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9、深夜のデート


逃げ出したはいいが、ここがどこかも分からないしスマホもないし、鍵もないしお金もないし、パジャマだし。


「つんだ……。」


立ち止まって考える。ここは住宅地………夜……終わり。これ以上の情報は見えてこない。お腹も空いているし。


「バカバカ、私ったら!」


1人で少女マンガのヒロインごっこをしても勿論誰もいない。ツッコミもない。


「まじか……まじか。」


これは…完全に…つ。


「あれ?何してるの?」


この声は!


「公園の!おにぎりのお兄さん!」


後ろから声をかけてくれたのはあのふわふわパーマのお兄さんだった。見知った顔を見るとどうしてこんなに安心できるのだろう。


「ふふっいい笑顔だね。ってどうして裸足なの?襲われた?大丈夫?」


「大丈夫です。ちょっと色々あって。家に帰ろうとしてもお金もないしスマホもなくて、ここがどこか分からなくて困ってるんです。」


「ええ!…まあ…とりあえずあの公園まで送るよ。ちょうど仕事が終わって帰るところだし、近くに車を停めてあるから。」


「えぇ、でも。」


申し訳ない。


「ああ、知らない男の車は怖いか。ちょっと待って。」


慣れた様子でスーツの胸ポケットを探り始める。っていうかスーツ着てる!かっこよ。髪もふわふわじゃなかった。かっこよ。


「じゃなくて仕事終わりで疲れてるのに申し訳ないです。」


「そんな事、気にしないで。駄目だ名刺ない。免許証でいい?」


と私にスマホの明かりで照らして見せてくれる。


早乙女優真、年齢は29歳、学年的には2年上か。私は身分を証明できるものがないので口頭で。


「私は英怜です。26歳です。」


「ご丁寧にありがとう。じゃあ車の所までって…裸足だった。じゃあおいで。」


自分の背中に乗るように促される。


「いえいえいえいえいえいえ、重いですし!服が汚れちゃうかも。」


「気にしないでお兄さんに甘えなさい。怜ちゃん。」


よっこいせっと言いながらしゃがんでくれる。可愛い好き。以外と背中が大きいのも好き。じゃなくて!


「じゃあ、失礼します。」


私が乗るまでしゃがんだままだぞという無言の圧力をかけられたので、仕方なく肩に手を置くとゆっくりと足を持ってくれ危なげなくおんぶが始まった。夜で誰もいないとはいえ恥ずかしい。


「背中が暖かいなぁ。車にコートを忘れてきたからちょうど良かったよ。君は裸足の上に薄着だけど風邪ひかないでね。」


「言われてみればめちゃくちゃ寒いです。」


パジャマは長袖長ズボンだけど薄手だからとても寒い。気付かなければ良かった。急に寒さを感じ始めた。


「あらあら可哀想に。震えだしたね。よしよし。」


少し早歩きになったが、その風が冷たくて余計に寒い。


「優真さん、寒いです。」


「わあ、声も震えてる!急ぐから、死なないで!雪山で眠っちゃ駄目だよ!小屋に着くまで耐えるんだ!」


ふざけているのか笑いながら言う。私はもうぎゅっと体にひっつくしかなかった。


「良かった。怜ちゃんが氷になる前に着いたね。」


車のエンジンをかけて暖房を入れてくれる。寒くて縮こまった体がゆっくりとほぐれていく。パーキングに停められていた車は私でも知っている高級外車で普段なら乗るだけで緊張しただろうが、寒すぎてそれどころではなかった。そういえば外車だけどハンドルは右だ。


「ほへー、あったまる。」


「ほら、僕のコートを着ていいですよ。」


「すみません、お言葉に甘え…う゛っ。」


これも高級ブランド……。そっとコートは着ずにおいておく。


「あれ、着ないの?」


「へっ、あっ、ええ、寒くないので!」


「そんなに震えて?」


私は嘘をついた気まずさで下を向いて言う。


「あ、あの、たか、高級な、ブランドの、コートですよね。汚したら…。弁償できないです。」


「子どもに貸すんだから汚してもいいって事だよ。」


「こ、子どもじゃないです!」


「冗談だよ、大丈夫だから着てなさい。」


優しくコートを羽織らせて前のボタンをとめてくれる。完全に子ども扱いされている。

何故?チビだから?年下の女の子だから?でも嬉しい。


「うぅー好きです。」


泣きそうになりながら言うと、呆れたご様子で


「はいはい、じゃ帰ろうか。シートベルトしてね。」


と流された。なんで?どうして?


