10.庭園での散歩 with王太子ルーク=ウィリアム
「エマ、私と一緒に王宮の庭園を散歩しませんか?」
急に男の人が誘ってきた。(あれ、この人確か宰相さんと話していた人だよね。誰だっけ?魔術を学べると聞いて興奮しすぎたかも。全然話を聞いていなかった……)
「あの〜、お誘い嬉しいのですが、あなたは誰ですか?」
私の言葉一つで一瞬でこの場が冷えた。(もしかしてこの人凄く偉い人とか!?)
「すみません、あの私本当に何も知らなくて、その―」
「いえいえ、気になさらないでください。まず自己紹介が最初ですよね。はじめまして、グラド王国王太子のルーク=ウィリアムです。実はこの後一緒に庭園を散歩したいのですがよろしいですか?」
おう、おう、王太子!?だからさっき私が『この人を知らない』って言ったら空気が一気に冷えたのか。どっどうしたら……周りの反応を見てみよう………うん、『絶対に断るな』って顔してる。
「……はい、この私でよろしければ」
「ありがとうございます(ニコッ)」
眩し過ぎますよ、さすが王族。よくよく見るとこの人の瞳、陛下と違って若葉色なんだ。もしかすると王妃様と同じ瞳の色なのかも。
「殿下、流石に女性と二人きりでいるのはあまりよろしくないかと。他の人が見たら誤解されてしまいます」
おお!ナイスフォローです、オリバーさん!このまま私が騎士団本部に帰れるようどんどん言ってください!
「すみませんが、別に私はそういう風に思われても構いませんよ。だって、エマのことを今までにないくらい気に入っていますから」
―ざわっ
何言っているんですかこの人は!これじゃあもう本部に帰れないじゃないですか!
「では一時間ほど経ったらまたこの場所に戻りますね、行きましょうかエマ」
王太子は私をお姫様抱っこをして素早くこの広間から出ていった。(おっオリバーさん!ぼーっとしてないで助けてー)私の願いは虚しくオリバーさんは何か衝撃を受けたようで突っ立ったままだった。
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「ようやく静かなところに着きましたね。見てください、ここが王宮の庭園です」
七歳の私が力で勝てるわけでもなく、大人しくお姫様抱っこをされていた。庭園につくまでの間、色んな人に驚愕の目で見られた。(帰ったら料理長に特製お子様ランチを作ってもらおう)
「エマ?大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です(全っ然大丈夫じゃないです、あなたのせいで!)」
「ははっ、『大丈夫じゃない!』って顔をしていますよ、エマ」
えっ、顔に出てた!?
「エマは本当に分かりやすいですね。その上とても聡明で可愛らしい。七歳でそこまで丁寧に話せるのは本当に凄いです」
「あっありがとうございます///(そんなにはっきりと言われたら恥ずかしいよ)」
「(うっ、その顔は可愛すぎます)もし良かったら散歩だけでなくランチもここの王宮で一緒に食べませんか?」
「(王宮のランチ!食べてみたい、けど)すみません、実は騎士団本部に帰ったら特製お子様ランチを食べる予定なんです。あっ、(さっき思っていたことそのまま言っちゃった、『お子様ランチ』って、めちゃくちゃ恥ずかしい)」
「ふふっ、そうですか分かりました。じゃあランチはまたいつか」
笑われたよ、『ふふっ』って。だってしょうがないじゃないですか、料理長の作るランチは絶品だから!
「殿下も騎士団本部の料理長が作るランチ食べてみてくださいよ。絶っ対虜になりますから!」
「ええ、分かりました。ではいつか招待してくださいね」
そんなことを話していると
「殿下〜!ここにいらっしゃったのですね、探しましたわ…よ。殿下!誰ですかその子は!」
後ろから女の人の声がしたかと思うとその人は私に気づいて鋭く睨みつけてきた。(初対面なのにそんなに睨まないでほしい……ああ!もしかしてこの人、殿下のことが好きなのかも。じゃあ…)
「殿下、私はお邪魔なようなのでここで失礼します(意外と楽しかったけど人の恋を邪魔したくはないからね)」
私が降ろしてほしいという風に殿下の方を見ると、いつもの十倍ほど微笑んでいたが目が笑っていない。(怖い、怖いよ。さっきまで優しく微笑んでいたのに)それに全然降ろしてくれる気配が無い。
「ちょっとあなた一体何なの!殿下におっお姫様抱っこをさせているなんて!そこから早く降りなさい!私は殿下の婚約者なのよ!」
婚約者さん、殿下の表情に早く気づいて!前にはめちゃくちゃ怒っている女の人、真後ろには怖すぎる笑みと保っている殿下。誰か助けてー!
「ねえ、バンナ令嬢。私達は今楽しく話していたんだけど。気付きませんでしたか?」
「ひっ、申し訳ございません殿下」
「じゃあもうどっかに行ってくれませんか?それにここは王族以外許可がないと入れないはずなんですが…どうやって中に?」
「そっそれは、私が殿下の婚約者なので見張りの騎士にお願いしたら入れてくれたのです」
「はあー、先程から『婚約者』、『婚約者』と言っていますがあなたはまだ『婚約者候補の一人』ですから。勘違いされないでください」
「ぐっ…申し訳ございません、では失礼いたします」
女の人は悔しそうに走ってどこかへ行ってしまった。
「すみません、とんだ邪魔者が入ってきてしまって。せっかくの楽しい時間が」
さっきの顔と今の顔、全然違うんですけど。というか、あんなに酷いこと言って大丈夫なんでしょうか…
「心配なさらなくても彼女は伯爵家の人間ですから公爵家のエマの方が実質立場が上ですよ。まあ、二ヶ月後の話ですが…だからエマに対して失礼な行為はできません」
「そんなことを心配してるんじゃないです!あなたを心配しているんです!あんなこと言ったら殿下の評判が……」
「ははっ、そんなこと全然大丈夫ですよ。もうとっくに私がそういう人間だと知られていますから」
「そうですか…心配して損しました」
「……本当にエマは可愛いですね。そんなエマに私を『ルーク』と呼ぶ権利を与えましょうか」
「いや、そんなものいらないです。必要ないので」
(あっ、流石に今のは不敬罪にあたるかも)そう思ったが、殿下は大声で笑いだした。そして
「はあ、そんなこと言えるのはエマぐらいですよ。もっと話したいけどもうそろそろ約束の一時間が経つから広間へ戻りましょうか。オリバーが煩いので」
そうして殿下は私をお姫様抱っこをしたまま広間へと歩き出した。




