鏡よ鏡よ加賀見さん
加賀見さんは不思議な人だ。
そしてすごい人でもある。
「来週の日本史のテストどこから?」「43ページなのです。鎌倉終わりからなのですよ」
「B組の川合さんの誕生日って分かる?」「5月9日、アイスクリームの日なのです」
「加賀見さん私の爪切り知らない?」「苅田さんに貸したままの可能性が高いです」
聞いたことに何でも答えてくれる。
ほぼ即答だ。しかも全部合っている。
人呼んで「魔法の加賀見さん」。
「少年ジャパンって早売りしてない?」「白雪商店街のヒメヤスーパーには土曜日に入るそうなのですよ」
「空はどうして青いの?」「えぇと青い光は拡散しやすいのでですね──」
どうしてあんなにいろいろ知ってるんだろう。
本当に、不思議な人なのだ。
「加賀見さんは、どうして何でも知ってるの?」
ある日の放課後。教室に1人座っているのを見かけた僕は聞いてみた。
「実はわたしはこの星の人間ではないのですよ」
「……え?」
「シットル星から来た宇宙人なのです。シットル星人はエスパーなので人の心だって読めるのです」
普通なら笑い飛ばすところだ。
だが相手は加賀見さんである。
まさか──
「……な~んちゃって」
僕が目を丸くしていると、加賀見さんはロートーンでそう言った。
「冗談なのです。三田くんの驚いた顔がまた見たくて、つい言ってしまったのです」
「……はぁ」
「ただの努力家なのです。みんなの期待に応えるため、見えないところで必死に頑張っているだけなのですよ」
「あ……そうなんだ」
「誉めてくれても全然いいのです」
「え?えーと……すごいよね」
「にへへ~」
長い前髪に隠れてよく見えない彼女の目が、悪戯っぽく笑ったような気がした。
やっぱりすごい人だ。
「数学の課題いつまでだっけ?」「火曜日なのです」
「ダイヤモンドの次に硬いものって知ってる?」「立方晶窒化ホウ素、というものがあるのです」
「写真撮る時ってどうしてピースするの?」「あれはその昔、カメラのCMで──」
加賀見さんは今日も絶好調である。
でも……と思う。本当にこれが、ただの努力だけでどうにかなることなんだろうか。
……あれ?
ふと気がついた。
何でも、すぐに答えてくれる加賀見さん。
じゃあどうして彼女は僕が聞いたあの時だけ、冗談なんてはさんだりしたんだろう?
加賀見さんを見る。たまたまだろうか、こっちを向いた彼女と目が合った。
にへへ~、と笑い声が聞こえた気がした。
加賀見さんはやっぱり、不思議な人なのだ。