目撃
何時もの帰り道、僕はあの廃れた神社の前を通りかかった。そこで見たのは衝撃的な事実。
線の細い.......男性? 髪の長さや体格も相まって、女性に見えなくも無いが、骨ばった体つきからして恐らく男性だろう。その人が天清さんの体を抱えるようにして歩いている。
見るからに親密そうだった。そもそも天清さんがそこまで体を近づけているのを見た事がない。彼氏..............なのだろうか?
「.......」
何も.......言えなかった。近づいて話しかける事さえ出来なかった。天清さんの口から『彼氏なんだよ』とでも聞いたら、心が折れてしまいそうだ。
僕は二人が睦まじく去っていくのを黙って見ていくしかなかった。やけくそになりながら、鬱蒼とした森の中を駆け抜ける。ひんやりとした気温が自分の体温を奪っていくがそんな事は関係ない。
――あぁ、神様。どうやら僕は叶わぬ恋をしていたようです。
現在進行形で失恋をした。皮肉にも願い事をした神社の前で。悔しさのあまり唇を噛む。あぁ、なんて愚かなのだろうか.......。
するとまた脳裏に直接声が聞こえてきた。
――そんな事はない。その男から娘を奪い返せばいいんだ。ほら、力を貸してやろう
「え?」
薄暗い祠から怪しい光が宿る。淀みのような膿が溢れ出し、瞬く間に僕の体を侵食した。息をする事が出来ない。苦しい、苦しい、苦しい..............。酸欠になって口を開くと淀みは容赦な口に入っていく。気持ちが悪い。出ていってくれ.......!! 早く.......。
後悔してからはもう遅かった。こんなにところに願い事をするんじゃなかった。意識が遠のいて行く..............。
「ふむ。やはり波長の合う人間の体は心地よい。もっと作り替えるか」
ようやくストーリーが動き始めました。
慧を男だと見破れるのに、惚れた弱みで悪い方に考えてしまう子です。