「はい。」


慣れた様子でシートベルトをしている。自分の車なんだから慣れてるか。運転も慣れているし安全運転で横に乗っていても安心だ。


「とりあえず公園に着いたね。じゃあ次は…。」


「ぐーーー。」


おうおうおうおう、お腹の音が…。恥。


「ふっふふふ、怜ちゃん本当に面白いね。何か食べようか。」


「いや、あの、こんな、格好だから。」


高級なコートとパジャマ姿しかも裸足。


「可愛い女の子だもんね、仕方ないなぁ。もう5時だしドライブスルーなら開いてるかも。」


「うわぁーい!」



「おはようございます。いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ。」


朝にドライブスルーなんて初めて!すごい!


「おはようございます。はい怜ちゃんどうぞ。」


「はい!このスペシャルハンバーガーセットをコーラで!」


「はい、スペシャルセットにお飲み物はコーラで、他にご注文はございませんか?」


「じゃあホットコーヒーMサイズを砂糖なしでミルク3つ付けてください。怜ちゃんはもう大丈夫?」


「はい!以上で!」


「はい、かしこまりました。ではそのままお進み下さい。」


忘れてた……財布を持っていない。私は急に好き勝手に頼んだ事にまた気まずくなって肩を落として言う。


「ごめんなさい優真さん、お金は返しますので…。」


「急に落ち込むから何かと思ったら、いいよそんな事気にせず食べなさい。」


「う、うぅーありがとうございます。好きですぅ。」


今度は泣き真似をして言うと、


「はいはい。」


なんで?気のないお返事。

お金を払う所で優真さんがお金を払ってくれる。黒い長財布でどこのブランドかは分からない。スマート過ぎ好き。


「お待たせ致しました。スペシャルセット、お飲み物はコーラで、ホットコーヒーMサイズも入っています。」


「はい、ありがとう。」


優真さんが受け取って私に渡す。


「ありがとうございます!」


「はい、ありがとうございました。」


そのままそのファーストフード店の大きな駐車場へ入って停まった。


「はい、ゆっくり食べなよ。」


「わーい。いただきます。」


私はハンバーガーにかぶりついた。なんだか久しぶりだ、とっても久しぶり。誘拐されて、逃げて、助けられて、ご飯を食べさせてくれる。

あ、まじの涙が出そう、ヤダヤダちょっと待って泣きたくないよ。二度もこの人の前で泣くのはちょっと。

私はハンバーガーを紙で包みなおしてまた下を向く。さすがにくるものがある。後、泣きそうな時ってなんで昔の辛かった事とか思い出すのかな?いつも悲しいみたいな気持ちになってくるのよね。


「よしよし、可哀想によっぽど怖い目に遭ったんだね。」


「す、すみません。」


「何があったの?」


「…。」


言えない、この人をアンダーグラウンドに巻き込む訳にはいかない。それだけは駄目だ。それにこの人とは普通でいたい。非日常じゃなくて日常でいたい。


「わかった、もう聞かないから。」


「すみません。」


優真さんは黙ってコーヒーを飲んでいる。


「ねえ、明日、公園でまたピクニックしない?」


「明日ですか?」


私は下を向いたまま聞く。


「うん、明日はお休みだから10時に池の前で。どう?」


「行きます。どうせ会社はクビになって暇だし。」


「うん、良かった。じゃあそろそろ帰ろうか。」


「はい。」


結局、マンションの前まで送ってもらい、コートは明日会う時に返すという事で落ち着いた。

そして優真さんの車を見送った後に気が付いた。


「うち、オートロックだ。」



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