依頼受理
此処は境内の中。木造で出来た神聖な空気の中、僕は掃除をしていた。毎朝水を変え、榊を刺す。これが毎日の日課だ。すると御神体である鏡がきらりと光った。両脇に立てられた蝋燭の炎が、左右に揺れ動く。どうやら姿をお見せして下さるらしい。
現れたのは肩まで伸ばした長髪に、刃で切込みを入れたような目尻。薄い唇が特徴の成人男性だった。彼は涼しげに口角を上げると、その鋭い目に僕を写した。
敬意を払う為、膝を折り、頭を垂れる。しかし彼はそんな事はしなくていい、とでも言うように首を左右に振った。
「おはようございます。飛梅様」
「うん、おはよう。毎日有難うね」
飛梅様、彼は此処で祀られている神である。時折こうして境内に現れ、僕達と話をする。性格は大変穏やか、慈悲深い。しかし怒らせると末代まで祟ろうとする恐ろしい側面がある。そんな彼は上機嫌な微笑みから一変し、厳しい表情を浮かべた。
「慧、□□周辺に寂れた神社があるだろう?」
「ええ。落ちぶれてはいますが、祟りを起こせるほど強くは無いので静観してますが」
僕は視線を逸らし、記憶を辿る。近所では、ない。電車を乗り継いだところにある寂れた神社。その雰囲気から基本的に人は寄り付かず、寧ろ敬遠されていると言ってもいい。だから、人に対して害を及ぼす事もないだろうと、放っておいた。
慧兄さんです。
短編では凛が強烈過ぎて、真っ当でいようという精神が働いてます。だからなんというかこう、冷静。
今回はもっと人間らしい。
次回は二人が仕えている飛梅様について話したいなぁ。