32.変態ドS現わる!
私がルーク殿下の婚約者!?無い無い。そんなの絶対にお断りですよ!
私は今、宰相ウォーカー様ととあるカフェの個室で二人きりになっている。通常、男女が密室で二人きりになるのは良くないこととされているが、私はまだ七歳なのでそこらへんは気にしなくていいのである。
って、そんな事を言いたいわけではなく、私がルーク殿下の婚約者になるかもしれないという危機に陥っていることをお伝えしたいのだ!
「王太子の婚約者ですよ。次期王妃になれるのですよ」
「いえ、私は特にそんなことには興味がなくて。次期王妃になるよりも魔術を研究したいので」
「はあ。まさかエルフィーの他にも魔術バカがいるなんて(ボソッ)……」
今聞き捨てならないことが聞こえたんだけど。き、気のせいだよね。私があの天才変態魔術バカと同類って言われたような。まさかこの宰相さん意外と毒舌なお方なのでは!?
私がショックで涙目になっているとそれに気づいたウォーカー様がフッと笑って
「もしかして聞こえてましたか。すみません、別にホール嬢を傷つけようと思ったわけではないのですが………」
そう言うとウォーカー様は急に話すのをやめて、グッと顔を近づけ私をじっと観察し始めた。なっ何事だ、と思っていると
「ホール嬢のその泣き顔、本当に可愛らしいですね。その綺麗な菫色の瞳からこぼれ落ちる小粒の涙、白磁のような透き通った肌は少し赤みがかり。もっといじめたくなりそうです」
「へえ?」
やっ、ヤバい人だ!この人完全な異常者だ!何かめちゃくちゃ色気ダダ漏れているし。もしかしてウォーカー様はSですか!?いや、Sですよね!私は別にMの趣味は無いのでぇ〜!これは逃げるしか無い!エルフィー先生並みにこの人変態だった。
私は直ぐに椅子から降りて皆がいる部屋へ向かった。…が、ウォーカー様にヒョイッと持ち上げられ、ストンッと膝に降ろさせられた。
「まさか私の性癖を知って逃がすとでも?それに、こんなにもいじめがいがある子を手放すわけが無いでしょう」
「ウォーカー様は変態です!ドSです!離して下さい!」
「『ドS』?何ですかそれ?というかそんな顔で離せと言われても全然逆効果ですよ」
ぐおー!はっ、離せー!もう身体強化の魔術を使うしか…
「はあ、それにしても折角ホール嬢という可愛らしい令嬢を見つけれたのに、もうすぐ殿下の婚約者になってしまうなんて…」
「いやだから、了承してないって――」
「ホール嬢。もし私がルーク殿下との婚約を阻止出来るとしたらどうしますか?」
「えっ!出来るんですか、そんなこと!」
ななな、なんと!嘘でしょう……いやでも、宰相様なら……ありえる!
「はい。ですが、その代わり私のことは『グレイ』と」
えっ!そんなことで良いんだ。なら別に…
「良いですよ、良いですよ。でも公式の場ではちゃんと『ウォーカー様』と呼ばせて頂きますよ」
「ええ。……本当はずっと愛称で呼んで欲しいのですが、流石にエマの顔に泥は塗りたくないので」
おお!さすがは宰相様。そこら辺はしっかりしている。……けど、ちゃっかり『エマ』って呼んでるし…
「グレイさん、ちゃーんと約束、守ってくださいね」
「ええ、このグレイソン、殿下とエマの婚約、阻止してみましょう」
宰相グレイソン=ウォーカーとの秘密の密会(密会ではない)は幕を閉じた。
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「ねえ、エマちゃ〜ん。何か僕たちに隠している事あるよね」
「エ〜、ナ、ナンノコトデショウカ〜?」
グレイさんと個室を出てから私の何かがおかしいと気づいたエルフィー先生達は直ぐに私に駆け寄り質問攻めに入った。ちらりとグレイさんを見ると何でも無い風にしらーっとしていた。
あのドSめ!自分だけ関係ないですよ〜みたいな顔して!……いや、もういっそのこと、この人がドSであることをバラしいてしまおうか!よし、言ってやるぞ!
