7、ナチュラルにいる
「怜、おかえり。」
家に帰ると稜が居て普通に掃除をしている。正直めちゃくちゃびっくりするが、なんとか表情を変えずに靴をぬぐ。稜の方は笑顔で私を出迎えてくれる。
「ただいま。」
「今日は随分早いな。会えるとは思わなかった。」
腕時計を見ると16時前だった。嬉しそうにコートを脱がせてくれてハンガーにかけジャケットも同じように脱がせてくれる。ナチュラル過ぎて身を任せたが…これはさすがに…あれじゃない?お母さんでもここまでしないよ。
「今日はちょっとね。」
なんと言えば良いのか分からず濁すと、それが良くなかったのか稜が色々と気にし始めた。
「もしかして具合が悪い?それともまた会社で何かあったのか?だから早く辞めた方がいいってあれ程言ったのに。お前頑張り過ぎだよ、この前だって倒れただろう。俺が居なかったらどうなってたか。」
おうおうおうおう。急にグイグイ来るな。私の肩を強く掴み言う。背が高いから私にあわせて屈んでいるのがなんだか面白い。確かに倒れたがあれは月のもののせいであって過労では無いはず…きっと。それに1人でなんとかしたし。この世界線ではどうか知らないが。それにしても朔はどこまで彼の記憶を作ったのだろう?
「大丈夫、会社をクビになっただけ。」
なるべく気にしていない風に言う。本当はとっても気にしてるけど、稜に心配させたくないし。
「えっ!可哀想に。」
ぎゅっと強く抱きしめられる。自分の事のように落ち込んでしまったようだ。可愛いね。
「大丈夫、俺がいる。何があっても俺はどこにも行かないしお前の味方だ。それにどんな状況だったとして絶対にお前は悪くないよ、会社が悪い。あんな会社辞めて正解だ。怜の良さも分からずにたくさん仕事を押し付けて、おかしかったんだ。休む暇もなくあんなに頑張ってたのにそんな事忘れて辞めさせるなんて、本当に可哀想に。よく頑張ったな、本当に偉かったよお疲れ様。」
抱きしめたままよしよしと頭を撫でられる。
「ありがとう。」
すごい満たされるな。なんというか承認欲求?私も稜に腕をまわす。ほそっ!でもがっしり!
「礼なんて言う必要ない、本当の事だ。怜は仕事のし過ぎだったからちょっと休めばいい。家の事は俺が全部やるから、お前は少し休んだ方がいい。怜は無理し過ぎだ。いつでもなんでも俺に頼ればいい。」
「ありがとう。好き。」
また言葉が勝手に出た。稜は慣れた様子で、
「ああ、俺も好きだよ。大丈夫、大丈夫だ。」
またよしよししてくれる。この人は本当にすごい。甘やかし度がほぼ赤ちゃんに対してのやつでは?これが俗に言いうバブみ?
「今日は仕事休むよ。お前の傍にいてやりたい。」
稜がスマホを取り出したので私は慌てて、
「いやいやそれは駄目だよ!皆、稜にみてもらいたくて来てくれるんだから!行って!本当にお願い!」
と言うと、稜は寂しそうに分かったと頷いた。
「気を付けてね。今日はありがとう。」
玄関まで見送る。稜は名残惜しそうにコートに腕を通しながら靴を履いている。
「本当に大丈夫か?何かあったらすぐに電話してくれ。」
心配そうにこちらを向いて私の顔を覗き込む。よっぽど私の言葉が信用できないようだ。
「うん、分かった。ちゃんとする。」
「よし、じゃあな。おやすみ。」
まだ納得いかない顔をしているが踏ん切りをつけたご様子。
「うん、行ってらっしゃい。」
「はは、新婚みたいだな。」
と、とびっきりの笑顔と甘い言葉という爆弾を置いて帰っていった。
「はずっ。」