真相
家に帰ってベッドに仰向けに倒れこむ。
凪さんの言葉を思い出しながら、僕はスマホを取り出した。アプリを立ち上げ、これまで『suzume』さんが投稿した絵を見返した。
最初に星空の絵が登校された8年前から、計1000枚近くの膨大な絵が投稿されている。
防波堤、海近くの線路、湖畔から眺める山の朝焼け。どれも純真で心洗われるものだった。
スクロールしていると、ふと1枚の絵に目が止まった。
巣にとまるハトの雛を描いた絵。
黒い雛の頭には黄色い産毛が描かれている。
起き上がり、画面をスクロールする。
少女が大型犬を散歩させている絵。
制服姿の少女が朝の通学路を歩く絵。
シックな色合いで描かれた、喫茶店とコーヒーの絵。
そして昨日投稿された絵は、寂れた遊園地のメリーゴーランドに寝転ぶ女性の絵だった。
予想が確信にかわる。
「やっぱり、凪さんは、suzumeさんだったんですね」
思わず独り言を漏らしたその時、突然通知音がなった。
それは、suzumeさんからのDMが届いていることを知らせるものだった。
これまで僕は、彼女の絵にコメントをしたり、高評価のボタンを押したことはあったけれど、直接メッセージが届いたのは初めてだった。
僕は胸の鼓動を抑えながらメッセージを開く。
そこに書かれたメッセージを読み、僕はようやく理解した。
彼女がなぜ僕の前に現れたのかを。
「はじめまして、yuukiさん。
suzumeの姉の美奈といいます。
突然のご連絡大変申し訳ありません。
どうしても伝えたいことがありメッセージを送らせていただきました。
suzumeこと、私の妹である凪は、昨年の夏永い闘病の末、この世を去りました。
中学のころから、自宅よりも病院のベッドで過ごすことの多かった妹の支えは、絵を描くことでした。
あるとき、妹は嬉しそうにタブレットを私に見せてくれました。
初めてフォロワーさんから嬉しい感想コメントをもらった、と。
妹は、亡くなる昨年まで弱音を吐くことなく毎日絵を描き続けました。
亡くなる直前、彼女は私に『自分が死んでからも、残りの絵を代わりにアップロードし続けてほしい』と言い残しました。
楽しみにしてくれている人がいるから、と。
先ほど、最後の1枚を投稿しました。
yuukiさん、これまで凪の絵に暖かいコメントを頂き心より感謝いたします」
最後にアップロードされたその絵のタイトルは「海辺の朝焼け」。
砂浜に座る少女を水平線から登る朝日が鮮やかに照らしていた。