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思わずあげてしまった悲鳴。案の定寝ていた男の人は目を開け、そしてバッチリ目があった。
「な、誰だ!」
「ち、違うんです!失礼します!」
止まれと言われているのを無視して、全速力で部屋から出る。後ろから追いかけてくる足音が聞こえてくる。
その時、眠気が来た。人間から猫に変わってしまう時に起こるあの眠気が来たのだ。
〈まずい、どこかに隠れないと〉
近くにあった部屋に入ると、鍵をかけた。そして窓から出たように見せるために窓を開ける。全てを終えたあと、そのまま床に倒れこむ。
「この部屋にいるのか?……クソッ開かない」
そんな声を聞きながら、私の意識は夢の世界へと入っていった。
「猫ちゃん猫ちゃん、久しぶり」
久しぶりに糸目さんが出てきた。どことなく疲れている様子だ。
「お久しぶりです。お疲れですか?」
「そーなんだよぉ……モフモフさせて?」
頭や背中などをモフモフされる。
「そ、そんな事より!今知らない人に家の中で会ってしまって!寝てる場合じゃ無いんです!」
「あ~多分大丈夫だよ。それ僕の知り合い」
多分じゃ駄目じゃん、という顔をしてみる。果たして猫だから伝わってるか怪しいところだが。
「怪しんだ顔してるね~……わかったわかった。今日のところは帰るよ。せっかくゆっくりできる時間が出来たから会いに来たのになぁ」
拗ねたような口ぶりで話すと、一瞬で消える。そして私の意識が覚める。
『な、何事?』
目を覚まして最初に気づいたのは、床に寝転がっていないということ。そして何故か隣にはさっきの男の人が寝ていた。どうやらベッドのあった部屋に運び込まれていたようだった。横を向いて寝ている男の人の微かな寝息が、聞こえてきてなんだかむず痒い。こんな距離で他人と寝るのは初めてのせいで、余計に心臓が爆発しそうだ。
〈とっても綺麗な人だな〉
超近距離で見ているが、肌が荒れておらず、長い睫毛も艶やかでなおかつ多い。少なくとも黒が無いようだ。
〈この前見たのはこの人かな〉
じーっと顔を見ていると、男の人も目を開けた。
「ん?どうした?寒いのか?」
そう言って更に隙間を詰められる。より一層近くなり頭が真っ白になる。
「おやすみ」
当たり前のように眉間に優しくキスされた。そのあと背中を撫でるとまた寝付いてしまった。そして私もキャパオーバーしてしまった。
・・・
目を覚ますと、隣にいた男の人は居なくなっていた。だが、ベッドに残っている私ではない微かな甘い香りが、そこに人がいた事を示している。
〈結局誰だったのかしら〉
あの顔立ちをどこかで見たことがあると思ったが、肝心のどこで見たかを覚えてない。色々と考え事をしながら外に出ると、いつもより城下町内が騒がしい。兵士がいつもより多いようだ。
〈何か事件でもあったのかな……あの二人組から盗み聞きしてみよっと〉
歩いている兵士の後ろをついてまわる。
「はぁ~全く困ったもんだよなぁ。昨日の夜から王子が行方不明なんてさぁ」
「絶対エメリヒ様は何か知ってるよ。あんなにニヤニヤしてさ」
「いや、それはいつもだろ」
そうしてハハハと笑い合う二人。どちらにも思い当たる人物がいる。
〈まさか……まさかね?〉
頭の中に浮かんだ二人を無理やり払うと、いつもご飯をくれる店に向かうのであった。
野良猫にむやみに触らないようにしましょう
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