなかったからだろう。
僕は一度瞬きをして、再度神社を見た。録に手入れもされていない木々が、雑俳に生い茂っている。境内に続く参道も、影っていて仄暗い。しかしそれ以上に感じるのは、穢れた気。有り体に言えばぐちゃぐちゃしている。残穢にまみれて大変汚らしい。前来た時にはそこまで酷くは無かったのに、人を願いを受け取ったからだろう。おどろおどろしさに磨きがかかっている。
とりあえず、中の神が人を呼び込まないように結界を張ることにした。自宅から持ってきた塩を、社周辺に人つまみづつ落とす。出来れば盛り塩の方が良いのだが、誰かに悪戯でもされたら堪らない。
周りに全て塩を撒き終わると、改めて寂れた神社を見る。もしかしたら、対峙する事になるかもしれない。だが、今はその時じゃない。とりあえず帰って、飛梅様に報告をしよう。
そう思って背を向けた際に、一人の少女がふらふらと境内に引き寄せられている。慌てて駆け寄って注意喚起。
「ここから先は危険区域ですよ」
振り向いた子は齢十八歳くらい。髪が長くて腰くらいまである、普通の少女である。だが相手に見覚えがある。どうやらうちの社の参拝者のようだ。しかもただの参拝者ではない。週に一度は顔を出すお得意様だ。そのせいか周りの神々達も、こぞって彼女の顔は知っている。
彼女は真っ青な顔をして、弱々しく返答した。
「あ.......有難う御座います。すいません、なんだかぼーっとしてたみたいで」
顔色が悪い。船酔いにでもあったかのようだ。それに今までの足取りも千鳥足で覚束無い。気分が悪いらしい。その原因は火を見るより明らかで、此処の邪な瘴気に当てられたからだ。頻繁に神社を訪れる、清らかな気はそこになく、あるのはどろどろとした残穢だけ。
ここまで来て、ようやくあらすじの冒頭部分。
何時も一緒のあの子がいません。
それでも出来ると思ったから任せてます。