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8

「胃が痛い……」


 厨房に胃を抑えながら戻ってくるクラウス。この短時間で、精神的なダメージをおっている。その理由は、お客さんの会話だ。


「王子が逃げたらしいな」


「そーいや王様の息子も逃げたよな」


「人前に出なかったあの息子だろ?今はどこに居るんだろうな」


 なるほど胃が痛い。夜の民の間でも王子が行方不明になっている事件は大きいようだ。


「おっさん喋ってると冷める」


 相変わらず口が悪い接客をしているカミル君を見たときに、ふと既視感があった。特に目の形に強く感じる。やはり私が会った彼は、確実に今話題になっている人で間違いない。


「あの王族は親子で性格がそっくりだな」


「似た者同士というやつか」


「没収」


「坊っちゃんに怒られる前にピザ食べよう」


 話続けるお客さんにしびれを切らしたカミル君がピザを取り上げようとして、あわてて食べている。私自身も周りを見渡しながら接客できるようになった。そして厨房をチラリと見ると、更に顔を真っ白にしたクラウスを見て、少し気の毒に感じた。


 ーーー


 〈やっぱり昨日家に居たのって、王子だよね?あの顔立ちの雰囲気はクラウスさんだもの〉


 そんな事を考えながら玄関に一歩目を入れたとき、すっかり忘れていた。昨日追いかけられてた事を。そして油断していた結果、横から伸びてきた手に引っ張られる。後ろから控えめに羽交い締めされる。


「捕まえた。さて、話を聞かせてもらおう」


「ひ、ひえ」


 観念したことを示すために両手を上げると拘束をやんわりと解かれた。リビングに連れていかれると、隣に並ぶようにして座る。横顔をうかがうと、クラウスと似て、カミル君と目元がそっくりだった。


「さて、昨日はなぜ止めたのにも関わらず、逃げていったのかを教えてほしい」


「し、知らない人だったからです」


確かに……と言ってうなずいている王子。


「じゃあ……そうだな、俺はこの街にたまたま訪れた旅人のライナルトだ。君の名前も教えてくれないだろうか?」


「美雪です。私は記憶がなくて……」


 ちゃっかり嘘をついているライナルト。よほどこの国の王子であることを隠したいようだ。一体どうして脱走してきたのだろうか。


「そうか、記憶がないなら、なおさら黒い瞳と髪が大変だっただろうなこの国じゃ」


 そう言って見つめられる。ライナルトの顔の美しさに思わずそらしてしまう。


「ミユキの黒は澄んでいて綺麗だな……ミユキはこの国の、この色の支配についてどう思う?」


「私はどんな人間も、皆仲良く買い物をしたり食事が出来るようになれば良いと思います」


頷くとライナルトは優しく笑った。


「俺もそう思うよ」


 優しく私の髪を一束もつと、そのまま流す。イケメンだし知ってる人だから許される行為だ。


「俺はこの制度を無くしたいんだ。この国の皆が交流できるような国……まあただの旅人だが」


 あわてて言葉を付け足すライナルト。どうやら彼は、自分の祖父の行っているこのシステムを廃止したいようだ。


「夜の民が普段どのように暮らしてるのか気になって、最近はこの辺りをウロウロしてるんだ。君はミユキはどこかで働いているのかい?」


「私は……」


 この後ひたすら質問攻めにされた。朝と昼は何をしているのかという質問は、どう考えても正しい事を言うと、ヤバイ人になるから適当に答えた。


 気づけばそれなりに時間が経ってしまっていた。つまりもうすぐ猫になってしまう時間が来る。しかしライナルトの質問は止まらない。


〈ヤバイ、猫になる前に逃げないと……〉


「あの、そろそろ寝ないと、支障が出ると困るので……本当にすみませ」


「そうだな。また、明日もこの時間に会えないかな?色々と話が聞きたいんだ」


 私が頷くとライナルトは、ガッツポーズをとる。


「じゃあ約束だ。俺も失礼するよ」


 立ち上がって部屋から出ていく。一度振り返ると、手をヒラヒラと振ってくれた。眠いのを我慢して手を振り返す。扉が閉まった時、私も無事に眠りに落ちた。


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