「聞いて下さい、この人実は人をいじめることが好きな超ド変態なんです!」
言ってやったぞ!どうだ、もうこれでグレイさんの澄ました顔は崩れているだろう。
そう思って皆の反応を待っていると
「ええ、知っていますよ。この人本当に性格悪いですよね」
「へえ?」
「うん?もしかしてエマちゃん、この人にいじめられたのですか!?」
「えーっと、いじめられたいうか、助けられたというか…微妙です……ていうかエルフィー先生はグレイさんがドSなのを知っているんですか!?」
グレイさんは自分がドSだということを自ら打ち明けているのだろうか。
「『ドS』?が何なのか分かりませんが……まあ、そうですね、グレイソンは自分が気に入るものをいじめるのが好きな変態ですから。学生時代は散々そういう光景を見てきたので」
ああ〜、言わなくてもバレていたんだ。
「それで、エマちゃんはグレイソンに何かされたのですか?」
「ウ~ン、ソウデスネ〜、ナニモアリマセンヨ〜」
「本当ですか?」
頑張れ私の表情筋!自然な笑顔で!
「はい!(ニコッ)」
「グハッ……不意打ちはだめですよ(ボソッ)」
何か言っているけど、セーフってことかな?
その後は何回か疑われてグレイさんに助けを求めるも『何のことですか』と微笑んでいるだけで助けてくれなかった。『あいつめ〜!』と思って睨みつけても逆に恍惚とした顔で微笑まれただけだった。
あっ、この人、変態だったんだ。
重要なことを忘れかけた私であった。
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「じゃあまた学園で会いましょうね、エマ様!」
「うん!……それとペネに渡したいものがあるんだけど」
夕方。ある程度市場を堪能してより一層ペネとも仲良くなった。お別れの時に渡そうと思っていたお揃いのアクセサリーをペネの前に出した。
「うわ〜!凄く可愛らしいですわね!」
「ありがとう!実はこれ二つ購入していて一つはペネにプレゼントしようと思ったの。だから、はいこれ」
私はペネの手のひらの上に紫色から赤紫色へのグラデーションの髪留めを置いた。
「もしかして、この赤紫色は私の瞳の色ですか!?」
「うん。本当は紫色じゃなくて菫色が良かったんだけど、流石に無くてね」
「それでも本当に嬉しいですわ!エマ、ありがとうございます!あっ!皆様がいる前で『エマ』と呼んでしまいましたわ」
「ふふっ、別に大丈夫だよ。今はプライベートなんだから」
「そうですわね」
最後に二人で笑って今日のお出かけは終了した。
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――二ヶ月後 中等部第一学年デルタクラスにて
「お前ら聞け。一ヶ月後に魔術大会が控えている。魔術コースを選択の者は殆が参加するだろうが、選択していない者も外部への良いアピールの機会だから参加できる者は出来る限り参加するように。以上、それぞれ選択コースの教室へ向かえ」
魔術大会来た〜!待ちに待ったこの大会!他の皆の魔術を観察できる唯一、ではないけど貴重な機会!楽しみすぎる!
「エマ様が楽しみにされていた魔術大会がやって来ましたね」
「はいっ!アリアラ達も参加するんだよね?」
「はい。なので今まで魔術コースで沢山練習してきました」
「だよね。れんしゅ……う…」
「?どうされましたか」
ヤバいっ!私ってば研究するだけして練習して無くない!?あまりにも新しい魔術を作り出すのが面白くてまともな練習を学園に来てからしてない!
「ちょっとやらないことを思い出して…ごめんね私今すぐ第一練習場へ行かないと。じゃあ!」
私はそのまま猛ダッシュ!、というわけにもいかなく、流石に貴族なので誰にも走っているところを見られないように闇属性魔法の姿くらましと身体強化を合わせてエルフィー先生の方へ向かった。
「エルフィー先生〜!」
叫びながらエルフィー先生に近づくと先生は『おやおや』という風に首をかしげていた。
「どうしました、エマちゃん。何か困りごとでもありましたか?」
「ありますよ、あります!私、魔術の練習、全然してませんでした!」
「はい、そうですね」
グハッ……エルフィー先生も気づいていたとは…
「まあでも、エマちゃんは僕と一緒に魔術の研究しているので魔力操作や魔術の種類は私と同等ぐらいですよ。なので、あまり心配することは無い――」
「良かった〜」
「違いますよ。心配することは無いですが、人との対戦となるとまだまだです。たぶんエマちゃんが気にしている魔術大会は後半は完全な対戦なので、相手に攻撃するタイミングなど諸々覚えないといけないですね」
「そ、そんな〜」
あと一ヶ月しかないのに、どうすれば…
「ふふっ、安心して下さい。愛しいエマちゃんが困っているのです。現王国魔術師団長の僕が全力でサポートしますよ(ニコッ)」
「エルフィー先生は神様です!」
その時だけ天才変態魔術バカではなく神のごとく光り輝いているよに見えたのは内緒である。
しかし光り輝いて見えたのはその時だけでその後の一ヶ月間、先生は鬼畜大魔王になって、私は地獄を見ることになる。




