39.お茶会?
「エマ様、私のお兄様もお付き合いの候補に入れてくれませんか?」
「はい?」
初めはペネが何を言っているのか意味が分からなかった。
「いや、ですから、お兄様がエマ様のことが好きですの」
「はいー!?」
二回目。ようやく理解した。だが、『あっ、そうなんだ』と普通に答えることは出来ず、令嬢らしからぬ大声を上げてしまった。ただ、周りには私の大声に驚くものはおらず、皆、ペネが放った衝撃的な事実に声を出せずにいた。私は一旦心を落ち着かせて
「ペネ。それは、バンナ卿が以前おっしゃっていた恩のことではないでしょうか?」
ペネと他の人達で市場へ出かけた時、ペネのお兄さんからエリオット殿下を助けてくれたお礼、元バンナ伯爵家当主の逮捕を手伝ってくれたお礼(偶然だが)など『ありがとうございます』とは言われたが、恋愛的な意味で好きなんてことは言われていない。
「いえ、違いますわ。確かに、あの時の恩は感じていますが、お兄様曰く、エマ様の魔力の色を見て好きになったそうですの」
「魔力の色?」
「はい。お兄様は神官長なので魔力の色を通して人の性格などが分かるのですわ。それで、以前エマ様の魔力の色を見て惚れてしまったらしいのですわ」
魔力に色なんてあるんだ。それが出来たら誰が悪い人か全部分かっちゃうよね。え〜、やってみたいな。どうやったら出来るんだろう?やっぱり神官になるしか無いのかな……いやでも、他に方法があるかも…どうしたら……
「―さま、―マ様、―エマ様!」
「はっ!あっ、ごめんなさいペネ。ちょっと自分の世界に入っちゃった」
あまりにも衝撃的すぎて現実逃避してしまった。意外と長い間聞いてなかった…どうしよう…
「それでですね、私達は他の令嬢にあの方たちを奪われるより、エマ様とくっついてくれたら良いと思っているのですわ」
「うん?どういうこと?」
途中からだからあまり、というか全く話の内容が分からない。
「つまり、皆様の憧れであるエマ様とあの方たちが付き合って欲しいということですわ」
「『あの方』って誰のこと?」
「だから、ルーク殿下、アルバート様、オリバー様、エルフィー様、グレイソン様、ブレイクお兄様の六人ですわ」
「はい?」
なにそれ!?六人!?ていうか、そもそもこの国は一妻多夫制は無いんじゃ…
「ここ数年女性の数が少なくなってきているので、女性が複数の夫を持つのは最近ではよくあることなのですわ。なので、安心してお付き合い下さい」
「いや、私はそもそもあの人たちのことを恋愛的な意味で好きじゃないから。この話は無かったことに――」
「でも、嫌いではないのですよね。なら大丈夫ですわ」
いや何が大丈夫なの…
「いや、人の話を――」
「私達でエマ様があの方たちを愛せるようお手伝いしますわ」
「「ええ!」」 「「そうですね!」」
あの〜、君たち、人の話を聞いて下さいな。
「ペネ、私はまだ七歳だし、あの人達とは十歳以上離れているんだよ。年齢的に無理でしょ」
「いえ、恋に年齢は関係ありませんわ。私が読んでいる恋愛小説の中には二十歳離れている恋人もいましたわよ」
「ああ!私もその本読んでいますわ」 「私も!」
いや、それは本の中ででしょ。
「なのでエマ様!私達はエマ様が安心して恋が出来るよう頑張りますわ!」
「「「ええ!」」」
なんという団結力…恐ろしい…
私は複数の人を愛せる自信がないし、あの人達にとって私は妹的な存在。それに私にとってもあの人たちは保護者的な存在だから。万が一にも恋愛的な『好き』にはならないだろう。ペネ達が色々と作戦を立てているところ申し訳ないが…
結局お茶会はペネ達の作戦会議となりお開きになった。
====================================
「エマ。エルフィーから聞いたがお茶会を開いたそうだな。どうだった?」
今私は騎士団本部の練習場のベンチに座っていて、隣には団長であるオリバーさんが座っている。
「まあ…とにかく凄かったですよ…(聞いている此方が物凄く恥ずかしかった…)」
「エマ、疲れているようだが…大丈夫か?」
「ええ。ただ、慣れていないお茶会に疲れただけです」
八つ当たりだけどオリバーさん達のせいだからね!
