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3、幼馴染みの距離感


「な、な、な、なんだ。これは。」


「お、出たのか。さあ座ってくれ一緒に食べようって髪も乾かさずに出てきたのか、全く。」


稜が洗面所の方へ、どうやらドライヤーを持って来てくれるようだ。本当に部屋の全てを知っているらしい。

そんな事よりさっきまでとは別の部屋のようだ。床や窓は隅々までピカピカでベッドもクッションも新しいカバーに変わっている。床に雑に置いておいた服や本、書類は綺麗に整頓されて本棚やクローゼットにしまわれベランダには服やシーツが干してある。

テレビの前のテーブルに美味しそうな料理が並んでいる。朝食にふさわしい数種類の漬物ときんぴらごぼう、ナスの煮浸し、キッチンに見慣れない土鍋があり気になって蓋を開けると卵のお粥が入っていた。


「結婚しよう。」


私はドライヤーを持った稜の手を思わず取っていた。稜は慌てる様子も無く笑って言う。


「まーたお前のそれが出たな。そんな気もないくせに。馬鹿な事言ってないで座って。」


促されるまま椅子に座る。優しい手付きで髪を乾かしてくれる。軽く乾かしクリームを付けてくれてくしでとかしながらまた乾かしてくれる。自分ではできない程サラッサラッになった。


「手がかかるなぁ怜は。ほら終わったぞ。」


優しく私の頭を撫でながら言う。こんな…他の人と付き合った時にこんなに優しくしてもらった事はなかったので一瞬泣きそうになった。いや、こんなに優しい人いる?ヤバない?

土鍋を机に置いてお粥をよそってくれる、優しい味だ。生姜が入っているのか体も温まり眠くなりそうだ。


「もしかして眠いのか?子どもだな怜は。食べて寝たら消化に悪いから駄目だぞ。」


ティッシュを取って優しい笑顔で、私の口元を拭ってくれる、本気で結婚してほしい。


「そういえば昨日の仕事は大丈夫だったか?会議の資料任されたんだろう?」


どこまで知っているんだ…。確かに任されていた資料は昨日の朝までだった。


「大丈夫間に合ったよ。気にかけてくれてありがとう。」


「そうか、良かったよ。最近、仕事が大変そうだったから怜が倒れてしまわないか心配で。ちょっとは落ち着いたって事かな?」


「うん、少しだけ。でも大丈夫。」


また私が謎の筋肉アピールをすると少し困ったような顔をして言う。


「あんまり無理するなよ。俺にできる事があればなんでも言ってくれよ。助けるからな。」


そしてまたクシャりと笑い頭を撫でる。


「結婚しよう。」


私は真面目に言う。こんなの、惚れてしまう。でも稜は悲しげに俯き話し始めた。


「大丈夫、怜が許してくれるならずっと傍に居るよ。でもきっと怜にお似合いの人が現れる。俺は……駄目だ。そうだティラミス買ってあるぞ。あの角のケーキ屋の。怜の実家のティラミスには負けるだろうけど。」


一瞬、稜の中の闇が見えたが気にしない事にした。まだ会ったばかりだしおいおい知っていけばいいだろう。


「ティラミス!やったー!ありがとう!何かお礼をしないと!」


稜を見ると嬉しそうに、


「その笑顔を見られれば俺は満足だよ。」


と笑う。朔、確かに稜は優しくていい男だわ。この世界の人がとか言っていた自分を殴りたい。

ほぼ初対面なのに全然怖くないし落ち着くし最高では?

そんな考えの私をよそに稜は朝食の片付けを始めた。私も一緒にと慌てて立ち上がると、


「怜は座ってろ、水仕事は手が荒れるし今日は休みだろゆっくりしてろよ。」


私の肩に手を置き私を座らせた。わお。稜だって道場で仕事してるはず、大変だろうに。

私はじっと稜が片付けをしてくれるのを見ていた。そんな視線に気が付いたのか私に笑いかける。


「なんだ?どうかしたか?」


「別に、なんでもないよ。ありがとう。私にできる事があったらなんでも言ってね。」


私の言葉に不思議そうに笑い、


「ああ、よろしく頼むよ。」


困った顔で頷いた。少しして片付けを終えた稜は私の後ろに座った。なんだろうと後ろを振り向く前に肩を揉んでくれる。


「肩凝ってるな。仕事大変だもんな。また無理難題言われたんだろう。可哀想に。」


優しく私の肩や首をマッサージしてくれる。


「もたれていいぞ。」


と肩を後ろに引っ張られたので素直にもたれる。私はあまりの心地良さに眠ってしまった。


目が覚めて周りを見渡すと部屋には誰もいなかった。


「ふわぁー、いい夢見たなぁ。やっぱり夢よなぁ。」


私は大あくびをしてもう一度ソファに寝転ぶとガチャと廊下の扉が開いた。ハッとして扉を見ると稜が洗濯カゴを抱えて入ってきた。夢じゃなかった。


「起きたか、まだ寝てて良かったのに。今は16時だ。眠ったのが13時だったから3時間位かな。」


「ありがとう、なんだかすっきりしてる。」


稜からコップに入ったお茶を受け取り、お礼を言う。美味しい。うちにお茶なんてなかったのに。


「そうだ怜、昨日言ってた葉書出してきたのか?」


「あっ忘れてた!」


って何かに付いてたしょうもない懸賞の葉書の事まで話してる設定とかすごいなしかし。


「あーもうほら出してきてやるよ。まだこの辺分からないんだろう。帰るついでだから。」


葉書を持ってすぐに立ち上がりジャケットを着る。


「えっ帰るの?」


稜は休みの日に何をしに来たの?


「ああ、ちょっとな。洗濯した服は乾いてたからたたんでしまってある。夕食は作ってあるドリアを温めて食べてくれ。」


ちょっとな、ってもしかしてアンダーグラウンド関係かな?だったら突っ込まない方がいいかもしれない。とにかくお礼を言う。


「何から何までありがとう。」


「ああ、また明日な。」


自然な流れでポケットから鍵を出して玄関の鍵を締めて帰って行った。



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