3.騎士団本部へ withクロス団長
自分はそんなに若くないと思っていたのに団長さんから『お嬢さん』と言われ続けて混乱してしまったが、近くにいた女性の騎士さんが小さい鏡を持ってきてくれて恐る恐る覗いてみると、そこには白金の髪に菫色のぱっちりとした瞳の超絶美少女がいた…えっ、これが私!?確かに団長さんがお嬢さんと呼ぶのも分かるかも。
私が鏡に見入っていると隣から
「じっくり見ているところ申し訳ないんだが、お嬢さん、お名前を聞いても?」
と、団長さんが話しかけてきた。ずっと鏡で自分の顔を観察していたのでたぶん自意識の強い子だって思われたかも…急に恥ずかしくなって、すぐに自分の名前を言ようとしたが――
「あれっ、何だたっけ?どうしよう、思い出せない…うっ、痛いっ!」
思い出そうにも思い出せない。考えれば考えるほど頭が割れるように痛くなり始めた。
「大丈夫かっ!」
団長さんや周りの騎士さん達も焦っている、(どうしよう、どうしたらいいの!?)
「頭が―(ドサッ)」
私は気を失ってしまった――
――パカラッ パカラッ
うんー?馬の足音?体が揺れている、ということは…
「馬に乗ってる―!?あれ、確かあの時気を失って―」
「目が覚めましたか?すみませんお嬢さん、本当は体調が悪かったら馬よりも馬車の方が良いのですが、あいにく私達全員、馬で来ていたので。頭はもう大丈夫ですか?」
後ろに団長さん!?ということは今私、団長さんと一緒に馬に乗っているのか。背後から団長さんの優しい(何か妙に甘い)声が…恥ずかしいっ///
「大丈夫ですか?」
「あっ、頭はもう大丈夫です。名前のことなんですが全然思い出せなくて…すみません」
「いえ、謝らなくて大丈夫ですよ。無理に思い出そうとしてまた頭が痛くなったら大変ですので。代わりに他のことをいくつかお聞きしてもいいですか?」
「あっ、はい、大丈夫です」
「お嬢さんはなぜあの森にいたのか、どこから来たのか、この2つです」
「…すみません、どちらも分かりません」
「そうですか…わかりました、今私達は王国騎士団本部に向かっている途中なのですが、そこに到着したら今日はゆっくり休んでもらってもいいので、明日、色々お嬢さんのことについて調べてもよろしいですか?」
「はい、分かりました」
おかしい…あの森で目が覚めたときは自分が何者で、どこから来たのか分かっていたような気がするのに、今は全然分からない。それに、一緒に馬で走っている周りの騎士さん達は私の方をちらちらと不思議そうに見ている。(何か私、変なのかな?)そんなふうに考えていると、近くを走っていた騎士さん達の話し声が聞こえてきた。
「(なあ、あの子の髪の色ってあれだよな)」
「(ああ、あれだ)」
ん?私の髪の色?確かにこの白金の髪は自分でも驚いたけど、周りの人達も赤とか緑とか同じくらい目立つ色だと思うんだけどな
「あのぉ、団長さん、私の髪の色って何か珍しいんですか?」
「…ええ、確かに珍しいですよ」
「私の他にこの髪の色の人っているんですか?」
「まあ、いるにはいるんですが…」
団長さんが答えようか迷っていると大きな建物が見え始め
「お嬢さん、あの建物が王国騎士団本部です。あと、先程のことについては後ほどお話しますね」
と団長さんはさっきの質問に対しては答えてくれず、代わりに目的地に到着したことを教えてくれた――
「あー、疲れたー(初めての馬で慣れていないせいもあるけど、団長さんが後ろから甘い?声で話しかけてくるから変に緊張しちゃったよ)」
先に団長さんが馬から降りて私が降りれるように手で私の体ごと上に持ち上げて降ろしてくれた。
「ありがとうございます、団長さん」
「いえいえ、それより私の名前はオリバー=クロスなので『オリバー』と呼んでくれませんか?」
えっ!?いきなり名前呼びは私にはハードルが高いよ〜
「それはちょっと、恥ずかしいので…」
「…では妥協して『クロス』でお願いします(ニコッ)」
うわー、この笑みは断れないやつだ…
「分かりました、だん「クロス」」
「…クロスさん」
「はいっ」
くそー、こんなの恥ずかしすぎるよ/// 初めて出会ってまだちょっとしか経っていないのに
「では、中へ入りましょうか、おじょ…」
「?(どうしたんだろう)」
「(いつまでも『お嬢さん』と呼ぶのはだめだな)…お嬢さんが名前を思い出すまでの間、何とお呼びしたら良いですか?」
「えっと、そうですねぇ…うーん、ごめんなさい、思いつきません」
「……では、私がつけてもよろしいですか?」
どうしようかな?でもまあ、一応仮の名前だし、
「ええっと、じゃあお願いします」
そう言うとクロスさんは嬉しそうに微笑んで
「分かりました、そうですね……では、『エマ』はどうですか?」
『エマ』!さすがクロスさん、可愛い名前をすぐに思いつくなんて!
「どうですか?」
「はいっ!とても気に入りました!ありがとうございます、クロスさん!」
「そうですか、こちらこそあなたの名前をつけさしてくれてありがとうございます」
そうして私の名前は『エマ』となった。
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エマが気を失って目を覚ますまでの間、オリバーは近くを走っていたバルデと話していた。
「団長、何をずっと考えておられるのですか?」
「ああ、バルデ、いや、この子が自分の名前が分からないと言っていたからな、どうしようかと」
「うーん、では団長がこの子に名前をつけたらどうです?」
「!…ああ確かにそうだな、もし彼女が了承してくれたら名前をつけてあげたいな」
「団長なんか嬉しそうですね」
「そうか?」
「ええ、この子に会ってからずっと顔が緩みきっていますよ」
「まさか!……いや、そうかもしれないな」
この子に出会って久しぶりに女性に興味を持った。これが好奇心によるものなのかそれとも……
「団長、もしこの子に名前をつけるなら何にしますか?」
「そうだな…少し考えてみる」
そうしてオリバーは何度も何度も考え『エマ』という名前を思いついたのだった。