宣戦布告
僕は廃れた神社の前に来ていた。前よりも淀みが深く、怨念もそれに乗じて増したように思える。中には入らない。その身で飛梅様や三狐神様に会うなんてしたくない。眼前のおどろおどろしい空気を直視しながら、脳内で語りかける。
――最近、願いを叶えたようですね。
――あぁ。懸想した思いを汲んだまでよ。
前を睨めつける。声まで汚らしい。泥を掻き回したような音がする。大変不愉快で、耳障り。
不意に木々がさざめき、ガサガサと音を立てた。その様が通りがかる人々を見て舌なめずりしているようだった。実際、そうなのかも知れない。ただこの堕神の目にかかる者が居ないだけで。
――でも貴方は堕ち切った神だ。きっと望まぬ形で叶えようとするのでしょう。
げらげらと、笑い声がする。人を小馬鹿にしたような、そんな笑い方。苛立ちで眉根を寄せるのを抑え、飛梅様から戴いた御札を握る。神格が高い分、身代わりになるだろうと下さったもの。 本当はもっと良いことに使いたかった。例えば、毎日頑張って目標の為に努力している人に渡すとか。きっと力になって下さるだろう。
――一緒に居たい。と願ったのでな。娘と出会っただろう? あの娘を我が食って共に腹の中で永遠を過ごせば良かろう?
――分かりました。貴方は僕らが仕える神ではなく。ただの落ちぶれた悪霊として対処させて戴きます。
人の望みを歪んだ状態で叶えた。決して誰かの繁栄を願って人を取り込んだ訳では無い。美しい御魂を尊重し、愛を注いだ訳でもない。ただ己の私欲の為だけに人間を捕食する。故に、僕らが跪き、敬意を払う神々ではない。
今ある霊気を回転させ、相手に威嚇をする。半分以上は自分の力じゃない。飛梅様や三狐神様のものだ。それを感じ取っると、小馬鹿にし、落ちぶれた神は嘲笑う。お前の力だけでは無い。半分以上は他人のもの。そう雄弁に語っていた。
――よく吠えるなぁ。半人前。
「.......ちっ」
そう言って、声は聞こえなくなった。あるのは穢れた気と鬱蒼とした森。
低級神すら成れない、堕ちた神。そんな腐った悪霊風情ごときに、僕はどうしてこんなにも苛立ちを感じているのだろう。飛梅様や三狐神様に言われた訳では無い。親しくして下さる神々に貶された訳では無い。だから気にする必要は.......。
ポケットに入っていた呪符を取り出す。もう清潔だった姿は見る影もなく、ただ泥のような淀みに溢れていた。
舌打ちさせられるのって、悪霊風情にしか出来ない気がします。
慧はいつだって優しい。闇堕ちしないか心配。