「そうか…なら今日のトレーニングは少し緩めにするか?」
「いえ、大丈夫です」
お茶会があった翌日から騎士団での剣術の練習が始まった。学園が休みでもやはり騎士団の方はほぼ全員出勤しており皆書類を運んだり、鍛錬している人もいた。
練習初日である今日はオリバーさん直々に教えてくれるのだが、次回からは他の人が担当してくれるらしい。
オリバーさん曰く、『沢山の人の剣術を見て、自分が気に入ったものを取り入れていけば良い』ということだった。
因みに学園の剣術大会は魔法は使用不可らしい。まあ、そうだよね。
二時間ほどオリバーさんと練習し、お昼休憩となった。以前の魔術大会の練習のおかげで、ある程度は体力がついてきて、オリバーさん相手に十分は持ちこたえることが出来た。でも、オリバーさんに攻撃は与えられず、ただただ攻撃を避けるので精一杯だ。
どうしたら良いか黙々と考えながら、食事をとっていると、後ろから誰かに肩をぽんっと叩かれた。振り向くとそこには、
「エマちゃん!練習お疲れさま!」
「わっ!ナタリーお姉ちゃん!」
愛すべきナタリーお姉ちゃんがいて、私は驚いた。まあ、ここは騎士団本部だから会うのは当たり前かもしれないけど。
「聞いたよエマちゃん。団長相手に十分も持ったんだってね」
「はい。でも一回も攻撃できなくて…避けるので精一杯でした…」
「いや、十分も団長と渡り合えるなんて凄すぎるよ。ましてやまだ七歳でしょ!」
確かにそうだけど、私は身長の低さを利用しているから、成長して身長が伸びたら今まで通りの方法ではだめなんだよね。だから、この休みの間に自分の戦い方を見つけたい。
「まあ、そうなんですけど……このままじゃ駄目かなっと思っていて…」
「ふ~ん。じゃあ、ここで沢山学んで、いつか団長に勝ってね」
「はは……それは一生無理ですね…」
ナタリーお姉ちゃんとお喋りをしていると何人かの騎士さんも集まってきて賑やかになった。色んな人に将来は騎士団に入るのか聞かれたが否定しておいた。だって、今のところ魔術と剣術の興味の比率は七:三だから。出来ればどっちもやってみたいけど……
お昼休憩が終わりまたオリバーさんとの練習が始まった。休憩の合間に騎士さんから色々教えてもらい実践してみたが、動きは良くなったものの、やはりオリバーさんには攻撃を当てることが出来なかった。
「エマ、先程よりも動きが良くなっているぞ」
「ありがとうございます」
「だが、エマはまだパワーが足りないから、私の攻撃を直接そのまま受けるのは良くないな」
そうなんですよね…どうしてもそのまま受けてしまう時があって吹き飛んじゃうんだよね。どうしたら良いのか……
オリバーさんに指摘されてから少し考えある一つの考えにまとまった。
「じゃあ、『攻撃を受け流す』!」
「ふふっ、まあ今のところはそれだな」
攻撃を受け流し、オリバーさんの後ろにまわって攻撃!……まあ、そんなに上手くいくはずは無いんだけど…
私はこれを利用してもう一度オリバーさんと戦ってみた。が、オリバーさんの後ろにまわる前にオリバーさんはすでに後ろに振り向いていて逆に攻撃にあってしまった。オリバーさんの反射神経凄すぎる…
結局今日はオリバーさんの攻撃を受け流すというのを思いついただけで終わってしまった。もう一度オリバーさんと対戦するのは練習の最終日だけ。それまでに完成しなければならない。
===================================
―公爵邸
「エマちゃんお疲れ様」
「ありがとうございます、エルフィー先生…」
公爵邸に戻ってきて少し寝てからディナーとなったのだが、とにかく足腰が猛烈に痛い!メイドの人にマッサージなどをしてもらったのだが、それでも痛い…幸い明日は何もない日なので安静して過ごすことが出来る。
「それにしてもオリバー相手に攻撃を避け続けるなんてすごいですね」
「いや、私はまだ身長が低いのでオリバーさんもやりづらいんですよ」
「そうでしょうか……まあ、それでも今日はお疲れですね。ご褒美に一緒にお風呂に入りましょうか」
「いや、遠慮しておきます」
「はあ、そうですか…残念です…」
めちゃくちゃ残念そうなのが逆に怖いんだけど…
「そういえば父上から聞いたのですが、エマちゃんは父上に砕けた口調で話しているんですよね」
「えっ!まあ、そうですけど…」
なになに!?まさか……
「僕にももう少し砕けた口調で話して下さい」
やっぱり…
「エルフィー先生は一応『お兄様』なので別に良いですけど、学校ではだめですからね」
「はいはい。大丈夫ですよ。それにしても『お兄様』ですか……」
うん?何?表情がとても暗いですけど…
「エマちゃんにとって僕はどういう存在ですか?」
急ですね!?ああ、昨日のお茶会でペネ達と話していたのを思い出しちゃったよ…なら、私も聞きたいことがあるけど…
「じゃあ、逆に聞くよ。エルフィー先生にとって私はどういう存在なの?『妹』?それとも『研究仲間』?『生徒』?」
まあ、どうせ『妹』か『気が合う人』、『研究仲間』ぐらいかな?
「『初恋の人』です」
!?!?!?!?!?
「僕にとってエマちゃんは初恋の人でこの上ない大切な人です。何回言ったら分かってくれるんですか」
「いや、『初恋』なんて初耳です!」
「抜け駆けしてライバルたちに怒られそうですが、しょうがないですよね。エマちゃんから聞いたので」
私のせいですか!?
どうしよう…この後どうしたら良いの!?
====================================
―エルフィー視点
『ヴァイオレットの姫君を見守る会』の会長、バンナ伯爵令嬢から連絡が届いた。昨日のお茶会で彼女はエマちゃんが僕たちに恋愛感情を持ってくれるようアピールしてくれたらしいが、効果はイマイチだったらしい。そこで、一番の方法として僕たち自らエマちゃんに告白をするというものだった。だが、それはあくまでエマちゃんからそういう話をされた時のみで。
だから僕は今日の夕食でエマちゃんがそういう話をしてくれるよう誘導して、告白するつもりだ。卑怯かもしれないが僕たちの気持ちに気づかないエマちゃんが悪い。ついでに父上からエマちゃんの口調が変わった自慢を永遠にされたので、僕もエマちゃんに口調を変えるようお願いしようと思う。たぶんこのお願いは直ぐに受理されると思う。
エマちゃんはいつまで経っても僕のことを『兄』か『研究者』としか思っていないから。
遅くなってしまい申し訳ありません。




