15.前世の記憶
ルーク殿下の変態騒動から三日ほどが経ち、エルフィー先生から『古代文字の解読に成功!エマちゃん、褒めてください』という手紙が届き、急いでオリバーさんと一緒に魔術師団本部へと向かった。
「エマちゃん!聞いてください!私、古代文字の解読にせ――」
「分かったから早くしろエルフィー」
「ちぇっ、私がどれだけ頑張ったか…まあ、私も早く実際に古代魔術を使いたいですし…。じゃあエマちゃん、このソファーに座って。ゆっくり深呼吸してください」
私はエルフィー先生の言う通りに気持ちを落ち着かせた。するとエルフィー先生は私の額に手をあててどこかで聞いたことがあるような言語で古代魔術らしきものを発現させた。(やっぱりエルフィー先生は凄いなあ〜)とのんきなことを考えていると急に頭の中に大量の情報がなだれ込んできた。
これは何っ!?…お母さん?…お父さん?…酔っ払っているおじさん?…………神っ!?
そして私は…山木美穂………
全部思い出した!私は山木美穂で酔っ払いのおじさんにぶつかって死んでしまったんだ。それで神様がこの世界に生き返らせてくれて……それで、この世界は…えーっと、何だったけ?お、落としゲーム?…違う違う。……あれ?本当に何だったけ?まあ、覚えてないってことはしょうもない事なんだろううし、どうでもいいか。あっ、さっきエルフィー先生が言っていた古代魔術の言語って日本語だ!ということは、私も古代魔術が使えるのかな?
私がある程度思い出した時、目を開くと心配そうにしているオリバーさんとちょっと疲れ気味のエルフィー先生がいた。(これは、成功ってことでいいんだよね)
「エマ!だっ大丈夫だったか!?」
「え、エマちゃん…どうでしたか、思い出せましたか?」
「はい!…あと、エルフィー先生大丈夫ですか?顔が青白いですけど…」
「ふふっ、初めての古代魔術は大量の魔力を消費するようです…私の魔力量を持ってしても『記憶の蘇り』は少々高度な魔術だったのです。いや〜、こんなに魔力を消費したのはいつぶりでしょうか…はっ!それでそれで、エマちゃんは記憶、完全に戻りましたか?」
「そっ、それが――」
私は思い出したこと、つまり前世の記憶をオリバーさん達に話した。オリバーさんは終始ずっと驚き、エルフィー先生は体調が悪いはずなのに鼻息を荒くして興奮していた。(え、エルフィー先生、落ち着いて〜)そして、一通り話してからオリバーさんが
「エマは……前世を思い出した今、『エマ』じゃなくて『ミホ』と呼んでほしいんじゃないか?」
おお、痛いところついてきましたね。確かに『山木美穂』の人生に未練はいっぱいあるけど、これは『エマ』としての第二の人生。前世のことは今回は考えずに、『エマ』という一人の少女としてこの世界を満喫したい。だから…
「いえ、ぜひこれからも『エマ』って呼んでください」
「本当か!よかった(これからも私がつけた名前で呼べる!)」
「あと…この、私の『前世の記憶』は誰に伝えられるんですか?その、なるべく伝えられたくないんですけど」
「そうか、分かった。じゃあ伝えるのは陛下と王妃殿下、そして宰相のグレイソンとホール公爵のみに伝えておこう。ちなみに私達はエマを『大人の女性』としてなのかそれとも『七歳の女の子』として、どちらで扱ったらいいのだろうか?」
「それは…『七歳の女の子』でお願いします。今回の人生の主役は『美穂』ではなく『エマ』なので」
「分かった。…それでこの後の話なんだが、エマにはこれから義父となる予定のホール公爵に会ってもらう。ホール公爵はエマのことを『娘』というか『孫娘』としてとてつもなく気に入っているからそんなに緊張しなくていいぞ」
「い、今からですか?」
「ああ、ちょうど今この本部の門の近くにホール公爵家の馬車が停まっている。騎士団本部から持ってこさせたワンピースがあるからそれに着替えてきてから向かうぞ」
「分かりました」
騎士団本部から持ってきたワンピースというのはこの前、メインストリートで購入した赤紫色のものだった。髪はナタリーお姉ちゃんほどではなかったが、女性の魔術師さんが整えてくれた。
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魔術師団本部からはかなり遠く二時間程してからようやく到着した。オリバーさんいわく『これは短い方』らしい。(これで短い方って普通の時はもっと長いってことなのかな)
目的地のホール公爵家は魔術師団本部と同じくらいの大きさで、このグラド王国の貴族の中では二番目に大きいらしい。
そして出迎えてくれたのはエルフィー先生と同じ葡萄色の髪に焦茶色の瞳の美丈夫と、長い白髪を後ろでくくっているこれまたダンディーなおじいさんがいた。(たぶん葡萄色の髪の人の方がホール公爵だよね)私達はホール公爵達の方へ行き挨拶をした。
「初めまして、エマと申します」
「これはこれは、エルフィーの行っていた通り本当に可愛らしいな。初めまして、私はホール公爵家の現当主であるフィンリー=ホール、エマの義父となる者だ。そして、私の隣りにいるのが―」
「初めまして、エマお嬢様。私はフィンリー様の専属執事であるセバスチャンと申します。ぜひ、セバスとお呼びください」
おお、やはり執事と言ったら『セバスチャン』なんだ
「おいおい、セバス。何しれっと私より先にエマに愛称を呼ばせようとしているのだ。エマ、私のことは、そうだな…『フィンお父様』と呼んでくれ」
「(この人は私のためにお金を出してくれたし、これからお世話になるから)はい、フィンお父様」
「ぐっ、可愛すぎる。エルフィーもこれくらい愛嬌があったらな」
「余計なお世話ですよ父上」
フィンお父様って思っていたのと全然違ってとっても優しい人じゃん。この人の娘になれるなんて最高だな。
「では、これからエマが公爵家の人間になった時の話をする。皆、こちらに来い」
そうしてフィンお父様達に連れられて公爵家の家に足を踏み入れた。




